淫獣聖戦ZZ 第6章


 ドロ、と、潤んだ割れ目から粘液が溢れ出た。
「っ……!」
 四つん這いの姿勢ですすり泣く麻衣のお尻が、大きく震える。
 内腿を伝うねっとりとした生温い液体は、純潔を守るべき巫女である自分の肉体が、無惨にも汚されてしまった証であった。
 純潔、と言っても、麻衣は実際には前から既に処女ではなかった。
 以前鬼獣淫界に捕われた際に、淫らな仕掛けを施された木馬によって、無理矢理に処女を散らされていたのだ。
 その時の戦いで、愛する祖母や、共に修行に励んだ天神子守衆の巫女たちの命が失われていた。
 忘れたくとも忘れられない記憶である。
 悪夢のような陵辱地獄から、なんとか木偶の坊に救い出されたが、純潔を奪われたことで羽衣の神通力も失われた。
 だが祖母幻舟の霊に導かれ、決して枯れない奇跡の梅の力によって、肉体の汚れは祓われ、羽衣の力も新たに得ることができたのだった。
 いわば尊い犠牲の上で手に入れた、清められた身体だったのだ。もはや自分だけのものではない、大切な授かり物―――。
 それを、また汚されてしまった。
 否、ただ無理矢理に犯されただけではない。快楽に負けて、自ら、しかも憎むべき仇敵に差し出してしまったのだ。
 取り返しのつかないことをしてしまった自分の愚かさに、麻衣は絶望し、恥じ入っていた。
 もちろん麻衣が強靱な精神力で快楽を拒み抜いていたとしても、鬼夜叉童子が麻衣を犯さずにいたはずはない。
 麻衣をことさらに辱めようと、わざと焦らしてみせただけである。
 そのことは麻衣にもわかっているが、むざむざとその術中にはまってしまった自分が余計に情けなかった。
 後から後から涙がこみあげてくる。
 だが心とは裏腹に、まだ全身が甘い快楽の余韻に支配されていた。
 敏感な腿の性感帯を刺激しながら、愛液と精液の入り混じったおぞましい汁が膝のところまで伝い落ち、下に広がっていく。
 驚くほどの量の汚らわしい精が胎内に注ぎ込まれていたのだ。
 木馬による陵辱は、ただ単に貫かれ、処女膜を突き破られただけのものだったが、今回は体液をたっぷりと子宮の奥底にぶちまけられている。
 本当の意味で、完全に汚されてしまった。
 男の性器によって貫かれ、膣内に射精を許した。
 そのことの意味を考えて、麻衣は慄然として、息を呑み込んだ。
 性行為の、本来の目的―――。
 それ以上は、想像したくもなかった。
 憎い敵である鬼夜叉童子の子種を……。
 そんなことになったら、生きてはいられない。もう、今だっていっそこのまま死んでしまいたかった。
 絶望にうちひしがれ、麻衣は涙でびしょびしょになった顔を歪めた。
 ふと、その脳裏に姉の姿がよぎった。
(そうだ、おねえちゃんは…?)
 時平に犯され、我を忘れて喘ぐ姿を、姉に見られてしまったのだろうか?
 麻衣は恐る恐る顔をあげ、涙でかすむ目で周囲を見回した。
 だが、ついさっきまで一緒に捕われていたはずの亜衣の姿は、どこにもなかった。
 すぐ側に、袴を履きなおして扇を手にした時平と、腕組みをしたラーガが立っており、邪鬼たちが周囲を取り囲んでいた。
 麻衣が顔をあげたのに気づいたのか、ラーガが歩み寄る。そのままずいっと右手を伸ばし、麻衣の髪をつかんで強引に引き起こした。
「うっ……」
 容赦なく髪を引っ張られる痛みに、麻衣が呻いた。
「ククククッ、見事な喘ぎっぷりであったぞ。さすがは天津の巫女よの。時平さまも御満悦のようじゃ、光栄に思うが良い」
 ラーガはそう冷笑し、ザラリとした長い舌で唾液をなすりつけながら、麻衣の頬を舐めた。
「敵のおなごの涙もまた格別の味わい……せいぜい自らの無力をたっぷりと噛みしめることだ。ハ−ッハッハッハッ!」
 大声で嘲笑いながら、ラーガは乱暴に麻衣を投げ放した。
「あうっ」
 倒れこんだ麻衣に蔑みの視線を投げると、ラーガは時平に向きなおり、口を開いた。
「さて時平さま、次なる供物も用意が整いました頃合……ご存分にお愉しみを」
「ホホホホッ、愉快、愉快。次はどのような趣向じゃ?」
「されば………邪鬼どもよ、亜衣をこれへ!」
「ヘヒェ−、ケケケケッ」
「ヒェーッヒェッヒェッ」
 口々に奇声を発しながら、数匹の邪鬼が跳ねていく。
 亜衣の名に反応して、麻衣はハッと顔をあげた。
 やがて邪鬼どもが、物陰から何か台のようなものを担ぎ上げて、そろりそろりと戻ってきた。そしてラーガの前まで運んでくると、ゆっくりとそれを下ろした。
「お、おねぇちゃんっ!?……ひどい、なんてことを…」
 麻衣が愕然として叫んだ。
「オッ、ホッ……これはこれは……」
 扇で口元を隠した時平の顔に、にんまりと妖しい笑みが広がる。
「さあ、ご賞味あれ! 羽衣天女の女体盛りにござりまする!!」
 誇らしげにラーガが指し示した先に、目を疑うような状態で台に横たえられた、亜衣の姿があった。
 亜衣は膝を正座のように折り曲げた格好で、台の上に仰向けに寝かされていた。両腕は頭の先でひとつに括りつけられ、固定されている。
 そしてその清らかな美体の上には、なんと所狭しと食べ物が盛り付けられていたのだ。
 和、洋、中、エスニック……全てが渾然一体となった色鮮やかな料理の数々が、気品溢れる少女の裸身を飾っていた。
 一番面積の大きい腹部には、見慣れぬ肉類や魚介を用いて、巨きく精巧な女陰が描き出されていた。
 濡れ光る大小の襞や、奥深い蜜壷へとつづくパックリと口を開けた秘穴、真珠のように顔を覗かせる可愛らしい突起……息を呑むほどに淫らな魔性の芸術だ。
 とろみのある透明な調味液をからめられた新鮮な生肉は、息づく艶かしい陰部そのもののようであり、汚れなき白い肌の上に配置された赤い食物は、魔獣に捧げるために少女の腹を切り開き、内臓をさらけ出して見せているかのようにも映る。
 脚を折り曲げているため高い位置にある両腿には、各種の野菜や肉類といった様々な材料を細かく切り、緻密に、端正に並べて、鮮やかに天女が描き出されていた。
 だがその天女は、淫らに舞い踊りながら醜い淫獣と交合し、性の歓喜にうち震えて恍惚とした表情を浮かべている。
 そして亜衣の股間に近い閉じられた脚の間、淫猥極まりないその交合図のちょうど邪魔にならない隙間のところに、恐らく燻製肉の塊かなにかを彫って造られた、気味が悪いほどにリアルな赤黒い男根が置かれていた。
 亜衣自身の女性器の上には何も盛られておらず、脈打つ血管までもが彫り込まれたつくりものの肉茎は、鎌首を女陰に向けて、今にも侵入しそうな構えを見せている。
 横になっても形の崩れない均整な両胸の膨らみは、デザートとなっているようだ。
 周囲には様々な果物が飾り付けられ、優美な半球を描いて盛り上がった乳房は、色とりどりのクリームや果物のソース、ゼリー、ムースといったものによって何層かに覆われ、乳首には真っ赤な可愛らしい果実がかぶせられていた。
 さらに全体をうっすらと糖液の膜によってコーティングし、光を反射して照り輝くプルプルと柔らかそうな胸は、むしゃぶりつき、舐め尽したくなるほどに甘く美味しそうだ。
 自由を奪われた両腕には、かつて汚れなき亜衣の処女を奪い、あまつさえ菊座をも蹂躙した鬼獣淫界の妖魚、ホト魚が絡みつき、亜衣の顔に向かって獰猛に牙を剥いた格好で活けづくりにされていた。
 そして最後の仕上げにというわけか、亜衣と麻衣から取りあげた羽衣のヒラヒラした薄布が、四肢に絡みついて、ふんわりと周囲を飾っていた。
 若さ溢れる少女の瑞々しい肉体をキャンバスに描かれた、狂気に満ちた背徳の芸術―――決して許されない、禁断の美だ。
 だが、妖気さえも立ち昇る淫らなアートの魔力は、見る者を魅了し、抗い難く引き寄せられるのだ。
 麻衣でさえも一瞬怒りを忘れて、姉の裸身に盛り付けられた淫靡な料理に釘づけになった。
 人間の根源に根ざす食欲と性欲という本能を強烈に魅惑され、引きずりこまれそうになる。
 渦を巻くようにして溢れだす官能の波動が、理性を麻痺させ、淫乱の性を沸き立たせる。
 麻衣は無意識にごくりと唾をのみこんだ。
(あ……)
 下腹部が熱く火照りだし、身体の奥底が蕩けるように潤んでいく。
 誰よりも近しく、同じ顔をしている自分の片割れ。凛々しく誇り高い双子の姉が、屈辱的な女体盛りの器とされている。
(おねぇちゃんが、食べられちゃう……)
 食べられるのは亜衣自身ではなく、上に盛られた料理である。
 だが麻衣の中のイメージには無意識に性的な意味合いも入り混じり、時平に貫かれ、悶え喘ぎながら貪られる姉の姿が明滅していた。
 つややかなきめ細かい肌に歯が立てられ、まるでチーズでも齧り取るようにおなかの肉が喰い千切られる。
 鮮やかな赤がその下から表れ、一瞬だけ白い骨がのぞく。
 みるみるうちに鮮血の泉があふれだし、幾筋もの細い流れをつくり、脇腹から流れ落ちていく。
 くちゃくちゃと亜衣の肉を咀嚼する時平の紅い唇の端から血が滴って、白い首筋に染みをつくる。
 そうしている間も亜衣を貫く腰の動きは休まることなく、苦痛と快楽に顔を歪ませた亜衣は、激しく悶えている。
 いつの間にかその姉の姿には、時平に犯され快楽に溺れた麻衣自身が重なり、混乱した意識の中でフラッシュバックのように、自らが食べられ、貫かれるヴィジョンが浮かぶ。
 亜衣を心配し、何とかしなくてはと必死で考える自分がいる一方、この倒錯した性の興奮にくらくらと幻惑されてしまっている麻衣がいた。
 性とカニバリズムの関わりは深い。(*)
 女性の滑らかな肌と柔らかい肉づきは、ごつごつとした男性の肉体に比べ、明らかに美味であるように映る。
 体毛が少なく、胸や太腿、尻についた柔らかな肉は脂がのっていて、思わずかぶりつきたくなる。
 伝承で祟りを鎮めるために鬼の生贄にされるのは若い娘である。
 B級SFやホラー映画を見れば、モンスターに襲われ、食べられる犠牲者は、性的サービスの役割をも果たしている場合が多い。
 吸血鬼の牙の痕が残る美女の白いうなじは、ゾクッとするほど妖艶な色気を放ってはいないだろうか。
 魅力的な女の子に「食べて」と言われれば、男はケダモノに豹変する。男は狼であり、女は赤頭巾ちゃんなのだ。
 逆の場合もまた考えられる。
 男性のシンボルはしばしば腸詰め肉に喩えられるし、女性はそれを下の口(時には上の口)で「食べる」のだ。
 異性に対して性的興奮と共に食欲をも抱き、片方はその欲望を鋭敏にキャッチして、怖れと一体の悦びと共に我が身を差し出す。
 性交はお互いを食す行為であるとも言える。
 無論、実際にお互いを食すわけではなく、本当に人肉を食べる行為に興奮する人間は現在にはまずいない。
 だが未だラージャの媚術の影響下にある麻衣にとっては、普段は意識下に隠された性的認識が、全身を駆け巡る興奮となって熱く燃え上がるのだ。
 知らず知らずのうちに、麻衣の瞳には恍惚とした色が浮かんでいた。
 
 芝居がかった間をたっぷりと空けて、ラーガが再び口を開いた。
「……小生意気な亜衣めも、こうなってしまえば可愛いもの。我が僕につくらせましたる淫らの餐、ごゆるりとお召し上がりを」
「実に見事じゃ。文字どおりの馳走でおじゃるのぅ。食べてしまうのが惜しいほどの出来映えよ」
 そう言うと、時平は舌舐めずりをして亜衣に歩み寄った。
 じっくりとねぶるように亜衣の裸身を目で犯していく。
「もったいなきお言葉……これ、御酒をもて!」
 ラーガの声にすぐさま邪鬼が徳利を捧げもってきた。
「まずは喉を潤してのち、箸をつけられるがよろしいかと」
 そう言ってラーガがトクトクと亜衣の固く閉じられた股に媚薬入りの酒を注いでいく。
「んく…っ!」
 冷たい酒をいきなり股間に注がれ、亜衣は喉の奥で声をあげた。
 陰部と閉じた腿の付け根の間の三角地帯に媚酒の池が生じ、亜衣の薄い恥毛がユラユラと海草のように揺れている。
 当然のように隙間から酒は漏れていき、秘裂や腿の隙間を伝い落ちる。
 尻の下に広がっていく冷たい液体の感触が、まるでおもらしをしてしまったかのようで気持ち悪く、亜衣は惨めさに身を震わせた。
 どのような屈辱を与えられても、今は甘んじて受けるしかないのだ。
「ホッホッホッ、若布酒とな! これもまた良き眺めでおじゃる!」
 愉しくて仕方ない、というふうに時平が言った。
「今宵は祝宴じゃ!! みな淫らの宴に酔い痴れるが良い!」
 時平が扇を開いて打ち振ると、邪鬼たちが飛び跳ねながら囃し立てた。
 先に注がれた酒は、ほとんど全て下に漏れ落ちてしまっている。
「辛抱できずに下の口が呑んでしまったようでございますな」
 ラーガがそう辱めながら、新たに酒を注いだ。
 時平は扇で酒の泉を波立たせ、亜衣の縮れた毛が揺らめくさまを悦に入って覗き込んでいる。
「どれどれ、天津の娘の若布酒は、いかなる味がするものやら……」
 時平がしゃがみこみ、亜衣の股間に顔をよせていく。
「蜜が溶け入って、なんとも云えぬ芳しさじゃ」
 鼻面を至近まで近づけ、鼻腔を開いて胸の奥まで媚酒の匂いを吸い込むと、喉を鳴らすようにして時平が言った。
 そのまま舌を伸ばし、ピチャッ、ピチャッと音をたてて亜衣の股間の泉を舐める。
「……っ!」
 屈辱に、亜衣は強く拳を握りしめた。
 女として、人間としての尊厳を否定されるかのように、ただ器としてのみ扱われる自分に、悲しみを通り越して怒りを覚えた。
 いっそただ肉体を陵辱された方が何倍もましだった。
 時平の舌がワカメのように揺れる陰毛に触れるのが感じ取れる。
 その刺激が不覚にも心地よさとなって伝達されるのが悔しかった。
 割れ目から染みた酒が、秘所の粘膜を灼けるように熱く火照らせている。
 それがアルコールによるものか、酒中に混ぜられているであろう媚薬によるものかは判別できなかったが、確実に反応してしまう肉体が恨めしかった。
「ぁ…っふ……!」
 酒泉の水位が下がり、時平の舌が亜衣の女陰に触れる。
 思わずあがりそうになる声を、亜衣は懸命に堪えた。
 淫らに蠢く舌が襞をこするたび、電流に似た刺激が背筋を駆け上がる。
 酒が残り少なくなり、時平は舌で嬲るのをやめ、唇をすぼめて亜衣の秘裂に押し当てた。
 ジュズズ、ジュプ、ジュルルルルッ
 音を出して激しく吸いたてる。
「っはっ!……んんんっ……くぅぅっ!!」
 強烈な快楽が迸り、亜衣は必死で跳ねあがりそうな身体を抑えつけた。
 亜衣は裸体に料理を飾られる前に、自ら動いてわずかでも盛り付けを崩せば、即座に人質を殺すと脅されていた。
 抵抗どころか、動くことも許されない。
 どのような辱めを受けても、また苦痛や快楽に苛まれようとも、じっと耐えているしかないのだ。
 実際、盛り付けられている時点から当然ところどころ痒くてしかたなかったが、ずっと我慢しつづけた。
 痒いところをかけないというだけでどれほど苦しいかは、誰もが知るところだ。
 だがどうしようもなく敏感になった女陰を激しく吸われる快感に、身体を動かさずに耐えるというのは、それにも増して尋常ではない苦しみである。
 やっと時平の唇が離れた時には、亜衣は息も絶えだえになっていた。
「ホホホホッ、旨酒でおじゃる! これほど旨い酒は久方ぶりじゃ! オーッホッホッホッホッ!」
 口の端から愛液とも酒ともつかないものを垂らしながら、時平が哄笑した。
「小憎らしい天津の姉娘の蜜、また格別の味わいにござりましょうな」
 ラーガが追従する。
「ささ、もう一献」
 新たな酒が亜衣に注がれた。
 時平はまた屈みこむと、舌を長く伸ばし、じっとりと酒に浸す。
「せっかくの美酒、亜衣も下の口ばかりで味わっては愉しめなかろう……麿の恩情をかけてつかわそうぞ」
 邪な企みに満ちたいやらしい表情を浮かべ、時平がねっとりした口調で言った。
 音をたてて股間の酒を吸い上げる。
 口中にたぷたぷと酒を入れたまま、時平は立ち上がって亜衣の顔に近づいた。
 そして亜衣の顎をつかみ、自分に向かせると、ゆっくりと顔を近づけた。
「ん゛んーっ!」
 時平の意図を悟った亜衣は、唇を固く引き結び、拒絶の呻きをあげた。
 だが時平はその細い指に似合わぬ力で強引に顎を開かせて、たまらずに開いた可憐な唇に、むりやり自分の紅い唇を押し当てた。
 口を濡れた柔らかいものが覆い、同時に生温い液体がなだれこんできた。
 酒が喉を灼き、むせ返りそうになる。
 ぬめぬめしたナメクジのような舌がねじこまれ、口内で気色悪く蠢く。

「んんー、ふ……ん゛ーーーっ!!」
 おぞましさに亜衣は喉の奥で悲鳴をあげた。
 せめてアップで時平の顔が見えぬよう、固く目を閉じている。
 時平の舌が歯茎をなぞり、亜衣の舌にからみつき、弄ぶ。
 唇には時平のそれが重ねられ、強く押し当てられているため、歯と歯が時々触れあってカチカチと音をたてる。
 大量に流し込まれ、溢れた分の酒と唾液が、口の端から頬を伝い、うなじや耳の方へ流れていく。
 残りは、嫌々ながらも飲み下さざるを得ない。
 コク、と亜衣の喉が上下し、汚らわしい液体を食道へと運んだ。
 亜衣の震える目蓋の端から、ツーッと光る筋が伝った。
 幾度も鬼獣淫界の陵辱にさらされ、汚されてしまっていたとはいえ、実は亜衣のファーストキスはまだ守られ続けていたのだ。
 確かに黒玉を含まされるなど、口を汚されたこともあったが、唇を触れ合わす行為は、未だに経験がなかった。
 男嫌いを公言する亜衣であるから、すてきな男性とロマンティックな場所で初めての口づけを…などという幻想を抱いていたわけではない。
 それでもなんとなく年頃の少女として、それだけはまだ無事なんだ、と思えることが、密かな救いになっていたことは確かだった。
 カーマによって汚された記憶に幾度も苛まれた時、無意識に唇に触れ、壊れそうになる心を支えたこともあった。
 それも今、憎き敵の首領である時平によって奪われてしまった。
 祖母を殺した鬼獣淫界の、鬼夜叉童子によって汚されてしまったのだ。
 ラーガによって肛門を蹂躙された時以上に無念の思いが、亜衣の胸をかき乱した。
 時平の口淫はしつこく、いつまでも続いている。
 嬲られつづける亜衣の唇や舌、口蓋に、徐々にむず痒い快美感が生じだした。
 亜衣は必死になってそれを否定しようとする。
 しかし、時平の巧みな舌づかいの前には、それは無駄な抵抗でしかなかった。
「ふ……んんっ……プハッ……っ……んくっ、ふぅ……」
 クチュクチュと淫らな音をたてて、ふたりの粘膜が触れ合い、体液が交換される。
 亜衣の方はまったく自分から動いてはいないし、かえって抵抗している。
 それなのに自ら情熱的に応えているかのように、口の中では舌が激しく踊り続けている。
 神業と言っていいほど凄まじいテクニックだった。
 時平は亜衣の唇をじんわりと噛み、吸いあげた舌を口全体でマッサージするように刺激し、快楽の渦に亜衣を放り投げる。
 歯茎をこする濡れた舌先が、頬の内側を叩く柔軟な肉槌が、強くはないが痺れるような快感を生み出す。
 キスという行為がこれほどにバリエーション豊かで、快感をともなうなどという事実を知るはずもない亜衣は、戸惑いながら翻弄された。
 悔しさや嫌悪感を感じながらも、蜘蛛の糸が絡みつくように、亜衣の全身に甘美な痺れが広がっていく。
 以前、黒玉法師の操る黒玉を口に含ませられ、人外の淫術によって開発された口腔内の性感帯が、すっかり目をさましてしまっていた。
 亜衣の肌が紅潮し、昂っていることを知らせている。
 抵抗する力も弱まってきていた。
 頃合と見たのか、時平の動きが加速する。
 それまでにない激しさで亜衣の口中をかきまわし、快楽を引き出そうと蠢く。
「んんんーっ!……ん…んんっ……っっっ!!」
 脳髄まで悦楽に痺れて朦朧としながら、亜衣は突然の攻撃になす術なく押し流された。
 急激なカーブを描いて快感が上昇する。
 女陰を直接触れられることに比べたらずっともどかしい感覚に、舌がもっともっとと激しく求める。
 その願いを聞き届けるかのように、時平は抜けるかと思うほど強く亜衣の舌を吸い上げ、ぎゅっと締めあげた。
 呑み込まれてしまう!
 そう錯覚するほどに激しい吸引に、背骨を引っこ抜かれるような快感が走り抜けた。
「んんんんんっっっ!!……ん゛んーーーーーっっっ!!!!」
 快楽の奔流が腰の辺りから生じ、全身を抜けて、舌の奥から時平に流れ込むような感覚。
 舌がまるで膣にくわえこまれたペニスのように、締めつけられ、硬直する。
 亜衣の身体が小刻みに痙攣した。
 喉の奥から引きつったような叫びをもらし、折り曲げた足の爪先がまるまって突っ張られる。
 亜衣は達してしまっていた。
 もちろん、性器による交合の果ての絶頂にくらべれば、ごくごく軽いものである。
 軽いとはいえ通常であればありえないことだが、媚薬による感度の上昇と、時平の神業のごとき超絶技巧によって頂まで導かれてしまったのだ。
 まったく初めての経験だけに、亜衣は呆然となり、何も考えられず、ただ快楽の甘い余韻に沈んでいた。
 やっと時平の唇が離れた。
「ククク、この娘、口技だけで気をやったようでござりますな。かように淫らな女とは……天津の巫女も堕ちたものではありませぬか」
 ラーガが蔑むように言った。
 亜衣は放心して荒い呼吸を繰り返している。
 肢体はすっかり弛緩し、瞳を潤ませ、頬は薄桃色に染まっていた。
 時平は目を細めて亜衣を見下ろした。
「所詮は浅ましき小娘、淫らの歓びに耐えられるはずもなかろうて。されど妹に劣らぬ美味であったぞよ…天津のおなごの味はやはり堪えられぬわ」
 そう言って、亜衣の乳首の上に飾られた赤い果実をつまみ、口に入れる。
 可愛らしい突起を一瞬つままれ、鋭敏になっていた亜衣はピクッと反応した。
 露にされた乳首は、充血し、固くしこっていた。
「しかしいささか辛抱が足りぬようじゃ……せっかくの美膳が崩れてしまっておじゃる」
 時平の指摘した通り、亜衣の美体に盛り付けられた芸術的料理の数々は、微妙にその形を崩していた。
 だがあれだけのことをされて、微動だにせずにいられるはずもない。
 とはいえ、友人たちの命がかかっていたのだ。
 時平の言葉を聞いた亜衣の顔から、一気に血の気が引いた。
「これはきつい仕置きが必要でございますな」
 ラーガが非情な声で言った。
「ま、待って……私はどうなってもいいから、みんなには手を出さないで!」
 亜衣が必死に懇願する。
「ホホホホッ、亜衣よ、そなた自分が要求できる立場であると思っておるのかえ?」
 時平がもう片方の乳首にかぶせられた果実を、ギュッと指でひねり潰した。
「っ…ぅあ……!」
 当然その下の亜衣自身の果実も強くつねられ、亜衣は苦鳴をあげた。
 時平はそのまま指を上に持っていった。亜衣の柔らかな胸が垂直方向に引っ張り上げられ、形を変える。
「うぐっ……くぁぁっ!」
 亜衣が苦痛に喘いだ。
 果実の水分ですべった指が、ピッ、と音を出して離れ、亜衣の胸が勢い良く戻る。
 プルンと震えて元通りになった胸を覆っていたクリームやらなにやらが、衝撃で乳房から少し飛び散った。
 時平は指についた果実の残骸を口に含み、舐め取った。
「まあ、よいわ、麿は情け深い」
 時平が余裕を満面に表して言った。
「これからそなたでたっぷりと愉しませてもらうゆえな……オーッホッホッホッ!」
「ククク、亜衣よ、時平さまに礼を言ったらどうだ? しっかりと誠意をこめてな」
 ラーガが亜衣をギロリと睨んだ。
「………あ…りがとう…ございます………」
 ラーガは鼻で笑い、亜衣の胸の膨らみを鷲掴みにした。
「くぅ……っ」
「聞こえぬぞ」
 カラフルなババロアケーキのようになっている亜衣の胸が、ラーガの手の下で無惨に歪む。
「っあ……ありがとうございます、時平さま」
 亜衣は絞り出すように言った。
 ラーガは胸から手を離し、クリームやムースで汚れた手を亜衣の首筋になすりつけた。
 次いでごつごつした太い指を亜衣の口の中にねじ込む。
 2本入れられただけで、亜衣の顎は外れそうなくらい開かされた。
「きれいにするのだ…丁寧にな」
「んぶ……は、む…んぐふっ………んむ…」
 亜衣は気の遠くなりそうな屈辱に耐え、懸命に舌を使って舐め取った。
 甘い味と香りが、かえって気持ち悪く感じられた。
 誇り高い美少女が口をいっぱいに開け、ピチャ、ピチャ、と音をたてて淫鬼の指をしゃぶる姿は、たとえようもなく淫靡だ。
 ややあってラーガが指を引き抜くと、舌先から指先まで、ツーッと唾液の糸が引いた。
 ラーガはその指を見せつけるように自らの口に運び、ねっとりとしゃぶってみせる。
 いいように辱められ、自尊心をズタズタにされた亜衣の目に、激しい憎悪が浮かんでいた。
「オーッホホホホホッ!! ああ愉しや!……宴じゃ! みなにも振る舞ってつかわす!!……天津の小娘を貪り、しゃぶり尽くすのじゃ!!」
 時平が扇を開き、バサリと打ち振った。
「ケーケケケッ! うまそうだ、たっぷり味見させてもらうぜ!!」
「ケケケケッ、天女の活けづくりか!」
「お高くとまった小娘も、俺たちの餌にまで堕ちちまったな!! クケェーッ!!」
「キヒャヒャヒャッ! ホトの奥まで、舐め尽し、吸い尽してやる!!」
 邪鬼たちが口々に歓声をあげて亜衣に群がった。
「い、いやぁーーーーっ!!!」
 邪鬼たちの下で、亜衣が絶叫する。
 淫らの饗餐は、これから本番を迎えようとしていた。


               (つづく)


(*)作者註:カニバリズム云々のくだりは冗談なので、本気にしないでくださいね。


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