淫獣聖戦ZZ 第1章 |
プロローグ ―――鬼獣淫界。 邪悪な淫魔の巣食う淫らの魔界では、またしても鬼夜叉童子が復活の時を迎えていた。 この世に淫らの欲望が尽きぬ限り、邪淫の輩の命は尽きることがないのである。 「うぬぅ、おのれ天津の小娘どもが! 此度こそは目にもの見せてくれるわ。人界を淫らの世と成さしめ、淫魔大王さまの下に我ら鬼獣淫界の王国を築き上げるのだ!!」 前回(淫獣聖戦XX)の淫襲において、鬼麿を淫魔大王として覚醒させることに成功し、時空の境をも突き破り、あと一歩で悲願を達成させられるというところまで来ていながら、天津姉妹の手によってその野望は阻まれていた。 鬼夜叉童子が再び復活するまでに、長い時間が必要であった。 憎悪に染まった鬼夜叉童子の眼が激しい光を放つ。 その怒気を畏れて平伏する邪鬼の中から、二人の淫鬼が進み出た。 今回の鬼夜叉童子の復活の儀式を、中心となって執り行った者たちである。 「その任、我らにおまかせあれ。必ずやあの憎き姉妹を淫らの地獄にたたき落として御覧に入れますれば」 「我らの手にかかれば、あのような小娘どもなど、いかほどのものにございましょう。すぐにもひっ捕らえて、御前に捧げ奉りまする」 「おお、頼もしいことを言ってくれる! ではラーガ、ラージャよ、そなたらに任せよう。亜衣と麻衣を我が前に引き据えい!憎んでも余りある姉妹のホトをば、我が魔羅にて存分に貫き、犯しぬいてくれるわ!」 「ハッ」 ラーガとラージャと呼ばれた淫鬼が跪く。 鬼夜叉童子は無数の触手を揺らめかせながら、高笑いを響かせた。 こうして再び、汚れなき姉妹を淫らとの闘いに巻き込む、鬼獣淫界の刺客が放たれたのであった。 第1章 「んん、ああ……」 思わず声が漏れてしまう。 ああ、まただ、と麻衣は思った。 目を開けると、淡い光が満ちていた。既視感のあるこのシチュエーション。 そうだ、これはここのところ毎日のように体験している…… 「は……あっ」 不意にうなじから腰にかけて、ゾクゾクとした快感が走り、麻衣は立っていられなくなって、膝をついてしまった。 下腹部を中心に、ジン…と甘い痺れが広がっている。 「麻衣」 耳もとでいきなり声が聞こえ、麻衣は驚いて身体をピクンと震わせた。 深みのある優しい男の声。最近、毎夜聞いている声だ。その声を聞いただけで、頬が熱く火照り、鼓動が早くなる自分を感じた。 「また、来てくれたんだね」 そう囁き、後ろから伸ばした腕が交叉し、麻衣を引き寄せる。抱きしめられ、耳朶にそっと唇を押し当てられた途端、胸がキュンとなり、既に熱くなっていた麻衣の割れ目から蜜が溢れ出て、下着に染みをつくる。 麻衣は自分が天神学園の制服に身を包んでいたことに気づいた。 「麻衣、会いたかった。こうやって君を抱きしめたくてたまらない」 言うと同時に、右手で麻衣の胸の膨らみを服の上から揉みしだき、左の手はスカートを捲り上げて、すべすべとした太腿をなでさする。 「はあん……や…あ」 麻衣は敏感な身体を悶えさせながらも、その手を押しのけようとした。 しかし、もうすっかり力が抜けてしまった麻衣のその抵抗は、あっさりと退けられてしまう。 (どうして…いつも、こんな…) 快感に流されてしまいそうになりながらも、麻衣は必死になって思考を保とうとする。 毎夜、いきなり現れてはこうやって麻衣を弄ぶこの男。いつも抵抗も出来ないままに、その肢体を自由にされてしまっていた。 そして麻衣はその男の顔さえも見ることが出来ないのだ。振り返って見ようとしても、巧みに躱されてしまい、確かめることが出来ない。 しかし、こんな異様な状況であるというのに、麻衣の心には、怖いという感情や嫌悪感が、不思議と浮かばないのである。 自分でもおかしいとは思うのだが、本気で抗おうという気になれないのだ。 「うんッ……ふうっ…あっ」 いつの間にか男の手は服の内側に入り込み、ブラのホックを外し、直接麻衣の柔らかな膨らみを揉んでいた。 そして下に伸びた手も、下着の中の敏感な襞を直接攻め立てている。 「あン…あ、ああ、アハァッ」 快美な感覚に翻弄され、まともに考えをまとめられない。休みなく身体を這いまわる指は、あまりに的確に快感を引き出していた。 (わたし、どうしてこの人に刃向かえないんだろう。もしかして、もっとして欲しいだなんて無意識に思ってるの?) 自分がそんな淫乱な女であるなどと認めるのは、未だに普通のデートですらした事のない乙女にとっては、消え入りたい程に恥ずかしい事である。だが、それを否定しきれない気持ちがあるのも事実だった。 しかし、いくら気持ちいいからといって、このような無理矢理なやり方に嫌悪感を抱かないなどという事はあり得ない。 それを何故こうまでに受け入れてしまうのか。その答えは麻衣にももう本当はわかっていた。 (だって……) 男は今は両手で麻衣の手触りのいい乳房をこねくりまわしていた。 「はあん、あふうっ」 (だって、あんなこと言われたら……) 胸から右手が離れ、麻衣の後ろ髪をかきあげた。そして汗が光る艶々としたうなじに舌を這わせる。 麻衣の口からまた切なげな吐息が漏れてしまう。 うなじを這い上がった唇が、麻衣に囁きかけた。 「麻衣、好きだ…」 その言葉を聞いた途端、麻衣は全身に甘美な痺れが満ちていくのを感じた。 思えば幼少の頃より、天神子守衆宗家の務めとして、様々な武道や天神の巫女舞いを体得するために、毎日辛い稽古に励んできた麻衣である。男と付き合う暇などあろうはずもなかった。あげく、鬼獣淫界の淫鬼たちの手によって数々の陵辱を受けてしまった。 清純な乙女の夢見る、素敵な異性との交際という青春からは程遠い日々だったのだ。 そこに、優しい愛撫と一体になった甘い囁きである。男の声がまた、深みのある麻衣好みの美声なのだ。 ついつい陶然となってしまい、快楽の渦に溺れてしまう麻衣だった。 「愛してる、君が欲しい、麻衣」 いつの間にか麻衣は男の手によって横たえられていた。気がつくと、パンティーに手がかかり、するすると引き下げられていく。 「あ、いや、駄目……」 麻衣は力なく言った。 これまで身体を自由にされながらも、最後の一線はまだ許していなかった。 しかし、躊躇なく最後の砦は取り去られ、さらに脚を開かされてしまう。 大事な部分が丸見えになってしまった恥ずかしさから、麻衣は目をぎゅっと閉じた。 両脚の間に身体を入れられ、股間に熱いものがあてがわれる。既に麻衣の秘所はあふれる蜜でしとどに濡れていた。 (ああ…) 不安と、そして密かな期待とで麻衣は身じろぎをする。 「麻衣」 声をかけられ、おずおずと目を開けると、目の前に男の顔があった。 「あ……」 不意に男の身体が前進を開始した。 「―――アァッ」 麻衣の秘裂が押し広げられ、そして――― ☆ ジリリリリリリリリリリリ…! ―――がばぁっ! 麻衣は跳ね起きた。パニックを起こしながらも、大きな音で鳴っている目覚ましを叩いて停める。 「……ゆ、夢?」 まだ心臓がバクバク鳴っている。 「も〜、なによぉー」 そう言ってベッドにまたポテッと横になる。寝乱れて少しはだけたパジャマの胸もとから、白い胸の谷間がのぞいていた。ピンクの地に、有名な動物キャラクターが描いてあるラブリーなパジャマだ。 まだ動悸がおさまらないのか、ふくよかな胸が大きく上下している。息が少し荒く、頬は微かに薄桃色に染まっていた。こんなところを健全な男子がのぞき見たら、襲いかからずにはいられまい。 「あっ!?」 不意に声をあげて、また跳ね起きる。そして反射的に下半身に手が伸びた。 「あ゛……あっちゃ〜」 ガクッと麻衣の頭が落ちる。夢の影響が如実にあらわれていたのだ。 (もー、パンツ履き替えなきゃ…。あー、お姉ちゃんと一緒に寝てなくて良かったぁ) 寝ぼけ眼をこすりながら立ち上がる。寝癖で髪が何本か跳ねていた。 「うー、んっ」 可愛らしい仕草で大きく伸びをする。麻衣の豊かな膨らみがその動作に合わせて押し出される。 ブラをしていない胸の尖端が、パジャマの薄い布を通して浮き上がって見える。 眠気を吹き払うように頭を振り、麻衣はベッドを降りた。 パジャマのズボンを下ろそうと腰に手をかけ、ふと廊下側に気配を感じて目を向ける。 麻衣の頬がヒクヒクとひきつった。深く息を吸い、大きくため息をつくと、スタスタと歩いて行き、勢い良くドアを開け放つ。 そこには慌てふためく鬼麿の姿があった。 「あ〜ら、鬼麿さまぁ? なーにをしてるのかしら〜?」 表面上はにこやかに、しかし目はまったく笑っていない麻衣の左手は、既にゲンコツをつくっている。 「ア、アハハハハハハ。麻衣、どうしたのだ? 麿はちょっと厠に行こうと思ってだな…」 「…トイレは……あっちよ! このエロガキぃ〜!!」 麻衣は鬼麿の頭をゲンコツでぐりぐりとえぐり、襟首をつかんで放り投げた。鬼麿の悲鳴が尾を引き、地響きが聞こえた。 「まーったく、油断も隙もないったら……」 パンパン、と手を払って部屋に戻る。 それから改めて着替えを始めた。まずは下着をはきかえ、ブラジャーをつけて…と、見ている者がいれば眼福もののシーンである。 麻衣はいつも朝食を制服姿でとるので、最初に袖を通すのは制服である。 「あーあ、それにしても、どうしてあんな夢みちゃうのかなー」 そう呟きながら廊下に出ると、横からいきなり声がかかった。 「なーに? どんな夢みたのよ?」 「えっ!? あ、あははははは、おねえちゃんっ。な、なんでもないよっ」 「ふーん、そお?」 亜衣はそう言い残すと、スタスタと先に歩いていく。 「あんたも早く顔洗って、髪とかしなさいよね。遅刻しても知らないから」 「あーん、待ってよ、おねえちゃん」 麻衣が甘えた声を出して後に続く。 「私はもう朝食の用意もして、お弁当も詰めたんだからね。木偶の坊さんだって、とっくに起きて、朝の稽古とお掃除、済ませてるのよ。あんたも、おばあちゃんがいないからって、だらだらしてんじゃないの」 「はーい」 (なによー、食事の用意はおねえちゃんが今日、当番なんだから、当たり前じゃないの) 麻衣は愛らしいほっぺたをプーっとふくらませて、拗ねた顔を見せた。 ちなみに、麻衣が当番の場合はパンの時もあるが、亜衣はいつも味噌汁とごはんで、しっかり朝食をつくる。料理の腕はふたりともそれなりだが、亜衣は「おばあちゃんの味」、麻衣は「お母さんの味」系だろうか。 トイレから出てきた鬼麿が、トタタタッと走ってきて、亜衣と麻衣にちょっかいを出そうとする。 ふたりはそれをヒョイっと躱して、それぞれに朝の準備を始める。 何という事はない、いつもの平和な朝の風景である。しかし、これが姉妹の受難の日の始まりであった。 ☆ さて、前回の鬼獣淫界の来襲によって、人界と鬼獣淫界の境が突き破られ、いっときこの世が淫らな魔界と化して大混乱に陥ったわけだが、事態の収束と共に、何故か学校も町並みも復元していた。 天津屋敷だけは焼け落ちたままであったのだが、それもすぐに建て直されている。 どうやら天神子守衆というのは、日本の裏社会に強い影響力を持ち、巨額の金も動かせるらしい。世界の命運がその働きにかかっているようなものであるから、当然の事なのかもしれないが。 亜衣と麻衣にもその辺の仕組みはよく分かっておらず、あれよあれよという間に物事が進んでしまっていた。 幻舟の葬儀に集まった、いかにもただ者ではなさそうな人々の中の幾人かが、密かに手を打った結果なのだろう。 思えば姉妹は宗家の嫡流とはいえ、ずっと幻舟の庇護の下で、日々の稽古に専念していただけで、裏面の詳しい事情などはずっと知らずに来たのである。それも幻舟の思いやりであったのかもしれないが、 幻舟が急逝してしまった今となっては、少しでもそういう事を教えていて欲しかったと、亜衣は思っていた。 麻衣は脳天気にも、建て直しの際につくってもらった今風の個室が可愛いなどと、無邪気に喜んでいたが。 (ほんと、麻衣ったら気楽でいいわよね) 亜衣は多少の恨みがましい気持ちを込めて、妹を見やった。 ふたりはもう家を出て、登校途中である。 「なぁに? おねえちゃん」 楽しげに鼻歌を歌いながら横を歩いていた麻衣が、姉の視線に気づいて聞いた。 「なんでもないわ。ほら、急ぐわよ」 心の中でため息をつきつつ、亜衣はそう言ってさっさと校門をくぐった。 「ああん、待ってよぉ。まだそんなに急ぐような時間でもないでしょ〜」 カバンをパタパタと振りながら、麻衣は姉の背中を追った。 校庭を歩くうちに、ふたりに方々から声がかかる。姉妹はそれににこやかに挨拶を返しながら歩いていく。 周囲を歩く生徒達の笑顔に屈託はない。あの惨劇の記憶は、どうやら消え去ったか、薄れてしまっているようである。 しかし、死んでしまった人々の記憶はどうなっているのだろうか。友達や遺族の思い出は。亜衣はいつもそう疑問に思うのだが、他人の口からそれに触れる言葉を聞くことはなかった。 おそらくは何らかの合理化が皆の心の中で行われているのだろう。それでいいのかもしれない。余計なことをして、この平和な日常を壊したくはない。亜衣はそう考え、自分を納得させていた。 (あら?) 上履きに履き替えようと、下足箱を開けた麻衣の手が止まった。手紙が一通入っていたのだ。 「どうしたの? 麻衣」 「え? ううん、別に」 亜衣が背を向けた隙に、麻衣はこっそりと手紙を隠して、教室に向かった。 教室に入り、それぞれに席に着くと、姉妹の周りには自然に人が集まってくる。 しっかり者の亜衣の周りには、課題や今日の授業の範囲などに関する質問をしてくる生徒が多い。 一方、麻衣の机を囲む女の子たちの話題は、新しく出来た評判の店や、最近人気急上昇中の他校の男子生徒、昨夜のテレビに出た俳優についてなどだ。 教室には華やいだ雰囲気が広まっている。ふたりはクラスになくてはならないムードメーカーなのである。 やがて予鈴が鳴り、教師が入ってくると、それぞれが席に戻り、いつも通りの学校生活が始まった。 そして、放課後――― 掃除を済ませると、麻衣はひとり、屋上へと向かった。 亜衣は掃除当番に当たっていなかったので、すでに弓道場に行き、練習に打ち込んでいるはずだ。 「うーん、どうしようかなー」 そうひとりごちて階段を上る。 朝の手紙はいわゆるラブレターのようで、放課後に屋上に来て欲しいという内容だった。 ラブレターをもらうのは初めてではない。以前に何度か受け取っている。亜衣もよく後輩の女の子からもらっていたりもする。 見た目も性格もいい姉妹であるから、もてて当然だろう。 たまに街に出るとかなりの確率で声をかけられるし、他校の男子から告白を受けたのも二度や三度ではない。 麻衣とても恋愛に興味はあるし、デートもしてみたいとは思う。 しかし天津家の女としての使命が、交際する余裕など与えてくれないのだから仕方がない。 だから断らざるを得ないのだが、優しい性格の麻衣は、それが苦手なのだった。 断れば、どうしたって相手を傷つけずにはいられない。それを思うと憂鬱でならず、今からため息がもれるのだった。 こんな時は、いつでも毅然としている姉がうらやましい。 屋上の入り口までたどり着き、ドアのノブを回す。普段は鍵がかかっていたはずだが、すんなりとドアが開いた。 恐る恐る屋上に足を踏み入れる。見回すと、左手のフェンスの所に、男がひとり佇んでいた。 後ろ姿なので、顔は見えない。スーツに身を包んでいる。 (まさか、先生じゃないよね?) 後ろ姿の印象からは、見知った教師のようには見えない。 意を決して、麻衣は男に近づいていった。 あと数歩というところまで来た時、男が振り向いた。 「麻衣…」 聞き覚えのある声だった。そしてその顔を目にした瞬間、麻衣は思わず、 「あ……」 と声を漏らした。 そう、その顔はまさしく、麻衣が今朝みた夢に出てきた顔――淫らな夢の中で麻衣の身体をほしいままにした男の顔だったのだ。 ☆ 亜衣は準備運動を終えて、弓道着に着替えると、端座してしばし瞑目し、集中力を高めた。それからおもむろに弓を手にする。 的を前にして構えた亜衣を、全員が固唾を飲んで見守っている。幻舟亡き後の亜衣の集中力は、鬼気迫るものがあった。 もし大会に出たとしたら、今の亜衣であれば、全国でも1、2を争うのではないだろうか。 凛々しさを増した亜衣の横顔に、弓道部員たちの大半が、うっとりと見愡れている。 半端な時期にもかかわらず、入部希望者や見学者がここのところ増えているようだ。 亜衣は周囲の熱烈な視線など意にも介さず、ひたすらに集中力を研ぎすます。 雑音を全てシャットアウトし、的以外の何も目に入らなくなる。最近は射る前から手応えが伝わってくるような気さえもする。 シュッ カッ! 弓弦が鳴り、次の瞬間、見事に的の中心に矢が突き立つ。 ワッと歓声があがり、拍手が鳴り響いた。 その後もたて続けに、ほとんど触れあうくらいの密度で矢が突き立っていく。 6本目の矢が、すでに突き立っていた矢に弾かれたところで、やっとひと息ついた。 「すごーい! さすが亜衣さん」 「ほんと、もう神技よねー!」 女の子達が口々に亜衣を褒めそやす。なかの一人が、タオルを持って亜衣に駆け寄った。 矢を射ている時には汗ひとつなかった亜衣の肌に、どっと汗が吹き出ていた。 それだけ神経を集中していたということだろう。絹のような亜衣のきめ細かい肌が、ほんのりと上気し、桃色に染まっていた。 「ありがと」 と言って、大粒の汗を光らせながら亜衣が微笑みかけると、 顔を真っ赤に染めた女生徒は、陶酔しきった表情を浮かべて感激する。ほとんど目がハートになってしまっていた。 「亜衣ったら、色んな意味で、最近すごいわね」 クラスメイトでもある女子が、軽口をたたく。瞳が大きく、髪を両脇でお団子にまとめた、快活そうな美少女だ。 「ちょっとー、どういう意味よ、小百合」 「もちろんそのまんまの意味よ。ねー?」 「ねー」 もうひとりの級友もクスクスと笑いながら乗ってくる。 こちらはストレートの髪を長く伸ばした、白い肌の大和撫子タイプの女の子だ。 どうでもいいことだが、なぜか天神学園には美人が多い。それもセーラー服や袴がよく似合うので、カメラを手に侵入する不心得者が後を絶たなかったりする。 「もう、綾子ちゃんまで」 「ごめんなさい。でも本当にこの頃の亜衣ちゃんたら、凛々しさに磨きがかかっちゃって。私達だって、同じクラスで免疫が出来てなかったら、参っちゃいそうなくらいだもの」 「そうそう! 亜衣、本気で宝塚の男役オーディションとか受けてみない?」 「ちょっとちょっと、やめてよねー。まったく、こんな可愛い子つかまえて」 亜衣は冗談めかして鼻をツンと上に向けて、澄まし顔をつくる。 「キャハハ、それも分かってるから、からかえるんじゃない」 「うんうん、ちゃんと異性にだってもててるしね。私が男だったら、亜衣ちゃんのこと、放っておかないもの」 「男ねぇ…街で声をかけるような軽薄なタイプ、全然好みじゃないし。今のところ、興味ないわね」 「亜衣は理想高そうだもんねー」 「そんなわけじゃないけど……」 「うふふふ……でも、亜衣ちゃんが好きになる人って、いったいどんな人なのかなー? 見てみたいな、私」 「ホントホント。あ、でもぉ、男に興味ないってことは、もしかして亜衣ったら女の子が…? やだー、身の危険を感じるわ〜」 「なっ!? さ、小百合、怒るわよ、もう!」 亜衣が顔を真っ赤にして抗議する。 「じょーだん、じょーだんっ」 チョロッと舌を出して、お団子頭の友人がもうひとりの後ろに回りこんで隠れた。 「でも亜衣ちゃんと麻衣ちゃんが並んでたりすると、すごく絵になるもの。ついついいけない想像をしそうになっちゃう」 「あ、綾子ちゃん〜っ」 いかにも女子校生な、たわいない会話が続く。 そうこうしてるうちに汗も引いたので、亜衣はまた練習を続けようと、弓に手を伸ばした。 その時――― 『ケーッケッケッケッ!』 下卑た笑い声を響かせながら、数匹の邪鬼どもが出現した。 (鬼獣淫界の手の者!?) 亜衣は即座に弓矢を手に取り、続けざまに邪鬼に向けて放った。 「ギヒャァ!」 「ヒェッ」 「ギャアァァァッ」 断末魔の叫びをあげて、射抜かれた邪鬼たちが倒れていく。しかし、後から後から現れる邪鬼たちの数が多すぎた。 「みんな、逃げてぇっ!」 咄嗟に亜衣が叫ぶ。しかしすでに遅く、弓道場にいた女生徒たちは、悲鳴をあげながら次々と邪鬼に組み敷かれていった。 「いやあぁぁぁぁぁっ!」 「きゃあぁぁぁぁっ!」 「ケーッケッケッケッ、若いピチピチした女がいっぱいだぜ」 「キヒェー、よりどりみどりだ、ケケケッ」 たちまちのうちに阿鼻叫喚の淫ら地獄が現出する。 「このぉぉぉーっ!!」 亜衣は女生徒に群がる邪鬼どもを矢鏃で突き刺し、弓で払い除けていく。 「グギャァァァッ!」 目を貫かれた邪鬼が、汚らわしい体液をまき散らしながら仰け反る。その下から亜衣は友人を助け起こした。 「大丈夫? 綾子ちゃん」 「う、うん、ありがとう、亜衣ちゃん」 目には涙が浮かび、服はところどころ裂けているが、気丈にもそう言って立ち上がる。 亜衣はすぐにも他の生徒たちを助けようと動き出す。しかし、 「そこまでだ、天津亜衣」 低級な邪鬼どもとは明らかに違う力のある声が、その動きを止めた。邪鬼たちも騒ぐのをやめ、空気が緊張に包まれる。 亜衣が視線を走らせた先に、2メートルは超えるであろう巨躯を持った、紫の肌の淫鬼が立っていた。 その左腕に、亜衣の友人が抱え込まれている。 「あ、亜衣ぃ!」 「小百合!?……卑怯者! その子を離しなさいっ」 「くっくっくっ、何を馬鹿なことを」 そう言って、淫鬼が捕らえた娘の喉に右手の指をかける。 「かっ……はぁ…っ」 女生徒は息を詰まらされて、苦悶の表情を浮かべた。 「少しでも刃向かえば、この娘の命はない。無論、他の娘どももだ」 淫鬼がそう言うと、邪鬼たちがそれに合わせて、女生徒たちの喉に鋭い爪を突き付ける。 「ヒイッ」 「いやぁっ」 恐怖の悲鳴があちこちであがる。 「まずは武器を捨ててもらおうか」 「くっ!」 亜衣は一瞬ためらいを見せたが、おとなしく弓矢を投げ捨てた。 「ふっ、そうだ天津の小娘よ。それで良い。我が名はラーガ。鬼獣淫界の同胞たちが恨み、今日こそ晴らさせてもらうぞ!」 言うと同時に、ラーガの背から4本の触手が伸び、凄まじい速さで亜衣の四肢に絡み付いた。 (つづく) |