淫獣聖戦ZZ 第5章


 鬼麿は、かつてない肉欲の昂りを感じてもがいていた。
 体内で膨大な熱量が出口を求めて渦巻き、それが解放されないもどかしさに、気が狂いそうになる。
「グウォォアァァァァァーッ!!」
 堪え切れずに口から呻きがもれた。その声は、まるで獣の咆哮のように醜く歪み、濁っていた。
 ―――欲シイ! アレガ欲シイ!
 狂おしいまでの欲求に翻弄されながら、しかし具体的に自分が何を求めているのか、それが分からない。
 押し込められた欲望は、ほとんど苦痛と化して鬼麿を責め苛んでいた。
(麿は……麿はいったい、どうしてしまったのじゃ!?)
 目の前が白熱した光に覆われて、何も見えない。
 ただ内側から弾けそうな程にこみあげて来るものが、鬼麿の意識を呑み込もうとしていた。
 ―――苦シイ! アレヲ! アレヲ!!
 荒れ狂う欲情の激流は、肉体という小さな器を破壊するかの如く、暴れまわっていた。
 あとわずかでも空気が入れば破裂するという限界まで空気を吹き入れた風船のように、もう抑え切れないところまで、灼熱の欲求は強烈になっていた。
 本来それを解放するはけ口となるべき股間は、当然はちきれんばかりに怒張している。しかし両腕が何故か自由にならない。
 触れることができず、痛いほどに膨張した肉棒は、快楽の奔流を生じさせられぬままに硬直していた。
「ウガァァァァァーッ!! ヌグゥォァァァーーーッ!!!」
 目は野獣の狂気に染まり、口から涎をまき散らしながら、鬼麿は吠えた。
(麿は………まろ……は……………)
 理性はもはや押し流され、切れ切れに浮かび上がる思考の断片は、ほとんど意味を成さなくなっていた。
 猛烈な餓えが、渇きがその身を満たし、本能的な欲求がすべてを支配しようとしていた。
『……そうです、淫魔大王さま…何もかもを忘れ、淫らの欲望に身をまかせるのです。さすればすぐにもその苦しみから解放されましょうぞ』
 不意にどこからともなく声が聞こえた。なんとなく聞き覚えのある声だった。
(……いんまだいおう……)
 鬼麿の瞳の奥に、微かな光が揺らいだ。
 混濁し、繋がることのなかった意識が、わずかに表層まで顔を覗かせる。
(……ちが…う…まろ………いんま……だ…………ま……)
 だがすぐにまた狂熱の渦が思考の欠片を呑み込み、深く沈めていった。
 ―――アレヲ!! アレヲ!!
 奥底から湧き上がる渇望が、すべてを塗りつぶす。
 圧倒的なエネルギーの乱流が内側から鬼麿を喰らい尽し、今にも溢れ出そうとしていた。耐え難い苦痛に転げ回り、のたうち、もがき苦しむ。
「鬼麿さまぁぁっ!!」
「ガキンチョ! 助けに来たよっ!!」
 いきなり若々しい女の声が耳を打った。
 鬼麿の顔が跳ね上がる。
 血走った目が焦点を合わせ、ふたりの美しい少女の姿を捉えた。羽衣を身に纏った、凛々しい天女たち。
 ―――アレダ!!! アノオンナタチヲ!!!!
 鬼麿の内部で光が弾けた。
「オゴォァアァァァァァーーーッッッ!!!」
 凄まじい咆哮が小さな身体から迸る。
 とうに限界を超えたなかで無理矢理内側に留められていた力に、方向性が与えられた。
 突き抜けた解放感と共に肉体が四散する感覚。殻を突き破って自らが流れ出し、同時に熱いものがなだれ込んだ。
 肉体という器の限界が消え去ったかのように、次から次へと力が溢れてくる。
 メキメキィッ! グキョアッ! グシャッ! ブグォッ!
 異様な音をたてて鬼麿の身体が膨らみ、いびつに変貌していく。
 頭の両脇から凶悪な形状の角が伸び、大きく開いた口から長い牙がはみ出す。衣服がちぎれ飛び、身体中から放電するように光を放ち、急速に巨大化していく。
 立ち昇る禍々しい瘴気が、醜い巨人の姿を陽炎のように揺らめかせた。
 破れかけたような翼が生え、粘液にまみれた無数の長大な触手が生じ、気色悪い肉が盛り上がり、増殖する。
 地面に亀裂が走り、地鳴りのような音が轟く。突風が吹き荒れ、激しく土埃を巻きあげる。その中心に毒々しい真っ赤な巨体が聳え立っていた。
 両の胸に眼球のような不気味な器官を備え、緑の頭髪がバサバサとはためいている。
 醜悪に膨らんだ胴体と、不釣り合いに短い、折れ曲がった四肢。股間にそそり立つ、あまりに巨大な雄根。
「淫魔大王……」
 どちらからともなく、少女たちが呟いた。強烈な圧迫感に思わず息を呑む。
 淫魔大王―――善悪を超越した淫乱の魔王が再臨したのである。
「麻衣、あれはもう鬼麿さまじゃない。いくよ!!」
「ええ、おねえちゃん!」
 ふたりは決意を瞳に宿らせて頷きあい、武器を構えなおした。
「いやぁぁぁぁっっ!!」
「たあぁぁぁっっ!!」
 羽衣を纏った姉妹戦士が飛翔し、淫魔大王に襲いかかった。
 髪の長い、青い衣の少女が、次々と矢を放つ。その矢は空中で無数に分裂し、豪雨のように降り注いだ。
 淫魔大王は触手を振り回してそれらを叩き落とした。しかし全ては防ぎ切れず、幾本かが突き刺さり、肉に深々と食い込む。
「ヌグオォォォォーーッッッ!!!」
 淫魔大王が苦悶する隙に、赤い衣の少女が接近し、薙刀をふるった。
「はあああぁぁぁぁぁっっっ!!」
 気合いと共に数本の触手を斬り落とし、右肩を深々と斬り裂いて飛び去る。
 傷口から気味の悪い紫色の体液が噴き出して、赤い膚の上を伝い落ちていく。
「ゴアアァァァァッッ!!」
 紫の舌から唾液を撒き散らし、淫魔大王が絶叫した。
「よし、一気に決めるよ、麻衣」
「はい!」
 麻衣と呼ばれた髪の短い妹の方が頷く。
 宙に浮いたまま、姉妹は腕を高く掲げ、それぞれ手にした武器を差し上げた。と、一瞬で弓と薙刀が梅の枝に変わった。
 少女たちは呼吸を合わせ、構えをとる。そして、ゆっくりと空中で舞い始めた。
 大気が何らかの力場に吸い寄せられるかのように、ふたりのまわりに流れ集まり、透けて見える薄布がひらひらと幻想的にはためく。
 目に見えない力が、美しい舞いの流れに沿って一点に凝集されていく。舞いの終着点が、すなわち技の発動となるのだ。
 だが、ふたりの姿がピタリと重なる寸前、
「天神必殺、羽衣―――」
 声を合わせて必殺の奥義をくり出そうとした瞬間、ビュルルルルルッと信じ難い速度で伸びた淫魔大王の触手が、少女たちに絡みついた。
「きゃああああっっっ!?」
「くぁっ! し、しまった!!」
 おぞましい肉の鞭に自由を奪われ、汚れない羽衣の天女たちが驚愕の声をあげた。
 なんとか縛めを逃れようともがくが、さらに全身をきつく締めつけられる。
 首までも締めあげられ、意識が朦朧としたふたりの身体から、目に見えて力が抜けた。
 ぶらんとなった手の先から、梅の枝が滑り落ちた。
「グゴオォォォ……」
 獲物を捕えた淫魔大王の目に淫猥な光が煌めき、満足げな息がもれた。
 脱力した生贄を締めあげる力を緩める。殺してしまっては元も子もない。
『ククク……淫魔大王さま、ついに憎き天津の姉妹を手中にいたしましたな。さあ、亜衣と麻衣めを存分に犯し抜いてくださりませ』
 またしても脳内に直接語りかけて来るような声が聞こえた。
「……ア…イ………マ……イ………?」
 記憶を探るように視線を漂わせ、空ろな濁声で呟く。
 その名を口にすると、どこか奥底からこみあげてくるものがあった。
 気を失った少女たちに目を向ける。
「アイ…マイ……」
 何か特別な、記憶を刺激するもやもやしたものが微かに頭をよぎる感覚。
 だがそれも一瞬で押し流され、強烈な衝動が突きあげる。
「グゥゥゥゥッッ!! アイ! マイ!……犯ス!!! 犯ス!!!」
 頭を振りまわし、狂ったようにわめき散らす。
 触手が激しく揺れ動き、姉妹は意識を取り戻した。
「ん……?」
「……あ……」
 一瞬、ぼんやりとした頭が状況を把握できなかったのか、怪訝そうな表情がよぎる。
 だがすぐに自分たちが自由を奪われていることに気づき、愕然となった。
「こ、この…! 放せ!!」
 姉の亜衣の方が、胴に巻きついた触手を引き離そうと、両手に力をこめるが、びくともしない。
「ん……くっ……だめ、動けない!」
 麻衣の方は両手を別々に封じられ、動くこともままならない。
 焦燥に駆られる姉妹に、新たに淫魔大王の巨根から枝別れした触手が伸びていく。
 粘液で濡れ光り、ビクビクと脈打つ血管を表面に浮きあがらせた異形の生殖器。よく見るとその先端の形状はそれぞれ異なっている。
 通常の男根のような亀頭を持つもの、いくつものイボが表面に見受けられるもの、先が口のように開き、チロチロと舌が覗くもの……
 それらは見せつけるように、ゆっくりと獲物に近づいて行く。
 姉妹の目が嫌悪と恐怖に見開かれた。
 これから自分たちは、あのおぞましい触手に犯される。醜い怪物の性器に貫かれ、淫らな性の生贄としていたぶられ、蹂躙される。
 そんなことに耐えられるだろうか。否、想像するだけでも気が狂いそうになる。
 だが現実に、逃れようもなく、その瞬間は近づいていた。
「ひぃっ、い、イヤッ!」
 ヒタ、と脚に触手が触れ、総毛立つ感触に、麻衣が堪え切れずに悲鳴をあげた。
「麻衣!」
 妹を案じて亜衣が叫ぶ。
 どうやら最初の獲物は妹の方に決まったようだ。
 ズズ…ヌルル…
 得体のしれない体液に覆われた醜悪な肉の管が、ゆっくりと麻衣の脚を這い上がっていく。
「や……やぁ……」
 麻衣は嫌悪感に顔をひきつらせ、身をよじった。
 さらに数本の触手が鎌首をもたげ、身動きのできない生贄を襲う。
「やだ!……ああっ……やめてぇっ!」
 全身を触手が這いまわる形容し難い感覚に、麻衣は悲鳴をあげ、なんとか逃れようともがいた。
 そんな抵抗を嘲笑うかのように、触手はその動きを速め、ヌルヌルとした汚液を全身になすりつける。
「麻衣っ!! このおぉぉっ!! 放せ! 放せぇーっ!!!」
 亜衣が叫びながら、胴に巻きついた触手を激しく叩いて暴れだした。
 だが巨大な淫獣の肉縄はわずかも緩むことはない。
 反対に男根のような形状の一本が、大きく開いた亜衣の口に隙をついて侵入する。
「ん゛!? んんうっ!」
 亜衣はくぐもった悲鳴をあげた。
 おぞましい汚汁が口中になすりつけられる。唾液と、淫獣の分泌する粘液が入り混じり、粘膜から体内に吸収される。
 噛み切ろうとしても、弾力性のある肉がぐにゃりとへこむだけで、表皮に傷ひとつつけられなかった。
 両手を使って肉槍を引き抜こうとするが、ずるずると手が滑るだけだ。
 こみあげる嘔吐感と屈辱を必死で堪える亜衣の瞳に、涙が浮かんだ。
「おねぇちゃん!!」
 麻衣が悲痛な声をあげる。
 うるさい邪魔者を黙らせた満足感からか、淫魔大王が喉の奥から唸るような息を漏らした。
 口を塞いだ亜衣をそのまま放っておいて、再び妹へと視線を向ける。
 触手は休むことなく麻衣の身体を這い続けていた。胸を、股間を、羽衣の上から入念にこすりたてる。
「んぅっ……やだ……は、放してぇ!」
 四肢を絡めとられながらも、少しでも抵抗せずにはいられないのか、麻衣は必死に身体をくねらせる。
 当然、それは無駄な足掻きでしかなく、かえって余計に被虐心を誘うような動きにも見えた。
 口のような触手が、細かい牙の間から蛇のそれを思わせる先の分かれた舌をチロチロと出して、頬をなめる。
 目に涙を浮かべ、脅えた表情で、麻衣は必死に顔を背けた。
 触手は顔をよじったせいで露になったうなじに舌を這わせた。
 ぞわっと鳥肌がたつ。
「―――ひっ!?」
 チクリ、と刺されるような痛みに、麻衣は小さく悲鳴をあげた。
 首筋に、牙が当たったのだ。蛇に捕われた哀れな小動物のように、麻衣はプルプルと身体を震わせている。
 その気になれば、頸動脈を食いちぎられてしまう。カプ、と噛みつかれた。恐怖に身体が硬直する。
 いたぶるかのように、ゆっくりと、牙が深く埋め込まれていく。
「…………くっ……」
 拳を握りしめ、目を固く瞑って耐える。
「あっ!?」
 牙の先から何かを流し込まれる感覚に、麻衣は驚愕の声をもらした。
「んんー!」
 亜衣が妹の身を案じて、必死に叫び、身体を揺らした。
 自分の無力さに涙を流す。
 血管を流れる血に混じり、得体のしれない異質なものが麻衣の体内にまぎれこんでいく。
 身体に入るのを防ぐにはもはや手後れであり、自分がどうなるかわからない恐怖に、麻衣は蒼白になった。
 永遠とも思える数秒が過ぎ、牙が離れた。
 首筋を伝う血を、ねっとりと丹念に舐めとる。麻衣はこぼれそうになる声を懸命に噛み殺した。
 舌が離れていっても、麻衣はまだ目を開けられずにいた。
 実際には聞こえるはずのない血液の流れる音や心臓の鼓動が、頭蓋骨の内側で反響するように、ドクン、ドクン、と大きく鳴り響く。
 血管がビクビクと脈打っているのが痛いくらいに感じられる。
 脂汗を浮かべ、自分の身体に異常がないかを必死に探る。首筋に微かな痛みが残っているほかは、特に苦しくなったりということもない。
 いつの間にか大人しくなっていた触手が、不意に再び蠢き始めた。
「ひうぅっ!」
 股の間に入っていた触手が、布の上から秘部をこすりあげた途端、いきなり電流のように快感が走り抜けた。
 麻衣は目を開き、困惑の表情で触手に目をやる。
 さっきは同じことをされても、こんなに敏感に反応してしまうことはなかった。
 いったいどうして?
 そう考えてすぐに閃くものがあった。
 そう、いま首筋から注入されたもの。それが元凶に違いなかった。
 股間にグリグリと押しつけるようにして、胴体をくねらせながら肉の蛇が前進する。
「は……んんっ……くっ……」
 突きあげる強烈な性の刺激に頬を染めながら、麻衣が喘ぎ声をもらす。
 手足は四方から封じられ、×のような形に固定させられている。触手の動きを防ごうにも、どうすることもできない。
 衣の上からでもはっきりと盛り上がって見える胸の方にも、うねうねと淫蛇が這いまわる。
「はふぅ……んぁっ」
 衣服の上から乳房を嬲られただけで、たまらない快楽に頭が痺れてしまう。
 肉体が熱く火照り、どうしようもなく流されてしまいそうだった。
 そんな自分を、巫女として、そしてこの世を護る使命を持った天津家の者としての自分が叱咤する。
「くうっ……!」
 葛藤に打ち勝って、悦楽に溺れてしまいそうな意識を必死で引き戻し、麻衣の目に力が戻る。
 自分を陵辱しようとしている淫魔大王を、憎しみをこめて睨みつけた。
 たとえこうやって自由を奪ったとしても、羽衣が、梅の護符が自分を護ってくれる。
 決して快楽に屈しはしない。強い決意が眼光にあらわれていた。
 だが次の瞬間、麻衣の顔が驚きに彩られる。
「そ…んな、どうして!?」
 異様な感触を感じ、自分の身体に視線を戻した麻衣の目に、触手の分泌する粘液によってドロリと溶けだした羽衣の一部が映った。
「い、いや」
 予想もしなかった事態に、混乱で声が震える。
 神通力でいかなる攻撃にも破れることのない羽衣が、なぜこんな状態になっているのか。
「嘘……こんな…そんなはずない!」
 信じたくない思いが、口をついて出る。しかし、事実は容赦なく目の前にあった。
 帯のような厚い部分はまだ大丈夫だったが、場所によっては上の衣を越えて、下の衣にまで被害が及びつつあった。
「いや……放して!………んくっ……」
 余裕の剥ぎ取られた表情で、手足に力をこめる。
 だが、それまでと同じく、縛めは決して弛まることはない。それどころか、身体を這いまわる触手の数は次々と増えていった。
 意志を持って動く食肉植物のツタが獲物に絡みつくように、麻衣の全身に忌わしい触手が巻きつき、淫らに蠢いていた。
「……ふぁっ……やだ、やめて……あっ」
 羽衣の上から、胸に、尻に、腰に、腿に、うねうねと触手が這い、撫でまわす。耳や腋、爪先にまで執拗に伸びていく。

「んん〜! ん、んんんーっ!!」
 亜衣は麻衣の羽衣が溶けていく様をみて、口を塞がれたままで声を張りあげた。
 両手を振りまわし、ところ構わず自由を奪っている肉の縛めを殴りつけた。
 亜衣の抵抗に煩わしくなったのか、いきなり口内の触手が前後に激しく動きだす。
「んぶっ、んぐんんっ、んんー!!」
 喉の奥を突かれる苦しさに、亜衣は顔を歪ませた。
 唾液と、得体のしれない液体の混ざったものが、触手が動く度に唇の端からこぼれていく。
 口腔を無理矢理犯される汚辱に、亜衣が呻く。
 触手の動きは徐々にスピードを増していく。
 呼吸すらもままならなくなって、亜衣が苦悶する。
「ん゛あっ!」
 不意に、ジュポッと湿った音をたてて触手が引き抜かれた。
 その先端からビピュッ、ビピュピュッと熱い白濁液が迸り、亜衣の顔に弾けていく。
 髪に、額に、頬に、鼻に、そして空気を吸い込もうと開けられた口の中へ、大量の汚液が勢い良く放たれた。
 むせ返り、粘液が目に入りこんだ痛みに苦しむ亜衣に、新たに無数の触手が襲いかかった。

「あふっ、ああん……や……ひぁっ…」
 身体中を責めたてる人外の愛撫に、麻衣の肉体は否応もなしに反応していた。
 全身の肌を桃色に染め、こぼれ出る息は快楽の熱に侵されている。
 羽衣の神通力が破られたショックに、抵抗の決意はもろくも崩れ去っていた。
 もっとも、羽衣が無事だったとしても、この淫らな攻撃の前にはなす術がなかっただろう。
「やあ…はふっ、んあぁ……」
 愉悦に声を湿らせ、悶え続ける。
 やがて、しつこく責められていた胸の部分の布が、ついに溶かされて、白い肌が覗いた。
 一度穴が開けられてしまうと、そこからはすぐだった。
 穴から身をくねらせながら入り込み、胸を覆う布を溶かし、引き裂き、双つの膨らみを露出させる。
 麻衣の敏感な柔肉に、すぐさま触手が襲いかかり、直接弄びだした。
「うあぁ〜あ! だめぇっ! そんな……」
 直に触れられる刺激は、まるで剥き出しの神経を責められるかのように強烈だった。
 一本一本の触手のまるで違う感触。
 細胞のひとつひとつから快楽を引き出すかのような、微妙で巧み極まりない動き。
 執拗な責めが麻衣を狂わせていく。
 さっき麻衣に噛みついた触手が、チロチロと舌で固くしこった乳首を舐めている。
 吸盤のような先端をもつ触手が、もう片方の乳首に吸いつき、強く引っ張り上げる。
「くあぁ……や、痛い!……う……ひぃぅっ!」
 限界まで引っ張り上げてから乳首を解放すると、ゴムのように戻った豊かな胸の膨らみが、プルプルと揺れる。
 そしてまた吸盤が吸いつき、それを繰り返す。胸を玩具に遊んでいるのだ。
 だがそんな屈辱的ないたぶりすらも快感に感じてしまうのか、次第に恍惚とした表情が浮かび上がる。
 乳房に巻きついた、先がイソギンチャクのようになった触手が、その間もヌメヌメとした粘液をなすりつけながら柔肉を揉みしだく。
「あ……ああ……はふっ……も、もう……」
 身体を覆う羽衣はどんどん表面積を狭められていた。
 胸の周囲はもう完全に溶かされてしまっている。上半身は、左肩と腕と腹部のあたりだけが無事な状態だ。
 両脚とも、ほとんどの布が溶け去り、靴も抜け落ちて、裸足になっていた。
 股間の前と後ろを覆っていた長い布も、破れかけのミニスカートがまとわりついている程度にしか見えない。
 だが、秘部を覆っている下着の部分だけが、なぜか無事に残っていた。
 それだけが麻衣を決定的な陵辱から護ってくれている。
 内側からあふれだす淫水に濡れて、白い布はすっかり透け、その下の陰毛と充血した秘肉が浮かびあがって見える。
 イボに覆われた淫魔の性器が、布の上からグリグリと押し付けられた。
「あはぁぅっ……くぅ…んっ」
 麻衣は仰け反って快感に身悶える。
 新たに先の細くなった、根っこのような形状の触手が伸び、下着と女陰の間に潜り込んだ。
「やぁっ……だめぇ」
 直接粘膜をこすられる感触に、麻衣がビクッと震える。
 入りこんだ触手はすぐにそのまま反対側から顔を出し、ぐるりと曲がって鈎型をつくり、ぐっしょりと濡れた白い布を引っ張った。
 あっけなく最後の砦は破られ、麻衣の秘所が露になった。
 なんのことはない、いつでも下着を取り除けたものを、ただ残しておかれただけだったのだ。
 イボのついた触手が、膣口に押し当てられる。
 麻衣の顔に抑え難い怖れの色がよぎる。
 だがまだ、梅の花弁が最終的な侵入を防いでくれるはずだった。
 しかし、挿入されなくとも、このまま昇りつめさせられてしまえば、花弁も流れ落ちてしまう。
 何とか耐えなくてはならなかった。
 だが、
 ―――ズグッ
「うぁ!! あはぁぁぁっっ!!」
 触手が、何の抵抗もなしに麻衣を貫いた。
「そんな!?……あっ!?…ひふぅっ!!」
 予測を裏切るいきなりの挿入の衝撃に、麻衣の理性は消し飛んだ。
 既に麻衣の身体には火がついてしまっていた。
 女陰は侵入される前から潤みきっていた。
 股間から噴き上がる灼熱の快感に、ただただ翻弄される。
 膣をいっぱいに埋め尽した熱い塊が、柔襞を巻き込みながら上下する。
 固いイボが膣壁をこすりたて、子宮口まで押し入ってくる。
「ああぅっ! こんなの……くぅぅっ!…おかしく……なっちゃうぅ……!!」
 脚の間で爆発する歓びに、肉体の奥底までがうち震えた。
 度を越した性の刺激に、頂点への階段を急速に昇りつめていく。
「んぁ……すごいの…だめ…いっちゃうよぉ…………おねぇちゃ……あああっ!!!」
 甲高い声と共に、ぐぐぐっと腿が閉じられ、腰をくねらせて仰け反る。
 快感の頂点で、歯の根も合わないほどに震え出す。
 カチカチと歯が鳴らされ、唾液が口の端から流れ落ちる。
 身体が意志の制御を離れて淫楽に屈伏していた。
「あひ……ひぁぁ……あふっ」
 ようやく絶頂の痙攣がおさまり、目の焦点が戻ってくる。
 悦楽の残滓に浸りながら、荒い呼吸が繰り返される。
 喜悦の涙にぼやけた目で、麻衣は姉の姿を目で追った。
 視線の先に映ったのは、無数の触手に陵辱される姉の姿だった。
 直後に、麻衣の口ともうひとつの穴へ、熱いものが押し入ってきた。

 亜衣の顔に精を放った直後、何本もの触手がその全身に絡みついていった。
 むせ返り、反応の遅れた亜衣は、焦って振り払おうとするが、触手たちは難無くその手の下をかいくぐり、亜衣に襲いかかる。
 そのまま羽衣の隙間から侵入し、直に亜衣の透き通るような肌へ粘液をなすりつける。
「やめろぉ!! この……このぉっ!」
 闇雲に両手を振りまわすが、何の効果もない。
 襟元から、袖から、裾から、触手が入りこみ、また顔を出す。
 まるで蛇の大群に襲われているようだ。
「くっ、離れろ、この……あぁぅっ」
 亜衣の抵抗などおかまいなしに、淫魔大王のおぞましい性器たちが、乙女の柔肌を蹂躙していく。
 羽衣の下でもぞもぞと蠢き、全身の性感帯へ刺激を与えるために淫らな動きを繰り返す。
「はっ……んくっ……やめろ!! 触るなぁっ!!」
 執拗な淫攻に心ならずも反応し始めてしまう自分を叱りつけるように、亜衣は声を荒げた。 
 衣の内側では、触手たちが巧妙な愛撫で快楽を引き出しつつあった。
「っ!?……んんぁっっ!!」
 いきなり下着の内側に侵入され、粘膜を舐めあげられて、亜衣は思わず身悶えた。
 ざらついた表面をもつ柔軟な肉根が、まだ乾いたままの固く閉じた割れ目をこじ開け、スリットに粘液を塗りこめていく。
「触るな!……くっ、放せ!!」
 亜衣は腿をこすり合わせ、身体を揺らして、股間に押し当てられたモノから逃れようとする。
 その抵抗に負けてということもないだろうが、触手がすっと離れた。
 あっけなく引き下がられて、ぶつける先を躱されてしまった亜衣の気がふっと緩む。
 その瞬間、秘部を覆う狭い布の脇から、男根型の触手が勢いよく侵入した。
「―――ひぐっ!?」
 気の抜けたところを貫かれて、一瞬呼吸が止まる。
 潤滑液替わりの粘液に覆われていたとはいえ、太い剛直に無理矢理突き入られ、激痛が走る。
 メリ、という裂ける音が聞こえた気がするほど、激しい侵入。
「う…あ゛……」
 パクパクと魚のように口を開閉させ、空気を求める。
 立ち直る隙を与えず、触手が前後に動き出した。
「いぎっ!……はぁっ……くひっ」
 苦鳴をあげながら、亜衣は喘いだ。
 ズン、ズン、と、杭を打ち込まれるような衝撃に、脳まで揺さぶられる。
 さらに先端が木の根のように尖った触手が、亜衣の下半身に近づいていく。
 探るように亜衣の白い尻をなぞり、布の下へと消えていく。
 その先が後ろのすぼまりに達した。
「や…やめ……あぐぅっ!!」
 わずかの間もなく、触手が肛門に突き入れられた。
 性器をいっぱいに埋め尽されているというのに、薄壁一枚隔てた穴に、細いとはいえ新たな異物が入れられたのだ。
 お互いにこすれ合い、内壁を圧迫して新たな苦痛を生み出す。
 食いしばった歯の間から呻き声をもらしながら、亜衣は目をいっぱいに見開いて苦悶する。
 だが、地獄の責め苦はそれで終わりではなかった。
 亜衣の女性を犯している触手の上を這うようにして、スルスルともう一本が迫っていく。
 その先は、細かく生えたミミズのような触手に枝分かれしている。
 イソギンチャクのようにユラユラと揺れる、おぞましい肉の茂み。
 それは、亜衣の薄い陰毛の生えそろったあたりに止まった。
 細かな触手がヒタヒタと肌の上を這っていく。
「ひっ!?」
 身震いするような不気味な感触に、亜衣が小さく悲鳴をあげた。
 ナメクジが何匹も下腹部を這いまわり、粘液をなすりつけていく、そんな感覚。
 秘所を覆っていた布がついに破られた。
「っ……あっ!」
 敏感な突起に、触手が触れる。
 剥き出しにした真珠をねっとりと濡れた軟体動物が包み込み、ねぶるように刺激する。
 波のように断続的な快感がそこから弾けて、身体中を駆け巡る。
 同時にさらに伸びていった何本もの触手の枝が、既にいっぱいにくわえこみ、充血した亜衣の陰唇を、めくるようにして広げた。
 そしてそこから強引に亜衣のなかへ潜り込もうとする。
「や……そんな…入るわけないっ!!!」
 限界まで押し入られて苦痛に喘いでいる亜衣は、触手の意図を悟って恐怖の叫びをあげた。
 これ以上入れられたら、壊れてしまう。
 だが、触手が言うことを聞いて止まるはずもない。
「い゛……つぅ…っあ………が…」
 隙間も余裕もない塞がった穴を、無理矢理に押し広げ、ニュルニュルと侵入していく。
「うあっ、あああああぁっっ!!」
 情け容赦のない蹂躙は、亜衣にかつて味わったことのない激痛を与えた。
 上も下も分からず、まるで五体が四散してしまったかのような感覚。
 頭の中が真っ白になり、ただ痛みだけが圧倒的な質量で全てを支配する。
 濁った目は何も映さず、呼吸も思考も停止し、硬直した身体は指先すらも動かすことができない。
 口をいっぱいに開け、舌をだらりと伸ばしたまま、亜衣はピクピクと断末魔のように痙攣した。
 ゆっくりと、亜衣を貫いている触手が動く。
 それに合わせて、硬直したままの全身が上下する。
 最も敏感な部分に触れているミミズが、活発に動き出した。
 デリケートな真珠に、淫らな動きを繰り返す。
 やがて、ピクッ、ピクッと、亜衣の下腹部が跳ねるような動きを見せ始めた。
「………あ……………あ………は……………」
 口から、微かに息を吐く音が聞こえだす。次第に、喉の奥でこすれるような、喘ぐような声がもれだした。
 苦痛のみで埋め尽された世界に、別の感覚が生じつつあった。
 それは徐々に強さを増し、やがて明確な快感となって這いあがる。
 痛みはそのまま亜衣のなかで暴れつづけ、快感が痛みを和らげることはない。
 だが、本能の奥底から奔流のように噴出する快感も、急速に上昇をつづけ、亜衣を埋め尽そうとしていた。
「ん……はぁ……」
 亜衣の股間を責めたてる触手たちが、徐々に速度をあげていく。
 ジュプッ、ズチュッと濡れた音があがり、激しくこすれる結合部から、液体が振りまかれていく。
 亜衣の呼吸が少しづつ荒くなり、声が甲高く変わっていく。
 限界を超えた苦痛と快楽が、白熱した光となって亜衣のなかで急速に膨張する。
 それが頂点に達しようとする直前、触手のなかを液体が波うつように走り抜け、熱い迸りが亜衣の胎内に放たれた。
 淫魔大王の精が、子宮に、直腸に、激しくぶちまけられる。
「あ……あ……あ…あ、あ、あっ、はぁっ、ああぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
 凄まじい激痛と、経験したことのない強烈な絶頂感。
 相反するふたつの感覚が爆発した瞬間、亜衣の精神は限界を迎えていた。
 今まで侵入していた触手が、ズルっと抜き出されて、すぐさま新たな淫肉管が挿入される。
 同時に、布の下で蠢いていた肉の蛇たちが、青い羽衣をビリビリと引き裂いた。
 終わりなき淫虐地獄の始まりであった……。


        ☆


 ラージャは鬼麿の寝顔を覗き込み、満足げな表情を浮かべた。
 術による眠りの中で、鬼麿はいま、淫魔大王として淫ら地獄を出現させ、陵辱の限りを尽している。
 そして淫夢が醒めた時、鬼獣淫界の血を封印する力は消え失せているはずであった。
 邪鬼たちによって丁重に運ばれる鬼麿の額の角から、まるで放電するかのように、妖しい光が断続的に放たれていた。
 股間には大きなテントが張られ、幾度か射精したのか、大きな染みが広がっていた。
 昏々と眠りつづける鬼の少年。
 普段は愛らしいその寝顔に浮かぶ表情を、いったい何と言い表わせばいいのだろう。
 不吉な予感を孕み、生温い風が鬼獣淫界の地表をなでて吹き抜けていった。


               (つづく)


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