淫獣聖戦後伝・羽衣淫舞(4) |
闇の中で、亜衣は堪えきらずに片膝をついた。 若草の薫りのする地面に。 だが、その時にはもう、亜衣の体は制御できなくなっていた。 両足に力が入らないせいでバランスを失い、亜衣は横倒しに地面に倒れた。 悪夢が甦る。 (まさか・・・百泣き黒玉責め・・・?) 黒玉法師に囚われ、口内に黒玉を押し込まれて身悶えた、あの時と同じ快楽がゆっくりと全身に広がりつつあるのだ。 (はうっ) ビクビクッ、と亜衣の体が震えた。 (い、いやーっ) 黒玉のような即効性はないのだが、あの時よりも快感はさらに強力な波となって亜衣の精神力を凌駕しようとしている。 「ふっふっふっ」 「へへっ」 闇の中で、不気味に笑う二人の男の声がした。 その声の方に目を向ける。閃光の残像は消えようとしているが、男達の姿を判別することはできない。 (まさか・・・) パッ、と明るくなった。 カンテラに火が入ったのだ。 (あっ!) そこにはやはり、孝明と小塚が立っていた。 それだけではない。小塚の腕には眠ったままの麻衣が抱きかかえられていたのである。 (ま、麻衣っ!) 遠くに飛んでしまいそうな意識を辛うじて繋ぎ止め、亜衣は呻いた。 怪我をしていたはずの小塚は何ごともなかったように立って、麻衣の細い肢体を抱えたまま野卑な笑みをたたえて亜衣を見下ろしている。 亜衣は両手を地について体を起こした。 戦わなくてはならない。 妹を助けなくては。 「ほう、さすがは天津亜衣、まだ動けるか」 孝明の表情には朝の爽やかさも、夕方の憔悴した様子もなく、残忍な輝きをたたえた瞳がまっすぐに亜衣を見つめていた。 孝明の手には一本の長い針が握られていて、カンテラの灯りを反射してギラリと光っていた。 (やめてっ!) 目の前で何が行われようとしているのか、亜衣にはよくわかっていた。 孝明は麻衣の首筋に針の先を近づけていく。 飛びかかりたいのに、上体だけ起こした姿勢が限界だった。もう亜衣には為すすべもない。 針先が麻衣の首筋に刺さった。麻衣の体がビクンッ、と反応する。 「ん、う・・・」 薬で眠らされていたのだろうか。 麻衣は意識朦朧とした様子で、小塚の腕の中で目を覚ました。 「おねえ・・・ちゃん・・・?」 自分が置かれている状況も理解できないままに、麻衣は地面に半身の体勢でいる亜衣を見つめた。 「あ、孝明さん・・・なに・・・これ・・・」 早くも淫らな毒の効力が現れだしたようだ。麻衣は小刻みに体を震えさせて、不安そうな表情で孝明を見ている。まだ謀られて罠に落ちたことに気づいていないようでもある。 (だめ、だめよ、麻衣・・・) 亜衣にももう、理性の限界がやってきていた。起こしていた半身を再び地に横たえる。 気丈な亜衣でなければ、すぐにでも陰部に手を伸ばし、自慰を始めているだろう。 孝明はそんな亜衣の様子をじっと見つめながら、麻衣の頬に手を添え顔を近づけていく。 「う、はん・・・」 麻衣の唇に、孝明の唇が重ねられた。麻衣はうっとりと孝明の口づけを受け入れる。 そうしながら、孝明は亜衣を見ているのだ。焦らすように。 (麻衣・・・ダメ・・・) 麻衣と孝明のキスは濃厚になっていった。 舌を絡ませているのがわかる。 巫女装束の胸元が開かれ、麻衣の白い乳房が露わになった。 その乳房の一方に、孝明の手が伸びてゆっくりと揉み始めると、麻衣は甘い鼻息を漏らした。 「ああん・・・」 それを目の前で見せつけられた小塚が、耐えきれないとばかりにもう一方の乳房を口に含む。 小塚の舌先が麻衣の乳首を転がし、柔らかく歯を立てると、麻衣の乳首はすぐにしこって固くなる。 「ふん、妹の方は他愛もないな」 孝明はそう言って麻衣を離れ、小塚に目で合図をする。 小塚はまた野卑な笑いを浮かべ、麻衣を地面に下ろして巫女装束を引き剥がしにかかる。 (ああ・・・麻衣・・・) 絶望に亜衣は目眩を感じて固く目を閉じた。 そうしている間にも、体の疼きはじわじわと強くなり、大きな波となって亜衣の理性を破壊しながら全身に快感を広げていく。 フワッと上体が浮いて、亜衣は目を開けた。 孝明に抱き起こされたのである。目の前に、孝明の整った顔があった。 「亜衣もしてほしいだろう、同じように」 淫靡な笑みを口元にたたえて、孝明が亜衣の顔を覗きこむ。 息がかかるほどの距離に、孝明の顔があった。 (誰が・・・) 思いのままになってたまるか、という気負いはまだ残っている。 だが体の疼きはどうにもならない。目の前で麻衣との濃厚な口づけを見せつけられて、亜衣の心は崩壊寸前にまで動揺しているのだ。 「舌を出すんだ、亜衣」 孝明の言葉は催眠術師の呪文のように直接、亜衣の脳に指令を与える。 (いやっ) 心が抗っているのに、亜衣の体は素直に反応し、小さな舌を唇の合間から出してしまっていた。 「ふっふ、いい子だ」 その舌に、孝明が唇を寄せ、しゃぶりついてくる。 (あああっ・・・) 唇を重ねられ、舌を挿し入れられ、口の中をこね回されると、体中の快感がさらに増幅され、意識が飛ぶ。 すぐに胸に手が降りてきた。 白い衣の上から乳房を揉み上げられる。 「ングッ・・・うう・・・」 無意識に孝明の舌を受け入れ、自らの舌を絡ませてしまいながら、亜衣は切なげな吐息を漏らした。 緋色の袴の下で、花芯が熱く火照っている。 心臓の鼓動は速く、大きくなっていた。 強くなった鼓動のリズムに合わせるように、ホトの奥からはトクッ、トクッ、と愛の蜜が溢れてくる。 (いや・・・助けて・・・) 孝明はたっぷりと時間をかけて亜衣の唇と舌を貪り、唾液を吸い味わうと、ゆっくり顔を離した。 「ハァ、ハァ、ハァ・・・」 亜衣は肩で息をしながら、ぐったりと孝明の腕に体を預けた。 孝明はニヤリと笑って、亜衣の袴の腰紐をほどいていく。 (ああ・・・もうだめ・・・) 白衣と襦袢がゆるみ、白い胸が山の夜風に触れる。 孝明は亜衣を草の上に寝かせ、両手で乳房を鷲掴みにした。 「あうう・・・はあ・・・あんっ・・・」 亜衣の乳房を揉みしだく孝明の手に力がこもるたびに、亜衣は喘ぎを漏らした。 体がブルブルと震え、気が遠くなりそうだった。 「ああっ、いやあ・・・ああんっ・・・」 麻衣の身悶える声が耳に入ったのはその時だった。 (ハッ、麻衣!) 亜衣は反射的に麻衣の方に顔を向けた。 「ま・・・麻衣・・・」 麻衣はすでに全裸にされていた。 両脚を大きく広げ、その脚の付け根に小塚が顔を埋めている。 小塚は麻衣のホトを舐めあげながら、両手を乳房に伸ばし、指先で固くしこった乳首を嬲っていた。 「あひっ、き、気持ち・・・いい・・・ああっ・・・」 麻衣は体を反らして、小塚の愛撫に素直な反応を示している。 (麻衣、ダメよっ、しっかりして!) 亜衣は下唇をぎゅっと噛みしめた。 (邪悪、隠滅・・・邪悪、隠滅・・・) もう一度精神を集中し、繰り返し同じ言葉を唱えていく。 「ふっ、無駄なことを」 孝明はその亜衣の様子に気がついて、乱暴に緋色の袴を剥ぎ取った。 濡れそぼった秘部が外気に触れて、冷たく感じる。 「んあっ・・・はぐぅ・・・」 先刻までの焦らすような柔らかい愛撫で亜衣を虐していた孝明の手の動きは、直接的な荒々しいものに変わっていく。無抵抗になった亜衣の下腹部へと滑らせていった手の平で、柔らかい秘丘を包み、恥骨を押さえるようにしながら指先を陰裂の間に割り込ませる。 ホトから溢れ出す蜜を、固くなった蕾に塗りつけるようにしながら、亜衣の最も敏感な部分に刺激を与える。 「くっ・・・ひあっ・・・!」 その快感に負けて、亜衣の体が硬直し、のけぞった。 腰が無意識にせり上がり、ブルブルと震える。 (ああ、ダメ・・・集中でき・・・ない・・・) 肉体から沸き上がってくる淫邪の方術と戦う気持ちはあるのに、痺れるように陶然となった頭では快楽に打ち勝つことができないのだ。 (しっかりしなきゃ、麻衣が犯されちゃう・・・) 亜衣は残り少なくなった気力を呼び起こそうと、固く目を閉じ、歯を食いしばった。 (邪悪、隠滅・・・邪悪、隠滅・・・) 強靱な精神力で戦う心を繋ぎ止め、亜衣はすべての神経を集中して呪文を繰り返した。 草の上に投げ出されていた指先に、何か小さな固いものが触れた。 (小石だ) 亜衣の闘争心に炎が甦った。 小石を拾い、親指と人差し指の爪先で挟む。 気を集め、指先に力をこめて、照準を定める。 (そこだ、いっけーっ!) 亜衣の指先から放たれた小石が孝明の左目を正確に射抜いた。 弓の達人であればこそ、この窮地に成しえた反撃であった。 「ぐおっ」 孝明が悲鳴に似た呻きをあげて体を起こし、左目を押さえる。 (今だっ) 亜衣は右足の甲を振り上げ、下から孝明の顔面に蹴りを叩き込んだ。 孝明が尻餅をついて倒れる。 その異変に気がついた小塚が振り返った時には、亜衣は軽々と跳躍していた。 「うおっ!」 驚いた表情を見せる小塚の顔面に膝蹴りを見舞うと、ひるんだ首筋に手刀を打ち込む。 小塚の巨体がその場に崩れ落ちるのを確認し、素早く体を反転させる。 「トアッ!」 顔を上げようとした孝明の額に、亜衣の強烈な裏蹴りが命中した。 「ぐわっ」 孝明は数メートルも後方に突き飛ばされ、一回転して倒れると動かなくなった。 「おねえちゃん!」 麻衣もようやく正気に戻り、体を起こした。 「麻衣・・・大丈夫?」 孝明が気絶したのと同時に、淫らの方術は消え失せていた。 「うん。でもこれって、いったい・・・」 「わからないわ。でも二人とも正気でなかったことだけはたしかね。」 「まさか、また鬼獣淫界が?」 「認めないたくないけど、そうとしか考えられないわ。麻衣、気をつけて。」 「うん。」 姉妹は緊張した面持ちで、お互いの気力を確かめあった。 新たな戦いが、まさに始まろうとしているのかもしれないのだ。 「この人達、操られていたのかな・・・」 麻衣がつぶやいた言葉に、少し迷ってから亜衣は肯いた。 「たぶん、そうだわ。鬼獣淫界の淫鬼だったら、結界の中には入って来れないはず。」 「ってことは、操っていた淫鬼がどこかにいる・・・?」 「うん。」 二人は立ち上がって、分祠に急いだ。 祖母、幻舟から授かった天女の羽衣と梅の枝は、天神を祭った神棚の裏に隠してある。 亜衣はピンクのリボンを、麻衣は水色のミサンガをそれぞれ手に取った。 「行くよ、麻衣っ」 「はいっ!」 二人は気を合わせ、同時に夜空へと飛び上がる。 「天神っ」 「招来っ」 「羽衣一の舞い!」 再び地表に降り立った姉妹は、羽衣軍神の衣を身に纏い、その手には弓と薙刀の天具が握られていた。 |