淫獣聖戦 偽典 「繭地獄」 8 |
「そこまでよ」 二人が部屋に躍り出た。 「桂先生。あなたが強姦魔ね、悔い改めて自首しなさい」 啖呵を切った亜衣と麻衣は、桂をにらみ付ける。 「ふふふ。待っておったぞ、天津亜衣、麻衣」 そう言った男は、美和を意に介さないように、立ち上がった。 「なんだと」 「手向かいしたら、先生でも容赦しませんよ」 麻衣が凛々しい顔で、威嚇する。 「先生か。くくく。桂とは仮の名」 男は苦悶の表情で頭を抱え身を揺らせると、みるみる筋肉が盛り上がり、着衣が引きちぎれた。きゃっと麻衣は顔を背けたが、亜衣は微動だにしない。優男風だった姿は見る影もなく、天井に届きそうな大男へ変化する。そしてあろう事か、肌の色は緑へと変わり、口が大きく裂け広がり、乱喰い歯が現れる。後ろで縛った長い髪もほどけ、緑へと変色し、ざんばらの総髪となった。 「我が名は、葛太夫(かずらだゆう)。鬼夜叉童子様の僕だ」 「くっ、化け物だったのか」 「きゃあ」 美和は、大きく目を見開いて後ずさる。板の間にナメクジが這ったような跡を残して。しかし、そのまま逃げることはできなかった。ぞろりぞろりと躙り出てきた一角の小鬼、邪鬼達に捕まってしまった。 「けーーーっ。何だ、何だ。この女は、漏らしてやがるぞ」 「濡らす手間が省けたというものだ。すぐ突っ込めるぞ。へへへ」 下卑た口調で、邪鬼達が胸と陰部に手を伸ばしながら、囃し立てる。 「邪鬼共よ、弄ぶのは良いが、その女の女淫を破ってはならぬ。童子様への捧げ物だからな」 「童子は滅びたのではないのか」 「ふっ。童子様は決して滅びぬ、何度でも甦られるのだ」 亜衣は下唇を噛み、麻衣は眉根を寄せる。 そんな間にも邪鬼は止まらず、瞬く間に美和の上着を下着を剥いていく。乳房をまさぐり乳首を摘み上げ、揉み込む。もう一匹は鼠径部を何度も何度も舐めげる。美和は堪らずああっと啼き悶える。おおっ乳首が痼ってきた、躯は正直なものよとか、女淫から尿とは違う味が沁み出して来たとか、次々に囃し立て、その度に美和は、ひっとか、いやっとか口にしながらも、肌を桜色に染め上げていく。 「その辺で良かろう、奥の院へ連れて行け」 亜衣の片眉が吊り上がる。邪鬼は、数匹で器用に美和を持ち上げると、奥の部屋に引き込もうとする。 「待てっ」 姉妹が踏み込もうとすると、別の邪鬼達が、飛びかかってくる。軽くステップを踏んで躱し、さらに追おうとしたが、葛太夫の髪触手が急速に伸びて来るに至って、屏風を蹴倒して庭へ飛び退いた。 「天神招来」 姉妹は、白州の砂利を蹴って、虚空へ舞い上がる。亜衣は髪を束ねるリボンを、麻衣は手首に巻いた布を振り広げた。それは、するすると伸びると一間半ほどの長さの羽衣となり、上腕に巻き付いて天女の姿となる。 「天神羽衣一の舞」 そう叫ぶと、虚空で二人は交差し光を纏う。その瞬間、着ていたはずのセーラー服は消え失せ、清楚かつ豊満な胸と肉置き、そして伸びやかな四肢が羽衣を残して露わになる。しかし瞬く間に、絹地の布が二人の躯を包んで、亜衣は蒼、亜衣は紅を基調とした天神軍神装束に変化する。白州の梅の太い枝振りに降り立つと、寝殿を振り返る。 「世にも邪淫な鬼どもよ、我ら天神子守衆宗家嫡流、天津姉妹が如何なる御敵をも祓い清めん」 「淫鬼退散。お覚悟」 梅の梢を折り取ると、ふうっと息を吹き掛ける。まるで鏡を見るが如く左右対称に、同じ所作だ。すると亜衣の手には弓が、麻衣の手には薙刀が何処からともなく現れる。姉妹はこの数ヶ月というもの、汚されたと言う負い目を払うために、修行に厳しく打ち込み、さらなる天神力を身に付けていた。 「たあっ」 枝を蹴ると、四間は離れた入側まで一気に飛翔、そこで一歩地に足を付けると、邪鬼達が待ち受ける寝殿に躍り込む。弓で打ち払い、薙刀でなで斬る。以前と違うのは、邪鬼達が蘇らないことだ。一振り一振りに霊力が籠もり、邪鬼へ確実に致命傷を負わせる。次々に屠っていき、葛太夫に迫る。 「ふむ、さすがは鬼夜叉童子様を巌の眠りに追いやっただけのことはある。邪鬼共では歯が立たぬか。我が直々手合わせをしてやろう」 葛太夫が一歩踏み出すと、その頭を連獅子のように振るう。すると髪が触手となって伸びて行く。しかも先程は比べ物にならない速さだ。亜衣は気合いとともに、跳び上がり避けるが、麻衣は脚に巻き付かれて、悲鳴と共に倒れる。 「麻衣、何やってるの」 亜衣は、一瞥を呉れただけで、太夫に斬りかかる。しかし、太夫の注意が亜衣に向き、余裕を得たのか、麻衣は薙刀で触手を切り離して再び立ち上がる。 「お覚悟」 触手との鍔迫り合いをする亜衣の背後から、袈裟懸けに麻衣が斬りかかる。 「なんの」 太夫は、右手からも触手を伸ばし受け止めた。それを見た亜衣は、反射的に飛び退き、壁際まで下がる。元々長射程攻撃が得意な亜衣は、一気に弦を引き絞る。 「淫敵退散」 裂帛の気合いの元、鏑矢を放つ。麻衣に向き合いながらも、太夫は左手を払うと、簡単に触手で矢が叩き落とされる。麻衣が薙刀を振り回し、亜衣が矢を釣瓶撃ちする。しかし、その度に髪や腕から伸びる触手が攻撃を遮断し、ダメージらしいダメージを与えられない。 一〇分も打突が続いたろうか。姉妹は肩で息をしていた。額や頬には玉の汗が噴き出し、光を受けてキラキラと星をちりばめたようだ。濡れているのは、首から下も同様だ。衣を濡らし、かすかに下着が透けて見えるようだ。が、葛太夫は、全く呼吸を乱さず、平然としたものだ。このまま一進一退を続ければ、体力の限界が近い姉妹の方が圧倒的に不利だ。もう物理的攻撃では突破口が開けない。天神雷の舞は空がなければ、つまり鬼獣淫界では使えない。最後の術として、天神光りの舞がある。これは鬼夜叉童子を倒しただけの威力があり、その眷属たる葛太夫にも効果があるだろう。しかしそのためには、姉妹二人の精神統一と長い祝詞の詠唱が必要だ。3ヶ月前の戦いでは、淫魔大王の協力を得て時間稼ぎができたが、今回は無理だ。谷崎美和のことは心配だが、一旦引いて体勢を整えねば負ける。亜衣はそう断じ、引き際を見極めようとしていたが、思わぬことが起きた。 「太夫様。もう一匹、屋敷に忍び込んでいました」 そう知らせた、邪鬼を振り返ると、なんと子供を捕縛していた。 「放せ、麿に触るな」 「鬼麿様」 姉妹が同時に叫ぶ。しかし、その隙を葛太夫は見逃さなかった。ふんっと頭を振るうと、無数の髪触手が麻衣を襲う。薙刀を回して避けようとするが、全ては受けきれず、手足を拘束されてしまう。 「麻衣っ」 「おねえちゃん」 弱々しく口にすると、完全に触手にまとわりつかれてしまい、自由を奪われた麻衣は板の間に倒れ伏してしまう。 「おのれ」 激昂した亜衣は、長射程攻撃から再び直接攻撃に切り替える。しかし、麻衣を支配下に置いた葛太夫は、咄嗟に巻き付けた髪触手を切り離し、余裕で攻撃を受け止める。二人懸かりで何とか互角だった敵なのに、今は一人だ。しかも、もはや開戦当初の動きの切れはない。弱い相手をいたぶるような攻めが、亜衣の体力を徐々に減殺して行く。 「貴様」 亜衣の眼は力を失っていないが、疲労は歴然だ。 「他愛のない」 葛太夫の髪触手飽和攻撃が、亜衣を襲う。くうと声を漏らした直後、亜衣も触手に絡め取られしまった。 「亜衣、麻衣」 鬼麿の悲痛な呼び声にも、緊縛の圧力が強いのか、しっかり返答できない。うぅとかあぁとかの呻きが精一杯だ。 「ふふふ、二人には、淫魔大王様の昂揚の役を買ってもらおう。引き立てろ」 きーと邪鬼達が反応し、蟻が餌を巣に運ぶように二人が移送されていく。 |