淫魔の社   悪衣の部屋

 

 

 

「んっ・・・ ちゅ・・・」

 部屋の中に響き渡る、舐る音と、水音。

 

 寝具の上に座っているカーマの、限界にまでそそり立った肉棒を、一糸纏わぬ全裸となった悪衣が奉仕しているのである。

 

「んっ・・・ んっ・・・ はぷっ・・・」

 悪衣は自身の両胸を、両手で押さえ、作った柔らかな谷間の中にカーマのモノを挟みこみ、擦り上げていた。

もみゅ、とか。ふに、という音がしそうなほどに、悪衣の胸は柔らかく、そして柔軟に、不規則に変形しては元の美しいお碗型へと戻ってを繰り返す。

全体を包み込むように刺激し、上体を上下に動かすことで、悪衣の胸は、マシュマロのような柔らかさを持った極上の性器へとなっていた。

 

 そして、上下させるごとに、胸の中から顔を出すカーマの逞しく大きな亀頭を、その小さな口を大きく開き、しゃぶり、舌で尿道口を突付き、隅々まで舐め取る事も忘れていない。

 

「んんっ・・・ ふっ・・・ ちゅ、はむ・・・」

 フェラチオとパイズリの合体。それは、どのような他の性行為よりも、【奉仕】という単語に於いて

 そして、男に対する【愛情】や【忠実】の証でもある行為。

 

 随分前から我慢をしていたカーマのモノからは、カウパーが染み出しており、それが悪衣の胸に絡みつくことで、ぬちゃぬちゃと淫靡な音を立て、自然のローションとなり、極端にゼロに近くなった摩擦が、より強い快感を与えていた。

 

 懸命に胸を擦りつける悪衣の、慣れないがこその初々しい表情。

素晴らしく柔らかな胸の感触の中、時折に当たるコリコリとした乳首の感触。

 前回と比べ、コツを覚えてきたフェラの舌使いと、カーマにとっては全てが極上である。

 

「くっ・・・」

 先程の、悪衣の痴態を見ていただけでも爆発寸前だったカーマの分身は、早くも限界を近く迎えた。

 

「んっ・・・」

 それを感じ取り、飲み干す為にカーマの亀頭部の全てを口に含もうとする悪衣だったが

 

「おっと」

 何を思ったか、カーマは人差し指で悪衣の額を押して、亀頭から顔を離させる。

 

「??」

 そして

 

 

(ドピュッ! どびゅるるっ!! ビュッ、 ボタ、ボタ・・・)

 

 

 噴火の様な勢いで発射される、熱き白濁液。

 亜衣の胸の間から夥しい量で噴き出したそれは、悪衣の胸、喉、顔全体から前髪に至るまで、カーマの精液が穢していく。

 

「ひゃっ、んっ・・・」

 精液が右目に入り、思わず目を瞑る悪衣。

 目を瞑ったあとも、カーマの射精は続き、頬や額、瞼の上や、開いた口の中にまで入り込み、濡らしていった。

 

 ぬるん、と。亜衣の胸の間から抜かれる肉棒。

 

「は、あ・・・」

 顔や喉、胸にかかっていた白濁液が、とろとろと谷間に流れ、白色の水たまりを作る。

 

「ん・・・」

 恍惚と興奮に惚けながら、目や頬などに付いた粘液を掬い取り、子供のように指をしゃぶる悪衣。

その仕草と、赤くした顔、とろんとした目つきは、何とも言えずいやらしく、純粋に美しい。

 

「ふふ・・・」

 そういった全てが、カーマの男としての征服感や独占欲を刺激し、悦に浸らせ、それが新たな興奮を呼ぶ。

 

「ん・・・ ちゅ・・・(ぺろ・・・)」

 

 

(ガバッ!)

 

 

「あっ・・・!」

 顔や手についていた精液を無心で舐め続けていた悪衣を、カーマは抱きかかえ

 

(ぽす・・・んっ!)

 

 

 寝具の上へと放り、すかさず悪衣の両足の間に自分の顔をもぐりこませる。

 

「・・・いい眺めだ」

 先程の自慰や、パイズリなどによる興奮で、悪衣の秘所は濡れに濡れ、桜色の可愛らしくもいやらしいその場所は、男を誘う淫らさを更に淫艶に膨らませていた。

 もう、このまま己の熱い滾りを突き入れたとしても何の問題も無いだろう。

 

「あっ、やだ・・・ そんな、恥ずかし・・・」

 ぼうっとしていた思考に理性が少し戻り、顔を赤くしながらそう言った。

好きな相手とはいえ、股間に顔を近づけられるという状況に、淫魔らしからぬ恥じらいが生じたのか。

 

 

(ぢゅるっ・・・ ぴちゃ、ぴちゃ、ちゅぶ、ぢゅるるっ!!)

 

 

「あ・・・ はっ、ああっ!」

 何の前触れも無い、突然の強烈な吸引や、舌による攻撃に、悪衣はびくんと上体を反らせた。

 

 カーマは、小陰唇から膣の浅い部分の内壁に至るまで、縦横無尽に舌を走らせ、包皮を強制的に舌で剥き、肉芽を攻撃するように舌先で突付く。

 それはまるで、舌だけがカーマとはまったく別の触手のような生き物かと思うほど巧みで、蟲惑的だった。

 

「あんっ! あ、あぅぅっ! あっく、そん、な・・・ ひう、うっ・・・!?」

 いつにも増して激しい舌使い。そして、亜衣の感じる場所を知り尽くしたが故の、本人以上に的確な攻め。

 更にカーマは悪衣の尻肉を掴み、中腰からほんの少しだけ立ち上がる形で、悪衣の腰を浮かした。

 

 

「あっ・・・?」

 それにより、床に着いていた足は、カーマの肩に乗り、重力でだらんと膝下がカーマの背中へと掛かる

 

 これは・・・ その体制は、そう。

 天津亜衣が、初めてカーマに犯された時、初めて人の姿をした相手に、舌で犯された時の恰好と、よく似ていた。

 

「フフ・・・」

 あの時と同じ、邪悪な微笑み。

それに、悪衣はゾクゾクと身を震わせていた。

 

「まるで洪水だな。次から次へと溢れてくる・・・ まったく、いやらしいな」

 

「や、そんな・・・っ カーマが、そんなこと、するか、ら、ぁっ!!」

 

 

(ぢゅるっ! ちゅるるっ!! ちゅば、ちゅく、ぢゅうっ────!!!)

 

 

 亜衣が言い終わるのを待たず、カーマの舌による攻めは、より激しさを増して再開された。

 

「はぁっ──!! う、はっ、あ、ふあ────」

 敏感な肉芽を舌で突付かれ続け、激しく愛液を吸われ、悪衣の思考全てが快楽で支配されていく。

 まうで全ての快楽神経が、カーマの舌で舐められている箇所に集まったかのような、どんどんと昂ぶり上がっていく快感。

 

「あぅ、あっ、あ、あっ────」

 そんな快楽を、悪衣は何の我慢もする事無く、自然に受け入れていた。

吐息を弾ませ、裸体の上に玉のような汗を溜めては流し、表情は悦に浸りきった女の表情になっている。

 

 【天津亜衣】であるなら、考えられない顔。

 しかし、寝具の上で獣欲に抗う事無く受け入れる悪衣は、それは艶に美しかった。

 

 寝具の上で響き続ける水音。

 そして、妙なる声で快楽に喘ぐ悪衣の嬌声。

 カーマにとっては、どのような至高の楽器にも勝る、最高の音色、最高の調べである。

 

 そして、それを馴らしている奏者は、自分───

 渇望していた夢の時。

 そういうものは、叶ってしまえばあっけないとは良く言うが、カーマにとっては・・・ 違った。

 

 何度同じ様に悪衣を抱こうと、今この時は、正にどんな夢にも勝る、桃源郷の境地。

 他のどのような時よりも興奮し、楽しく、鼓動が高まり、言葉通り、夢中に嵌まり込んでいくのだ。

 

 

「やっ・・・ イッちゃう・・・ 舌で、舌で、いっちゃ────」

 こういった攻めに対して、常に全力で耐える亜衣ならともかく、受け入れている悪衣は、限界が既に近づいていた。

 

「・・・・・・(ニヤリ)」

 そんな悪衣の反応に、邪淫の王はかくたるやという笑みを浮かべたカーマは

 

(カプ・・・)

 

 

「ひ、ぁあっ!!?」

 唐突に、悪衣の勃起していた肉芽を、直接甘噛みしたのだ。

 強すぎる刺激に、陸に上がった魚のように跳ねる悪衣。

 

「・・・・・・・」

 しかしカーマは、悪衣の肉芽を歯で傷付けぬ様に、悪衣の腰を腕で押さえつけ、コリコリと、絶妙の加減で、歯と舌の両方で弄ぶ。

 

 

「やっ! あああっ!! ダメッ! 許してぇっ!! ダメっ! だめぇえ────!!!

 痛いとか気持ちが良いとか、そんなレベルじゃない。

 

 このままじゃ、このままじゃ────

 

 

「あっ! やっ・・・あ、、あ!!!

 

(プシュアア────────────・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 限界などとっくに通り越した刺激は、悪衣の堰を完全に突破してしまった。

 

「く・・・」

 秘所から勢い良く放たれる潮と共に、少量の黄金水が鉄砲水のように噴射され、当然カーマの顔と口に命中する。

 

 

「はあ・・・ ハァ・・・ はぁ・・・」

 悪衣は放心状態で、くてっと仰向けに倒れ、肩で息をしながら虚空を見ている状態だった。

 

「・・・・・・驚いたな。顔と口に小水をかけられるのは初めてだ」

 怒りの感情などは全く無い。ただ、新鮮な事象に、純粋にカーマはきょとんとした顔をしている。

 

 

「・・・・・・・・・ あ・・・? ご、ごめん・・・」

 やがて意識を取り戻し始めた悪衣は、自分の行為を認識すると、まだ荒い息のまま、顔を赤くして謝った。

 

「・・・ふむ。さて・・・ どうするかな」

 悪魔のように意地の悪い笑みを浮かべたカーマは、亜衣の顔に自分の顔を近づけると

 

「お返しだ」

「んっ!?」

 悪衣の髪を掬い上げ、後頭部に手を添えて軽く持ち上げると、唐突に唇を奪う。

 

 亜衣の口の中に広がる、しょっぱく苦い味。

 これまでのカーマとのキスでは無かった味は、明らかに悪衣自身の愛液と小水だ。

 

 

「ん〜〜! んん〜〜〜っ!!」

 さしもの悪衣でも、自分の小水を口移しされてはたまらない。

 初めてに近い形で、カーマの胸板をぽかぽかと叩いたり、暴れたりして抵抗する。

 

(ちゅく、ちゅ、ちゅば・・・)

 

 しかし、そんな可愛らしい抵抗をもカーマは楽しみつつ、執拗に悪衣の口内で舌を躍らせ続ける。

 

「ん・・・く・・・」

 そうして舌を絡め取られていっては、スイッチも入ってしまうもの。

 悪衣は、口の中に広がる苦味も忘れ、いつものように自分からカーマと舌を絡ませ合った。

 

「んんっ・・・ ちゅ、く・・・ はぷっ・・・ ん・・・」

 絡まりあい、濃密なダンスを、交尾をする二人の舌。

 二人の間で自然と交換され続ける小水は、堕落の共有を表しているのか。

 

「ぷはっ・・・」

 やがて、カーマの方から離れる唇。

 抜かれ離れる二人の舌が作る唾液の架け橋は、なんとも官能的で淫美だった。

 

 

「どうだった? お前の味は」

 と、意地悪く聞くカーマに

 

「ふぇ・・・?」

 のぼせたような表情の悪衣は、そんな返事しか返せなかった。

 

「ほう・・・ 俺に小水をかけておいて、そういう態度とはな」

 言葉とは逆に、カーマはまったく怒ってなどいない。

 ただ、悪衣をいじめる口実とばかりに、嬉々としていた。

 

「あ・・・ やだ・・・ もう、許してぇ・・・ も、ダメ・・・」

 さっきの強烈なクンニだけで、もう腰はガクガクで、自分ではしばらく立てない。

 これ以上何かされたら、本当にどうにかなってしまいそうだ。

 

「許さん。お仕置だ」

 しかしカーマは、情け容赦がない。

 

 悪衣の両足の付け根を掴むと

 

「あっ・・・!?」

 ぐるんと一気に引っくり返され、足と首が下に、腰が一番上になるという恥ずかしい体勢にされる。

 何よりこの体勢では、悪衣の秘所は丸見えで、それに・・・ 実際に、そそり立ったカーマのモノが、褌ごしに、当たって・・・

 

「やっ・・・ いやっ・・・ こんな恰好・・・」

 いくらなんでも、こんな恰好は恥ずかしすぎる。

 でも、カーマがそれで許してくれるはずが無いというのも悪衣にはわかりきって・・・

 

「そうか、恥ずかしいか。

 なら・・・ 挿れるのは止めてやってもいい」

 

「え・・・?」

 しかし今回は、予想外の言葉が返ってきた。

 

「我慢できるのならな」

 

(じゅっ・・・ じゅっ・・・ じゅっ、ずちゅっ、じゅっ、ちゅっ・・・)

 

 

 そう言いながら、カーマは、褌をめくり、姿を再び現わした逞しい肉棒で、亜衣の秘所の表面を擦り始めた。

 

「あ・・・ あ・・・っ」

 先程までの、気を失いそうなほど激しい攻めとは違い、表面を擦るカーマの攻めは、わざと焦らす形で、もどかしい。

 それでも、前後に擦られるたびに引っかかるカリが、だんだんと悪衣の性感を高めていく。

 

「あふっ・・・ くっ・・・ は、あっ・・・」

 目を閉じて我慢をするも、じわじわと押し寄せてくる快楽の波に、つい声が漏れてしまう。

 

 カーマは一定のリズムで、悪衣の濡れた秘所の上に、肉棒を擦り付けては動きを止めるを繰り返した。

 

「あっ、ああっ・・・ そん、な・・・ やぁ・・・っ」

 ダメなのに、もうどうにかなりそうなのに、自分の女の証である場所からは、再び止め処なく愛液が溢れてきている。

 こんな風にもどかしい攻めをずっと続けられたら、そっちの方が辛くて耐えられない。

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

 それから、何分経ったか。

 

「は──・・・ はっ・・・ はあっ・・・ あ・・・」

 なんとか我慢しようとしていた悪衣は、もう限界だった。

 

「どうした? 挿れて欲しくないんじゃなかったのか?」

「やぁ・・・ こんな、意地悪・・・ しない、でぇ・・・」

 カーマの意地の悪い言葉に対しても、もはや悪衣は余裕がなくなってきている。

 

「じゃあ・・・ どう言えばいいのか、わかるな?」

 悪辣な笑みで、亜衣の反応を待つカーマ。

 

「ん・・・ ・・・・・・ いれ、て・・・

 悪衣は、顔を赤くしつつ、小さくなにかしら呟いた。

 

「聞こえんな。もっとはっきり言え」

 何を言ったかは分かりきっているだろうに、わざと聞こえなかった振りをするカーマ。

 

 

「・・・いじ、わる・・・っ」

「そうとも」

 

「・・・お願い・・・ もう、我慢できない、よ・・・」

「ふむ・・・」

 もっと焦らしてみたいところだが、本格的にヘソを曲げられても困る。

 

「・・・いいだろう」

 

 

(くぷぷっ・・・!!)

 

 

「はあっ・・・!! ひ、んっ・・・」

 ゆっくりと、悪衣の膣の中へと埋没していくカーマの肉棒。

 もう何度目の挿入になるか、大きなカーマの肉棒の亀頭を、亜衣の陰唇は今でもすんなりと受け入れはしない。

 

「くっ・・・ 最初の時ほどでもないが、よく締め付けてくれるな・・・」

 破瓜の時の強い締め付けとはさすがに比べようも無いが、それでも悪衣の、【天津亜衣】の膣は、どれだけ濡れていようが、いい具合に締め付けてくれる。

 これがカーマでなく、そして尚且つ油断していれば、挿入しただけで男は達してしまうかもしれない。

 

 それでも、カーマが徐々に身を沈めていくごとに、膣口は大きく広げられていき

 

(く、ぷっ・・・!)

 

 

 そして、カーマの亀頭は、亜衣の膣内に完全に入り込んだ。

 

「はっ、んぁ・・・!」

 焦らされていたモノの侵入に、一際大きな喘ぎ声を上げる悪衣。

 一旦亀頭の幅にまで広がった筈の膣口は、空気の欠片も洩らさずに、サオの部分をも包み込んでいる。

 その上に、亀頭が入り込んだその瞬間に、悪衣の膣はキュウ、と音をさせるように

 

「く・・・」

一瞬絞り込むような締め方で、カーマのモノを刺激した。

 

 ・・・素晴らしい。

 こんな素晴らしい感触には、出会った記憶が無い。

 正に天女の抱き心地と言うべきか、いや、そんな陳腐な例えでは到底表しきれるものではない。

 

「はっ・・・ ん、くふ・・・」

 まだ挿れただけだというのに、悪衣は全身で快楽を受け止め、桃色の吐息を放っている。

 それを見ていると・・・

 

「少し、本気を出してやる」

 本気を使えばどうなるかを、見てみたくなるものだ。

 

「え・・・?」

 カーマは、それまで足を掴んでいた両手を、悪衣の顔の両隣に着け、

 

 

(パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!)

 

 

「はっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ────!!?」

 突如、バタフライの要領で、とんでもない疾さのピストン運動を展開した。

 

 常人離れした運動能力で、亜衣の膣(なか)に出し入れされるカーマの肉棒。

 長く太いカーマの肉棒は、このより深く挿入る体勢で、子宮の入り口まで届き、突かれていた。

 

「やっ! ダメッ! もっ、と、ゆっ、く、り・・・ ひうぅっ!!!」

 制止の為の言葉すら、その激しすぎる快楽の前に押し流されてしまう。

 

 無意識に、寝具の布を握りしめる両手。

 繰り返される挿入と引抜のたびに揺らされる体と、波打つ胸。

 そして空中にぶらぶらと浮かざるをえなくなっている両足。

 

 それらを含めた悪衣の全ては、今や完全にカーマの支配下となっていた。

 

「はっ── はっ─── はっ─── はっ─── はっ───」

 もはや、何かを声に出す事もできない。

 何とか呼吸をしようとするだけで精一杯で・・・

カーマという獣欲の檻の中、快楽という責めを受け続ける中、それだけが、悪衣に出来るただ一つの行動と言えた。

 

 ぱちゅ、ぱちゅ、ぱちゅ、ぱちゅ。

 まるで水差しの中身をこぼしたかのような、自分の膣、体の内から外から聞こえる音でさえ、どこか遠くの音に思える。

 

 それはもはや、セックスではなく、攻撃。

 カーマは、凶々しい凶悪な槍で、私を壊そうとしていた。

 

「(やっ・・・ こ、壊れ、ちゃう・・・ カーマの・・・ カーマので・・・ 壊れ、ちゃうっ・・・!!)」

 もう、こうなっては悪衣も理性を保っていられない。

 

 何も考えられず、ただ快楽の海嵐の中、自分という船が難破しないように、呼吸を繰り返す。それだけ。

 

 だから、ふき出し、滝の様に流れる汗も

犬の様に口からだらしなく出した舌から流れ、喉を滑る唾液も

エクスタシーの臨界によってか、流れ頬を伝う涙も

 

何一つ、止める余力もなければ、それ自体に気付く余裕すらない。

ただ、これまでに経験したことも無い、ジェットコースターのような荒々しさと早さで、どんどん登りつめ、自分を支配し、更に自分では管理し切れない更に上へと昇っていく快楽の高波が、たまらなく怖かった。

 

 

「あ────っ!! ああ────っ!!! あ─────っっ!!!!

 喉を震わす、絶叫。

 

 もう、自分がどこかに言ってしまったのではないかとすらも、思考に出来ない。

 一際大きくビクンと震える体。

 

「くっ────!」

 それと共に、きゅうっ と音をさせて、再び、強く、カーマの槍は絞り上げられ

 

 

(びゅっっ! びゅるびゅるぅっっ!! どく、どく、どくどく・・・・・・)

 

 

「───────っっ!!!!」

 声にならない、楽器の音のような、絶叫。

 

 カーマがその熱い滾りを悪衣の膣内(なか)に注ぎ込むのと、悪衣がこれまでに知らない、言葉に出来ないほどの快感の中、絶頂し気を失うのとは、ほぼ同時だった。

 

「・・・・・・・・っ」

 悪衣が気を失ってからも、カーマの射精は留まりを見せず、どぷどぷと、悪衣の蜜壷を、白濁の蜜で満たしていく。

 

(ぬぷ・・・っ)

 

 やがてそれも収まり、ゆっくりと抜き放たれる肉棒。

 意識を失った悪衣は、ぽすんと横向きに倒れた。

 

 これまでになく大量に注がれた精は、悪衣の膣内に収まりきる事無く

 悪衣の、横向きに閉じられた両足の間から

ごぽ・・・ という音でも聞こえるのではないかという程の量と流れで、秘所の下に位置する右足の内股を流れ、寝具の上に広がり、愛液と混ざり、泡立った液体を晒す。

 

「・・・・・・・・・」

 カーマは、その光景にゾクゾクと心を躍らせた。

 雄の本能において、それは最も、雌に対する征服感を感じさせる光景だからだろうか。

 

 果てしなく官能的で、いやらしいそんな姿を見せながら、

気を失い眠っている悪衣の寝顔は、【亜衣】と何ら変わらない、あどけない純粋さを見せ付ける。

 

「・・・・・・・・・」

 何を思ったか、カーマは、眠っている悪衣の頬を、そっと撫ぜた。

 

・・・・・・」

 それに少しだけ反応を見せる、悪衣。

 

 そんな可愛らしい反応を見て、小さく笑うカーマだったが

 

【俺は何をやっているんだ? まったく、邪淫王(おれ)らしくない・・・】

 

 というような顔をして、すぐに手を引いた。

 

 それは、昔。純粋に人の幸せを、神々の平和を信じていた頃の、インディアの神の一人であった頃の感情だ。

 己を裏切った人と神に仇成す、同じ裏切りに散ったインディアの神々の無念と怨みを背負った・・・

穢れた邪淫王に相応しい感情では、ない。

 

「ふん・・・」

 カーマは、そのまま寝具の上に寝転がった。

 下らん感傷は、寝て消すに限る。

 

 そうして、カーマは、悪衣の隣で眠りに着いた。

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

       昼過ぎ

 

      旅館“山神” 玄関

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 いつかのように、玄関では、静瑠が戦士達の到着を静かに待っていた。

 唯一つ違う所はといえば、静瑠の右手首に包帯と添え木が巻かれている所ぐらいか。

 

 

「たっだいま────!!」

 そこへ聞こえてくる、葛葉の元気な声。

 

「あ、おかえ・・・」

 と、言いかけた所で、静瑠は思わず固まってしまった。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・ あ゛〜〜・・・ ・・・・・・・」

 

 コーチ役である葛葉と、修行に慣れている仁。

 その二人以外、つまり、麻衣、木偶ノ坊、那緒は、ボロッボロのカスッカスになっていた。

 3人共に、老人のように足が震えており、そして葛葉から寄贈された樫の木の杖によってやっと歩行が可能といった状態である。

 

「あ、あの・・・ 那緒さん。だ、大丈夫ですか?」

 葛葉の大声に気付き出て来た小百合は、まるで漂流生活でもしてきたかのような服になってる那緒に驚きながら安否を尋ねた。

 

「う゛〜〜〜・・・・・・」

 しかし那緒は、魂の抜けた表情で、ゾンビのような声で返事をするのみ。

 

 

「麻衣はん、お帰り」

 静瑠は、那緒と比べて比較的大丈夫そうな、麻衣に話しかける。

 

「あ、静瑠さぁん・・・ お久しぶりです。ええと・・・ 15日ぶり、ぐらい?」

 そんなみょうちくりんな発言をする麻衣の焦点は、揃っていないどころかバラバラだった。

 

「・・・・・・? (ああ・・・ 葛葉神社・・・)」

 一瞬何のことか分からなかったが、葛葉神社の能力の事を思い出すと、ポンと手を打ち、【合点がいった】の古いアクションを取る。

 確かに、葛葉神社での修行をすれば、15日ぶりぐらいにもなるだろう。

 

 

「おやおや、こいつぁ・・・ たっぷり絞られたみたいだねぇ」

 モップを片手に持ちながら、女将の紫磨も出てくる。

 

「ゴホゴホ・・・ お世話になりますですじゃ」

 杖で歩く3人に混じって、一人だけ腹巻きやどてら、老婆のカツラまで被った変なおばあさんが紫磨の隣を通り過ぎようとして・・・

 

「待ちな。そこの妖怪千年ババァ」

 紫磨に襟を掴まれた。

 

「何いきなり老け込んでんだい。万年ツルペタの癖してさ」

 

「いや〜・・・ わしだけ元気ピンピン物語っちゅうのも、何だか仲間外れの様な気がしての?

 っと、シマシマ。お主、今ツルペタと申したな?」

 

「言ったらどうだってんだい? 本当のことじゃあないか」

 悪びれの欠片も見せない紫磨。

 

「ふふふ・・・ これは、お仕置きの一つはせねばなるまいて」

 老婆のコスチュームのまま、闘気を放つ葛葉。

 

「ほー? やってもらおうじゃない・・・!?」

 売り言葉に買い言葉の途中で、急に掴んでいた襟の重さが変わった事に気付いた紫磨。

 

 なんと、葛葉の着ていたどてらや老婆のカツラは、丸太に装着されていた。

 

「空蝉(うつせみ)の術・・・!? 本体は・・・」

 その時、紫磨の耳に、ざあっ と、風を流れる音が入ってきた。

 

「そこかっ!」

 手にしたモップを振り上げた紫磨だが

 

(スタッ───)

 

 

 いつもの格好に戻っていた葛葉は、そのモップの上に難なく着地した。

 

「な・・・」

 驚く紫磨。

 

「ふっふっふ。お主が杖を離せばスキだらけの顔面にわしの葛葉キックが飛ぶ。

 かといって杖を持ち続ければ腕が疲れてしまう。どちらに転んでも王手はわしの手の中。

 名付けて【葛葉杖上の術】。さあ、どうする?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 確かに葛葉の言うとおり、どっちをやっても葛葉の思うツボ。

 しかし・・・

 

 

(パッ・・・)

 

 

 紫磨は、あっさりとモップを両手から離した。

 

「かかった!!」

 モップの上を駆けながら、足を振りかぶる葛葉。しかし

 

 

(パシッ!)

 

 

 紫磨は一旦離したモップを、また握り直し・・・

 

 

 

(ガンッ☆!!)

 

 

 

 何の容赦も無く、思いきりフルスイングで、葛葉の内股にモップの柄をヒットさせる。

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 葛葉を始めとして、固唾を呑んで二人の戦いを見守っていた面々は、全員フリーズした。

 

「(うわぁ・・・ いたたた・・・)」

麻衣に至っては、内股に手をやり、まるで自分が痛そうな顔をしている。

 

そんなフリーズ状態が続く事、数秒。

 

 

「ぐわ、がら、げらっ・・・!! うげげげ・・・」

 奇妙な呻き声を上げながら、グシャッと崩れ落ちる葛葉。

 

「ハン。未熟未熟。まだまだ修行が足らないねえ」

 紫磨は良心の呵責とかそういったものは欠片も見せず、ポイとモップを玄関に放る。

 

「(えげつな・・・)」

 と、心の中で思う静瑠。

 葛葉様の無謀ぶりもよろしくなかったが、母、紫磨の、えげつないほどの容赦の無さは実に恐ろしい。

 

 

 

「葛葉様・・・ 大丈夫ですか?」

 仁は、純粋な心配で、葛葉に駆け寄る。

 

「ううう・・・ 鉄棒のトラウマが〜〜・・・ ウルトラC失敗のあの日の悲しみが〜〜・・・・・・」

 葛葉は、痛そうに両手で股を押さえ、擦りながら、そんな事を呟いていた。

 

「・・・やってたんですか?」

「・・・放浪生活中、公園で子供達の前で見本見せようとして・・・ ウルトラ技に挑戦したのがまずかった・・・

 あいたたたた〜〜・・・・・・ ・・・・・・・!」

 

  元気なく独白している途中で、いつものようにギャグを思いついたような顔をする葛葉。

 

「おっとと、いかんいかん・・・」

 しかし、即ボツにしたのか、すぐに自分で首を横に振り、なんとか立ち上がった。

 

「なんだか言いたそうじゃないか」

 で、紫磨はそれをなんの躊躇いもなしに聞く。

 

「いや、その・・・ 思いつきはしたものの、すごくエゲツナい下ネタじゃったんで・・・ 心の中だけにしまっておきたいというか」

「はーん・・・ そうかい」

 それ以上は、さすがに紫磨も聞く気になれなかったのだろう。

 葛葉がそう言うからには、きっとドン引きするほどのしょうもない下ネタだろうということは、長年の付き合いで分かりきっている。

 

 

 

 そうして、葛葉、麻衣、木偶ノ坊、那緒といった負傷者、疲弊者の面々は、それぞれの部屋に向かった。

 

 

「まあ・・・ なんというか。とにかく皆、頑張ってましたよ」

 修行をしていた面々の中で、唯一杖を使わず歩いている仁は、そう隣の静瑠に話した。

 

「・・・そうみたいやね」

 ふふっ、と。微笑む静瑠。

 

「これは、晩は腕によりかけてスタミナつくやつ作らへんとねえ」

「ええ、頼みます」

 

「・・・でも、寝られへんようになっても知らんよ?」

 ニッコリと、影を含んだ笑い方をする静瑠。

 

「・・・・・・そういうのは、止めてください」

 困った顔をしながら、仁はそう言った。

 

「あ。わし、きつねうどん。 きつねたっぷりでよろしく〜〜〜」

 葛葉は、既に姿が見えなくなっているのに、角の向こうヒョコッと顔を出し、そんな注文をしてきた。

 

「・・・聞こえてたんですか」

 人間の耳では聞こえようの無い距離だったというのに、仁は呆れるやら感心するやら。

 

「ふっふっふ。キツネイヤーは地獄耳じゃ」

 そう言いながら、頭の上のキツネ耳をピョコピョコ動かす葛葉。

 

「・・・ネタが古いんだよ、まったく」

 反射的にそうツッコむ紫磨。

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

     夕刻

 

    旅館内  食堂

 

 

 

 

「はぁぁ・・・・・・」

 机の上に突っ伏した状態の麻衣は、魂が抜けたかのようなため息を放っていた。

 

 あれから、部屋で少し休み、疲れを取ったものの、それでも

 

「お疲れ様どすなぁ、麻衣はん」

 そんな麻衣の様子を見て、苦笑しながら隣に寄る静瑠。

 

「そうなんです・・・ 大変でしたぁ・・・」

 空気の抜けたかのように、机に力なく突っ伏しながら、

へにょへにょな声で話す麻衣。

 

「はい、ミルクティー」

 静瑠は、疲れきった麻衣に気を利かし、

おしゃれなカップに入ったミルクティーを、麻衣に差し出した。

 

「あ・・・ ありがとうございましゅ・・・」

 最後の方は呂律を少し間違えながらも、

手を伸ばして、コタツに入ったおばあちゃんのようにミルクティを啜った。

 

 

(ずず・・・ ゴク、ゴク)

                                                         

 

「・・・・・・ あ。おいしい・・・!」

 香り立つ紅茶自身の深みと味わいもさることながら、何より、入っているミルクが絶品だ。

 

 そのまろやかさ。コク。まったりとした口の中の広がり。正に醍醐味。

 しかしながら、主張をしすぎて紅茶の味や香りを邪魔する、などという愚挙は、全く侵していない。

それどころか、逆にパートナーとして引き立たせ、1+1を10にも20にもしているような・・・

 

「静瑠さん・・・ これ、すごくおいしいです・・・!」

 さっきまでの疲労困憊を忘れたかのように、無邪気な笑みでミルクティを絶賛する麻衣。

 

「おおきに。少しでも元気になってくれはったみたいで、ウチも嬉しいわ」

 対する静瑠も、満面の笑みでそれを受け止める。

 

「これ、どこのミルクなんですか?」

 という麻衣の質問に対し

 

「・・・ 秘密♪」

 一瞬だけ黙ったあと、小悪魔的な笑みでそう答える静瑠。

 

「えぇ〜〜〜〜?」

 素直に残念がる麻衣。

 

「・・・なんで麻衣センパイだけ? あたしの、普通の紅茶なんだけど・・・」

 と、向かいに座っていた那緒が不満を洩らす。

 

「ごめんねぇ。もう出な・・・  ええと、パックの残りもうないんよ」

「・・・・・・?」

 何故か途中で言い直した静瑠に、那緒は?マークを頭上に浮かべた。

 

 

「案外、静瑠のその豊満なオチチかもしれんのう?」

 そこで突然、葛葉がしたり顔で、ヒャヒャヒャと笑いながら下品な親父ギャグを放つ。

 

「あははは。葛葉様ったら、そんなわけないじゃないですかぁ。ねぇ? 静瑠さ・・・」

 苦笑しながら振り向く麻衣だったが

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 何故か、静瑠は真横を向いて視線を逸らし、黙ってしまった。

 

「・・・・・・・・・ え?」

 そこから先は、麻衣もなんとなく、怖くて聞くに聞けなかったという・・・

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

    それから十数分後

 

 

 

 

 ニンニクの素揚げや、カキフライ。アボガドの醤油マヨネーズ和え。ガーリックステーキ。ニンニクラーメン。

 次々と並べられた様々なスタミナ系料理を、麻衣、那緒、木偶ノ坊は、ビックリするほどの勢いで、ガツガツと平らげていった。

 

「いやはや、素晴らしい食欲ですなぁ」

 人材の都合上、自身もキッチンに立っていた瀬馬爺が、そんな感想を洩らす。

 さすがは形から入るタイプ。エプロンから長いコック帽まで被った料理人姿は、実に瀬馬爺に似合っており、元から料理人のようだ。

 

「葛葉神社は日数を肌で感じる割りに、肉体時間は外と変わらんからの〜。

 本人達にしてみれば、15日間水だけで他は食わず食わずの状態みたいに感じたんじゃろうな。

 それに、めっちゃ腹が減るほどコキ使ったし」

 

「そのようですな」

 苦笑する瀬馬爺。

 

「しっかし、お主。 また料理の腕が上達したんではないか?

 このうどんの麺にしても、まるでプロのうどん打ちが打ったかのようなコシじゃ」

  箸でうどんを掴み、ぐい〜〜と伸ばしながら、瀬馬を褒める葛葉。

 

「こう見えましても、和風、中華、果てはイタリア、フランスと料理修行を・・・」

「あ〜はいはい。そしてインドでカリーの神に極意を教えて貰ったんじゃろ?」

 その話は耳ダコだとばかりに、早々に切り上げる葛葉。

 

 

 

 

 それぞれに食事を終えた、麻衣達。

 

「・・・あれ? 助っ人のお二人というのは、まだ来てないんですか?」

 そこそこ喋れる程度の元気を取り戻した所で、麻衣は話に聞いていた助っ人らしき人物がいないことに気付いた。

 確か、朝の時点では、夕方には着いていると聞いていたのに。

 

「それなんやけどねえ・・・ なんか遅れてるらしいんよ。

 せやかて、もういいかげん着く頃やとは思うんやけど・・・」

  と、静瑠が言いかけたところで

 

「あ〜〜〜〜 腹減ったぁ────────っ!!!

 

 

「!!?」  「!!?」  「!!?」

「!!?」  「!!?」  「!!?」  「!!?」

 

 

常人よりも遥かに大きな声に、皆が驚いて入り口の方を見つめた。

 

 

「・・・明菜?」

 ただ一人。静瑠だけが、まだ姿を見せない割りとハスキーな女の声に対し、その名を出した。

 

「お────っす! 静瑠ぅ!!」

 入り口から姿を現わしたのは、とても背の高く、逞しい女性。

 

 身長は、平均的な身長の静瑠よりも頭一つ分は大きいのではないかというほどに高く

 袖の部分が破けた、白色の胴衣と鉢巻という、女らしからぬ格好の上から見える肌は、健康的な褐色で、美しいラインを持ちながらも、その肌肉の下には、理想的なまでに絞り込まれた筋肉が伺える事から、彼女がかなりの鍛錬を経験している事が存分に分かる。

 

 一瞬、その逞しさと漂う漢気とも言えそうなオーラからは、男性と見間違えそうではあるが、

 そうはさせないものが、二つ。

 

 一つは、天然の赤色が入った長い髪。

 静瑠のような手入れの行き届いた、艶のある長髪とは違い、自然児を感じさせる男性的な髪質だが・・・

それでも彼女には似合った、勇ましくも美しい髪である。

 

 そしてもう一つは、無造作に開いた胴衣の胸元にある、静瑠ほどではないものの・・・ 大きな、谷間。

 胸を隠している胴衣の部分も、多少押さえられているものの、大きな隆起が、彼女の性別をこれでもかと強調している。

 

「変わらしませんねぇ。明菜も」

「はっははは。会うたびに変わってたまるかって」

 豪快に笑いながら、バンバン静瑠の背中を叩く明菜。

 

 すごい力なのか、叩かれるたびに前へよろめいてしまうが、静瑠はそれでも笑顔だった。

 そんな二人の様子を見るに、おそらく、長年の親友なのだろう。

 

 

 

「元気すぎて、私は困りましたけどね」

 そこへ、入り口の方からまた新しい人物が現れた。

 

「風螺華(ふらか)・・・?」

 またしても、静瑠はその人物を知っているらしい。

新しく現れた、風螺華と呼ばれた女性は、明菜と比べ、かなり対照的な印象だった。

 

 明菜と比べればさすがに低いが、それでも170センチは超えていそうな身長。

 服装はというと、ぴっしりとした紺色のリクルートスーツ上下とネクタイという、何とも凛々しいもの。

 髪型も、明菜とは対照的に、ぺったりとしたショート。

 

 ハーフリムの眼鏡を、人差し指と薬指を使ってクイッと上げる様まで合わせて、中性的且つ、理知的な印象が強い。

 ・・・そして、静瑠も明菜も美人だが、風螺華という人物もまた、【知的な美人】という言葉が似合う。

 

 それは

 

「(わあ・・・ 宝塚の人みたい・・・)」

 そんな風に麻衣が思い、呆けてしまうほど。

 

 

「まったく、あなたという人は・・・」

 風螺華は、一緒にやって来た明菜に対して不満があるらしい。

 

「何だよ? また小言なら、飯食った後にしてくんねーかな?」

 後ろ頭をポリポリ掻きながら、実に面倒臭そうに言う明菜。

 

「ほう・・・ そういう態度ですか・・・」

 それに対して風螺華は、切れ長の瞳をキッと明菜に向けた。

 

 

「旅館の中で大声はやめなさいと言ってるんです! 付くなり靴の泥も落とさず全速力で・・・

本当に、ここに来るまでも電車では雷のようなイビキは掻くわ、バスの停留所で地元の不良とケンカはするわ・・・

 おかげで私は睡眠時間が全く取れず、挙句の果てにはしなくてもいい事後処理までしなくてはならず、結局予定していたこの旅館への到着時間にはどれだけ遅れたと思っているんです!? 2時間ですよ2時間!!!」

 

 右手の指で2を作り、明菜の目の前にチラつかせる風螺華。

 ここまでのやり取りで、二人が根っからの、完璧神経質A型タイプと、いいかげんで気分屋なB型タイプのコンビだということ。

それが見て取れた。

 

「あー、そりゃ悪かったって。

 でも仕方ねぇだろ? イビキは俺の意思じゃねえし、元はと言やあ、あいつらが子猫を苛めてやがったから・・・」

 

「別に子猫を放っておけとは私も言いません。しかしですね。何の注意も無くいきなり出会い頭のドロップキック。

そこからどうやれば、地元の不良チーム全員とのストリートファイトになるんです? 是非お聞かせ願いたいですね」

 風螺華はこれでもかというほど、言葉に皮肉と怒りをたっぷり詰めている。

 

「まーいーじゃねーか。夕飯時に着いたんだから」

 ハッハッハと。明菜は豪快に笑い出した。

 

「・・・・・・」

 反省の色を欠片も見せない明菜に、風螺華も堪忍袋の緒が切れたらしい。

 

 

「・・・・・・何度も何度も、私が毎回どれだけフォローに労力と時間を要しているか考えもせず・・・

あげくに同じ事を何度も繰り返しては反省もしない!! 猿ですかあなたは!!

 

 ハーフリムの眼鏡を右手人差し指と薬指で持ち上げながら、辛辣な注意、いや暴言を明菜に放つ風螺華。

 

「何ぃ!? いくらなんでもサルはねえだろサルは!!」

 いきなりのサル呼ばわりに対し、明菜は憤慨する。

 

「人間であることを証明したいのならせめて最低限のTPOを弁えて下さい!

 まったく、何故あなたのような豪放磊落で下品で幼稚な人が不動明王の資格を得たのやら・・・」

  本音で【理解できない】を全身で、肩を落とす形で表現する風螺華。

 

「・・・・・・おーおーおー。上等だぁ。 表に出やがれ!!

「外に出られるならお一人でどうぞ。そのまま山にでも篭もって頂けたらこの上ありませんが」

 

 バチバチと、二人の視線の間で火花が飛んでいる。

 

「ちょっとちょっと。明菜も風螺華も、こんな所でケンカせんといて」

 そこで、ようやく静瑠が仲裁に入った。

 

「止めないで下さい。静瑠」

「あー。今日こそはこの理屈屋の眼鏡女と決着付けてやらぁ」

 

「なっ・・・! 眼鏡は関係ないでしょう!!」

 風螺華の憤慨は、自身に対してというより、明らかに眼鏡に対してである。

 

「カチャカチャカチャカチャしょっちゅう眼鏡上げ直しやがって、気になるだろーが!!」

「猿人には眼鏡のファッション性はわからないんですよ!!」

「んだとぉ!!?」

 

 

「いーかげんにしおし────っっ!!!」

 

 

(キ───────ン・・・・・・・・・・・)

 

 

 大迫力の大声に、その場の全員が耳を塞いだ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 明菜と風螺華も、完全に勢いが止まってしまう。

 それどころか、二人とも耳鳴りでダウンしていた。

 

 

「ほんまお二人さん、相変わらずやねえ・・・

 でも、旅館の中で騒ぐのはやめて欲しいわ」

 

「あ、あぁ・・・」

「す、すみませんでした・・・」

 二人とも、すっかり静瑠の一括に呑まれてしまったらしい。

 

「ほら。まずは自己紹介しはったら?」

「ああ・・・」

「そうですね」

 

 鶴の一声。静瑠の提案で、置いてけぼりにされていた他の面々への、自己紹介が始まった。

 

 

 

「俺の名前は、不動明菜(ふどう あきな)。

 元死斗龍(デストロン)23代目総長。武神剛杵壱番。【不動】に選ばれちまった腐れ縁で、逢魔やってる。

 ちなみに、静瑠とは物心ついた頃からの親友(マブダチ)。 なぁ?」

 

  静瑠の方に振り向き、同意を求める明菜。

 

「そやね」

 フフッ、と。食器の整理をしながら微笑む静瑠は、本当に明菜とは深い友情で繫がっているんだろう。

 

「です・・・ とろん?」

 麻衣は、その聞き慣れない単語に耳をかしげた。

 

「んなっ・・・!? 麻衣・・・ センパイ。あの伝説の、死斗龍(デストロン)知らねーの!!?」

 それに対して、それまで憧れの視線を明菜に無言で送り続けていた那緒が、素っ頓狂な声を上げた。

 

「え・・・ うん」

 麻衣は、素直に頷く。

 

「し、し・・・ 信じらんね────!! 死斗龍っつったら、日本中に名を轟かせた最強の走り屋チームだってのに!!」

 本当に信じられない物を見る目で驚く那緒。

 

 

「オイオイ那緒。死斗龍っつったって、全盛期だったのはもう6年も前の話だぜ? 今のヤツが知らなくても無理はねえだろ?」

 と、那緒の方に近づきながら、優しく話しかける明菜。

 

「・・・ハ、ハイッ!!!」

 ガタタッ! と椅子の音をさせながら、那緒はピンと【気をつけ】の姿勢になる。

 無理も無い。元々那緒は、逢魔の戦士でありながら伝説の暴走族だった明菜に憧れて、逢魔の戦士になったのだ。

 そこら辺は、赤いメッシュを入れてある那緒の髪色からも見て取れる。

 

「・・・・・・・・・」

 それをなんとなく空気で悟った麻衣は、自然と那緒を見ながら、なんとなく笑顔になっていた。

 

「・・・・・・何?」

「え? あ、ううん。別に」

 そして、慌てて視線を逸らす。

 

 

「武神剛杵の使い手・・・ ぞなもしか?」

 麻衣は死斗龍の方に感心が行ってしまったが、木偶ノ坊はきちんと武神剛杵の方に注目した。

 

「ああ。そう・・・ ・・・・・・!?」

 木偶ノ坊の質問に振り向いた明菜は、その瞬間に時間が止まった。

 

「どないしたん?」

 そんな明菜の様子を見て、静瑠が近寄る。

 

「(なあ・・・)」

 明菜は、そんな静瑠の肩に腕を掛けて、ヒソヒソ話を始めた。

 

「(な、何・・・?)」

「(あいつ、誰だよ?)」

 目配せで木偶ノ坊を指しながら、尋ねる明菜。

 

「(天津の守護戦士をやってはる。木偶ノ坊はんやけど・・・ 明菜。まさか・・・)」

「(いや、だってよ。アイツ、俺より背高いし、すっげえ筋肉もあるじゃん)」

 

「(・・・・・・ 人の好みにどうこう言うつもりは無いし、あんたが顔なんかより、182センチの自分より背が高いか、筋肉があるかに重点置いてるのは知ってますけど・・・ 正直、趣味悪いんと違う?)」

 

「・・・・・・?」

 静瑠の随分と酷い言い様は、木偶ノ坊には聞こえていない。

 

「(決めた。俺、絶対アイツGETする!!)」

 拳を握って、小声で決意をする明菜。

 

「(・・・・・・ まあ、頑張って)」

「(おう! ・・・静瑠も、さっさと新しい恋見つけろよ)」

 最後に、明菜の表情は、真剣に親友を想うものに変わっていた。

 

「(・・・・・・・・・ そやね)」

 静瑠も、その一瞬、なんとももの悲しい表情を浮かべつつ、視線を下に落としていた。

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

「さて、次は風螺華はんの自己紹介の方やけど・・・」

 静瑠が風螺華に自己紹介を促そうとするが

 

「あら・・・?」

 風螺華は、最初の立ち位置にはいなかった。

 食堂内を見渡すと・・・

 

「おや?」

 食堂から、何十杯もの牛丼を器用に持ち出してきた瀬馬爺。

 その数歩前に、風螺華が立っていた。

 

 そして

 

 

「お久しぶりです。お爺様」

 と、風螺華は、自分の祖父に、頭を深々と下げる、丁寧な挨拶をする。

 

 

「え・・・ ええっ!!?」

 その発言に、麻衣は驚いた。

 

「瀬馬殿の、ま、孫娘であらせられたぞなもしか!!?」

 木偶ノ坊も、驚いた。

 

 いや、瀬馬爺の年齢なら、孫の一人や二人いてもおかしくないが、二人とも、何となく瀬馬爺を一人身というイメージを固定しまっていたらしい。

 

 

「私の名は、瀬馬 風螺華(せば ふらか)。瀬馬棲胆は、私の母方の祖父に当たります」

 カッ、と靴音をさせて、規律正しく振り向くと、瀬馬 風螺華は、キビキビと自己紹介を始める。

 

「戦闘においては、近距離、中距離、遠距離と、一応全般的にこなせますが、得意は遠距離からのアシストです。

 武神剛杵のナンバーは参番。【広目天】の資格者を担っています。

 年齢は22。血液型はA。10月生まれの天秤座。趣味はウインドウショッピングとダーツ。

カモフラージュ用の表の職業として、2年前に高校、中学、小学の教員免許を取得しました。一応・・・ 教職者です」

 

  早口でスラスラと自己紹介を読み上げる所などは、なるほど。瀬馬爺の孫娘だ。

 教師というのも、「ああ、なるほど。ピッタリだ」と、麻衣、木偶ノ坊の両者はスンナリと納得した。

 

 

「は〜〜・・・ まさか、武神剛杵の使い手二人をそのまま送ってくるとはの〜〜。

 梗子のヤツ。なかなか太っ腹っちゅうか、大胆っちゅうか・・・

 それにしても、京都弁に巨乳に妹にツンデレに男勝り系に中性宝塚系にメガネっ娘。

 ・・・色々取り揃えて来おったのう」

 

  そんな事を言いながら、ニヤニヤと笑う葛葉。

 

「・・・何の話ですか?」

 と、仁。

 

「ああイヤイヤ。こっちの話・・・」

「下らない事を分析してんじゃないよ。お笑い担当」

 厨房で野菜を切りながら、紫磨は葛葉に容赦ない一言をかます。

 

「ぬがっ!!?(ガアアアァァァァン!!!!)」

 言葉の刃に心臓を貫かれた葛葉は、ゆっくりと崩れ落ちた。

 

 

「まあ、それだけ今回の戦争(ケンカ)がでっけえ、ってことさ。

 俺はワクワクしてるぜ」

  パンッ、と掌と拳をぶつけ、不敵な笑みを浮かべる明菜。

 

「・・・しかし、お爺様や紫磨さん。静瑠の様子を見ると、聞いていたよりも大事のようですね」

 風螺華の方は、眼鏡を上げ直しながら、冷静に戦況を予想している。

 

「ま、泥舟に乗ったつもりでいろよ」

 ハッハッハと、豪快に笑う明菜だが

 

「・・・大船です。沈みたいんですか貴方は」

 何とも呆れたと言いたげなため息を放ちながら、明菜の天然ボケにつっこむ風螺華。

 

「うぐ・・・っ」

 こればっかりは完全な明菜の間違いであるばかりに、明菜は何も言い返せない。

 

 

「そういえば、もう一人は?」

 二人に尋ねる静瑠。

 

「あ、そういや・・・」

「忘れていましたね。入り口までは一緒だったと思いますが・・・」

 

「もう、一人・・・?」

「ぞなもしか・・・?」

 麻衣と木偶ノ坊の二人が、聞いていない【もう一人】に疑問を持った時

 

 

「麻〜〜〜〜〜〜〜衣っっっ!!!!」

 

 

(ぎゅうう〜〜〜〜〜っっ!!!)

 

 

 突然、麻衣の背後から何かが抱きつき、服越しに柔らかな麻衣の両胸を、鷲掴みにする。

 

「きゃあああああああっっ!!!?」

 いきなりの事にびっくりする麻衣。

 

 そして

 

「きゃ・・・ あれ? ・・・鬼麿様っ!!?」

 立ち上がり下を見ると、そこにいたのは、他ならぬ鬼麿様だった。

 

「わ・・・ 若っ!!?」

 当然、木偶ノ坊も驚く。

 

「おー! 久しぶりじゃの、麻衣! 木偶ノ坊!! ・・・麿は淋しかったぞ?」

 そこにいるのは、いつもと何ら変わらない、下品で元気な鬼麿様だった。

 

「お、お・・・」

「「鬼麿様ぁ〜〜〜〜〜っっ!!!」」

 

「うぎょっ!!(ぎゅううっ!!)」

 実質的にはたった1,2日ぶりなのに、感極まって、二人は鬼麿に抱きついた。

 

 急に抱きつかれてジタバタする鬼麿だったが、それでも

 長い時を戦い、共に暮らしてきた面々だからこその絆を、3人は確かに感じとっていた。

 

 

 

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 

 これで、武神剛杵の使い手はほぼ全員登場。正に集結。

 武神剛杵の戦士達は元々別の、僕のオリジナルのお話から引っ張って来たキャラ達なんですが、まさか全員出せるとは・・・ いやはや。

 

 XYZを書き始めた当初は、まさか亜衣より木偶ノ坊の方に先に相手を用意できる事になるとは思ってませんでした。

 まあ、ずっと姉妹への片思いで終わらせるのも気の毒なので・・・ でも木偶ノ坊が春をGET出来るかどうかは本人次第(ぇ

 



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