幻舟の魂の力によって、巫女の力を取り戻した麻衣と木偶ノ坊は、時平達を倒した後、無事元に戻った鬼麿を仲間の巫女に預け、一目散に淫魔の社を目指していた。
「面妖な・・・ 鬼麿様も元に戻り、時平も次元の彼方に消えたというのに、未だ淫魔の社の気配が消えぬとは・・・」
全ての淫魔を倒したことで、世界は急速に元へと戻っていった。
しかし、その中、あの淫魔の社の気配だけは決して消えず、むしろだんだんと強い妖力を放っていることを麻衣は感じ取った。
「お姉ちゃん・・・」
全ての敵を倒したのだから、姉は無事に違いない。
そう思う傍ら、麻衣にはどうしても悪い予感を拭うことが出来なかった。
神社へと退却した時に感じた、胸の痛みは何だったのか。その答えがあの場所にある。それならば、一刻も早く・・・
「見えたぞなもし!!!」
木偶ノ坊の言葉どおり、二人の目の前には、淫魔の社の入り口が堂々と存在していた。
その姿は、ほんの少し前と全く変わらず、黒々とした邪淫なる気を放っていた。
「そんな・・・何で・・・?」
感じてはいたものの、実際に目の前に存在するそれに、麻衣は驚きを隠せなかった。
「いいんですかねえ、そんな時点で驚いていて」
聞き覚えのある静かな声。
「その声は・・・っ!!」
木偶ノ坊が声の方向を凝視する。
すると、柱の影から一人の少年が姿を現した。
「ようこそいらっしゃいました。巫女の姫、麻衣さん。そして退魔の戦士木偶ノ坊さん」
カーマに付き従う裏切りの退魔士、タオシーである。
「・・・この事態の元凶はお主か、少年!!」
凄まじい迫力でタオシーに問う木偶ノ坊。
「やだなあ、僕は人間ですよ? 出来る事なんてたかが知れてます」
タオシーは、そんな迫力に全く動じる事無く、爽やかな笑顔で語る。
「ならば、誰が・・・?」
「それに・・・ お姉ちゃんはどこなの!!?」
「貴方達がそれを知る必要はありません。・・・元より、招かれざる客をお通しする義務はありませんからね。ご退出願いますよ」
タオシーが指をパチンと鳴らすと、たちまち麻衣たち二人の周りに、例の黒子達が現れた。
「・・・・っ!!」
「ぬぅっ・・・!!」
そこかしこの影からわらわらと現れる黒子達は、たちまち麻衣たちの周りを取り囲む。
麻衣も、木偶ノ坊も、こんな近くに来るまで黒子達の気配に気がつかなかった。それは、彼らが気配を消す達人である事。つまり、一人一人が鍛錬を受けた強者に他ならない。
「すごい数・・・」
「しかし、これなら突破できないわけではありませんぞなもし!!」
「ええ!!」
薙刀を、棒を構える両者。
「はああぁぁぁぁああああああああああっ!!!!!!」
「でぇぇやあああぁぁぁあああああああっ!!!!!!」
戦闘が始まった。
次々と襲い掛かる黒子達。しかし、二人はそれを次々と切り捨て、吹き飛ばしていく。
特に目覚しい活躍であったのは、木偶ノ坊ではなく麻衣。
激しくも華麗に舞うその動き、そしてそれと共に振られる薙刀は、それこそ意思を持っているかのような自在の動きを以って、敵を切り裂いていった。
それを見るタオシーは驚愕を隠し切れなかった。
自分の知っている天津麻衣の戦闘力。それと、麻衣を救いに来た時の木偶ノ坊の戦闘力。双方を合わせても、黒子達の人数であれば、それを撃退できておつりが充分に来る筈だった。
なのに、今その目で見る麻衣の戦闘力は、その倍・・・ いや、それ以上の強さを発揮しているのだ。まるで・・・
「亜衣さんの分まで強くなったみたいではないですか・・・」
どちらにせよ、これではまずい。
タオシーは、懐から新しい符を取り出した。
「式神っ!!!」
タオシーが三枚の符を投げると、それは麻衣達が闘っているすぐ側。黒子達が退がり空白となった箇所の地面に曲線を描き落下し、そして・・・
「え・・・っ!!?」
「何とっ!!?」
翡翠色に輝き出したそれは、あっという間に、体長2メートル以上の虎の姿をした半透明の物体と。同じく2メートル以上の犬。そして太さ1メートル、体長10メートル以上はありそうな大蛇へと変化した。
「こ、これは・・・?」
「なんと・・・ あの少年。こんな式神まで使えるというのかっ!!」
陰陽の術の中でも、式神を従えるということは、かなり高位の術者であるということになる。更に、目の前に現れた式神達は、並々ならぬ強い妖力を放っていた。
「その通り、我が式神、水虎(すいこ)。凶蛇(まがへび)。狛犬(こまいぬ)。いずれも僕の信頼する相棒たちです。フフフ・・・まさか、これを出さないといけなくなるなんて考えもしませんでしたよ」
その顔からは、先程の焦りは消え去り、完全な勝利を確信した笑顔に溢れている。
「さあ、こうなると手加減が効きません。今のうちに退散してくださるとありがたいんですが」
慇懃無礼なタオシーの最終勧告。
「ふざけないでっ!!! お姉ちゃんを・・・ お姉ちゃんを返してっ!!!」
麻衣は、魂の底から叫んだ。
「・・・・・・・・・仕方、ないですね」
タオシーがゆっくりと片手を上げる。
それに合わせて、三匹の獣達が一斉に唸りを上げ始め、麻衣、木偶ノ坊もそれと戦わんと構え・・・
「随分とムキになっているな、タオシー」
その時、タオシーの後ろから、男の声が響いた。
「この声は・・・!?」
「いやしかし麻衣様。そんな筈は・・・」
困惑する二人。足音は近づき、そして・・・
「フフフ・・・ お前の式神を見るのも久しぶりか」
その男は姿を現した。
「むおっ!? お主は・・・」
「カーマ!!? そんな・・・ 死んだ筈じゃ・・・」
疑いようも無いその顔。淫魔の戦士カーマである。
タオシーは指をパチンと鳴らす。
それと共に、三匹の式神達は軽い炸裂音と共に符へと戻り、タオシーの元に戻る。
「・・・・・・・・・」
タオシーはカーマに向かって無言のまま、睨むというにはあまりにもかわいらしい怒りの目を向ける。その目は、少年が初めて年頃の少年らしさを見せた、遅れて来た主人に対する無言の抗議だった。
「・・・フフ、そういう目をするな」
カーマは、全くの余裕の笑みでそんな言葉だけ返す。
「・・・ずいぶんとお愉しみだったようですね」
「お愉しみ・・・?」
麻衣がその言葉に疑問を持ったその時。
もう一つの足音が近づいてきた。
「待ちなさいよ。まったく」
「随分と腰がおぼつかないな」
意地の悪いにやけ顔をするカーマ。
「誰のせいよ、初めてなのに続けて三回も・・・」
聞き覚えのある声、それと共に姿を現したのは・・・
「・・・お姉、ちゃん・・・?」
そう、見間違える筈が無い。
幼い頃からずっと共に居た姉、亜衣だ。
しかし、自分の知る姉の姿と、今カーマの隣に現れた悪衣は、大きく違っていた。
腰まで伸びる長く美しい髪を括る髪留めはなく、入浴や睡眠の時にしか見せない長髪に。
服もまた、天津の巫女の羽衣とはまるで違う。
カーマの隣に位置することに違和感が無い和服の構造がありながら、一見すると水着や下着の様な印象を受ける程に少ない布地。
それは、巫女の羽衣とは対照的に全てが黒色。肩から胸の谷間までを曝け出し、下乳から股間まで、肌のラインをくっきりと出す薄地で覆う形。大きく形の整った胸は強調され、肘から下、そして太腿の位置から下も、ニーソックスに近い形の布が覆っている。
そんな露出が激しい服を括る帯は、後で括る形となっており、通常よりもずっと長い帯は蝶々結びとなっているが故に、まるで羽を背に持っているかのような錯覚を起こさせた。
何より、その表情。
瞼が下がった妖艶な目つき、そして淫の色に濁った瞳と、そこから放たれる淫艶なる気配が麻衣の知る亜衣とは全く逆だった。
しかし、同時に麻衣の魂が告げる。
あれは間違いなく姉の亜衣だと。
「ウソ・・・」
そこが戦いの場だということも忘れ、戦意が消え去ってしまう麻衣。
木偶ノ坊もまた、あまりにも唐突な事態に無言のまま動きを止める。
「フフフ・・・ その割にはすっかり気に入っているようだったがな。それに、お前の尻があまりにも良い具合に締め付けてくるのがいかん」
「意地悪」
自然体にカーマの肩にもたれ掛かり、腕を絡めてくる悪衣。
それはまるで恋人同士のそれだった。
「・・・え? ・・・・・・え?」
麻衣は、それを見て更に頭を混乱させる。
「お姉ちゃん・・・? どう、して・・・」
何故姉はあんな恰好をしているのか、あんな目をしているのか、そして、自分をレイプしたカーマに、彼氏の様にじゃれている姿にも、脳が理解すらしてくれない。
狼狽する麻衣の姿ををチラと見るカーマ。
唇の端を吊り上がらせ、そして・・・
「んむ・・・っ!?」
悪衣の唇をいきなり奪った。
「お姉ちゃ・・・っ!!!」
反射的に、姉に駆け寄ろうとする麻衣。
だが、その次の瞬間の光景が、麻衣の足を止めてしまう。
「んっ、くちゅ、はむ・・・ んぷ・・・」
悪衣は、カーマの首に手を絡め、積極的にカーマの唇を吸い返す。
更に、執拗に潜入してくるカーマの舌に対し、まるで蚯蚓が交尾をしているかのように舌を絡めた。
二人の間で出し入れされる舌が、下の段に居る麻衣達二人には充分すぎるほどに見えてしまう。
「んっふ・・・」
離される唇。引き抜かれる舌同士が、唾液で橋を作る。
カーマの首はゆっくりと下降し、それは亜衣の大きな胸で止まったかと思うと、首の動きだけで衣服をずらし、悪衣の胸を完全に曝け出す。
「はんっ・・・ や・・・ぅ」
亜衣の右胸を強く吸い、口の中で転がし、甘噛みをする。
「ふぁ・・・ んんぅ・・・ ダメェ・・・っ 右の、乳首、弱いのぉ・・・」
目を閉じ全身で快楽を感じ始める悪衣。淫艶な吐息を吐き、頬を紅くし、体を震わせ始める。
「フフ、知ってるとも」
カーマは更に下へと屈む。
ひざの片方を大地につけ、悪衣の腰の位置まで顔を下げると、布の上から悪衣の秘所を舐め出す。
「うあぅ!! やん!! あっ・・・!!!」
柱にもたれ掛かる悪衣。
カーマは悪衣の片足を持ち上げ、執拗に舌の愛撫を続ける。
次第にめくりあがり、露出する悪衣の性器。
カーマはそれに、尖らせた舌を突き刺す。
「はぁあっ!! ひゃうっ!? くうん・・・っ!!!」
麻衣は、その行為に目が離せなかった。
姉のあんな表情など、今まで見たことがなかった。快楽に身を討ち震わせる顔など始めて見た。知っているといえば、淫魔の被虐なる陵辱に耐える勇敢な顔。
そんな姉が、十数年もの間一度も見たことの無い表情を見せている。
何をすればいいのか分からない。何が起こっているのかわからない。
自分が何故ここに立っているのか、そもそもこれが現実の光景なのか。
様々な感情が交差し、乱雑に絡まり合い、最終的に思考が出来なくなっていた。
その間にも、二人の行為は進む。
いつの間にやら、カーマの股間からは、天に向かってそそり立つ男根が姿を現していた。
それがゆっくりと、悪衣の・・・
「ダメぇ───────────────ッ!!!!!」
考えるより先に、麻衣の体は動いた。
姉を二度も穢させない。そのたった一つの思考が、麻衣の心の混乱を消し去った
呪縛から解けた麻衣が、叫びを上げながら二人の場所へ突進する。
道を塞ぐ黒子達を、麻衣はその勢いを殺さぬまま、体を横に回転させ、振りかぶった薙刀が斬り払っていく。
その勢い、正に竜巻。
「カーマ様っ!!!」
慌てて符を構えるタオシー。しかしそれは遅すぎた。
「カーマ、覚悟────っ!!!!」
麻衣の薙刀、上段の攻撃が、カーマを捉えた。
しかし
(ギィィィィィィィィィン!!!!!)
「えっ・・・・・・?」
麻衣の必殺の一振りは、完全に防御された。
カーマは、目の前にある薙刀の刃に対し、腕はおろか眉一つ動かしてはいない。
麻衣の薙刀を止めたのは、悪衣だった。
その手には麻衣と同じ薙刀を持ち、それが麻衣の薙刀を完全に防いでいる。
見慣れた姉の薙刀。しかし、その刀身も、得手も、全てが服と同じく黒色に染まっている。悪衣の目は戦意を携え、先程までの情事の跡は全く見られない。
「お姉・・・ちゃん・・・、なんで・・・? 何でっっ!?」
さすがに今度ばかりは狼狽を抑え切れなかった。
「・・・・・・」
悪衣は答えない。ただ、その手に握る薙刀には力が込められており、麻衣の渾身の力でも動かない。
「反転の術ですよ」
カーマの側に歩き寄りながら、タオシーが語り始めた。
「反転の・・・術?」
刃を交えたまま、麻衣はタオシーの言葉を反芻した。
「淫魔の術の中でもほとんど廃れていた術で、復活させるには苦労しました。
しかしそのおかげで、戦力が不足している我々に、悪衣様という新しき仲間が加わりました。淫魔の姫としてね」
機械の様に抑揚の無い口調で、タオシーは続けた。
「淫魔・・・? 何、言って・・・だって、お姉ちゃんは・・・」
タオシーの言葉を、麻衣は信じることが出来ない。
「信じられませんか? しかし、天津の巫女であるあなたには感じ取れる筈ですよ。
・・・悪衣様から感じる、淫魔の妖力を」
その言葉に、心臓が引き裂かれる様だった。
確かに、姉の姿を見た時から既に、そこから放たれる強い妖力は感じ取っていた。
だが、そんな筈は無いと、舞衣の脳がそれを認めていなかっただけ。
「まあ、にわかには信じ難い事実でしょうね。人が淫魔に変わる術なんて。
・・・しかし、目の前にあるのは現実ですよ」
「そういうことよ、麻衣」
そして遂に、悪衣が麻衣に対して口を開いた。
その肯定の言葉が何より、麻衣の心を握りつぶす。
「お姉、ちゃ・・・」
麻衣はもう、泣きそうになっていた。
目頭に溜まった涙は、いつ落ちるかも分からないぐらいになっている。
「・・・付いて来なさい」
そう一言言うと、悪衣は大きく跳んだ。
「なっ・・・!?」
予期せぬ突然の行動に、タオシーは驚いた。
羽衣を纏った時と変わらぬ跳躍で、悪衣は林の向こうに姿を消す。
「お姉ちゃん・・・!? 待って!!!!」
麻衣も慌てて、それに負けぬ跳躍で後を追う。
「(・・・馬鹿な、あんな勝手な行動を取るなんて・・・)」
すかさずタオシーは、懐から人の形に切られた小さな紙を、二人が跳び去った方向へ飛ばした。
後に残るは、カーマ。タオシー。木偶ノ坊と、林の影に潜む黒子達のみ。
「・・・・・・」
木偶ノ坊は、無言でタオシーとカーマを睨んでいた。
「・・・素晴らしい。さすが、天津を守護する戦士は慎重で沈着ですね。麻衣様に比べ、先程からあなたの殺気だけ消えていなかった」
いかにも相手を馬鹿にするような言葉と、そして拍手。
「・・・亜衣様をああしたのはお主か、少年」
殺気を抑えながら、木偶ノ坊はタオシーに聞く。
「はい」
タオシーはその殺気を感じ取りながらも、尚も爽やかな笑顔で短く答えた。
「戻す方法は・・・?」
「さあ?」
タオシーは両手を広げて【分かりません】のポーズを取る。
「ならば、無理にでも聞くまでぞなもし!!」
棒を構え直し、強く握る木偶ノ坊。
「御免被りますよ」
タオシーも、両手に一瞬で符を扇子の様に広げる。
二人は互いに臨戦態勢だった。
そこに
「まあ、待て」
タオシーの肩を、カーマが掴む。
「カーマ様・・・?」
「その男の相手は俺がしよう」
「しかし・・・」
「フフ・・・ 邪神カーマスートラの力、そろそろ試したくてな」
そう言うと、カーマはタオシーを後ろに追いやり、その前に立った。
「カーマ・・・ 貴様・・・」
カーマを睨む木偶ノ坊に対し、カーマは余裕に笑う。
「悪衣が取られた事がそんなに悔しいか? だがさっき見せ付けてやった通り、悪衣の全てはもう俺のものだぞ? 爪先から・・・ホトの中までな!! ハハハハハハ!!!!」
「黙れっ────!!!」
目にも留まらぬ疾さで踏み込む木偶ノ坊。
だが
「ふん」
岩をも叩き割るであろう棒の一撃を、カーマは
(パシィッ!)
「な・・・ なんと!?」
片手でそれを受け止めた。
「遅いな」
そのままカーマは棒を持ち上げた。
「うおおぉぉっ!!!?」
棒と共に、それを握る木偶ノ坊も宙に浮く。
カーマがそれを投げると、木偶ノ坊は棒と共に空を舞い、木に叩きつけられた。
「ごっ・・・ふ!!」
ずるずると木から落ちる木偶ノ坊。
「ぐぬっ・・・ 何故カーマにこれほどの力が・・・」
ダメージはそれほど深くは無いが、その力に木偶ノ坊は驚愕した。
「さすがはカーマ様。着実にお力が戻られている様子ですね」
「ふむ・・・久しぶりすぎて加減が効かんがな」
「・・・そうか!! 邪神カーマスートラの・・・」
「おや、お察しがいいですね。その通りです。邪神カーマスートラの力の封印が解けた今、カーマ様を打倒しえるのは天津姉妹の二人の力ぐらいなもの。
そして・・・今や、その天津の姉妹は揃うことはない。わかりますか? 貴方達にはもう、勝利の可能性など残されてはいないのですよ」
勝利を確信した、にこやかな微笑み。
「く・・・!」
「邪魔な存在だった鬼夜叉童子を倒して下さりありがとうございました。貴方達は、カーマ様の天下への一番の功労者ですよ」
口だけの感謝の言葉は、その実麻衣と木偶ノ坊を嘲笑っている。
棒を支えに、ふらついた足取りで立ち上がる木偶ノ坊。
再び戦いの構えを取り、棒の切っ先を敵へと向ける。
「なのに、まだ戦う気ですか? 戦士というのはつくづく不器用な生き物ですね」
「・・・器などいらぬ。この命、この力。全ては亜衣様と麻衣様のために!!!」
木偶ノ坊は再度カーマへと突進する。
「フン・・・ 馬鹿の一つ覚えを・・・」
カーマは慌てる事無く、弾丸の如く疾さで迫る棒を・・・掴む。
ビタリと止まった棒は、木偶ノ坊の剛力で引こうが押そうが、やはり動かない。
ニヤと笑うカーマ。しかし、木偶ノ坊の目もまた落胆はしていなかった。
(ブチブチブチッ!!!)
棒の手元を巻く布が、木偶ノ坊の引く力で千切れ、棒の中から何かが姿を現す。
「!!?」
それが仕込み刀であると気が付くより前に、刀は抜き放たれ、木偶ノ坊は
「盛者必衰!!!」
必殺の斬撃を降り降ろした。
「・・・っ!!」
カーマの左肩から右腰まで、袈裟に大きく開き、鮮血が迸る。
「カ・・・ カーマ様っっ!!!!!」
慌て駆け寄るタオシー。
「やった・・・ぞなもし・・・!!!」
確かな手応え、木偶ノ坊はカーマ征伐を確信した。
しかし・・・
「・・・・・・フ、フフ、フフフフフフ・・・・・・」
あろうことか、人間であれば即死は必須である傷を受け、鮮血を飛ばしながら、カーマは笑っていた。
「面白い曲芸だ。この俺にこんな傷をつけるとはな!! カーマスートラの封印が成されたままであったら死んでいた所だ!!!」
そう言って、自らの右腕で己の左肩を抱き寄せる。
シュウシュウという音と、上がる煙。出血はピタリと止まり、傷は端の部分からゆっくりとつながり、消えていく。
「む。おお・・・っ!?」
さすがの木偶ノ坊も、その光景に思わず後ずさる。
「カーマ様、お下がりを────っ!!!」
符を両手に、タオシーが突出する。
「お主には聞かねばならんことがある!! 亜衣様の治療法。語ってもらうぞなもし!!!」
「黙りなさい!!! よくもカーマ様を・・・っ!!!!」
木偶ノ坊は戦士の咆哮を上げ、参謀の少年を相手と定め跳び上がった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エロが少なくてすんません(汗
次回も少ないと思います。う〜ん・・・難しい。