一方

 正殿では、未だ目を覚まさぬ麻衣と、タオシー、そして正体不明の黒子達がいた。

 

 以外にも、約束どおり麻衣には、全く何の手出しもされていなかった。タオシー少年も、黒子達も、まるで裸の麻衣に何かをしようという機さえ見られない。

「もうすぐだ・・・ もうすぐ、我々が望んでいた世界が・・・」

 

 眼を閉じ、瞑想するかのようにこれからの未来に胸を躍らせている時

 

(ピッシャアアアアアアアアア!!!!!!)

 

 けたたましい稲妻の音が響く。

 

「おや・・・ すごい雷ですね」

 のん気に語るタオシー。

 眠っている麻衣を見るが、眉を強く背けるものの、起きる気配は無い。

 

「余程消耗したのか・・・ まあ、あれだけの攻めでは無理もありませんが・・・」

 黒子の一人が、ヒソヒソとタオシーに耳打ちをする。

「そうですね。儀式が終わるまで、彼女は大事な────」

 その時

 

「亜衣様────っ!!! 麻衣様────っ!!!!」

 その男は、否妻の様に急にやってきた。

 

 死んだ筈の男、巫女と共に戦う戦士。木偶ノ坊。

 彼は、大きな声で二人の声を呼ぶと共に、棒を振り回し、己の体を貫いていたのであろう槍を投げる。

 

「グァッ!!」

   「ギャッ!!」

 奇襲に掛かった入り口付近の黒子達は、槍に貫かれ、棒に吹き飛ばされ絶命する。

 

「・・・・・・・・・」

 驚くも数瞬。黒子達は陣形を組み多種多様な武器、そして忍者の如く跳躍と敏捷で多方向から、侵入者の

 しかし

「どぉぉぉおおおおりえいやぁぁあ!!!!」

 振り回す棒の竜巻、それは跳びかかっていった黒子達を引き裂き、砕き、吹き飛ばした。

 

「すごい・・・」

 タオシーは思わずそう呟いた。

 

 木偶ノ坊は近づく敵から千切っては投げ、そしてついに、倒れている麻衣にまで到達した。

「麻衣様っ!!! お気を確かに!!!」

 麻衣を抱き抱え、頬をペチペチと軽く叩く。

「ん・・・ はっ・・・!? で、木偶ノ坊さん!?」

 目覚めた麻衣は、その眼に映る顔に驚く。

「無事だったの?」

「生きているのが不思議ぞなもし・・・」

 

「感動の再会ですか、いいですね」

 二人の会話の間に割り込むタオシー。

 

「亜衣様はどこか!!!」

「お姉ちゃんはどこ!?」

 二人は同時に言った。

 

「それまでをも望むのは、少し贅沢ですねぇ」

 涼しい顔でそうの賜うタオシー。

 

「何!? ・・・少年・・・!?」

 今更ながら、木偶ノ坊はこの場所に不釣合いな少年に驚く。

 

「タオシーといいます。どうやって生き返ったかまでは知りませんが、状況を見た方がいい。

 今のあなたには、麻衣さんを連れて退却は出来ても、更に麻衣さんを守ったまま僕達を倒し、亜衣さんを探す・・・ それは現実的じゃないでしょう?

 それとも、無謀な挑戦をして再び麻衣さんすらもこちらに預けますか?」

 

「ぐぬ・・・!!」

 悔しいが、少年の言うとおりである。

 何故か傷は癒え、力ははちきれんばかりに溢れている。

 だが、それでもこの部屋中を囲む百近い黒子達を、麻衣様を御守りしながら相手にするのは・・・

 

「・・・麻衣様。申し訳ありませぬぞなもし・・・」

 そう言って、離れない様、麻衣の肩を抱き寄せる。

「え・・・ お姉ちゃんは!?」

「無念でございますが、あの少年の言うとおりでござる。・・・せめて、せめてこの場は麻衣様だけでも!!」

「そんな・・・! じゃあ、私はいいからお姉ちゃんだけでもっ!!」

「・・・・・・・」

 

「それも現実的ではないですねぇ。木偶ノ坊さんにはそんな事は出来ませんし、何よりそれでは両方とも捕まる可能性が高い。それに、木偶ノ坊さんの苦渋の決断を少しは考えてみたらどうですか?」

 客観的な口調で、冷静にタオシーは言ってのけた。

 

「・・・少年に一言だけ聞く」

「何でしょう」

「その風貌、陰陽師の名家、安倍(あべ)の者と見た。

何故人の身でありながら、そして退魔の者でありながら、淫魔の配下と成り下がったか!!」

「・・・・・・そんな大層な理由ではないですよ。

 敢えて言うなら・・・復讐です」

「復讐・・・?」

「さあ、もう時間もありません、去らないのならこちらから・・・」

 タオシーが軽く手を上げると、黒子達が一斉に武器を構える。

 

「くっ・・・ 申し訳・・・ 申し訳ございませぬ! 亜衣様! 次こそきっとお助けに参ります故!!

 でぇぇぇいっ!!!!

 木偶の坊が何か丸いものを投げると、たちまち爆発が起こり、煙が辺りを包んだ。

 

「風符!!」

 タオシーは、すかさず懐から紙符を取り出し、投げる。

 投げられた符は、たちまち室内に強風を生み出し、あっという間に煙幕が部屋の外に消えていく。

 そこには、既に二人の姿は無かった。

 

「さすがは木偶ノ坊・・・ 見事なものですね」

 黒子の数人が、それに合わせて駆け出す。

 

「追わなくてよろしい!!!」

 穏やかな口調とは打って変わった大声で一括する。

 

「・・・多少予定は違いましたが、これで約束は果たせました。後は・・・

 皆さん。分かっているとは思いますが、儀式が終わるまで亜衣さんの耳に入れない様に」

 口調こそ穏やかだが、その言葉の中に「失敗すれば殺すだけでは済まさない」という意味を受け取らなかった者は、誰一人としていなかった。

 

 

    ◇    ◇    ◇                 

 

 

 一方、儀式の間では・・・

 

「んっ、んっ・・・、ちゅぶ、んっ・・・」

 座り込んだ姿勢のまま、首を前後に動かす亜衣。

 咥えているものは、カーマの男根である。

 二つ目のもの。契約する淫魔の新鮮な精液を得るため、亜衣自身が口を使って奉仕することを強制された。

 

 勿論、亜衣にとって初めてのフェラである。

 敢えて当て嵌めるなら、黒玉法師の黒玉ぐらいだが、ただの物と男根では比べられるものではない。

 

「んんっ、んんっ、ちゅぷ、はむ・・・」

 全ては麻衣を助ける為。

既に麻衣が助けられたとは知らず、亜衣は健気にも自分を犯した男に尽くす。

 

 カーマは、腕を組んで立っているだけで敢えて何もしなかった。

 それは亜衣にとってありがたい方ではあったが、その高圧的な態度と笑みは、亜衣の女としてのプライドをよりいたぶる。

 

「・・・フフ。初々しいな。

だが、首を動かすだけでは駄目だ。舌を使って先端や裏の筋まで丁寧に舐めろ。袋も一緒に触ると効果的だ。 ──あと、もっと強く吸え」

 その言葉に亜衣は、カーマのものを咥えたまま一瞬殺意の篭った目を向ける。

 それを感じ取っている上で、カーマはより厭らしい笑みを浮かべた。

 亜衣は、自分の現状を再び理解し、奉仕を開始する。

 

「んんっ、ちゅっ、ちゅぶ、はぷっ! むっ!!」

 カーマの言うとおりに、右手で男根の根元を掴み、左手で恐る恐る玉袋を触り、裏筋、先端を中心に舌を這わしてゆき、頬が軽く窪む位の力で吸引する。

 

「フフ・・・ そうだ。上手いぞ。素質があるな・・・

 俺が女に師事するなど、お前以外には無いことだぞ? 亜衣」

 

 ・・・勝手なことを。

 亜衣は今すぐにでも、この口の中のものを噛み千切ってやりたかった。

 

 最初、この肉棒を顔に向けられた時は、間近で見せられる男性器に驚愕した。

 赤黒く、太く長く、そして所々には血管の筋があり、別の生き物の様にビクンビクンと脈を打つその怪物。

 そんなものが、私を貫いたなんて正直信じられなかった。

 しかし、それは今、私の口の中にある。

 恐る恐る口の中に頬ばった瞬間は、味わったことも無い生臭さが口内を支配し、思わずえづき、咳き込んだ。

 

 ・・・今もその生臭さと、感触は変わらない。

 

 変わっっていっているのは・・・そう、私の感覚。

 

 私の心の中の黒い部分が、咥えているモノを舐める場所や回数によって、ビクビクと様々な反応をすることや、激しくすればするほど硬さを増すこと、先端から出てくる汁など。それら全てに興奮している。

 だがその事実を認めることは出来ない。だから、そういった考えが頭に浮かんでいってはすぐにかき消す努力をした。

 それでもわかるのは、その黒い部分がどんどん私を侵食していっていること。

 

 いくらかき消そうとも、いくら認めずとも、いくら強い精神力で抑えても、亜衣の体は雌としての正常な反応を抑えきれない。

 その証拠として、先程の自慰で濡れきったままの秘所は、まるで火傷しそうなほどの熱を帯びて、それが新しき雫となって太腿を伝っていた。

 

「・・・フフ。欲しいのか? 亜衣」

 そんな亜衣の状況を、カーマは把握していた。

 

「・・・そんなわけ、ないでしょ・・・!」

 思わず奉仕を中断し、講義する亜衣。

 

「・・・ふ、時間も大して残っていない。手伝ってやろう」

「・・・え? きゃっ!!?」

 それまで直立不動だったカーマは、いきなり亜衣を仰向けに押し倒し、素早く反転すると・・・

 

「あああぁっ!!!?」

 濡れそぼった亜衣の秘所を舐め始めた。

 カーマの顔に亜衣の秘所が、亜衣の顔の目の前にカーマの男根が、俗に言う69(シックスナイン)の体勢である。

「フフフ、これで二度目か。最初とは比べようも無く熱くなっているぞ。そんなに俺のモノが忘れられないか?」

「そん・・・な、ワケ・・・はあぁっ!! や、やめ・・・んぅっ!!」

 淫魔の戦士というだけあり、カーマの攻めは巧みで、的確に亜衣の弱点を付いてくる。

 

「そらそら、俺にやられているままではいつまでたっても終わらんぞ」

 その言葉にハッとする。

 そうだ、急がなければ、時平達に気付かれる。

 

「・・・・・・・・・んっ・・・」

 覚悟を決めて、一度は口から離れた屹立棒に再び舌を伸ばす。

 それを見計らったカーマは、一気に腰を沈めた。

 

「んぶぅっ!!?」

 いきなり差し込まれた事に、亜衣は驚いた。

 先程と違い、カーマは積極的に腰を動かしてくる。激しいピストン運動が喉の奥まで届き、亜衣は何度もえずきそうになった。

 それと同時に、カーマの舌による秘所への攻撃が開始される。

 嘗め回し、吸い取り、陰核を刺激し、深く舌を突き刺す。

 

「うむううううぅぅぅぅっ!! むううっ!!! ふぅっ!!!!」

 

 更に、カーマの指が、亜衣の後ろの穴を突き刺した。

「うううぅぅっっ!!!!???」

 これまで体験したことも無い感覚が亜衣を襲った。

 ビクビクと体が震える。召すとしての体が反応し、歓喜に打ち震える。それは亜衣の脳に到達し、思考をとろかしていく。

 とても自分から奉仕なんて出来る状態ではない。

 しかし、カーマは激しく亜衣の喉を犯しながら、腰の動きを定期的に止め、より強く動こうとしない。

 

 そう、カーマは敢えて、亜衣が自分から舐めなければ絶頂に至らない様にしているのだ。

 

 亜衣も、それにやっと気が付く。

 再び舌を動かそうとした瞬間。

 

「うむううううううぅぅっ!!!???」

 軽い痛みと強烈な快感に、亜衣は仰け反った。

 カーマが亜衣の陰核を噛んだからである。

 

 亜衣が積極的になると邪魔をし始めるカーマ、その顔は悪戯好きの少年のようでありながら、その悪辣さは間違いなく淫魔のものだった。

 

 幾度かの邪魔を何とか耐え、それがカーマの男根だということを忘れたかのように懸命に口陰を続ける亜衣。

 すると、唐突に

「んぐっ!!?」

 口の中で、カーマのものが明らかに一瞬膨張する。

 その次の瞬間

 

(びゅるっ! ドクドクッ!! びゅくびゅくっ!!!)

 

 頬張っていた男根の先端から、凄まじい勢いで精液が発射され、亜衣の口内を穢していく。

「んん────っ!!! んんん────────!!!!」

 勢いは止まらない。塩素や海の生き物が混ざった様な生臭い匂いが強烈に漂う。

 それと同時に、カーマが陰核を弄ったことが、亜衣に決定打を与えた。

 

「ふうううううっ!!! うっ!!」

 亜衣の体が極限まで仰け反り、一際大きく体が震えた。

 カーマの射精とほぼ同時に、亜衣もまた絶頂させられたのである。

 

「ぷぁっ・・・っ!!」

急いでカーマの男根を口から離す亜衣。

しかし

 

(ビュク! ビュクッ! ドビュ!!)

 

「えっ!? イヤッ!! やぁぁっ!!!?」

 口から一刻も早く出すために、射精直後の男根を、舌も使って押し出したのが悪かった。

抜き放たれたその瞬間、二度目の射精が起こり、亜衣の顔に白濁液が降り注ぐ。

普段の勇ましさはどこへやら、さすがに不意打ちの顔射に対して、亜衣は普通の年頃の少女と同じ様に悲鳴を洩らした。

 

「フフ・・・・・・」

 カーマは、そんな亜衣の狼狽に恍惚とする。

 亜衣の髪に男根を擦り付け、男根の精液を拭き取った。

 精神的な疲弊により、亜衣はそれに抵抗すら出来ない。

 

 

「はぁ・・・ はぁ・・・ はぁ・・・ はぁ・・・」

 ようやく解放された亜衣。

「くっ・・・」

 だが、寝たままでいるわけにはいかない。

 焦点の定まらないまま。よろりと起き上がり、件の杯を掴み、口を開き、舌を出す。

「んっ・・・・・・」

 舌からは、カーマのものである精液と、亜衣の唾液が混ざった白濁液がトロリと流れ落ち、杯を満たしていく。

 

「うくっ・・・うぉえ・・・う・・・」

 口の中に残っている精液を全て吐き出そうとする亜衣。

 

 そこに、カーマが近づく。

 カーマはその杯の上に立つと、右手の爪で左手の手首を傷付けた。

 ポタポタと、カーマの血が滴り落ち、杯に落ちる。

 

「・・・これで、完成だ」

 契約する淫魔の血。精。そして、潮。

 それらが、黄金色の杯の中で交わり合い、淫らな桃色の淫液となっている。

 

 カーマは、杯の中に指を入れると、濡れた指を虚空に置く。

 指に絡まりついた淫液の一部が、床の中央にポタリと落ちる。

 その途端、床の紋様が翡翠色に輝き出した。

 淫魔の儀式でありながら、その輝きは美しい。倒れたままの亜衣も、その輝きに驚きを隠せなかった。

 

 淫液を鍵として、結界が発動を始めたのである。

 

「勿論。これだけでは儀は終わらん。さあ・・・」

 亜衣の手を引き起き上がらせ、杯を手渡す。

「飲むがいい。そして、お前は淫魔として生まれ変わるのだ」

 そう、これを飲んでしまえば、亜衣は全てを失う。

 身も心も淫魔となって、二度と巫女、天津亜衣には戻る事は出来ない。それは、結界の放つ妖力が充分に語っていた。

 

 ・・・だが

「麻衣・・・」

 その程度の事がなんだっていうんだ。

 麻衣さえ無事なら、私はどうなったっていい。

 昔から、麻衣を守ってきたのは私だった。それは今も変わらない。

 

「・・・麻衣は、絶対に・・・」

 カーマを睨む亜衣。

「わかっているとも。俺はお前さえ手に入ればいい。妹はいくらでも見逃してやる」

 何の遠慮も演技性も無いだけに、カーマの言葉は真実だろう。

 

「麻衣・・・ごめんね・・・」

 杯を覗きながら、そう一言。

 そして

 

「んっ・・・・・・っ!!!」

 杯の中身を、飲み下した。

 生臭さ、鉄の様な味、様々なものが混ざり合った、最悪の溜飲物。

 

 それが喉を通ると共に、変化が始まった。

 

 

  ◇    ◇

 

 一方、木偶ノ坊に抱えられ、天津の社へと向かう麻衣。

「・・・・・・はっ!?」

 唐突に、麻衣の心臓にズキリと痛みが走った。

 

「どうなされました? 麻衣様」

 心配する木偶ノ坊。

「お姉・・・ちゃん・・・」

「?」

「お姉ちゃんが・・・・・・」

「亜衣様が、どうなされたと!?」

「・・・ううん、わからない。わからないけど・・・嫌な予感がする・・・

 二度と、お姉ちゃんに会えない様な・・・ 生きているけど、もう会えない・・・そんな気が・・・」

 麻衣は狼狽し、今にも泣き出しそうだった。

「申し訳ありませんぞなもし・・・ この木偶ノ坊が、もう少し強ければ・・・っ!!」

「ううん! 木偶ノ坊さんは悪くない!! 私が・・・ お姉ちゃん・・・」

「しかし、ここは信じましょう。亜衣様を助け出すその時を!!!」

 力強く跳躍する木偶ノ坊。

 麻衣は、自分の中に浮かんだ悪い予感を、必死に払うことに専念した。

 

「(お姉ちゃんには必ず会える・・・ 必ず助けるから・・・ お姉ちゃん・・・っ!!)」

 

 

  ◇    ◇

 

 

「・・・・・・・・・・っ!!!??」

 

(ドクン、ドクン、ドクン)

 

 まるで、新しい生命の胎動のような、大きな動悸。

 それが何度も繰り返され、その度に亜衣の体は大きく揺れる。

「あ、ああ・・・」

 

 やがて、亜衣の体から、翡翠色の光が放たれ、それは忽ち亜衣を包み、見えなくさせた。

 

「フフ・・・ フフフフ・・・」

 その様子を、期待を込めて見届けるカーマ。

 

 体が熱い。

 まるで自分の体ではないかのように、燃えるような暑さを放ち、同時に、【黒】が、亜衣という存在を内側から反転させてゆく。

 

「(────ああ、変わっていく。私が────

 でも、思ったより────    悪い気分じゃ────────・・・・・・・・)」

 

 それが、天津亜衣の、最後の思考だった。

 

 瞳から色が失われ、髪が舞い上がる。

 それと共に、髪留めが外れ、風のない部屋の中で、何処かに消えてゆく。

 

 ゆっくりとうずくまり、そのまま動かなくなる亜衣。その様子は、まるで孵化を待つ繭のようにも見える。

 

 

 ・・・やがて、結界と亜衣の体から、翡翠色の光が完全に消える。

 儀式が完全に終わった証だ。

 

「起きろ。亜衣」

 カーマの言葉に、ゆっくりと起き上がる亜衣。それは、蝶がサナギから孵る様に似ており、妖艶に美しかった。

 髪留めがなくなり、ロングヘアに変わった以外は、その様子に何ら変わったところはない。肌の色も、顔も、亜衣のまま。

 もしかすると、儀式が失敗したのではないかと思うほどに変わりがない。

 

「生まれ変わった気分はどうだ?」

 カーマの質問に、亜衣はゆっくり目を開ける。

 その瞳の色は、明らかにこれまでの亜衣のものではなかった。

 純粋、可憐、勇敢。今までの亜衣の透き通る様な瞳に連想する言葉はそういったものだった。

 しかし、今の亜衣の目には、それは一切存在しない。

 目つきは、上瞼が少し下がった形でより妖しい魅力を放ち、その瞳は淫の心で濁り、そこから感じ取る単語は、妖艶。淫美。悪辣。

 

「ふふ・・・最高の気分よ。胸に痞えてたものが全部取れたみたいな・・・解放された気分」

 髪を掻き分けながら、嫌悪していたカーマになんとも親しげに返事をする。

 その声も、間違いなく亜衣の声であると共に、その喋り方は淫なる艶を放っていた。

 

 カーマは満足していた。

 その心は大きく変化していながら、彼女が亜衣であることを感覚で確信したからだ。

 そう、亜衣は【反転】した。その心も、言葉も、元々亜衣の中にあったものなのだ。元が【陽】に近ければ近いほど、反転した時の変わり様は驚くべきものがある。

 

 亜衣は完全に淫魔となった。それは誰の目にも分かる事実。

 

「フフフ。そうだ。淫魔である身に、人間の道徳は必要ない。俺の妻としての誕生を、心より歓喜するぞ、亜────」

 カーマの言葉は、途中で遮られた。

 亜衣が、人差し指で口に栓をしたのである。

 

「その呼び方は・・・イ・ヤ」

「ほう・・・?」

 亜衣は、自らカーマの首に手を回す。

「私は生まれ変わったんだもの、同じ名前のままなんて面白くないわ」

 その表情は、通常の男なら一瞬で虜にするであろう、小悪魔的な笑み。

「では、どのように呼べばいい?」

「そうね、悪衣(あい)・・・なんていうのは、どう?」

 カーマの胸に、指でクリクリと文字を書く。

「悪衣・・・悪の衣・・・悪衣か、フフ・・・面白い」

 すぐ近くにある互いの顔。

 その距離は、すぐにゼロになる。

 

「むっ・・・」

 二度目のディープキス。だがそれは最初のものとは明らかに違った。

 

「んふっ・・・くちゅ、はむ・・・」

 亜衣・・・いや、悪衣は、自分からカーマに舌を這わせていた。

 その顔に、嫌悪は欠片も見られない。むしろ、快楽に身を任せ、強くカーマの舌を求め絡ませた。

 

「・・・? あら、フフフ・・・」

 悪衣は、カーマの股間の変化を見つけた。

「まだまだ元気なのね、すごい・・・」

 二度目を出して間もないのに、カーマの男根は、腰衣の上からはっきり分かるほどにそそり立っていた。

 あろうことか、悪衣は自ら、カーマの股間の膨らみを擦り始めた。

「淫魔の精力を舐めて貰っては困る。それに、悪衣が相手ならば底はない」

「・・・ふふふ、楽しみね。じゃあ、思いっきり・・・」

 悪衣がカーマを押し倒す。

二人は折り重なり、肉の喜びという名の、祝いの踊りを舞い始めた。

 

 

  ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

はい、やってしまいました(汗

 

もはや完全に淫獣聖戦の世界から独立の勢いです。

「こんなの亜衣タンじゃないよう」と言われるとグウの根も出ませんが、無数にある選択肢の一つだと思っていただければ・・・

 

 ・・・後は行くのみ。

 



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