旅館“山神”付近  広場

 

 

 

「お主ら〜。眠気はちゃんと取れたか〜〜?」

 

 旅館から少しだけ歩いた所にある、野球の一つや二つは出来そうな広場。

 そこに、麻衣。木偶ノ坊。仁。葛葉。そして・・・ 

 

「紫磨バァさんに叩き起こされたのは誰だよ」

 那緒。

 

 強くなる事に一生懸命な那緒は、深夜の特訓だけではなく、麻衣達と同じ修行をも受ける事を希望したのだ。

 

 

「ぬが・・・ まったく。人の揚げ足を取る奴っちゃの〜〜。

 まぁよい。まずは・・・」

 

「その前に、質問なんですけど・・・」

 おずおずと、手を挙げる麻衣。

 

「ん〜? 何じゃ?」

「その・・・ 葛葉様の、恰好というか・・・」

 非常に言いにくそうに、言いよどむ。

 

「わしの恰好が何か変か?」

「・・・どうして、サングラスなんですか?」

 そして遂に、疑問点を口にする。

 

 葛葉は、何故か今回サングラスをしていた。

 それも、目の動きが見えないぐらいの非透明な。

 

「今日は日差しが強いからの〜」

 いや、そんなに強くはない。

 

「・・・じゃあ、どうしてアロハシャツなんですか?」

 続けて麻衣は、次の疑問点を口にする。

 

「涼しいからのう」

 ・・・いや、それでもアロハシャツを着るには少し早い。

 

「・・・・・・どうして、仙人っぽい付け髭と、仙人っぽい杖と、ハゲのカツラを?」

 埒が明かないと思ったのか、麻衣は疑問点を全部ぶつけることにした。

 

「何言うとるんじゃ。これこそ元祖修行イベントの正装じゃろ。

 お主らも着るか? 亀マークの服」

 

  そう言って、リュックからどこかで見たような亀マークの武闘服を取り出す、どこかの仙人のような恰好の葛葉。

 

「「「・・・結構です」」」「イヤだ!」

 返事は0.5秒で帰って来た。

 

「ちぇ〜〜〜・・・」

 見た目の年齢どおりの可愛い拗ね方で、慣れた手つきでカツラや服を畳んでリュックに詰め直す葛葉。

 

 

「早く本題に入ってくれませんか?」

 と、仁。

 

「うむ、では・・・ お主らの士気を上げる為に、今回わしが夜なべして考えた作戦名を伝える!

 その名も・・・                XYZ作戦!!!」

 

 

  葛葉は、大きな声でその作戦名を叫んだ。

 

 

「XYZ・・・」

「作戦・・・!?」

「それは、どういう作戦なのですか?」

 それぞれに疑問を述べる、三者。

 

「うむ。 麻衣、木偶ノ坊、仁。

 お主らは、アルファベットのXとYとZじゃ。お主らの内一人でも失敗、或いは欠けてしまえば、この作戦は成功せん。

 そして・・・ XYZの後ろにはもう文字は無い。

つまり・・・ お主らが失敗してしまえば、“もう後は無い”ということじゃ。

亜衣は救えんし、カーマの勢力は勢いを増し、この日ノ本の国を飲み込むじゃろう。

お主らの背負う部分は、大きいぞ?」

 

 さっきまでのおちゃらけはどこへやら。

葛葉の表情は、また真剣なものになった。

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 その使命の重さに、3人は沈黙する。

 

 

「無論、わしもこの作戦には参加する」

 真剣な表情のまま、葛葉は自分の参加を表明した。

 

「葛葉様が!?」

 驚く麻衣。そして皆。

 

「只でさえ人手不足じゃからの。

 頼りは静瑠の武神剛杵と、紫磨の牙弁羅、撃斗羅だったんじゃが・・・ 片方は利き腕を粉砕骨折。片方は式神が大破。

 オマケに、邪淫王側・・・ 特にカーマの力は悪い意味で予想外。

 これでは、最初に考えていた戦力と作戦を変更せざるを得ん。

 

 今夜辺り、新しく2人増援が来るようじゃが・・・ わしの占いではそれでも足りん。

 こんな年寄りでも、使える限りは出陣せんとの」

 

  腕を組み、眉を寄せながら、冷静に戦力を分析する葛葉。

 

「増援・・・ ぞなもしか?」

 増援という言葉に最初に反応した木偶ノ坊。

 

「うむ。しかし梗子のいる安倍本家も、天津がほぼ壊滅した今となっては、日ノ本全体の守りの要じゃ。

わしが薫ならば、狙わん手はあるまい。

じゃから当然守りは固めねばならん。梗子の心内(こころうち)はともかく・・・

こっちによこせる限界っちゅうもんがある限り、あんまり期待してはいかん。

あくまで、わしらだけで・・・ カーマ達を倒せる計算とつもりでなくては、勝てまい」

 

「「「・・・・・・・・・・・」」」

 三人は、共に沈黙する。

 

「・・・・・・・・・」

 そして、一人、何とも言えない顔をしていたのは那緒だった。

 

 それもそうだろう。その作戦に、自分の居場所はどこにも無いのだ。

 自分が戦士として使えるのは一ヵ月後・・・

葛葉の言う通りなのは、自分が本当は一番分かっている。

 

「(ギリ・・・ッ)」

だからこそ、悔しかった。

 

 こんな重要な時に、自分は戦力としてすら数えられていない。

 もし参加しても、戦力どころか、役立たず。

 場合によっては、チームの弱点や人質にすらなりかねないということ。

 

 絶対に強くなる。

 この場にいる誰よりも強くなってやる。と

 那緒は心の中で、そう強く誓った。

 

 

「それで、厳密な作戦内容じゃがな・・・ ホレ、近ぅ寄れ。苦しゅうない程度に」

 葛葉の手招きに近寄る四人。

 

 そして、作戦の詳しい内容が知らされる。

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

「・・・・・・本当ですか!?」

「本当にそんな・・・ 奇跡みたいな事が・・・」

「出来ますぞなもしか!?」

 

  三人は、その作戦の大胆さに、驚かざるをえなかった。

 

「確かに奇跡じゃな。

 じゃが、これが一番いい方法であることは間違いない。

 ・・・わしら一応正義の味方、ヒーローじゃからな。確率は低くても、皆が納得できる方を取るべきじゃろ?」

 

  ニカ、と笑う葛葉。

 

「でもさぁ。身内の安全とか、確実性から考えるのも必要じゃないの?」

 那緒の指摘は尤もだ。 

 

「何じゃ? やる前から後ろ向き発言だのう。

 【奇跡は起きます! 起こしてみせます!!】ぐらいの心意気で行かんかい!! ついでにトップも狙え!!!」

 

「・・・・・・発言がギリギリなんだよ。いっつも」

 那緒の静かなツッコミ。

 

 

「葛葉様」

 仁が、静かに一言。

 特にそれ以上言うことなく、葛葉に話を進めることを促す。

 

「ん? おお、そうじゃの」

 コホン、と咳払いを一つ。

 

「では、まずは見せてやろう。

 何故わしが、三種の神器入手者に対する修行役であるのか・・・」

 

  そう言いながら、葛葉は狐の模様を象った錫杖を振り回し

 

オンキリキリバサラ・・・」

 術式を唱え、短く舞うと

 

ウンダッタ!!!」

 

 

(ガッ────!!!)

 

 

 勢い良く、錫杖の尻を、大地に突き刺した。

 

 

(ピカ────ッ!!!)

 

 

 その途端に、錫杖を中心として、眩い黄金色の光が辺りを包んだ────

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

「・・・・・・・・・え?」

 あまりの眩しさに目を隠していた麻衣は、再び目を開けたその瞬間の光景に、そんな一言を洩らした。

 ついさっきまで、特に何も無い広場にいたのに、ここは・・・

 

「神社・・・?」

 そう、神社。

 しかも、すごく広い。

 

 入り口の狛犬は、狛犬ではなく狐。

 長く続く鳥居と、敷石は広く立派なのに、社は仏壇並みに小さい。

 そして、その社には大きく、【葛ノ葉神社】という看板が・・・

 

 

「これがわしの固定空間。“葛ノ葉神社”。

 息子にだけ神社があるというのも、母親としては立つ瀬が無いからの」

 

「息子・・・? ああ、清明神社・・・」

 確か、どこかは忘れたけど、少し前の安倍清明ブームこと、陰陽師ブームの時に何かと有名になった神社だったと思う。

 

「ちなみに、お供え物はオイナリ。油揚げも可。・・・お、美味そう」

 そう言う葛葉は、旅館で作らせてでもいたのか、さっそく笹の葉に包ませていたイナリ寿司を取り出し、頬張る。

 

「おー♪ 相変わらず瀬馬の作るイナリ寿司は絶品じゃなあ」

 説明も忘れイナリ寿司に夢中になる葛葉の姿に、ある者は呆れ、ある者は呆然とし、

 そして麻衣だけは、「(おいしそう・・・)」と、葛葉に負けず劣らすな天然ボケを脳内で発揮していた。

 

 

「・・・好きなのは知ってますが、食べるのは後にしてくれませんか」

 葛葉の食事を困った顔で注意する、仁。

 

「・・・うぐっ! おぐぐっ・・・」

 器官に入ったのか、むせ返り、胸をドンドン叩く葛葉。

 

「わっ!? だだ、大丈夫ですか!?」

 優しい麻衣は、いち早く慌てて葛葉の背中を擦る。

 

「うゲホッ! ゲフンゲフンッ・・・ ゲフ、ゲフ・・・」

 そんな麻衣の温情のおかげで、なんとか落ち着いてきたようだ。

 

「ケホケホッ・・・ すまんのう麻衣さんや・・・」

「必要以上にバアさんになってんじゃねーよ」

 落ち着くや否やギャグをかます葛葉に、那緒が冷ためのツッコミをいれる。

 

 

 

「・・・葛葉様。神社のご説明を」

 温厚な仁も、少しだけ語気に苛立ちを見せ始めている。

 

「うっ・・・ すまんすまん。そんなに怒っちゃイヤ」

 昨日も見せた、両手を合わせての“ゴメン”のポーズ。

 

 

「・・・まったく変わりませんね。葛葉様は」

 やれやれ、困った方だ。という、憂いを秘めた顔で、仁はそう言った。

 

「・・・・・・わしにとって、34年はあっという間じゃよ。

 じゃがお主らにとってはそうではない。・・・それがわしには、少々目まぐるしいぐらいじゃ」

 

  そう言いながら苦笑する葛葉の顔は、少し・・・ 淋しそうだった。

 

 

「・・・・・・・・・」

 それを見ていた麻衣は、ふと・・・

 葛ノ葉という人の人生が気になった。

 

 出会った時からのとんでもないノリやテンポから、そういうことは全く考えてなかったけど・・・

 千年以上の時を生きるというのは、どのような感覚なのだろうか。

 十数年しか生きていない自分には想像が出来ないし もし聞いたとしても、本質的な理解は十分の一も出来ないと思う。

 

 安倍清明のお父さん。安倍保名さんと。

 そして、息子である安倍清明・・・さんと

死に別れた時が当然あったはずだ。

 

・・・その時は、どれだけ悲しかったのだろう。

私も、長く自分を育ててくれた幻舟お婆ちゃんを失っている。

だから、全くわからないわけじゃない。

 

それでも、この人の場合は・・・ それよりもっと悲しかったんじゃないだろうか。

自分よりも遅く世に産まれた人が、そして、自分が産んだ愛の結晶と呼べる存在が、自分より先に死ぬ。

それはもしかして、すごく悲しくて、虚しいことなんじゃないか。

 

それも、この人は千年の間、何度も何度もそれを体験したのかもしれない。

 だとしたら・・・ それって、すごく辛い人生なんじゃないのか。

 

 自分がそういう、長い、永い寿命を持っていたとしたら?

 お姉ちゃんも、木偶ノ坊さんも、仁さんも、鬼麿様も、

 自分よりずっと早く、通り過ぎていくようにおじさんおばさんになって、お爺さんお婆さんになって、それで・・・

 灰と骨に、なって・・・

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 うわ・・・ 泣きそうになっちゃった。

 

「麻衣様?」

「・・・・・・え?」

 隣からの呼び声に、ハッとなる麻衣。

 

「いや、何か上の空というか、お考えのようでしたので、何かありましたのかと」

 気を使いながらそう話す木偶ノ坊。

 

「あ、ううん。何でも・・・」

 あはは、と苦笑しながら、麻衣はもわもわと頭に乗っていた思考をとりあえずかき消した。

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

「いや、すまんかったの。 では、この葛葉神社について説明してしんぜよー」

 気を取り直して、というか、いつもの様子に戻った葛葉。

 

「・・・当然、ただのオンボロ神社って訳じゃないんだろ?」

 と、那緒。

 

「当たり前田のクラッカー! もちろんただの神社ではな〜い。ステキな特典付きじゃぞ。

 さて、ここでシツモ〜〜ン。わしらがこの空間に入ってから、どれだけ経ったでしょう? 麻衣、答えてみい」

  

  すごく古いギャグをかましながら、実に単純なクイズを出す葛葉。

 

「え・・・? まだ、一分も経ってないんじゃ・・・」

 時計も携帯も持ってきていない麻衣は、当てずっぽうで答えるしかない。

 

「・・・ま、間違ってはおらんな。

 正確には、もうすぐわしらの感覚で言う所の一分になる。

 し〜かぁ〜しっ」

 

  葛葉は、左腕に嵌めている、可愛らしいキツネ型のアナログ腕時計を皆に見せる。

 

 それを覗き込む4人だったが

 

「葛葉様・・・ この時計、動いてませんよ?」

 時計は、秒針すらピクリとも動いていなかった。

 

「それでよい。動いてないのが正解じゃからの」

「・・・・・・?」

 麻衣は当然首を傾げる。

 

「わしらがこの空間に入ったのが、7時4分11秒・・・

 そして、一分まで〜・・・ 3,2,1・・・」

 

 

(カチ・・・)

 

 

 葛葉の時計の秒針が、やっと11秒から12秒の位置へと動いた。

 そして、また動かなくなる。

 

「・・・・・・? 何ぞなもしか? この時計は」

「持ち主が長年使いすぎて、今はもう動かない古時計になってるんじゃねーの?」

 どさくさに紛れて、とんでもなく失礼な事を言う那緒。

 

「こりゃあっ! 誰が天国に昇るお爺ちゃんじゃ!!

 この時計はまだ5年目じゃし、毎年メンテもしとるっつうの!!

 ・・・って、お主、いつの間にかわしをツッコミ役に回させるとは、腕上げおったな〜」

 

  ぷんすか怒ったかと思えば、次の瞬間には素直に感心して嬉しそうな顔をする葛葉。

 まるでというか、新しい相方を見つけた漫才師そのものの顔である。

 

「・・・知らね」

 まさかそう返されるとは思ってなかったのか、那緒は嫌そうな顔でそっぽを向く。

 

 

「葛葉様。ご説明の続きをお願いできますか」

 逸れた話を元に戻すのは、すっかり仁の役割になっていた。

 

「お? おーおー。すまんかったの」

 コホン、とまた軽く咳払いをし

 

「ぶっちゃけると、わしの腕時計は正常に動いておる。

 つまり、通常と違うのは時計ではなく、この空間自身っつう事じゃ」

 

「空間自身が・・・?」

「ぞなもしか・・・?」

 と、麻衣と木偶ノ坊。

 

「この空間での60秒は、現実では1分。1分は60分。1時間は60時間。

 なんと、60日はたった1日っちゅうワケ。

 ま、つまりの。わしの“葛ノ葉神社”は、時間の進行を60分の1にするブラボウな特殊空間。

 しかも精神、肉体は、成長、疲労含め現実の時間に準じるため、疲れにくい。

 そして、老化するとか髪が伸びるとかそういう心配も・・・ 無い。

 修行にはこれほど理想的な空間もあるまいに?」

 

「・・・・・・」

 麻衣、木偶ノ坊、那緒の三名が驚く中、

 仁だけは、特に何の驚きも見せない。

 

「・・・仁さん、知ってたんですか?」

 と、聞く麻衣に対して

 

「ああ。前にここで修行したことがある」

 仁の発言に、葛葉はウンウンと頷く。

 

「あの時のお主は特に若いというか、いい感じに青かったの〜。

 【絶対に宗源(オヤジ)より強くなってやる!!】っちゅうのが口癖で、ひたむきさが実に可愛く・・・

 今で言う所の【努力型少年萌え〜】じゃな」

 

  昔を懐かしみ、目を閉じている葛葉だったが、ふと開いた横目に麻衣が映る。

 

「・・・・・・・・・・」

 普通には気付きにくいが、麻衣の視線の先に映る人間の割合は実に仁が8割以上を占めていた。

 

「・・・・・・(はは〜〜ん・・・)」

 恋愛においては大先輩である葛葉は、麻衣の仁を見る目から、すぐにピンと来た。

 

 

(ススス・・・・・・)

 

 

 そして次の瞬間には、とんでもなくスピーディーなすり足で、麻衣の隣に割り込むや否や

 麻衣にだけ分かるようにジェスチャーで【頭を下げろ】のアクションを取る。

 

「・・・?」

 よくわからないまま、屈みこむ麻衣。

 すると、葛葉は麻衣の肩になぁなぁな感じで腕を組み

 

「これがの、その当時3〜4年前の仁のいろ〜〜んな秘蔵隠し撮り写真の数々。

 レッドシャドウばりの潜入術で入手した優れものなんじゃが、どうじゃ?」

 

  ひそひそ話で、扇子の様に秘蔵写真を開いて麻衣にだけ見せる。

 

「え・・・? あ・・・ その・・・」

 突然の事に、麻衣は面食らう。

 

 3、4年前の、自分と同じ程度の年齢当時の、より若々しい姿の仁が映る写真の数々。

 汗を流して懸命に修行に打ち込む姿。疲れてあどけない顔でうたた寝している姿。などなど。

 隠し撮りというからには見てはいけないんだろうけど、どうにも目が釘付けというか、なかなか離れられない。

 そこら辺欲望の業深き今時の乙女というか、麻衣も人の子であった。

 

「いや、あの・・・ 私、こういうのはいけないと・・・」

 それでも何とか欲望を制し、顔を横に向ける麻衣だったが

 

「ほう? まだとっておきがあるんじゃがなぁ」

 続いて葛葉が胸の内から取り出だしたるは、新たな写真の数々。

 

「ホレ。入手難易度Sランクの着替えシーン写真と入浴シーン写真。今ならこれをまとめてイチキュッパで・・・」

 小悪魔的な笑みで、敢えて写真の表側を見せないようにして、ピラピラと揺らす葛葉。

 

「え、あ、その・・・ えっと・・・」

 麻衣は顔を赤くして、答えるに答えられない。

 

「・・・葛葉様」

 その時背後から聞こえる、怒気を織り交ぜた静かな声が響き、葛葉はビクッと体を震わせ、キツネ耳がピーンと立った。

 

「あ、仁・・・? な、ナハハ・・・」

 背後からの怒りのオーラに冷や汗を流しながら、ゆっくり振り向く葛葉。

 

「・・・まさかそんなものを撮られていたとは思いませんでした」

 顔は笑顔を作っているのに、眼が笑っていないというのは、この上なく怖い表情だと、葛葉はこの時痛感した。

 

「え、えーと・・・ わしはただ、弟子の成長記録を撮っておっただけでな?」

 だからか、葛葉のいいわけはあまりにもお粗末なものだった。

 

「なるほど。そうだったんですか」

「そうなんじゃよ〜」

 

 ハハハハハハハ・・・

 と、カラッカラな笑いが辺りを支配する。

 

「・・・没収」

「・・・・・・・・・はい」

 仁の圧力に縮こまりながら、葛葉は写真を渡す。

 

「ネガも帰り次第頂きますよ」

「うっ・・・ お、お主やるようになったのぅ」

「おかげさまで」

 

 そんな二人のやり取りを傍らで見ていた麻衣だったが

 

 

「・・・麻衣センパイさぁ、心の中で財布の紐ちょっと緩んだんじゃないの?」

「(ビックゥ!!)」

 那緒の的確な指摘に、体を一瞬震わす。

 

「え? そそ、そんな事あるわけ無いじゃない。アハ、あはははは・・・・」

 慌ててワイパーのように高速で両手を振る舞衣だったが、

それを見る全員は、【天津麻衣には嘘発見器はいらないな】と確信していた。

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

「続いて、現時点で予測できる敵戦力についてじゃが・・・」

 再び、葛葉を中心にして話が再会された。

 

「まずカーマは間違いなく最大の強敵じゃ。一番気をつけねばならぬのもコイツ。

そして、こやつを倒さねば、此度の戦は終わらん」

  オセロのボードのようなものに、急ごしらえな感じの金髪の人形をポンと置く。

 

「そして・・・ 軍師タオシーこと安倍薫と、天津亜衣こと淫魔姫、悪衣。

 この二人も注意せねばならぬのは当然。二人とも今度ばかりは本気の死ぬ気で仕掛けてくるじゃろう」

 

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 仁と、麻衣。

 二人はそれぞれ、互いに相手の顔を思い浮かべていた。

 

「二人とも、情を捨てろとは言わん。

 むしろその想いはXYZ作戦には絶対必要な原動力じゃ。

 しかしな、じゃからこそ本気でぶつかれ。そうでなくば、救うものも救えんぞ」

 

「「・・・はい」」

 二人の返事が、重なる。

 

「でもさ、いくら強いっつっても3人だろ?

 黒子や獣人も粗方倒したんだからさ、数で押せば・・・」

  と、那緒。

 

「わしの灰色の脳細胞による推理と勘では、そうもいかんという結論じゃ」

 しかし葛葉は、その案を否定する。

 

「作戦というもので必要なのは、相手がどういう行動を起こすか、というのもあっての。

 昨日はわしと紫磨で考えたんじゃ。わしが薫なら、ここで何をするか、とな。

 薫なら、わしらが鬼獣淫界に直接乗り込む腹なのもわかっとるじゃろうし」

 

「・・・それで、結論は?」

 焦りを隠す仁が尋ねる。

 

「それはな・・・」

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

     同時刻  淫魔の社 カーマの寝室

 

 

 

「下級淫魔の大量召喚。・・・これで、決着を付けます」

 広い部屋の中、綺麗に正座し、真っ直ぐにカーマを見、その作戦を告げるタオシー。

 

「それって、どんな作戦なの?」

 カーマの隣にいる悪衣は、その内容を聞いた。

 

「僕が、前々から安倍・・・ 人間達との決戦の為にと長年をかけて作り上げた巨大術式です。

 鬼獣淫界に無数に存在する邪鬼、淫魔・・・ 様々な魑魅魍魎を呼び寄せ、大群を作り上げます」

 

「へぇ、そんなこと出来るんだ・・・」

 悪衣は素直に感心していた。

 

「これを、僕らが戦う事になるであろうこの鬼獣淫界の本陣と、安倍に直通する鬼門の、二箇所に配置します。

個々の力こそ弱いものの、大群となれば話は別。それこそ白蟻の群れの様に、安倍と、天津麻衣、ジン・・・ 

逢魔仁率いる精鋭部隊を、そして、安倍本陣を飲み込むでしょう」

 

 タオシー・・・ 薫は、仁の名の所で一瞬だけ言いよどんだ。

 

「・・・これが、僕に出来る最後の切り札です」

 

 

「ただ、この術の欠点は、その下級淫魔達の制御が効かないということです。

 この術式は、数を呼び寄せ、戦わせる事に特化したもので、【召喚】と【凶暴化】以外の作用はない。

 ・・・つまり、誰の言う事も聞きません。

 殲滅戦となるであろうこの戦いで、淫魔の方が残った場合は・・・ カーマ様、悪衣様、そして僕をも襲い兼ねないんです」

 

「諸刃の剣っていうわけね」

 

「・・・・・・はい。ですが、術式を停止させれば、下級淫魔達はただの烏合の衆に成り下がります。

 そうすれば、カーマ様、悪衣様の妖力と威厳で調伏も充分可能かと。

・・・申し訳ありません。こんな・・・ 危険性の強い術しか、もう僕には・・・」

 

 心の底から申し訳なさそうに、ひたすら頭を下げる薫。

 

「かまわん」

 しかしカーマは、何の問題も無いとばかりに切って捨てた。

 

「どうせ大した事は無い。数だけの雑魚なら凶暴であろうと何だろうと。従わんなら俺の鞭で粉砕してやるまでだ」

 フフフ、と。カーマはいつものように余裕の表情を見せている。

 

 確かにカーマ様のあの絶大な力ならば、いくら雑魚の淫魔が群がろうと粉砕してしまうだろう。

 しかし、それは通常であった場合。

 もし万一、カーマ様が天津、安倍側との戦闘で致命的と行かぬまでも、

戦闘能力が大幅に低下するほどのダメージを負ってしまったとしたら、その時は・・・

 

 

「心配してるでしょう?」

 悪衣の尋ねる声に、ハッとする薫。

 

「いえ、僕は・・・」

「頭脳役だから、最悪のケースを考えなくちゃいけないのはわかるけど・・・

 それより前に、カーマを主として信じる事は大切だと思うわよ」

  悪衣は、淫魔としては不似合いな目で、薫を見、語りかける。

 

「・・・・・・・・・」

 対する薫は、まるで全ての記憶をなくしたかのような、意表を突かれた、ぽかん顔になっていた。

 理詰めな人間である

 

「私はカーマを信じてる。タオシーは?」

「・・・あ、あの・・・ もちろん、僕も・・・」

 顔を赤くしつつ、節目がちに、タオシーは主への信頼を示した。

 

「・・・ふふっ。モテモテね、カーマ」

 細めた横目で、カーマにからかうような言い方をする悪衣。

 

「・・・それで、全体的な数はどれぐらいになる?」

 対してカーマは、照れか、無機質に必要な事を聞いた。

 

「それは・・・」

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

「おそらく、数千・・・ それが、薫の霊力やカーマの妖力から考えられる魑魅魍魎の総量じゃろうな」

 葛葉の予想数は、とんでもないものだった。

 

「数千・・・!?」

 邪鬼数十匹ならともかく、数千・・・!?

 麻衣はその予想数に戦慄する。

 

「・・・ウソだろ? マジで戦争じゃん。そんな数・・・」

 獣人1匹に叶わなかった那緒にとっては、その数はより恐ろしい。

 

「本格的な振り分けは、助っ人の残り二人が来てから。そして、お主らが最終的にどこまで成長するかで決まる。

 じゃから、今は敢えて振り分けはせん。強くなる事だけを考えい」

 

 

「それで、最初の修行は?」

 仁が尋ねる。

 

「ま、そう焦るでない、

その前に、わしのジツリキっちゅーもんを知らせておかねばなるまいて。

 麻衣、木偶ノ坊。こっちゃ来い」

  

  葛葉は、ちょいちょいと可愛い仕草で手招きをする。

 

「あ、はい」「何ぞなもしか?」

 つられて寄って来る、麻衣と木偶ノ坊。

 

「わしとマジバトルせえ。霊力は無しでな」

 そう言って、葛葉は錫杖を構え、足取りを戦闘のそれへと変化させる。

 

「え・・・ そんな、大丈夫ですか?」

 麻衣は、つい本音をそのまま言ってしまう。

 

「・・・お主、案の定わしの事を【愉快なキツネさん】として甘く見とるな?」

「えっと・・・」

「そこで言いよどむなよ」

 那緒のツッコミが入った。

 

「これは重要な事じゃ。わしをカーマじゃ思うてかかって来い」

 

「カーマ・・・」

「カーマ・・・ ・・・っ」

 二人の脳内に、憎い相手の顔が浮かぶ。

 

「それに、本気を出さんかったら飯抜きじゃから、そのつもり・・・ でっ!!」

 

  言い終わると同時に跳び上がった葛葉が、麻衣に対し思い切り錫杖を振りかぶる。

 

「っ!!?」

 

(ガィィンッ───!!)

 

 

 咄嗟に薙刀を水平に持ち変える事で、錫杖の攻撃をなんとかガードする麻衣。

 

「ほーれほれぃ! 油断しておったら後ろからバッサリじゃ!!」

 

(ビュッ───!!)

 

 流れる動きで錫杖を回転させ、そのまま木偶ノ坊の方にも錫杖の直線攻撃が飛ぶ。

 

(ドスッ───・・・!!)

 

「うぐおっ・・・!!」

 なんとか錫杖を止めた麻衣とは違い、手加減の欠片も無い一撃は、木偶ノ坊の鳩尾にクリーンヒットする。

 

「木偶ノ坊さんっ!!」

 

(ビュンッ───!!)

 

 木偶ノ坊のダメージを見て、反射的に麻衣はエッジカバーの付いた薙刀を本気で葛葉に振るう。

 

「おおっとぉ!」

 しかし、葛葉はそれを蝶の様な身軽さで上空に跳び、それを避わした。

 

「えっ!?」

 垂直飛びで、木偶ノ坊さんの身長よりも高く・・・?

 

「そうそう! そう来んとな!!」

 空中で陽気にクルクルと回転しながら、嬉しそうにはしゃぐ葛葉。

 

(ムギュッ!!)

 

「・・・・・・」

「あ・・・」

 そして、葛葉の着地場所は・・・ 私と同じ様に上を見上げた木偶ノ坊さんの・・・ 顔の上。

 体重が軽めであろう葛葉とはいえ、一人の少女分の体重に重力が付加したキックで、木偶ノ坊さんの顔は漫画の様にめりこんでいた。

 

「あ? あー・・・ すまんの。よいしょっと」

 そう言うと、葛葉はすぐに木偶ノ坊の上から飛び降りる。

 

「くはっ・・・」

 一拍置いてズシンと崩れ落ちる、木偶ノ坊の巨体。

 

「ほーれほれっ! 次行くぞぉっ!?」

 木偶ノ坊のダウンに気を取られていた麻衣に、葛葉は休む暇なく攻撃を仕掛けてきた。

 

 

(ヒュンッ──!)

 

「っ・・・!!」

 一直線に麻衣の喉元目掛け飛んでくる、錫杖の瞬速の一撃。

 

(ガッ───!!!)

 

 それを麻衣は反射的に薙刀の柄でガードするが

 

「(えっ・・・!? お、重っ───!!)」

 小さな肢体から繰り出される攻撃の意外な重さに、麻衣の体は空中に浮かされた。

 

「このっ・・・!」

 反射的に空中で1回転し、右足で地面を抉るように着地する。

 

(ヒュ・・・ッ)

 

「えっ!?」

 だがその次の瞬間には、麻衣の後ろには葛葉が移動していた。

 

「ほいっと!」

 

(ガッ───!!)

 

 すかさず葛葉は地面に対し両手を軸に、体を回転させ、まだ安定させていない左足を刈る。

 

「あっ!!」

 バランスを失ったことで、後ろへと倒れそうになる。

 

(パシッ)

 

 しかし、本能的に伸ばした右手でなんとか転倒を防ぎ

 

「たぁっ───!!」

 

(ブンッ──!!)

 

 葛葉と同じ様にして、両足を槍として葛葉の位置へと打ち込もうとする。

 

「おおっと、危ない危ない!」

 葛葉はまたしても、その超人的な跳躍力で空中へと逃げる。

 

 その間に、なんとか麻衣は体勢を立て直し、空中の葛葉に向き直る。

 

「葛葉ぁ────!! 卍(まんじ)・・・ キィィック!!!

 

(ガイィィンッ────!!!)

 

 空中から繰り出された葛葉の蹴りを、麻衣はなんとか薙刀で止め

 

「てやぁっ!!」

 

(ブンッ───!!!)

 

 葛葉の足が乗った薙刀を、力いっぱいに上に振り上げる。

 

「おおっ!!?」

 予想外の健闘ぶりに、葛葉は嬉しそうだった。

 縦に回転する体を両手両足で柔らかく着地させる。

 

「このっ────!!」

 

(ブンッ!!)

(ブンッ!!)

(ブンッ!!)

 

 すぐさま追撃をかける麻衣。

 しかし、葛葉もまた見事な片手によるバック転で、それを次々と避わしていく。

 

「そぉ〜うれっ!!」

 

(ガッ───!!!)

 

 そして、3度目のバック転の途中で、葛葉は本格的な反撃に出た。

 

「・・・ええっ!!?」

 

(カンカンカンッ────!!)

 

 錫杖で麻衣の薙刀を止めると、そのまま自ら薙刀の柄の上に着地し、麻衣の方へと駆け出したのだ。

 

「(しまった・・・!?)」

 驚くほどの大胆な方法で間合いの内側に入られた麻衣には、この状態で有効な反撃は・・・ない。

 

「よいしょっ!!」

 葛葉はとどめとばかりに、掌底の形にした左手で───

 

 

(ペッチンッ!!!☆)

 

 

「・・・・・・・・・  ・・・・・・!!?」

 てっきりおもいっきり一撃を喰らうと思っていた麻衣に対して、葛葉の攻撃は、麻衣の額に何かを貼り付けた程度のものだった。

 

「ほい、わしの勝ち〜〜♪」

 ぴょいと飛び降りながら、勝利を宣言する葛葉。

 

「・・・全然、掠りもしなかった・・・」

 対して麻衣は、葛葉との実力差を痛感した。

 自分は全力だったのに、向こうは完全に遊んでいて、しかもそれで攻撃が当たりもしないなんて・・・

 

 

「「・・・・・・・・・」」

 なんだか周りが、何かを堪えているように見える。

 

 

「先輩。はい、鏡・・・ ププッ

 無言のまま敗北に少し落ち込みの色を見せている麻衣に、那緒は笑いを堪えつつ手鏡を手渡す。

 

「・・・?」

 渡された鏡で自分の顔を見てみると

 

「・・・『素人め、間合いが遠いわ』?」

 ポップな字で、そんな風に書かれていた。

 

 倒れた木偶ノ坊の方を見てみると、『こぉぉの、バカ弟子がぁぁあ!!』というシールがいつの間にやら貼られていた。

 

「あ、ちなみにそれ、いくつかパターンあるから。全8種でシークレット付き。コンプした暁には・・・」

「地獄の罰ゲームが待ってる」

 葛葉の説明に、仁が割って入る。

 

「ああん。仁っ! 何故バラすんじゃ!」

「・・・経験者として、被害者を増やしたくないので」

 

「・・・そ、そんなにすごいんですか?

 あの、その・・・ これだけでけっこう恥ずかしいんですけど・・・」

  赤面しながら恥ずかしいシールを剥がしつつ、尋ねる麻衣。

 

「・・・ダメだ。俺の口からは言えない」

「・・・え、えぇぇぇぇ?」

 思いっきり不安になる麻衣だった。

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

「・・・ま、ぬしらの実力は大体分かった。修行の振り分けもな」

 

「修行の振り分け・・・ ですか?」

 てっきり皆で同じ修行をするものと思っていた麻衣は、少し驚いていた。

 

「うむ。重要なのは三種の神器を使いこなす為の修行なんじゃが・・・

 麻衣と木偶ノ坊に関しては、その為の第一段階である【基礎肉体能力】の時点で不安がある。

 よって、仁のみ先に本格的な神器使用練習。 麻衣、木偶ノ坊、ついでに那緒は肉体的な修行から!

 ・・・で、さっそくウェイト(重り)を付けてもらうぞ。女子はコレ。木偶ノ坊はこっちな」

 

  葛葉は二つの紙袋を取り出し、それぞれに渡す。

 

 麻衣と那緒は小さい紙袋、そして木偶ノ坊は大きい紙袋を受け取り、中身を開いた。

 

 

「・・・・・・これは??」

「あ、何か見たことあるな。コレ」

 小さい紙袋に入っているのは、スポーツ選手がつけるバンドのようなものだった。

 

「それは鉄の小さな玉とかを入れておるから、1枚2キロ。それを両手両足に付けること。

 時期を見計らって増やしていくから、早う慣れんと後が辛いぞ〜」

  フッフッフ、と。葛葉は悪い魔法使いのような笑い方をする。

 

「・・・あ、木偶ノ坊さんの方は・・・?」

 木偶ノ坊の方が気になり、振り向く麻衣。

 

「あ・・・」

「うわっ・・・」

 つられて振り向いた那緒も含めて、言葉を失うことになった。

 

「・・・・・・・・・」

 木偶ノ坊の方のウェイトは、なんとベルト固定式の・・・ 亀の甲羅だった。

 

「おーおー、似合う似合う」

 パチパチと拍手する葛葉。

 

「・・・・・・葛葉様。さすがに、コレは・・・」

 しかし、やはり木偶ノ坊は不満タラタラらしい。

 

「いや、重りをつけての修行というのはわかりますが、それで亀の甲羅というのは・・・」

 

「何を言うとるんじゃあ。亀の甲羅を付ける為に生まれてきたのではないかというほどの似合いぶりではないか〜」

 皮肉でも何でもなく、本音でそう言う葛葉。

 

「え? そうでございますぞなもしか!?」

 褒め言葉どころかその逆もいい所なのだが、木偶ノ坊にとっては嬉しかったらしい。

 

「おー。ベスト甲羅ドレッサーコンテストがあれば優勝間違いなしと見たぞ?」

 

 

 

「・・・どんなコンテストだよ・・・」

「・・・木偶ノ坊さん、意外と煽てに弱いんだ・・・」

 遠巻きに見ていた女子チームは、それぞれの思いでそれを見ていた。

 

「ってかさ、今まで女の人に褒めてもらった事ないんじゃないの? あれは」

「え、そんな事は・・・  ・・・・・・・・・・・・・  えっと・・・」

 と、言いかけはしたものの、麻衣には二の句が浮かばなかった。

 

 

 

「さー! まずは、ここの階段を登って降りての繰り返しからじゃ!! 気張れよ〜!」

 

「ゲッ・・・」

 那緒がそう呟くのも無理はない。

 何せ、先程見た所、葛葉神社の階段には、まるで終着点が見えなかったのだ。

 

「泣き言は聞かんぞ? 【優しさよりも厳しさが 大事な時もあるものさ】ということわざもあるしの」

「・・・ことわざじゃねーし。歌だし」

 

「ええ〜〜い! やかましい!! さっさと行かんか〜〜いっ!!!」

 業を煮やした葛葉は、スパルタに、皆を蹴り飛ばすようにして階段へと急がせる。

 

 うわー、とか、きゃーとかいう悲鳴が神社の中で響いた。

 

 

 

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 

 遂に明らかになった、XYZの意味!!!(とは言っても、そう捻ってませんが)

 

 増援の二人とは!? 葛葉の予想は当たっているのか?

 

 

 ・・・って、葛葉に好き勝手やらしてたら一話使っちゃったよ。

 あああ〜・・・ エロやると言ってたのに、このままでは契約不履行(?)ですよ参ったな。

 

 

 どーも僕は、カーマ側を【悪役らしい悪役】にしきれないようです。悪い癖ですねえ。

 代わりにUはおもいっきり悪役は悪役らしくしたいと思います。っていうかそうせざるを得ないというか。

 

 次回はですね、おそらく亜衣×悪衣って感じになるかと(・・・ややこしいかな?

 いや、今度こそは本当に、今度こそ、今度こそ・・・

 



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