淫獣聖戦 偽典 「繭地獄」 18

 葛太夫は失神した亜衣をうち捨て、未だ繋がったままの、麻衣と鬼麿に近づいた。
「どけっ」
 太夫が手を払うと、麻衣が飛ばされ結合が外れた。隆々と天を突く、鬼麿の肉棒はぴくぴくと震えている。
「頃合いか」
 そう言うと鬼麿の躯を、鬼夜叉童子の像に向けた。片手で鬼麿を支え、もう片手で印を結ぶ、呟くように短く呪文を詠唱し、気合いを込めて。
「喝」
 ぴしっ。鬼麿の男根に填った金の環、緊箍に薄く割れ目が走った。その境界が鈍く輝くと、キンとガラスの砕けるような高い音を立てて割れた。
「むーーぅ」
 鬼麿が低く鼻で呻くと、肉棒が一際膨らんだかと思えた刹那、どっと爆ぜた。白き奔流は、信じられないほどの勢いで飛翔し、背の高さを超える弧を描く。着弾したのは、狙い通りの場所。辺り一面に飛沫を散らせた白濁は、鬼夜叉童子の像をも濡らした。青い燐光は、鈍い白色光に変わり、ぶーーんという唸りを上げ始めた。
「ふふふ。これであと数刻も待てば・・・それまで、天津姉妹とでも戯れるとするか」
 まずは、亜衣をさらに痛めつけ、完全に堕落させよう。亜衣の上半身を起きあがらせるが、まだくたっと脱力しているのか、腕がぶらりと落ちる。
「むんっ」
 背中に回った、葛太夫は亜衣に活を入れた。
「うっ・・グっ、ううう」
 薄く目を開いた亜衣は、まだ意識が混濁しているのか、しどけない股を閉じる様子もなく、ぼんやりしていた。頭を占めるのは先程のアクメの記憶。天上の快感、地獄へ堕ちる背徳感、それが同時に襲う。そして全身の快楽を解きほぐし、忘我の極致を味わった。それさえあれば、何も要らない。鬼麿も麻衣も谷崎美和も、その存在すら思い浮かばなかった。そこには、葛太夫しか居なかった。
「亜衣。お前が汚した我が魔羅を、口で清めよ」
「はっ、はい。お清め致します」
 亜衣は、媚びた笑みを浮かべながら、疲れた躯に鞭打ち、四つん這いになって太夫の胡座に躙り寄る。力なくうなだれる逸物に手を伸ばし根本を支える。その状態でも、手に余る巨根。亜衣は何の嫌悪感もなく首を向け、舌を差し伸べる。太すぎてくわえることはできないが、嘗め回し、唾液で濡らして清める。これが自分の尻で暴れたモノか、そう思うと、子宮がかっと熱くなるようで、神々しさすら纏っている気がする。
「はへ」
「どうだ、うまいか」
「は、はひぃ。お、おいひいです」
「ふふふ」
 そうしているうちに、願いが通じたのか、頭を持ち上げ、隆々と力が籠もり、怒張が天を突いた。
 亜衣は目尻を下げ、惚けたようにその偉容を見上げる。
「どうだ、また貫いて欲しいのか」
 亜衣は蕩けた表情で頷く。
「では尻を向けろ」
 喜びのあまり、つんのめりながら、身体を回し、臀部を突き上げる。
「これが欲しいか」
 太夫は尻たぼを、軽く怒張でなぞる。
「ほ、欲しい。欲しいです」
「どこに欲しいのだ」
「おっ、おま・・・」
 亜衣は今まで口したことのない、四文字を発した。
「では自ら開いて誘え」
 両手の指を淫唇に掛け開いた。花園は期待だけで濡れそぼっていた。
「こ、ここに、太夫様の立派なものを、突っ込んで下さい。ど、どうか、お願いします」 強制されず、自らの言葉で誘う。その背徳感だけで亜衣は吐蜜し、光を反射しながら糸を引いて床へと垂れた。
 太夫はゆるゆると、刺し貫いた。
「はぁっ、はう、あぁああ」
 太い、凄まじい拡張感が襲う。しかも、余裕で子宮口に当たっている。しかし既に快楽の経験を積んだ亜衣はもどかしかった。
「あぅ」
 太夫は動こうとしなかったからだ。仕方ない。亜衣は自ら腰を前後させた。肉悦が走る。
 はあ、はあ。なんて浅ましくも美しい光景だろうか。亜衣は、何もかも忘れ、淫らな腰使いで、自ら高まっていく。
「あぁ。いい。いいのう」
 が、そのとき太夫が亜衣の腰を掴んで、固定してしまった。
「ああ、なぜ。動いて、動いて下さい」
「ふん」
「堪らないんです、もう」
「ならば、我が下僕となるか。絶対の忠誠を誓えるか」
 下僕・・・。亜衣はその言葉に、心が甘く疼いた。著しく視野が狭窄し、もはやそれしか、自分の生きる道はないと確信に至った。
「誓えば、この魔羅で擦ってくれるんですか?」
「ああ、好きなだけな。そして毎日あの絶頂を味わせてやろう」
「はい」
 亜衣の脳は白く融けた。
「ならば、自ら宣言せよ」
「はぃ。私、天津亜衣は、葛太夫様の忠実な奴隷に・・・ううう・・ぎゃあ」
 そのときだった。
 待て!
 その声は、亜衣の脳に直接激痛を伴って届いた。
「何奴」
 常寧殿の木戸に人影が現れた。黒い装束に身を包み、目だけを出している。太夫に向け手を翳しながらゆっくりと近寄ってくる。
「むっ。う、動けぬ」
 太夫は、四肢に力を入れて踏ん張ろうとしたが、びくとも動かない。爽やかな香りが鼻を突いた。
「梅の香り」
 時ならぬ梅花の存在を察知した太夫は、周囲を見回す。なんと太夫の影に梅の梢が刺さっていた。
「天津呪法影縫い」
 黒ずくめは、いつの間にか指呼の距離に居た。
「返して貰うぞ」
 頭を抱える亜衣の肩を掴むと、太夫から引き剥がした。亜衣を見たその一瞬隙を突いて、太夫も何事か呪文を詠唱した。
 誰からも忘れられた存在、谷崎美和が反応した。二、三歩駆けたかと思うと、床に突き刺さった枝に飛びついた。
「呪法破れたり」
 葛太夫は飛び退ると、素早く童子の像に駆け寄る。
「とんだ邪魔が入ったが、まあ良い。斯くなる上は」
 頭を水平に揮うと、髪触手が唸りを上げて風を起こし、歌舞伎の連獅子のように瞬く間にゴウっと渦を巻き、いつしか竜巻となった。屏風が引き飛ばされ、びりびりと柱が震え、天井がばりばりと剥ぎ取られ、屋根にも大穴が開く。
「なんたる風圧」
 木っ端や、土埃がもうもうと舞い散り、黒ずくめの闖入者も手向かいするどころが、吹き飛ばされないよう、床に伏せるしかなかった。
 数分後。もうもうとした土煙がようやく沈静化した。
「収まったか・・・」
 部屋はまさに嵐が過ぎ去った惨状で、板切れた壁土などが散乱し、今にも崩れ落ちそうだ。そこには葛太夫の姿はなかった。
 黒ずくめは、部屋を見回す。近くには亜衣と、梅枝を引き抜いた少女。部屋の中央に若い男と麻衣が倒れている。息をしているところを見ると気を失っているようだ。部屋のあちこちを歩き回ったが、探しているものが見つからぬようで、亜衣のところに戻って来る。活を入れた。
 亜衣はぼんやりしているようで、はかばかしい反応を見せない。
「ん、これは」
 手を亜衣の額に翳すと、今まで見えなかった長方形の紙のようなものが浮かび上がる。「午王紙」
 それを引き剥がすと、ようやく意識が戻ったように。瞳に力が宿った。
「亜衣。しっかりしろ」
 亜衣は、その異形の姿を見て、手を振りほどいて後ずさった。
「私だ」
 顔を隠す頬当てを、引き下げる。
「お、叔母様」
「大丈夫か?」
 弱々しく頷く。
「して、鬼麿様は、どこにおわすか」
 亜衣は、身体をずらせて、叔母の背後を見る。
「あそこ、麻衣の横に倒れています」
「何」
 先程は見逃してしまったのか、怪訝に思いつつ麻衣に近付く。しかし麻衣の側には、やはり若い男しか居ない。
「まさかこの青年が、鬼麿様なのか。そうか、あの札で」
 今度は、男の額に手を当てる。やはり見えなくなっていた札が現れる。それを引き剥がした。
「なんと」
 立派な大人の風貌になっていた青年は、みるみる縮み、いつもの鬼麿の姿に戻った。
「恐ろしい術を使う」
 天津麻耶は、ひとり呟いた。影縫いを破った機転、竜巻、そしてこの札を使った術。しかし最も恐ろしいのは、その引き際だ。淫魔衆は得意技を主体に力押しにするので、戦術はともかく戦略上組みやすい相手だ。が、あの緑の淫魔は想定の範囲を超えたと知るや拘泥せずさっと引いた。その知謀が脅威だ。
「若っーー」
「おお、木偶の坊殿。こっちじゃ。鬼麿様はここにおわす」
 ようやく木偶の坊と、子守衆の巫女達が駆けつけた。
「若っ」
「大事ない。気を失っておられるだけじゃ。後は任せよ。すぐに屋敷にお連れ申せ」
「はっ、大傅様。忝ない」
 木偶の坊は、稚児に戻った鬼麿を抱え上げると、常寧殿を後にした。
「その方らは、そこの嬢ちゃんと麻衣を頼む」
「はい」
 命にしたがって、巫女たちが分かれる。
「早くせよ、この鬼獣淫界の亜空間が閉じるぞ」



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