時を少し戻し
封神山 岩場 東
(カッ────!!)
何も無い空間から、突如、人一人が通れる程度の穴が出現し、中から、一人の少女が姿を現わした。
それは
「・・・・・・グスッ・・・」
タオシーこと、安倍薫だった。
仁との戦いに敗れ、感情を剥き出しにし、叫んだ後。
咄嗟に使った閃光の符で隙を作り、すかさずその場で、空間転移の術式を急いで編み上げ・・・
命からがら、逃げ出したわけだ。
だいぶ冷静にはなってきたが、嗚咽は完全には収まりきっていない。
「・・・・・・」
涙を袖で拭うと、キョロキョロと辺りを見回した。
来た時と違う部分・・・
岩の一部に開いている大穴。
その形状からして、恐らく巨大な霊力砲・・・ 神藤紫磨の式神、撃斗羅のものだろう。
「(予想通り・・・ カーマ様と悪衣様にぶつかりましたか・・・)」
そして、付近での戦闘は感じられない。
つまり二人が紫磨を撃退したということ。
「本筋の作戦は失敗して・・・ オマケだけ成功なんて。皮肉だな・・・」
それでも、向こうの戦力を減らすことは出来たのだから、一応でも喜ぶべきか。
亜衣とカーマを探すため、タオシーは岩の破片が転がる道を歩いた。
◇ ◇
封神山 岩場 西
二人の姿は、一分とせずに見つかった。
「そこをそうだ。そう・・・ 飲み込みがいいな」
「ん・・・ 難しいわね」
特に怪我の一つもしてないらしい二人は、何か、やってる。
そして、こっちに気付いていない。
「・・・・・・何やってるんですか?」
呆れ半分で、そう尋ねた。
「あら?」
「タオシーか。遅かったな」
と、普通の返答。
「その様子からすると、失敗か」
しかしカーマは、頭は悪く無い。
タオシーの様子を見て、一目でそう言った。
「・・・・・・はい。式神を・・・ 全て殺られてしまいました。
今の僕は、霊力もほとんど残ってなくて・・・ もう、戦力には・・・」
勝手に一人で動いた挙句、最初に作った私兵も、式神も、失った。
軍師としてはあるまじき、最低の失点、恥。
「・・・申し訳、ありません」
心の底から己の行いを恥じ、タオシーはその場で深く頭を下げた。
「何を謝る?」
と、対するカーマは実にあっさりとしている。
「え・・・?」
タオシーは、その返事に逆に驚いた。
「お前が好きなようにやった結果だろう?
俺自身には何の迷惑もかかっていないのだし、これで敵がいなくなってもつまらんからな。
逆に、奴らには強くなってもらわなくては張り合いが無い。あの年増の式神は弱すぎて話しにならなかったからな」
「え・・・? 牙弁羅、撃斗羅が・・・? 弱すぎ・・・?」
「オバサンと撃斗羅とかいう方は、私が倒したの」
ふふん、と鼻を高くしている悪衣。
「悪衣様が・・・!!?」
タオシーは、もっと驚かされた。
「紫磨とやらの方は、逃がしただろう」
カーマは意地悪な顔で悪衣にツッコんだ。
「・・・逃がしてあげたのよ」
悪衣は横を向いてそう言った。
「・・・・・・・・・・・」
タオシーの知っている限りでは、牙弁羅、撃斗羅は逢魔の戦いの中でもかなりの活躍を収めた列強の式神。
そして、自分ほどではないにせよ、紫磨はかなりの食わせ者・・・ 策士で有名だった。
勿論カーマ様が勝つと予想していたが、弱すぎて話しにならないと言うのは・・・
それに、悪衣様が紫磨と撃斗羅を纏めて倒すなんて、考えてもいなかった。
「不思議そうね」
岩に腰を下ろした状態で、そういう悪衣。
「え? いや、そんなことは・・・ ・・・・・・はい」
タオシーは、つい頷いてしまった。
悪衣様の目に見つめられると、どうも何もかも話してしまいそうになる。
「何度も交わったことで、カーマの神としての覚醒は格段に早まったし、私もそれを受けて淫魔として成長していってる。
初日の私たちなら、もうちょっと苦戦したかもね」
悪衣は、何はともあれ初陣の勝利に気を良くしているらしい。
「・・・・・・・・・」
タオシーは、無言で驚いた表情になっている。
「俺たちが、本能のまま愛し合っているだけだと思っていたか?」
と、冗談めいた口調のカーマに対し。
「思ってました・・・」
タオシーは正直に答えてしまう。
性的なものに対し、タオシーは平均的な女性よりもずっと羞恥心と恐怖心が強い。
勿論。それでも我慢をして淫魔に対する研究を重ねたからこそ、合成淫魔や反転の術が使えるわけだが、
そんなタオシーでも、カーマのような上級に位置する淫魔に対しては、未だ不可解な部分を多く残している。
いや、もしかしたら、カーマ様や悪衣様だけが、淫魔の中でも特殊な存在・・・ 異端なのかもしれない。
二人には、どうしても時平や鬼、法師といった他の淫魔にはないものを感じざるを得なかった
それが何なのか、それも、自分が明らかにしていかなくてはならないのかもしれない。
・・・確かなのは、自分が、この二人の間にいたり、後ろから付いていく・・・
その形に、いつの間にやら、何とも言えない居心地の良さを見つけてしまったこと。
最初は気のせいかと思っていた。
しかし、今回も自分は、二人の健在な姿を見つけた時・・・
すごく、安心し、心落ち着いた。
心の中の色々なものが折れ、地に堕ちていた心が、今はちゃんと己の足で立ち上がっている。
・・・この【世界】を、失いたくない。
その為には、今度こそ・・・ 仁を、敵を全て倒さなくてはいけない。
己の全てを賭け、そして、次は、カーマ様、悪衣様と共に・・・
「帰るか?」
まるで行楽から帰るような軽い感じで、カーマは二人に聞いた。
「私は帰って汗を洗い流したいけれど、それよりも・・・
せっかくなんだから、神器を取った麻衣の姿を見ないとね。どれだけ成長したか、楽しみ」
と、本当に楽しそうに言い放つ悪衣。
そして
「・・・僕も、忘れ物があるんです。もし、許して下さるなら・・・」
上目遣いで、カーマにお願いをするタオシー。
「・・・ふむ。では覗いてみるとするか。
俺は早く帰って続きをしたいんだがな」
全く以って欲望に正直な、カーマの言葉。
そしてそのまま、スタスタと歩き始めるカーマ。
その後ろで
「・・・カーマは本当、本能だけだったんじゃないかしら?」
と、ヒソヒソ話でタオシーに話しかける悪衣。
「・・・・・・僕も、そう思います」
タオシーも苦笑しながら、そう返事をした。
そして
(タッ────)
悪衣は駆け出し、カーマの隣にまで追いつくと、カーマの左腕を取り、体を密着させそのまま歩き出した。
それは、公園で歩くカップルでも今時やらないような、恥ずかしいまでに二人の世界を作る組み方。
【歩く】という行為においては、かなり邪魔であろう事は間違いないのに、カーマはその手を離すことも、悪衣に何か言うこともなく、ただ普通に歩いている。
「・・・・・・・・・・・」
タオシーには、あれは出来ない。
カーマという存在が、タオシーにとっては崇拝の対象・・・ 神であるが故に。
それで充分。タオシーにとっては、あの位置は畏れ多すぎる。
自分は、後ろから付いていければ、それでいい。
出来ることなら、この二つの後ろ姿をずっと見ていたい。
「(絶対・・・ 次こそは、絶対・・・ 負けない)」
二人の後ろを、タオシーは早足で付いて行った。
◇ ◇
一方
封神山 天岩戸前
静瑠、瀬馬の激闘から、十数分ほど。
「・・・・・・・・・・・・・」
静瑠は未だ、パラシュート布地の簡易布団の上で眠り続け
「・・・・・・」
瀬馬は、どこから調達したのか、簡易式の組み立て机と椅子の上に、ティーポットやカップが置かれ、紅茶を飲んでいる。
そこへ
(ギュウウウウウウンンッ────!!!!)
聞こえてくる、空を裂くような轟音。
「ム・・・・・・っ!?」
紅茶をテーブルに置き、その方向を見やる。
そして、
(ヒュッ──────────── スタッ・・・!!)
10メートル以上の空から、弧を描いて綺麗な着地をする、巫女服の・・・
「ふ〜〜〜〜・・・・・・」
神藤紫磨だった。
『あっ!! シズ・・・』
続いて現れた小弓天は、眠っている静瑠を見つけるなり、駆け寄ろうとするが
(ガシィッ────!!!)
『ゲゲッ───!!?』
紫磨の手に体全体をわしづかみにされると、
「ったく、もっと丁重に運べないのかい!! 私は猫じゃないんだよっ!!!」
ゲシゲシと、小弓天を足蹴にする紫磨。
『イタッ!? イタイ! イタイよっ!! 何が何でもスピード出せって言ったの紫磨じゃんか!!!』
小弓天は、虐待を受けながら精一杯の抗議をする。
「それでも着地ぐらいは気をつけなっ!! 空中で放り出すなんて私を殺すつもりかいっ!!!」
(ガシッ!! ゲシッ!! バキッ!! ベシッ!!)
『あぎゃぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っっっ・・・・・・・』
容赦の無いイビリ・・・ いや、リンチに、小弓天は悲しい悲鳴を上げた。
「紫磨様!? ・・・来ておられたのですな」
紅茶を置き、立ち上がる瀬馬。
「私も、故あればね・・・ で、静瑠はどうだい?」
小弓天への攻撃を止め、そう瀬馬に問う。
「・・・・・・今はお疲れで、眠っていらっしゃいます」
言葉を選び、片手で静瑠を指し示した。
「・・・・・・・・・」
それを聞くなり、紫磨は早足で静瑠の方へと歩み寄る。
眠っている静瑠の顔は安らかで、綺麗なものだ。
強い疲労の色以外は、いつもの寝顔と変わりない。
しかし、紫磨も阿呆ではない。
小百合の事や、小弓天の事。色々な状況から考えて、何があったかは考えるまでもない。
「・・・・・・ったく、ドジしたもんだね」
にも関わらず、紫磨の口から出たのは、労いでもなく、心配でもなく、安堵でもなく、悪態だった。
その言葉だけを聞くなら、到底母親としては信じられないものである。
「・・・・・・・・・」
しかし、それを見て聞いていた瀬馬は何も言わない。
それは、紫磨の表情が、紛れもない子を案ずる母親のものだったからだ。
紫磨と瀬馬は、かつて共に戦った事も在るが故に、ある程度紫磨の性格は分かっている。
【偽善者】という言葉は巷に溢れているが、紫磨はその反対の【偽悪者】という類。
正義の味方だの、仲間との信頼だの、子を心配する母親だの、
そういったものを素直に信じたり、鵜呑みにするのがたまらなく嫌な性質(たち)。
だから、仲間は敢えて遠ざけるし、憎まれ口は叩く。合理性を愛し、卑怯な戦法も厭わない。
しかしそれを注意深く見てみれば、嫌われ役を自分から買って出ようとしていることがよくわかる。
誰かが言わねばならないことや、戦場においてはどうしても必要になる非情な判断も、現役時代は常に紫磨が率先して行っていた。
あたしが現役の巫女だった頃にそんな事言ってたら、淫魔のオモチャにされて今頃殉死戦士の墓碑銘の一つになってたろうさ
彼女の言動は、当時かなり恨まれたものだったが、彼女がいなければ、その当時の逢魔の死者は数十倍だったろう。
まあ、言ってみれば、とんでもない【天邪鬼】というわけだ。
尤も、それが行き過ぎて、どうにも悪人臭い仮面がそのまま表面になってしまった感はあるが・・・
◇ ◇
「で? 瀬馬爺。どうしてそんな所でお茶できてるんだい?」
振り向いた紫磨は、ようやく瀬馬のツッコミ所に口を出した。
「紫磨様も御一つどうですか? 最近とてもよいアールグレイが・・・」
瀬馬は、柔和且つのどかな老紳士特有の笑顔で紫磨をお茶に誘う。
「ティーポットとカップはどこから調達したんだい?」
「ヘリから同時に包んだものを降ろしていただいたようで。いや、気の利いた方々です」
「・・・机と椅子は?」
「せっかくですので、折れて倒れていた木を使わせていただきました」
つまり、静瑠の戦闘時に折れた木々だ。
「・・・どうやって?」
「手と、これで」
瀬馬は、少々ゴツめのサバイバルナイフのノコギリ部分を指差した。
「・・・・・・相変わらず、デタラメだねえアンタ」
長い付き合いだが、この漢には毎回驚かされる。
「・・・大工は2000の特技の内の何番目だっけ?」
「若い内に習得しましたので、57番目になりますな。それと、特技の総数は2006になりました」
「・・・で、紅茶は6番目の特技・・・と」
そう言いつつ、紫磨は瀬馬の作った椅子の一つに座った。
「お覚えでいらっしゃるとは。光栄ですな」
ハッハッハと、老紳士臭い笑い方をする瀬馬。
「・・・・・・感謝してるよ」
紫磨は、顎に手を当て、そっぽを向いたまま、ポツリとそう言った。
「は? 今何か?」
瀬馬は、耳はかなり良い。
素直じゃない紫磨の感謝の言葉は勿論聞こえていたが、敢えてそう返す。
「・・・何でもないよ」
年甲斐もなく、少し恥ずかしがっているらしい。
それもそうだろう。素直に礼を言うなど、紫磨の人生においてそうそうない。
紫磨も、瀬馬の聞き逃しがワザとだろうと感づいてはいたが、それは有り難かったので、特に何も言わない。
「カーマと、天津亜衣と戦ってきた」
紫磨は、真剣な目で語り出した。
「どうでした?」
瀬馬は予想していたのか、驚く事無く聞く。
「やられたね。牙弁羅も撃斗羅も大破。
甘く見てたよ。・・・あいつらは強い。邪淫王だけ注意してればとも思ったけど、淫魔姫もかなり強くなってた。
そしてやっぱり、一番注意しなくちゃならないのは邪淫王だ。あいつの力は底知れない。このままだと・・・」
「それはまずいですな。
牙弁羅と撃斗羅、そして紫磨様ですら逃走せざるを得ない相手・・・
8年前を遥かに超える。【大戦】になるやもしれません」
「一応のこと、【切り札】は呼んであるんだけどねえ・・・ 使えるかどうか」
そう、二人が話していた
その時
(カッ────!!)
黒色の光と共に、二人から離れた場所に、何者かが現れた。
◇ ◇
「ここか・・・」
現れたのは、カーマ達だった。
タオシーの空間転移の術により、黒子達の戦闘場所と推定される所、天岩戸入り口から少しだけ離れた場所へと、転移したのである。
「・・・・・・こっぴどくやられてるわね。可哀想・・・」
そこに点在し転がっているのは、数多くの黒子、そして獣人達の屍。
「・・・・・・・・・」
タオシーは、キョロキョロと辺りを見回し
「・・・っ!」
探していたものが視界に入ると、一目散に駆け出した。
◇ ◇
「・・・・・・・・・黒子頭・・・」
タオシーが走った先にいたのは、瀬馬が仕留めた、黒子頭の死体。
「・・・・・・逃げてもいいって、言ったじゃないですか・・・」
返事など出しようもない、屍に向かって、タオシーは悲しく呟いた。
しかし、黒子頭の性格から考えれば、充分分かっていたことでもある。
自分を創造主として崇拝している黒子頭ならば、もし部隊が全滅すれば・・・
「あなたがいないと、僕は困るのに・・・」
唯一偶然から生まれた、知能を持った合成淫魔。
彼がいるかいないか、それだけで、出来ることがだいぶ違う。
それなのに・・・
「・・・・・・・・」
タオシーは、無言で黒子頭の頭巾に、手をかけた。
ゆっくりと頭巾を外すと、黒子頭の顔が、明らかになる。
それは、人間の顔でも、化け物の顔でもなかった。
人というには、あまりにも醜く崩れ、毛髪はなく、その顔には、一切の左右対称が存在しない。
そして、人には存在しない皮膚や鼻、耳の特徴もまた見受けられ、
しかしそれと同時に、化け物と言い切るにはあまりにもその顔は人間の面影が大きい。
【オペラ座の怪人】といったものが、一番近いイメージなのかもしれない。
それは、正しく出来損ないの生物だった。
タオシーの術式、そして霊的生物学に対する知識と研究に対する才能は、千年に一人の才と言っていいだろう。
しかしそんなタオシーですら、完全な【人に近い淫魔】を作り出すことは出来なかった。
生殖という、神が許した唯一の方法以外で、人間が人間・・・
また、それに近い知的生命を【創る】ことは、【陰陽】においても、また【科学】においても達成された記録は存在しなかった。
それは正しく神にのみ許された行為であり、覆した人間はいない。
合成淫魔は、それに対する・・・ 神に対するタオシーの挑戦の形だった。
【肉】と【道具】。そして霊力と術式のみを使って、何の実験体も用いずに作り出した存在。
【無】から【有】を作り出す事でさえ、並の術師には到底出来ないことだ。
なのに、タオシーは更にその上を目指した。
しかし、その多くは、オウムやサルを少しばかり上回る程度。
黒子頭は、そんな中唯一、偶然から生まれた知識を持った一体だった。
そしてそれは、教育によって多く知識を吸収し、そしてすぐに他の合成淫魔を手足の様に統括した。
・・・タオシーにとっては、それは素晴らしいことだった。
いくら研究を繰り返しても、第二第三の黒子頭は生まれなかったこともあり、黒子頭は第二指揮の要となった。
これまでになかった作戦が可能になったのも、大きなプラスだったのに。
「・・・・・・あなたの性格を、把握しきれていなかった・・・ 僕の、ミスですか・・・」
◇ ◇
回想 数日前
鬼獣淫界 淫魔の社
「・・・以上が、あなたが担当する箇所です。重要な任務ですので、くれぐれも慎重に」
タオシーによる、丁寧な作戦の説明。
「はっ・・・」
黒子頭は、それを欠片も聞き逃さず、懸命に聞いている。
「質問や、要望はありますか?」
そう聞いたタオシーに対し
「・・・一つだけ、よろしいでしょうか?」
意を決したように、黒子頭は隠せない緊張を言葉に乗せていた。
「何です?」
「・・・一つだけ、欲しいものが」
「珍しいですね。あなたが自分から何かを望むなんて。・・・それで、何を?」
「名前です。
この作戦が成功した暁には、わたくしに、名前を・・・ 是非タオシー様に、お名付け頂きたい」
それは、意外な願いだった。
確かに、黒子頭を特定の名前で呼んだことはなかったが、そんなものを彼が望んでいたとは考えもしなかった。
「・・・わかりました。考えておきます。しかし、くれぐれも引き際を誤らないように」
「はっ」
◇ ◇
「・・・・・・・・・・・」
血と泥の付いた汚い頭巾を、タオシーは丁寧に折り畳み、胸の内ポケットに仕舞い込んだ。
「名前・・・ 考えておいたんですよ。あなたは僕にとても忠義者でいてくれたから・・・
“忠”(ちゅう)。あなたの名前です。・・・名前を考えるなんて初めてで、気に入ってくれるかどうか・・・ 結構迷ったんですが」
忠の屍は、当然ながら何も言葉を返すことはない。
いくら後悔しても足りない。
仁にしても、忠にしても、どうして自分は・・・
「・・・・・・さようなら。忠。せめて、僕が送ってあげます」
タオシーは、胸から炎の符を取り出し、忠の背の上に貼り付け
指先で炎の術式を編み上げる。
「・・・烈火・葬炎(れっか・そうえん)」
(ゴッ────!!!!)
炎の符は、あっという間に真紅の炎となり、忠の屍を包んだ。
小さな範囲ながら、凄まじい高温を発する烈火葬炎は、ほんの少しの時間で、忠を骨まで燃やし尽くしていく。
「・・・・・・」
【タオシー】となってからは最初の、【薫】の頃から数えれば二人目の葬別者。
タオシーは、その時の事を思い出すかのように、ぼんやりとその炎を見つめていた。
「・・・・・・・・・」
悪衣は、それを悲しげな顔で見つめ
「・・・・・・・・・」
カーマは、そんな悪衣を無表情に見ている。
やがて、忠の屍が完全に灰となり燃え尽きると、タオシーは力無く立ち上がった。
「・・・すいません。我侭を聞いてもらって」
二人に対し深く頭を下げるタオシー。
それに対し、悪衣は帽子の上からタオシーの頭に手を当て
「先に帰って、休んだ方がいいんじゃない?」
優しく一言。
「・・・・・・・・・はい。・・・すいません」
少しだけ考えたが、今の消耗した自分では戦力にならないことも、タオシーには充分、分かっていた。
その場で振り向き、術式を唱えながら空中に指で円を描く。
すると、淫魔の社へと通じる“穴”が、ぱっくりと大きく口を開けた。
「穴は、お二人が通過した時点で閉じるようにしておきます」
「いらん。自力で帰れる」
カーマはぶっきらぼうにそう言った。
「・・・わかりました」
カーマに一礼し、タオシーは穴の中へと消えた。
(シュンッ・・・・・・)
空間と空間を繋ぐ穴は閉じ、
後には何も無い。ただ虚空の景色が広がるのみ。
◇ ◇
一方
天岩戸前 簡易休憩所
「・・・あいつら、来たみたいだね」
淹れてもらった紅茶を飲みつつ、紫磨はそう呟いた。
「そうですな。3人・・・ いや、一人帰って2人ですか。霊感がほとんど無い私では、識別までは出来ませんが」
瀬馬もまた、敵の親玉が付近にいるというのに、自然体で紅茶を飲んでいる。
「邪淫王と淫魔姫さ。・・・まったく、大した妖気を放ってるもんだよ」
忌々しげに言い放つ紫磨。
「・・・と、なると・・・ お二人がこちらに来ない理由は・・・」
「あたし達2人なんて眼中に無い。試練を終えて出てくる仁達を待ってるって事か・・・」
「あら、3人って言うてくれませんの?」
その声に振り返る二人。
眠り続けていた静瑠は、完全に目を開け、むくりと起き上がった。
「静瑠様・・・」
「静瑠・・・」
ハモる二人の言葉。
「お起きになられましたか」
「あれだけ大きな妖力発してましたら、ねえ・・・」
妖力を感じる方向を見やる静瑠。
「・・・すいませんお母様。失敗してしまいました」
静瑠は、敢えて何の言い訳もせずに、己の責をまっとうできず、瀬馬爺に助けられる形となった失態を恥じていた。
「まったく、だからもう少し甘さを捨てなって言ったんだよ。実力じゃ負ける敵じゃ無かったっていうのにさ。
・・・ま、小百合の行動を管理し切れなかった私にこそ責任は大きい。・・・悪かったね」
静瑠とは真逆の方向に顔を向け、ぶっきらぼうにそう言う紫磨。
「・・・・・・」
静瑠は少しだけ驚いていた。
一般人の視点からすれば非常識な言葉もいい所だが、
こと22年間の母娘の付き合いにおいて、こんな風に表立って謝る事など滅多に無かったから。
・・・それだけ、今回の静瑠の被虐において、自分が責任を感じている所が大きいのだろう。
そのくせ、全く表情に出そうともしないのだから、全く以ってこの人は芯からの偽悪者だ。
「ま、確かに・・・
式神を全部ブッ壊された私や霊力の無いジジイより、武神剛杵を持ってる静瑠の方が、今は戦力としちゃあ一番だろうね。
・・・でも、静瑠。その右手でどれだけやれるんだい?」
「・・・これは・・・」
確かに、静瑠はさっきの戦いにおいて、右手手首の骨を砕かれている。
右利きの薙刀使いとしては、これは致命的だ。
「それに、さっき戦ってやられたとこだろ? 疲れも満足に取れちゃいない。
実際、100%のお前でもせいぜい淫魔姫と互角に闘れる程度。根性出してもせいぜい実力の半分以下しか戦えないだろうね。
・・・ま、つまりは私達全員で力合わせて、淫魔の姫一人分にも及ばないって事だね。
罠も策もろくに張る時間も無い。それに今度こそ、あの二人はチームで行動するだろう。
・・・となると、悔しい事にあたしらにできる事は、3人が出てくるまでの時間稼ぎ。それも出来て数分。
ハハッ。癪だね。 ・・・癪だよ。まったく」
「・・・・・・・・・」
静瑠は言い返す事が出来ない。
紫磨の分析は、何一つ間違っていないのだから。
「しかし、邪淫王の方も目的は麻衣様達・・・ そうでなければ、もう私達を潰しにかかっている筈ですからな」
「ったく、何をチンタラやってるのかねえ。さっさと出てきて欲しいもんだよ」
そう、紫磨が愚痴をこぼした時
「・・・・・・・・・っ」
天岩戸の守護者である静瑠は、入り口の結界が内側から開かれる波動を感じ取り、入り口の方へと振り向いた。
そして
「・・・おかえりなさい」
まだ誰も見えはしない入り口に向かって、そう一言。
「ああ、待たせたな」
返ってくる仁の声。
(ザッ────)
響いてくる、三人分の足音。
それが近づいて来ると共に、三人は姿を現わした。
「・・・へぇ」
「おや・・・」
紫磨と瀬馬は、それぞれに感嘆という形で感想を洩らした。
まずは仁。
上半身の衣服を一切無くし、浅い傷と火傷の痕。
服を千切ったであろう布を包帯代わりにして巻いている右腕は、布の赤い濡れ具合からして、それなりに深い傷であることが伺える。
と、傷の大きさばかりが目立つものの、
岩との守護者である静瑠と、熟練の戦士である瀬馬には、彼が何らかの形で開眼したのであろう何かを感じた。
次に、木偶ノ坊。
首に掛けている首飾り以外は、特に何か変わったようには見えない。
武器も六尺棒のまま。
だが、隣にいる麻衣は少しだけ 、木偶ノ坊の表情の変化を感じ取っていた。
顔から迷いが取れているというか、より強い信念を見つけたという感じの・・・
それは、鬼麿と、ツクヨミの言葉によるものだ。
最後に、麻衣。
一番変わったのが感じられるのは、彼女である。
それまでは、どこかしら一人でいさせることが危ういような、頼りなさが感じられた麻衣。
しかし、静かで優しいながらも、その目は強く、正面を向いている。
立ち姿も、どことなく一つ皮が剥けた感じだ。
「・・・何か、あったんですか? あれ? 瀬馬さんに紫磨さん?」
しかし、洞窟から出てきてすぐ、麻衣はいつもの愛嬌ある顔で辺りを見渡し、折れた木や焦げた地面に疑問を浮かべた。
「ま、色々とね・・・」
3人に近づきながら、静瑠はいつもの笑顔で返事をした。
「神器は、どうでした?」
「ああ、3人とも手に入れた」
静瑠の問いにすかさず答えたのは仁。
「それはよかったわぁ。
それやったら、とりあえず帰ったらお祝いやね」
両手を合わせて、静瑠は三人のとりあえずの無事と、神器取得の成功を喜んだ。
「あれ? 静瑠さん・・・ 服・・・ それに・・・」
麻衣は、静瑠の服が変わっている事に気付いた。
そして、どうしても目立つ右手首の包帯にも。
「え? ああ・・・ これねぇ。汗かいてしもて、着替えたんよ。
それと、山菜取ろうとしたら手ぇケガしてしもて」
静瑠はあくまで平静を装い、余計な事を悟られないように努めた。
しかし
「・・・・・・すまない」
仁は、長年の経験からすぐにある程度の状況を把握してしまったのだろう。
短く、たった一言だけ、静瑠に対し詫びた。
「静瑠さん・・・」
それで、麻衣もついに気付いてしまった。
「・・・もう。仁君はこういう時勘は鋭いし、空気読めへんほど正直やし・・・ かないませんなぁ。ホンマに」
あっさりとバレてしまったことに、肩をすくめて苦笑する静瑠。
「・・・・・・・・・」
・・・また、自分のせいで、周りの人が・・・
仁さんだって、ひどい傷を負ってる。
覚悟は決めた筈なのに、それでも知っている人が自分のせいで被害に遭うというのは、たまらなく胸が痛かった。
「麻衣はん」
しかし静瑠は、そんな麻衣に語りかけた。
「はっ・・・ はい」
思わず背筋を伸ばして返事をする麻衣。
「ウチは、ウチの責任でここにいます。
麻衣はんの人を思い遣る優しさは、他の人には中々無い、ええ所どすけど・・・
ウチの背負わなあかん所まで自分の心に背負おうとするんは・・・ あんまりええとは思えませんね」
麻衣を正面に見つめ、静かな瞳で語りかける。
「ウチを【戦友】や思うてくれるなら、むしろ・・・
麻衣はんが背負うてる分をウチにも回して欲しいぐらい。
ねえ? 仁君」
静瑠は顔だけ振り返り、仁へ回答を求めた。
「・・・・・・そうだな。そうでないと、困る」
仁も、同じ気持ちだった。
「共に戦う対等な【仲間】なら、その苦しみも一人で背負うのではなく、分ち合って然るべきだと俺は思う」
・・・それに、女の子であれば尚更だ。
戦って傷付き死んでいくのは、馬鹿な男たちだけで充分だと
麻衣という少女を見ていると、特にそう思う。
「麻衣はんも、ウチらも。世界を守る宿命を背負わなあかんのは、一緒。
なら、重たい荷物は皆で持ちましょ?」
菩薩のような笑顔で微笑む静瑠。
「あー・・・ オホン」
一歩引いた場所にいざるをえなかった木偶ノ坊も、無言で自分をグイと押し出した。
「・・・・・・・・・」
仁、静瑠、木偶ノ坊。
三人もの人が、自分を仲間だと言って、対等だと言って、囲んでくれている。
麻衣にとって、初めての経験だった。
世界を淫敵から守る宿命を帯びた、天津羽衣の巫女。
年頃の少女が一人で背負うには、あまりにも重過ぎる宿命。
勿論、子守集という、自分を守ってくれる存在はいたが、年の離れた子守集の人達は、あくまで【対等】ではなかった。
木偶ノ坊さんも、今まではこんな【近い】位置にはいなかったと思う。
真に分かち合えたのは、姉の亜衣だけ。
背中を合わせられるのも、肩を並べ戦えるのも、姉だけだった。
実際、重みの半分以上を、弱い自分は姉に預けてしまっていたと思う。
そして姉がいなくなり、その重みは一気に麻衣へと圧し掛かった。
人は、何かを失って初めてその価値に気付く。
姉が遠い所に行ってしまった喪失感と共にやってきたその重みは、麻衣の心を押し潰しそうですらあった。
でも、その重みを軽減してくれたのは・・・
仁さんと静瑠さん。この二人だ。
そして今、二人は、その重みを分かち合おうと言ってくれている。
その言葉は、麻衣にとってはとても、嬉しいものだった。
「・・・・・・ありがとう」
そう、一言。
麻衣は、自分でも気付かぬ一筋の涙を流しながら、その想いに感謝した。
「・・・・・・」「・・・・・・」
はにかんだ笑顔になる、仁と静瑠。
そこに
「麻衣」
突如として、その声は聞こえた。
麻衣にとっては、誰よりも良く知っている声。
「お姉ちゃん・・・」
声の方向の先に、悪衣は立っていた。
いつも見ている姿とは違う、半裸に近い黒の衣装に身を包んだ、淫魔姫の姿で。
「「・・・・・・っ!」」
反射的に、仁は刀を。静瑠は武神剛杵を左手に構える。
しかし
「・・・・・・」
麻衣は、沈黙したまま二人の構える手を制した。
「麻衣・・・」
「麻衣はん・・・」
麻衣の目は、【まずは姉と話をさせて欲しい】と語っていた。
「「・・・・・・」」
その目に、二人は手に持った武器を、降ろす。
「麻衣様・・・」
木偶ノ坊も、様々な思いを胸の中で巡らすが、麻衣様にかける言葉は、結局見つかる事は無かった。
麻衣は、ゆっくりと姉の方へ向かって歩き、十数歩ほどの離れた位置で立ち止まった。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
その場所を支配する沈黙。見つめ合う姉妹。
しかしそれは、けっして敵対し合う者同士の目ではなかった。
悪衣にとって、麻衣はやはりたった一人しかいない妹であり
麻衣も、【悪衣】が姉のもう一つの側面であることを、試練で知った。
傍目から見ても、片方が淫魔で片方が巫女という、全くの反対の存在であっても。
戦わなければいけない敵同士というより、本当に、
互いにかけがえの無い存在・・・ そんな姉妹にしか見えない。
◇ ◇
「あれが・・・ 天津亜衣・・・」
そう呟いたのは、仁。
「噂には聞いてましたけど、やっぱり瓜二つやね。
ただ・・・ ちょっと表情が違うかな」
二人にとって、そして瀬馬にも、天津亜衣の顔を見るのは初めてのことだ。
やはり双子の姉妹だけあって、本当に瓜二つ。
しかし、悪衣の表情は麻衣と比べ、小悪魔的な印象が強い。
「目の前にあっても、信じられないな・・・ 麻衣の姉が、淫魔姫だなんて・・・」
「でも、もっと信じられへん気持ちなのは、他ならない麻衣はんや思います」
「そうだな・・・」
「二人だけの問題であれば、我々は口を挟むわけにはいきませんな」
と、瀬馬。
「むむ・・・」
木偶ノ坊は、そんな状況に誰よりもやきもきしながら、ろくに瞬きもせずに二人を見続けていた。
◇ ◇
「・・・久しぶり。お姉ちゃん」
麻衣は遂に、姉に話しかけた。
「・・・・・・・・・」
悪衣は、少しだけ驚く。
自分を、姉の天津亜衣として話しかけている事に。
「・・・私を、お姉ちゃんって言ってくれるの?」
「だって、お姉ちゃんなんでしょ?」
麻衣は、どうしても本人の口からそれを聞きたかった。
覚悟が、欲しいから。
「・・・そうよ。私も【天津亜衣】だから」
そして、姉の口から、その現実が伝えられた。
「・・・・・・私達が【久しぶり】なんて、初めてだね」
だから、麻衣は、普通に【姉】に話しかける。
「・・・そうね。私達、いつも一緒だったものね。
もっとも、悪衣(わたし)が麻衣と話せたのは、2日前が最初だけど」
悪衣も、昔からそうだったように、当たり前のように話を返した。
「お風呂も一緒。寝る時も一緒の部屋。どこかに出かける時も・・・
小学生の時、私が熱を出して寝込んだ時も、お姉ちゃんは学校に行かずに私を看病してくれたよね」
「今にして考えてみれば、不安で、怖かったんでしょうね。
・・・麻衣が、どこか遠い所に行っちゃいそうな気がして。・・・ただの風邪なのにね」
「・・・・・・・・・」
・・・話せば話すほど、分からなくなってくる。
私は、お姉ちゃんを救わなければいけない。でも、今話している目の前の人も、間違いなく姉の【天津亜衣】なのだ。
どちらか片方を選ぶなんて、出来ない。出来っこない。
「お姉ちゃん・・・」
「・・・何?」
「私、どっちのお姉ちゃんも・・・ 消えて欲しくない!
何か方法は無いの? 二人はもう一つに戻れないの!?」
麻衣は、大きな声で、紛う事なき本音を姉にぶつけた。
「・・・・・・無理ね。私と【亜衣】はもう、今は完璧に別の人格よ。
肉体は一つ。精神は二つ。どちらか一人が残り、どちらかは消えるしかない。
そして、私は消えるつもりはない・・・ 私は、覚悟は決めてきた。
・・・麻衣は、どうするの?」
「私・・・ 私は・・・」
どうすればいい?
どうすれば・・・ お姉ちゃんを救える?
どちらか片方のために、どちらかを消すなんて、そんなの・・・
「まだ、決まってないみたいね。
・・・まあ、ちょうどいいかもね。私もカーマも、今日決着を付けるつもりはないから」
「え・・・? 何で・・・?」
「タオシーは、仁と決着を付けたかったけれど、今回はそれが出来なかった。
だから、あの子が次の準備を終えるまで、本格的な戦いはおあずけ。でも・・・」
(シュンッ────)
悪衣は、再び黒い薙刀を出現させ、構えた。
その薙刀には、稽古用のエッジカバーが付けてある。
「・・・・・・!?」
驚く麻衣。
「せっかく二人とも戦える状態でここにいるんだから、何もせずに帰るなんて淋しいじゃない?
三種の神器の試練で、どれだけ強くなったか見てあげる。
・・・さあ、二人だけで、楽しみましょう? 2日前みたいにね」
「・・・・・・・・・」
つまり、これは・・・ 試合。
命を賭けた殺し合いじゃなく、純粋な薙刀の腕だけでの勝負。
二日前は私が負けた。けれど・・・
「・・・負けて後悔しても、知らないよ?」
俯いて下を向いていた状態から、姉に対して、麻衣は不敵な上目遣いで、敢えてそんな言葉を吐いた。
「・・・・・・・・・ プッ・・・フフ」
その、今までの麻衣なら考えられなかった言い返しと可愛い仕草に、
悪衣は、思わず笑ってしまった。
「・・・でも、そう来ないとね」
一転し真面目な表情で、薙刀を構え直す悪衣。
ポイ、と。麻衣にもエッジカバーを渡した。
麻衣も、エッジカバーを薙刀に付けて構える。
二日前の戦いの、そして、これまでもあった幾度かの試合の再来。
不思議と、今回はすごく落ち着いている。
なんだか、お姉ちゃん相手でも、負ける気がしない。
たくさんの人たちに見守られながら
(タッ────!!)
「やぁっ────!!」
「はっ─────!!」
(ギィィンッ───────!!!!)
姉妹同士の対決が、始まった────
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
まあ、ここら辺は話としてはツナギみたいなものなので、盛り上がりに欠けるのはしょうがないですね。
さっきから頭の中で葛の葉が【早ようわしを出さんかいボケー】とうるさいのでなんとかせねば。