淫獣聖戦 偽典 「繭地獄」 9 |
奥の院。内裏を模したこの屋敷だが、先程の寝殿を紫宸殿(ししんでん)とすれば、ここは常寧殿(じょうねいでん)に相当する。所謂後宮で平安の御代には后が住んだ建物だ。この部屋は、一〇間四方で、広い以外は普通の部屋なのだが、前とは異なり内部が生物的な材質で覆われており、何処も濡れているようで、てらてらと滑光っている。 「亜衣と麻衣を放せ。麿は許さないぞ」 「大王様、誠に恐れ多きことながら、お静かに願います。があぁあ」 葛太夫は、口から白い粘液を吐いた。それは鬼麿の顔に命中し口だけを塞ぐ。これで息はできるものの、声を発することはできなくなった。 「亜衣と麻衣を立たせよ」 ふんと気合いの元に太夫が頭を振ると、髪触手が二股に分かれ斜め上方に伸びて行く。高い位置にある鴨居に数度巻き付くと、その先は下に向かって伸びて行き、それぞれ立たされた亜衣と麻衣にからみついた。さらに太夫は、はあと息を吐くと髪触手を引き絞り、姉妹は揃って吊り下げれられて行く。爪先が一尺ほど浮いたとき、それは止まった。ぴしぴしと鴨居と太夫の間で髪触手がちぎれていき、太夫と切り離された。亜衣はゆらりゆらりと揺れながら、胸の圧迫が少し緩んだこと感じた。 「これは何の真似だ」 「ふ、知れたこと、鬼夜叉童子様の復活の儀式の準備だ」 「その像は」 石材を彫刻したような像は、三尺程の大きさであるが、往事の鬼夜叉童子の姿が克明に再現されている。その顔は眼がランランと輝き、まるで生きているようだ。一つ異様なのは、髪に当たる蛇触手が一本だけ一角獣の角のごとく真っ直ぐと上方に突き立って居ることだ。後にその意味を思い知ることになるが。 「気が付いたか、巌の眠りに入っておられる、童子様だ」 「なんだと」 葛太夫は、無視して像を振り返り片膝をつく。 「もうすぐですぞ、童子様。天津姉妹を監禁し、淫魔大王様をおびき寄せようと考えておりましたが、思いがけなく一挙に手に入れることができました。この上は、滞りなく儀式を挙行し、御目覚め戴きましょう」 やはり罠だったのか。二人の犠牲者を目につく場所に放置し陵辱を露見させ、桂教師に疑いの目をわざと向けさせ、ここに誘い込む。亜衣は自らの迂闊さを呪った。修行により天神力を蓄えたことが、逆に過信となり、十分な準備をせず鬼獣淫界に飛び込んだ。叔母に警告を受けていたにもかかわらず。あまつさえ、桂教師を侮り部屋に踏み込んでしまった。仮に鬼麿が捕まらずとも、いつか体力が尽き負けていただろう。直接攻撃が全く歯が立たなかったからだ。しかし、このまま葛太夫の思い通りになることは、矜持が許さなかった。 「私たちを、どうするつもりだ」 「ふむ。聞きたいか。おまえらは、悦楽の葛繭地獄に入ってもらう」 「繭地獄」 二人目の犠牲者、佐倉有希子が錯乱しつつ口走って居た言葉だ。 「覚悟は良いな」 がぁー。葛太夫が再び、白い粘液を吐く。鬼麿の時とは、量も勢いも異なる。そして連続して吐き続ける。まずは、麻衣を吊り下げる触手に吹き付けた。瞬く間に触手が見えなくなると、次は下方に転じ、麻衣の躯に降り掛けた。粘液が触手に掛かるとしゅうしゅうと音を立てながら、何らかの化学反応を起こしているのだろう、白煙を発する。 「やめろ」 悲痛な亜衣の叫びを無視して、葛太夫は吹きつけ続ける。白煙はもうもうと立ちこめ、ごほごほと麻衣が咳き込む。 「おねえちゃん」 どうやら意識を取り戻したのだろうが、煙の所為でその表情までは窺うことはできない。一分も経った頃、煙は収まった。麻衣は首だけ残して粘液に覆われてしまっている。あたかも白い蚕の繭のようだ、外からは体型すらわからない。 「ああ。いやあ」 「どうしたの麻衣」 「だめー」 葛太夫は吹き付けるのをやめた。 「ふん。次はおまえだ。亜衣。自分の身で味わうのだな。がああ」 今度は、亜衣に吹き付け始めた。同じように白煙が上がり、視界が奪われる。つんと来る刺激臭が襲い、咳き込んでしまう。そうしている間に、視界が回復すると自らも繭に覆われていた。 「ふふふ」 どうやら、麻衣の方は効果が出てきたようだな。 「痒い、痒いのお」 「どうしたの麻衣」 「おねえちゃん、助けて」 葛太夫は、亜衣の顔を掴むと、自分の方へ向ける。 「もうすぐ、おまえもそうなる」 そう言われた頃、亜衣は髪触手の緊縛が完全に緩んだことがわかった。自由になってきた手で辺りを探ると、ぬるぬるする液に包まれていることがわかる。その先に繭の壁が有る。それを押してみたり、爪を立ててみたりしたがびくともしない。 「くそ。出せ、ここから出せ」 そうこうしているうちに、腕の皮膚がぴりぴりし出した。 「この液が・・・」 葛太夫が低く笑う。 「そうだ、葛と繭が反応して、溶解液を作るのだ。半日も放っておけば、骨まで溶けるぞ」 「何だと」 そのときだ。亜衣は異変を感じ取った。軍神装束が・・・。溶けているのである。絹の布地が、ぼろぼろと崩れて行く。痒い。腕以外の皮膚も例外なく、溶解液に浸かる。そこから、最初はぴりぴりとした刺激感だったが、掻痒感に変わる。ううっと情けなくも呻いてしまう。 「ふふふ。亜衣の方にも来たようだな」 「なぶらず、殺せ」 「ふふん。その液は、皇水と言って金をも溶かすが、その他にも人間を淫らにする、催淫作用があるのだ。不通女(おぼこ)でも、この液を浴びれば、馬にさえ犯してくれとせがむのだ。我慢するだけ無駄というものだ」 「私は違う」 強がったものの異変はすぐ現れた。まずは、はぁ、はぁと息が上がってきた。何だろうこの胸の高鳴りは。それに胸が重い、何となくだが下腹も熱いような気がする。それに猛烈な痒みが、一部を残して痺れに変わる。限界は着実に迫ってきていた。普通の皮膚は、何とか我慢できる、しかし粘膜は。両乳首と女淫が。堪らない。 「どうだかな、妹の方は既に・・・」 「あああ。あっあっ。もうだめ。あぁーーはああ」 麻衣が臆面もなく雌啼きを始める。精神力が強い亜衣ですら、そこを触らずに我慢することは、膨大な気力を消費する。堪え性のない麻衣では一溜まりもなかった。目をつぶり眉根を寄せて下唇を噛み、小鼻をふくらませた顔は、完全に萌したように、桜色に染まっている。男子たるもの、この顔と自分の下で見たいと思うだろう美しさだ。ゆらゆら揺れ始めた繭は、自らの女淫をまさぐっている証左だ。 「麻衣、しっかりしなさい」 「だめ、おねえちゃん。ごめんなさい。耐えられない。だって掻いたらとっても気持ちいいのだもの。はあーあ。止まらない。指が止まらないの」 その声を聞いて、亜衣は自分の女淫に液が浸みて行くのを感じた。おさねが・・・。クリトリスが意思に逆らって持ち上がって、芯の先が露出する。だめっ。自分の腕をつねることで、呻きを、そして迫り来る誘惑を何とか押し留める。 「ほう。妹と違って姉の方は我慢強いようだ。早く楽になればよいものを。ふふふ」 そうつぶやいた葛太夫は、繭の表面を擦った。鬼麿が反応して目を見張る。既にそんなことに気が付かぬほど、亜衣は追い込まれていた。痒い、掻きたい、あそこを掻きむしりたい。そうしたら、麻衣の言う通りどんなに気持ちの良いことだろう。ああ、という麻衣の声が、亜衣の忍耐の衣を、一枚一枚はぎ取って行く。 「ああ。ああん。いいのう。気持ちいいの。あう」 普段の自慰癖で、快感回路が脳にできているのだろう。麻衣は周りのことが全く見えないかのように、耽ってしまっている。ああは、絶対なりたくない。が、しかし。その乱れた嬌声は、亜衣の精神をもどんどん蝕んでいく。そうだ、掻いても反応しなければよいのだ。そうすれば繭に覆われているのだから、誰にも気づかれない・・・馬鹿な。そんなことすれば、負けだ。亜衣は頭を振って、考えを振り切ろうとした。しかし、一旦思いついてしまったアイディアは、数秒を待たずして心の大半を埋めてしまった。このまま何もしなければ気が狂いそうだ。人間、痛さや苦しさに対する耐性は比較的できている。何となれば脳内麻薬が分泌され、緩和してくれる。例えばランナーズハイというやつがそれだ。が、痒さに対してはそれほどでもない。ゆるゆると亜衣の右手が太股をなぞって行く。そうっとだ、そうっとなら気が付かれない。ビーナスの丘にたどり着いた指先は、そこにあるべきものが、ないことを知る。初潮と共に生え揃ってきた叢も溶けてしまったのか。が、ここに至り、そんなことはどうでも良いと思えるほど、亜衣は追い込まれていた。おずおずと指先が下がって行く。そしてゆっくりと。 あああ。 声をあげたのか、どうなのか。亜衣にはわからなかった。暗かったはずなのに、まぶたの裏がバラ色に染まる。そしてちかちかと、稲妻が走るような錯覚に襲われる。その度にびくっびくっとおこりに掛かったったように痙攣する。はああ。軽く達してしまった。一掻き、それもあんなに柔らかく触っただけで。このすごさだ。もうやめよう。やめなければ。が、一度踏み外すと、次からは心の枷が容易に外れてしまう。もう一度。もう一度だけ。もう少しだけ強く。くちゅっ。そう聞こえた気がした。 「うわぁ・・・」 イクっ。続く言葉は音声にはならなかった。女芯を発した雷撃は、数瞬遅れて女淫の奥深い仔袋を直撃し、腰、脊髄を駆け上り、歓喜の衝撃波が脳を揺さぶった。比べ物にならない。前は鋭利な刃物で切られたような純粋な快感。しかし、今度は鈍器で殴られたような重さだ。 亜衣は、初めて女の歓びを味わった。何者も耐え難い圧倒的な愉悦が亜衣を鷲掴みにした。ああ。これがイクということか。なんと甘美なことだろう。それに下腹部が熱い。全身が、もっともっとと訴える。 はぁはぁ。 快感に逆らって、息を整えるので精一杯だ。 「御覧になりましたか。大王様。あの気の強い亜衣が、自らの股間をまさぐり始めましたよ」 「う、嘘よ。そんなことしていないわ」 「ふふふ。麻衣を見てみろ」 馬鹿な。繭が透けて、朱に染まった麻衣の全裸姿が丸見えだ。左手は右胸をまさぐり続けている。そして右手が女淫をあさましく弄り、そして素早く擦る。麻衣の姿が見えるということは。 「いやあ」 見られていたなんて、ばれていたなんて。そんな、そんな。愚かだ私は。自分で自分を許せない。 「くう」 反射的に手を引っ込めたものの、その直後、以前の倍する痒さが、女芯を襲う。もうだめだ。もうどうなってもいい。そんな、言葉が何度も何度も去来する。負けてはだめだ、敵に敗れても、決して自分に負けてはだめだ。でも。そう頭では思っても、正に躯は正直だった。無意識に手が下がる。女芯がいい。気持ちいい。もう女淫を弄くる指を止められない。亜衣は泣いた、そして啼いた。 「あああん。うううん、ああーーー」 「ははは、天津姉妹といえども、一皮剥けばただの女。快感に弱い淫売にすぎませぬ。はあ、はははは・・・」 葛太夫の驕慢な笑いが、奥の院を響動もした。 |