右の道を、懐中電灯片手に進み続ける麻衣。

 万一の用心の為、既に恰好は、例の新しい赤の羽衣への変身を終えている。

 これなら、どこから淫魔の伏兵や黒子達が潜んでいようと、すぐに対応できる。

 

 ・・・ただし、問題なのはこの洞窟の狭さ。

 麻衣が得意とする薙刀の柄の長さでは、この洞窟での戦いは圧倒的に不利である。

 それに、一人で進む洞窟は、思った以上に麻衣に恐怖感を煽り、不安にさせた。

 ライトの届かない影に、例の黒子が潜んでいるかもしれない。そう考えるたび、まだうら若き少女である麻衣は、心を折られそうになる。

 

 昔から、お化け屋敷の一つだって麻衣はまともに入れなかった。

 気の強い姉に無理矢理引っ張られて入っても、結局終始目を閉じて泣き喚いていたぐらいだ。

 

 ・・・お姉ちゃんはお姉ちゃんで、お化け屋敷のお化けを殴り倒してしまい、問題になったりもしたけど・・・

 

 

 ・・・お姉ちゃん。そう、お姉ちゃんだ。

 

 お姉ちゃんのために、私はこの道を歩いている。

 心細いぐらい、なんだっていうんだ。

 

 

「・・・・・・っ?」

 ふいに、麻衣はその場で立ちくらみをおぼえた。

 それでも少し足元がふらついた程度で、転ぶことも無かったが、その立ちくらみの理由はわからない。

 

「(・・・さっきの登山で、遅れて貧血した・・・のかな?)」

 

 

 そんな思考を巡らしながら、何分ほど歩き続けたろうか。

麻衣は、少しだけ広い場所へ出た。

 

 さっきまでの道は、薙刀がギリギリつっかえずにすむぐらいの狭さだったが、

 麻衣が出た場所は、横も縦も、その3倍ぐらいの広さがある。

 

 入り口から懐中電灯で照らす限りは、この空間には何も無い。

 わずか20歩ぐらい先には、また狭い道が続くのであろう穴があった。

 

「(敵が何か仕掛けるとしたら、この場所・・・)」

 麻衣は、より一層の注意を払いながら、忍び足で一歩一歩進んでは懐中電灯で隅々まで照らす。

 

 その時

 

(カッ────!!!)

 

 いきなりその空間を、光が包む。

 

「!!!?」

 思わず腕で、翡翠色の光を防御する麻衣。

 光は、天上で光ったと思うと、絵の具が水に溶けるように、空間中に広がり、淡い光となる。

 

「これは・・・」

 洞窟の中が、突如光に照らされ、隅々まで見渡せるようになった。

 それと共に、空間中の点々とした場所に、何かも屋のようなものが発生し始める。

 

「(敵の攻撃・・・っ!?)」

 懐中電灯を捨て、薙刀を構える麻衣。

蜃気楼は、だんだんとはっきりした形を作っていく。

 

 それは

 

『あっ、ああっ、あっ、あっ・・・』      『はぁっ、やっ・・・ふう、んっ・・・』

 

「え・・・?」

 蜃気楼は次々と、ある男女のまぐわる姿へと変わっていく。

 それは

 

「お姉ちゃん・・・ と、カー・・・」

 そう、まぐわる映像は、姉の亜衣と、カーマだった。

 騎乗位。後背位。縛り。様々な体位、形で、姉の亜衣とカーマがまぐわっている・・・ 幻。

 

 これは見たことがある。カーマとスートラの術、『淫ら陣』だ。

 

 それは広めの空間の中で、次々と映し出されていき、麻衣の周りは、カーマに貫かれ、喘ぎ声を上げる亜衣の姿で一杯になった。

 

「・・・やめて・・・」

 麻衣は、震える体と口で呟く。

 自分の姉を穢した男と、その姉自信のまぐわる姿、しかもその姉自信が嬌声を上げる姿など、妹の舞衣には耐えられる筈がない。

 

 薙刀を持つ手の震えから、薙刀はカチカチと地面に当たり音をたてる。

 まともに呼吸すら出来ない、怒り、悲しみ、様々な感情が織り交ざり、もはや自分が正気なのかすらも怪しくなってくる。

 

 

「やめて────────────っ!!!!」

 麻衣は叫んだ。

そして、薙刀を強く握りなおし

 

「出て来いっ!!! カーマぁっ!!!!

 ありったけの憎悪が篭った般若のような瞳で、姿の見えない憎き敵の名を呼ぶ。

 

 

 

  ◇    ◇   

 

 

  一方、木偶ノ坊。

 

 

 木偶ノ坊もまた、途中で軽い立ち眩みを覚えながらも、広い場所へと出た。

 

「こ・・・ これは・・・」

 彼もまた、辿り着いた大きな空間で、同じ映像を見せられていた。

 

「おのれ・・・ カーマめ、惑わすかっ!!!」

 生粋の戦士として育ってきた木偶ノ坊は、麻衣と比べ冷静だった。

 しかしそれでも、頭には青筋が浮かび、目は血走っている。

 

 そこに

 

「カーマは居ないわよ」

 懐かしき声が響いた。

 

 

 

  ◇    ◇   

 

 

 

「カーマ様は居ませんよ」

 突如、麻衣の耳に響く、聞いた事のある声。

 

「・・・タオ・・・ 薫・・・さん・・・!?」

 そう、出口近くに立っているのは、カーマの参謀タオシーこと、安倍薫だ。

 

「・・・そうですか、仁から聞いたんですね。僕の事」

 タオシーはため息を吐き、嫌な顔を見せる。

 

「仁さんは・・・、 仁さんはあなたのことを、ずっと・・・!!!」

 仁の意志を伝えようとする麻衣。

 

「うるさいですよ」

 しかしタオシーは、麻衣の言葉を遮った。

 

「敵の心配をする余裕なんて、貴方には無いでしょう?

 お姉さんのためにも、まずは僕を倒すことを考えるべきだ」

  覚悟を決めた冷たい眼で、麻衣を見つめるタオシー。

 

「でも・・・ あなたは、真ん中の道に居る筈じゃ・・・」

 そう、紙が置いてあったのは、真ん中。

 だからこそ仁は、その真ん中の道を通ったというのに。

 

「ええ、【本当の】僕は、真ん中で仁を待ってますよ。

 種バラしをしてあげましょう。今ここに居る僕は、本体である僕と意識が繋がっている、霊力が込められた形代(かたしろ)です。

 本体と比べて力が無いのがネックですけどね」

  腕をプラプラと回す仕草をするタオシー。

 

「じゃあ・・・ この淫ら陣は・・・」

「淫ら陣・・・ ああ、なるほど。カーマ様の淫ら陣に見えない事も無いですね。

 しかし違います。今ここに広がっている映像は、僕が作ったものですよ」

  何ら後ろめたさも見せず、冷たい笑みを向ける。

 

「・・・今すぐ消してっ!! さもないと・・・」

 麻衣は、タオシーに薙刀の切っ先を向ける。

 

「さもないと・・・ ふむ。お怒りは尤もですね。

 しかし、僕だけに怒るのは筋違いじゃないですか?」

  だがタオシーは、冷静なままだ。

 

「え・・・?」

「これを作った原因の幾つかは、貴方にあるんですよ。

 元々、貴方の事を気にさえしなければ、亜衣様はカーマ様に従い、淫魔になることは無かった」

「・・・・・・・・・」

「それに、社で悪衣様と戦ったとき、陽属性の膨大な霊力を悪衣様に撃ち込みましたね。

 あの時、悪衣様の中に、再び亜衣様の人格が復活した。その後・・・

 亜衣様の人格は、消える事無く悪衣様の中に存在してしまっているんです」

 

「お姉ちゃん・・・が!!?」

 麻衣はその朗報に驚き、僅かに顔を明るくする。

 

「・・・やれやれ、呑気ですねぇ。

 どういうことだか分かってるんですか? 僕たちに管理されている状態で、亜衣様の人格が残っているという意味を」

 

「え・・・?」

「人格が悪衣様のままであったなら、まだ苦しむことは無かったんです。

 しかし、貴方が余計な事をしたのが悪かった。おかげで、亜衣様はその人格が戻る度にカーマ様に犯され、陵辱を受け続け、辛苦を味わっているんですよ?」

  タオシーの言葉が、舞衣の心臓に強烈に突き刺さる。

 

「そん・・・な・・・!?」

 私のせいで、お姉ちゃんがもっと苦しんでいる・・・!?

 

 視界がぐらりと歪む。震えが止まらない。

 

「軽率でしたねぇ。・・・ああ、そうそう。

 今ここに映っている映像は確かに幻ですが、【実際にあった行為】ですよ? ほら、あそこと、あそこと、あそこ」

  タオシーは、次々と幻影の中から一つずつ指差していく。

 

 麻衣は、警戒しながらもそれを見た。

 

『うあっ! あっ・・・ い、や・・・』   『やめてっ!! イヤッ!! 中は・・・ 中はダメぇっ!!!!』

 

  『うあああああ──────────っ!!!』    『うっ・・・ ひぐ・・・ ぐすっ・・・ う、う・・・』

 

 

 様々な幻影の中に点在するそれは、他の幻影と比べ、明らかにカーマに犯されることを嫌悪する映像があった。

 カーマの剛直の侵入を嫌がる姿。中に出される事に恐怖する姿。絶叫。そして、涙。

 

 

「あ・・・ あ・・・ うあ、ああ・・・っ!? お姉、ちゃ・・・」 

 麻衣は頭を抱え、狼狽した。

 目の前に映っている、この惨状を引き起こしたのは・・・ 私?

 

 私がお姉ちゃんを・・・苦しめた・・・?

 

 

 様々な感情が折り重なって、麻衣は止まる事の無い汗と、涙を流す。

 

「・・・・・・・・・」

 麻衣の苦しむ姿を見て、タオシーは笑みを浮かべた。

 勝利を確信したからだ。

 

「これだけ実の姉を苦しめておいて、自分だけ奇麗な羽衣を着ていてはいけませんよねえ。

 ・・・脱いでもらいましょうか」

  タオシーの氷の様な言葉に、ハッと我に返り、薙刀を握りなおす麻衣。

 

 しかし

 

「遅いですよ。・・・水虎(すいこ)!!!」

 タオシーが指を挙げ、叫ぶと共に、麻衣の踏んでいた地面がぐにゃりと歪む。

 

「っ!!!!?」

 麻衣が驚く間もなく、それはあっという間に薄黄緑のスライム体に変化し、麻衣の体を包み込んだ。

 

「きゃ、あ、あ、あっ────ごぼっっ!!!?」

 半透明な薄黄緑のスライムは、悲鳴を上げる麻衣の口さえもその体で塞ぐ。

 

「・・・ぶぐっ────!? ぼごっ────!!!」

 どろどろとしたものに全身を包まれ、麻衣は息が出来なくなり、溺れる。

 そのまま麻衣の体は仰向けに大の字に近い形で固められた。

 体を動かそうにも、四肢は柔らかいだけの筈のスライムに完全に固定され、いくら力を込めても全く動かすことが出来ない。

 

「ああもう。何をやってるんですか水虎。溺れさせちゃダメでしょう」

 タオシーのその言葉と共に、舞衣の首から上を包み込んでいた部分がサッと引いた。

 

「ぶはっ・・・!!! ケホッ・・・!! ゴホ・・・ うえ・・・っ」

 呼吸が出来るように解放されると共に、麻衣は大きく息を吸い、咳き込み、横を向きながら舌を出して口の中に入ったスライムを吐き出す。

 麻衣の口からドロリと、粘着質の物体が頬を伝って流れた。

 

 スライムが引いた後も、そのスライム片のべとべとが髪を濡らし、顔の至る所に残っている。

 その光景は、何ともいやらしいものだった。

 

「すごいしょう? 僕の自慢の式神の一人、水虎。

スライム状の体を持ち、周囲のどんな物質にも擬態でき、油断した所を包み込む・・・ 【捕縛】という条件において、これほど適した子はいない」

 タオシーは自分の式神を我が子のように愛おしく

 

「う・・・っ」

 ベトベトしたものの中に体を沈められたかのような気持ちの悪い感覚が、羽衣の隙間を通って全身を支配する。

 その感触は、まるで・・・ そう、白毛鬼にかけられた・・・

 

「い・・・やぁっ・・・!! 離・・・し、て・・・っ!!」

 唯一動かせる首だけを左右に振って、無駄な抵抗を続ける麻衣。

 

「そうもいきませんよ。では・・・ 邪魔な羽衣から無力化させて頂きますか。

 水虎。食べていいですよ」

 

(ウウウウゥゥンンンン・・・・・・・・・・・)

 

 麻衣を包むスライムの全体が震え、虎の鳴き声に似た音を出す。

 

「・・・っ!?」

 それと共に、麻衣は体全体に痒みを感じだした。

 

「いやっ!! か、かゆ・・・ 痒、い、い・・・っ!! やだぁっ!!」

 まるで全身が蟻か蚊にでも咬まれた様な痒みを訴え、柯あだが動かせない状況がそのもどかしさに拍車をかける。

 

「え・・・!?」

 そして、目に見えての変化が起こった。

 麻衣は思わず目を疑う。羽衣が、透けて・・・ 溶けていっている。

 

「うあっ・・・!? ウソ・・・っ! 羽衣が・・・っ!?」

 天神の加護を得た新しい羽衣が、目の前でだんだんと溶けていく。

 

「それはそうでしょう。水虎は炭素繊維だろうが鉄だろうが、その気になれば家の一軒だって数分で完食できるんです。

 いくら神の加護を得た羽衣だろうと、水虎が全力で消化して食べきれないものなんて無い。

 ・・・しかし、さすがは天神の羽衣といった所ですか、普通の服なら3秒あれば充分なのに、この羽衣はよほど手強いらしいですね」

 

  タオシーが語る間にも、麻衣の羽衣はどんどん虫食いのような穴が、所々からじわじわと広がってゆく。

 

「全裸になって頂いてから、ゆっくりと料理させていただきますよ」

 驚くほどの冷たい目で、タオシーは陵辱の宣言をする。

 

「いやっ!! イヤァァ────────────ッッ!!!!!」

 

 洞窟の中、麻衣の痛烈な悲鳴が木霊した。

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

   一方   木偶ノ坊

 

 

「あ、亜衣様っ!?」

 木偶ノ坊は、目の前の見知った姿に驚いた。

 

「ふふ・・・ 久しぶりね、木偶ノ坊さん」

 しかし、やはり目の前に居るのは亜衣ではなく、悪衣だった。

 ポニーに戻っていた悪衣は、より以前の亜衣に近く、露出の多い黒の服さえ着ていなかったら、そのまま前の亜衣として錯覚してしまったかもしれない。

 

 木偶ノ坊は、軽く後ろに跳び、距離を取る。

 

「そんな警戒しなくてもいいのに、つれないわね」

 

「亜衣様っ!! どうか正気にお戻り下され!!」

 六尺棒を構えつつ、強く悪衣に訴える木偶ノ坊。

 

「・・・酷いわね。私は正気じゃないんだ。

 カーマと愛し合ってるから? 私だって、女なんだけどなぁ・・・」

  悪衣は、不機嫌そうにそう言った。

 

「・・・某の、某の知っております亜衣様は、気高く、強い精神を持っていらっしゃった。

 決して、幻舟様の仇の元へ就き、妹の麻衣様を悲しませるような真似は・・・ 決して!!」

  木偶ノ坊の誠実な訴え、

 

 しかし悪衣にとっては、その言葉は自分を認めない呪いの言葉である。

 

「・・・・・・・・・私の事なんて、何も知らないくせに・・・」

 忌々しげに、怒りを言葉に乗せる、悪衣。

 

「亜衣様・・・?」

 木偶ノ坊は、残念ながらそれを理解できない。

 

「もう、いい・・・ それじゃあ・・・ 眠らせてあげる!!」

 悪衣は黒色の刃弓を出現させ、構える。

 

「亜衣様・・・ 某は・・・っ!!」

 木偶ノ坊には、悪衣と戦うことへの迷いと葛藤が見える

 

「木偶ノ坊さんの悪い癖。戦いは割り切らないと、また死んじゃうわよ」

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

 悪衣は、いきなり矢を引き絞り、撃った。

 

(ビュンッ!!)

 

「ぬおっ!!?」

 風を切る音と共に、容赦無く襲い掛かってくる黒色の矢。

暗い洞窟の中で視認が難しいその矢を、木偶ノ坊は山野で培った運動神経を以って地面を転がり避わす。

 

「ほらほら!」

 

(ビュンッ!! ビュンッ!!)

 

 悪衣は次々と、黒色の矢を放っていく。

 

「ぬっ・・・!!!」

 負けじと木偶ノ坊も、地面を転がり、体をひねり、次々とそれを避わしていく。

 

「ふぅ・・・ ふぅ・・・」

 しかし、悪衣の矢に翻弄される木偶ノ坊は、まともに反撃も出せず、少しずつ息が上がっていく。

 

 

「ちょこまかとっ・・・!! さあ、今度こそ・・・ ・・・っ!?」

 そこで、悪衣の表情が、急に変わる。

 

「う、ぐっ・・・」

 苦しみを表情に出し、頭を抑える。

 

「あぐ・・・ッ! あ、頭が・・・ 頭が割れるっ!! 痛い・・・っ!!!」

 急に頭を抱え、ぶんぶんと首を振る悪衣。

 

「亜衣様っっ!!??」

 木偶ノ坊は驚いた。

 

「ううああっ!! あああっ!!! ああ────────っ!!!!」

 一際大きな悲鳴を上げると、悪衣はガクリと肩を落とし、弓が地面に頃がる。

 そしてひとしきり大きく狂ったように首を振った後、だらりと腕を落とし、動きを止めた。

 

「・・・・・・・・・・・・!! まさか!?」

 木偶ノ坊は悪衣の前に駆け寄る。

 

「亜衣様!? 亜衣様ぞなもしか!!?」

 悪衣の肩を掴み、亜衣の名を呼び揺さぶる木偶ノ坊。

 

 

「ん・・・」

 悪衣は、目をゆっくりと開く。

 その目に、敵意は無かった。

 

「木偶ノ坊・・・さん? 私・・・」

 純粋な亜衣の目を見て、木偶ノ坊は安堵する。

 

「亜衣様!! 良かった・・・ 正気に戻られたのですな・・・」

 

 しかし

 

「・・・・・・ううん、ウ・ソ♪

 悪衣の顔は、一瞬で悪辣な笑みへと変わり、

 油断していた木偶ノ坊に、唇を重ねた。

 

「ぐっ・・・!!!!???」

「ん・・・・・・っ」

 口を通して、悪衣の甘い吐息が、木偶ノ坊の体内に流れ込んでいく。

 

「ぬああっ!!!」

 反射的に木偶ノ坊は危険を感じ、悪衣を突き飛ばそうとするが、悪衣はそれよりも早く後ろに跳んで避けた。

 

「・・・ふふ。油断大敵ね」

「ぐ、ぐっ・・・」

 体が痺れ、まともに動かせない。

 その場で片膝を付き、六尺棒を落とす。

 

「これも淫魔の術の一つなの。体を痺れて動かなくさせて、淫らな気分にさせる吐息。

 ・・・どう? 私が欲しくて仕方なくなって来たんじゃない?」

  木偶ノ坊の前に座り込んで、妖艶な目で見つめる。

 

「ぐうっ・・・ あ、亜衣様・・・ そこまで堕ち申されたか・・・!?」

 木偶ノ坊は己の体内を巡る淫らの気に必死に耐えながら、変わり果てた亜衣を悲しむ。

 

「・・・木偶ノ坊さんに分かる? 毎日毎日、殺されるかもしれない、化け物に犯されるかもしれないって恐怖に耐えながら戦う女の気持ち。

 実際、私は処女じゃなくなっちゃったし、今日までたくさん貫かれて中に出されたし・・・」

  そう言いながら、悪衣は愛おしそうに下腹を撫でる。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・(亜衣様・・・っっ!!)」

 木偶ノ坊は、言葉が出なかった。

 

「でも私は今愛されてるの。弱い私を認めてくれるの。・・・だからとっても幸せ。

だから、私はそれを壊す人は許さない。・・・例え木偶ノ坊さんでも、・・・麻衣でも」

 強い目だった。邪淫に心を染めた、しかし強い意志を持った目。

 

「亜衣様・・・ ぬおっ!!?」

 木偶ノ坊は体の自由が利かないまま、悪衣に胸を押され、仰向けに倒れる。

 

「ぐっ・・・」

 頭をまともにぶつけ、視界が歪む。

 だがそんな痛みを感じる間もなく、裸足になった悪衣の足の裏が、木偶ノ坊の股間を踏みつけた。

 

「あ、亜衣様っ!? お止め下されっ!!」

「何言ってるの、嬉しいクセに。木偶ノ坊さんの気持ちはわかってるもの。私と麻衣にホの字なんでしょ?」

「な・・・ なっ・・・!?」

 木偶ノ坊はその言葉に驚愕する。

 

「・・・ふふ。一度ぐらい、願いを叶えてあげる」

  悪衣は、足をぐにぐにと動かして、木偶ノ坊のモノを刺激する。し続ける。

 

「うっ、うぐあああっ!?」

 密かに想いを寄せていた人物から行われる執拗な攻めに、木偶ノ坊は必死で耐える。

 が・・・

 

「あっ、やっと勃ってきた♪

 木偶ノ坊さんはすごいわね。どんなにマジメな人だって、息さえ呑んじゃえばその場で正気なくしちゃうぐらいだって聞いたのに」

  やっと木偶ノ坊のモノは、悪衣の足の裏の中で硬さを持ち始めた。

 

「くうっ・・・!!」

 木偶ノ坊は、自分の不甲斐なさに打ちひしがれた。

 

「ふふっ・・・ じゃあ、頂いちゃおうかな」

 悪衣は、動けない木偶ノ坊のズボンを必要なだけ下げると、目当てのモノが、天に向かって屹立した姿を見せる。

 

「わあ・・・ すごい。大きい」

 木偶ノ坊のモノは、体格に合わせて立派に大きかった。

 カーマのモノと比べても一回り大きいぐらいで、微妙に形も、黒さの度合いも違う。

 

「ぐうぅぅううっ!!!」

 いくら自分が襲われる形とはいえ、このまま自分が亜衣様を穢してしまっては・・・

 

 木偶ノ坊は自らの舌を大きく突き出し、噛み切ろうと大きく口を開け・・・

 

「ダメ」

 そこに悪衣は、自分の右手の指を突っ込んだ。

 

「ぐっ!!?」

 危うく、亜衣の指を傷つけそうになったが、木偶ノ坊は紙一重で歯を止めた。

 

「・・・そんなに私がイヤ?」

 そんなこと、木偶ノ坊に有り得る筈が無い。

 悪衣はわざとそんな言葉を言って、木偶ノ坊を困らせた。

 

「じゃあ、猿轡♪」

 木偶ノ坊の口の中に突き入れられた指から、例の光の錠が放たれ、木偶ノ坊の口を塞ぐ猿轡へと変化する。

 

「ぐむ、うぐうぅぅっ!!」

「さあ・・・ 最初で最後の、狂った催しを楽しみましょ」

 悪衣の目は、淫魔特有の妖しい輝きに満ちていた。

 

「っっ───────!!」

 木偶ノ坊は、無駄な抵抗を続けながら、どうかこの現実が夢であって欲しいと願った。

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

   一方  天岩戸  入り口

 

 

「やああ────────────っ!!!!」

 

(ザシュ─────────ッ!!!)

 

 もう、どれだけ斬ったろうか。

 静瑠は、次々と襲い掛かってくる黒子の群れを斬り、その数を大分減らしていた。

 

「ぶるるるるるっ!!!!!」

 ブゥン!! と、風が唸り、恐ろしい疾さで柱並の大きさの金棒が、黒子と斬り合っていた静瑠を襲う。

 

「・・・!! ハッ!!」

 紙一重で、空中バク転で回避する静瑠。

 

(ベキバキベキィ────────ッ!!!!)

 

 静瑠の髪を風圧が掠り、そして金棒はそこにいた数人の黒子を巻き込み、そこにあった木々を全てへし折った。

 

「(なんて力・・・)」

 空中で体制を変えながら、静瑠はその力に脅威した。

 樹木と金棒に挟まれ無残に潰れた、黒子のミンチの死体が目に入る。

 避けるのが遅れていれば、あれだけの威力をこの身に浴びていたのかと思うと寒気がする。

 

「(それにしても、仲間ごと潰すなんて・・・ 凶暴にも程がありますわ)」

 

(ザシュッ!!!)

 

「ぐあああっ!!」  「ぎゃああっ!!」

 着地地点に群がる黒子を斬り捨てながら、静瑠は地面に着いた。

 

「早く叩き潰せ!! 牛頭!! 馬頭!! そう時間は掛けられんぞ!!」

 黒子の頭は焦っていた。

 元々、自分達は麻衣達一行の打倒をなお確実にする為に編成された、タオシー様に信頼を受ける部下。

 それが、雑魚と思っていた案内役風情に、最初の手勢を半分以下にされているその状況、焦るは当然。

 

 

「・・・そうやね。ウチもそう時間は掛けてられません」

 静瑠もまた、短時間による決着が必要だと判断する。

 

「ちょっと勿体無いけど、王手にしましょか・・・」

 

(トンッ)

 

 静瑠は周りに木々の無い広い場所へとまた跳び、着地する。

 

「(ここならええかな・・・)」

 

 黒子達も、牛頭、馬頭も、それを追い、静瑠の正面から駆けて来ていた。

 

 

「・・・天弓。解放」

 それを確認すると、静瑠は目を閉じ、一つの言葉を唱えながら、胸当ての中央にある、ルビー色の宝珠に右手を添える。

 宝珠に【許可】という文字が浮かぶと、そのまま宝珠は静瑠の正面を照らした。

 

「!!!!?」

 驚く黒子達。

 

その光の中から、白銀色の何かが姿を現した。

それは、横向きの巨大な弓。愛染明王の武器、天弓(てんきゅう)である。

弦の長さだけで軽く5メートルはありそうな、常識外れの大きさ。

 

・・・ただ、その弓には、矢が見当たらなかった。

 

「・・・あれ?」

 静瑠は、予想外の事態にあっけに取られたような表情をする。

 

「・・・・・・??」

 黒子達も、その様子に首をかしげる。

 

「えっ!? ウソ・・・ ちょ、ちょっ・・・ タンマ!!!

 いつもはこんなやないんよ!! もう一回! も一回だけ!!」

 こんなのは予想外だ、とばかりに静瑠は取り乱し、うろたえ、敵に待ったをかける。

 

 それを見た黒子の頭は

 

「ふっ・・・ 明王の弓矢を召還しようとしたはいいが、矢まで召還するのを失敗したか。

 弓だけでは役に立つまい!! 今だ!! 霊力の無駄遣いをした馬鹿な女を倒せ!!」

  黒子の頭の号令と共に、正面から黒子と牛頭、馬頭が再びやってくる。

 

 万事休す、と思われたが

 

「(ニヤ・・・)」

 静瑠は、一瞬、捕食者・・・ 蛇の笑みを浮かべた。

 

「!!!?」

 その顔に、黒子の頭だけが気付くが、もはや遅かった。

 

「この天弓に矢なんか最初からありません。

 ・・・最初から、ここに居ますからね」

  静瑠は弓の上に降り立つと、薙刀を抱きかかえ、目を閉じた。

 

「・・・我、今こそ愛染明王の弓の元、悪を払う光の矢とならん・・・」

 

 薙刀の刃は一瞬で矢の矢先に変わり、静瑠はそれを持ちながら、回転し、弓の弦を、体重を乗せた後ろ跳びで、足を乗せる形で引き絞る。

 ギリギリまで引き絞られた弦は、静瑠の全身を神通力の防御層で覆い・・・ 

 

「愛染天弓・・・ 射出!!!

 放たれた。

 

(ゴウッ────────────!!!!)

 

 静瑠は、その瞬間、その身自身を、邪悪を滅する巨大な光の矢と変えた。

 

「「「「「「────────────っっ!!???」」」」」」

 

 光の矢は螺旋を描き、その直線状にあるものを一瞬で貫き、その余波で消滅させていく。

 

「ぶおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!!!!!!!!???」

「ヒイイイイイイイィィィィィィンンンッっっ!!!!!!!!????」

 

 黒子達が成す術もなく消滅していく中、牛頭、そして馬頭も、咄嗟に金棒でそれを防御しようとする。

しかし明王の光の矢の奔流は、身構えた金棒ごと直径1メートル大の大穴を明けた。

 

(バシュ────────────ッッ・・・・・・・・・)

 

邪悪なる生命は、その悉くが、強大な力を持つ光の矢の前に、光の粒子となり、消えていった・・・

 

 

 直線状の全ての悪しき魂を貫いた光の矢は、更にその十数メートル向こうで消え去り、元の静瑠と薙刀に戻る。

 

 

「ハァ・・・ ハァ・・・ ハァ・・・ッ」

 さすがに静瑠も、奥の手を使った直後となれば疲労を隠しきれない。

 

 しかし、薙刀を杖代わりに、なんとか静瑠は立ち上がった。

 そして

 

「・・・まったく・・・ あんさんだけ、ほんまにしつこおすなあ」

 天弓のすぐ横の木の後ろに話しかける。

 そこには、天弓から逃れた唯一の存在。黒子の頭がいた。

 

「ぐっ・・・・・・ く、く・・・」

 しかし、完全には避け切れなかったらしい、その右足は焼け焦げており、ずりずりとそれを引きずり動いている。

 

「小癪な・・・っ!! あんな騙し討ちを・・・」

 黒子の頭は、もはや怒りを抑えられない。

 

「悪人相手にこっちだけフェアプレイしとる余裕なんてありませんよ。 

元々女一人に100近い数ぶつけてくるんやから、これぐらいかわいいもんでしょ」

  額から汗を流しながら、静瑠は挑発的に笑い、ゆっくりと黒子の頭に歩み寄る。

 

「・・・ふ、ふふふふふ、ふふふふふふふふ・・・・・・・・・・」

 黒子の頭は、急に笑い出す。

 

「何? 頭まで焦げはった?」

「・・・つくづくタオシー様は恐ろしい。ここまで予想していたという事か・・・」

「何やって?」

 黒子の頭と距離を詰める途中で、その足は止まった。

 

「我らの全部隊数は、160余り・・・ タオシー様は、部隊を分け、100程度で貴様と当たれと仰った。

 ・・・そして、残りの部隊は・・・」

 

「まさか・・・」

 旅館・・・!?

 

「クク・・・ いや、実際は、そこまでやる手間は要らなかったらしい」

 チラリと、山の登り道の方向を見る黒子の頭。

 静瑠も、あくまで黒子頭に注意は向けながらその方向を見た。

 

 そこにいたのは・・・

 

「小百合はんっ!?」

 そう、旅館の仲居の一人、おかっぱの少女、小百合。

 それが、十数人の紅い鉢巻の黒子と、またこれも数十人の通常の黒子の中央で、拘束された状態で、静瑠から数十歩ほど離れた場所にいた。

 

 捕まった際に暴れた所を無理矢理黙らされたのであろう、着物は所々破れ、顔は赤く腫れている。

 

「静瑠姉さまっ・・・ 私・・・ ごめんなさい! ごめんなさいっ!!」

 小百合は、泣きながら静瑠にひたすら謝り続けていた。

 

「そんな・・・ 旅館におる筈ちゃうの・・・?」

「随分早かったな・・・ どうした?」

 黒子の頭が問う。

 

「コノ娘、後ロカラ山ノ入リ口マデ付イテ来テ、マシタ」

 どうやら、他の黒子は目の前にいる黒子の頭ほどの知能は無いらしい。

 

「なるほど・・・ 形勢逆転だな」

「あんたらっ・・・!!!」

 初めて静瑠は、怒りの面を向ける。

 

「おっと」

 黒子の頭が片手を上げ、命令を出す。

それと共に、黒子達は一瞬で小百合の着ている着物を切り裂いた。

 

「きゃああああああっっ!!!!」

 黒子達の鉤爪や短刀は、見事に小百合の服だけを切り裂き、一気に下着までも剥ぎ取る。

小百合の未発達な肉体。ほんの少し膨らんだ程度の胸と、閉じ切って縦筋となっている小陰唇までもがはっきりと晒された。

 

「小百合はんっ!!」

 叫びながらも、静瑠は動かなかった。

 小百合は人質にされている。動けばどうなるかは、容易に想像が出来たからだ。

 

「うっ・・・ うう・・・ ぐすっ・・・」

 恥辱に耐性の無い少女は、ただ震えて泣くしか出来ない。

 

「小百合はんには何もせんといて!!

 ・・・ウチとは違って、退魔でも神藤でもない普通の子なんよ!!」

「静瑠・・・ 姉さまぁ・・・っ」

 小百合は、自分の情けなさに打ちひしがれる。

 

  元々小百合は、紫磨が引き取った孤児で、旅館で育っただけの普通の少女だ。

 だから純粋に、静瑠を姉の様に慕っており、紫磨を母親として慕っている。

 逢魔や神藤の宿命や危険さを知ってはいるが、それでも尚旅館や紫磨、静瑠から離れる事を嫌がった。

 ・・・それが、こういう結果になってしまった。

 

 ・・・失念していた。小百合の性格なら確かに、自分が心配になって山の入り口まで追いかけてきても不思議じゃない。

 

「なら俺の命令を聞いてもらうぞ。

 まずは・・・ その変身を解いてもらおうか」

  黒子の頭の指示は的確だ。

 

「ひっ・・・!?」

 向こうでは、小百合の喉に黒子の一人が短刀の先端を当てている。

 

「くっ・・・」

 神藤の一族は、逢魔と同じ退魔の一員として、有事の際は何より使命と、世界の命運を優先せよと教えられてきた。

 母、紫磨も、かつては共に生まれ育ってきた何十もの同胞を犠牲にして、ようやく魔を打ち滅ぼしたと聞いている。

 

 ・・・一人の少女の命と、世界全体の命運。

 自分もまた神藤の人間として、どちらを優先するべきかは考えるまでも無い。

 

「・・・・・・・・・」

 チラリと、小百合を見る。

 全裸の状態で、只ひたすら小動物のように怯えている無垢な少女。

 

 最初の出会いの時はそう、まだ右も左もわからない幼子で、よく自分の着物の裾を引っ張って甘えていたと思う。

 年月が経つにつれ、自然と自分の事を【姉さま】と呼ぶようになり、旅館の仕事もドジは多いながらも頑張っていた。

 

 

「(・・・ウチも、そうとう甘ちゃんどすなぁ・・・)」

 自分にため息を一回。

静瑠が両手を添えると、薙刀はたちまち武神剛杵の形態に戻った。

 

「・・・霊装、解除」

 静瑠を守っていた装甲と戦闘服は一瞬で白銀色の光の粒子となり四散し、武神剛杵の中に消えていった。

 静瑠の服装は、元のボタン式Yシャツと、ジーンズに戻っている。

 

「・・・次は?」

「服を脱げ、下からだ」

「・・・っ ・・・そうどすか」

 羞恥を顔に出さないようにしながら、ジーンズに手をかける。

 ボタンを外し、ゆっくりと降ろすことで、静瑠の、紫色の官能的なレース付きのショーツが姿を現した。

 

「下着も一緒に降ろせ」

 だが、黒子の頭は冷静に更なる要求を突きつける。

 

「・・・っ」

 目を閉じながら、下着にも指をかけ、ゆっくりと・・・ 降ろしていく。

 静瑠の手入れの整った下の毛が、そして美しく淫艶なる秘所が姿を現す。

 

「ほお・・・美しいものだ」

「・・・これでもウチ、見せる人は選ぶんですけどね」

 絶対的な窮地といえる状況においても、静瑠は減らず口を叩いてみせた。

 

「おっと、そこまで」

 静瑠が下着ごとジーンズを、膝の真上にまで下ろした所で、黒子の頭はそれを止めた。

 

「今度は上を脱げ。 ・・・ただし、完全には脱がず腕までだ」

「(こいつ・・・)」

 完全には脱がせず、全裸よりも動きにくい形にして反撃の脅威を減らす・・・

 これも薫の入れ知恵か、実に上手いやり方だ。

 

 静瑠は言われた通りに、上着のボタン式Yシャツを、その下のランニングと共に脱ぎ、そして首を外し、腕に服が絡みついた状況で止める。

 豊満で美しい両胸、それを覆い隠す、下着と同じ色に統一された紫のレース付きのブラが晒される。

 

 それは、だらしのない恥ずかしい姿でありながら、静瑠の艶美溢れる肉体をアンバランスに見せつけ、全裸よりも、限りなくいやらしく映った。

 

「次は、その金剛杵をこちらに投げてよこせ」

 両手両足を簡易的に自分の衣服で拘束させた後は、いよいよ武器を奪いに掛かる。

 

「・・・しゃあないね。じゃあ・・・」

 中途半端に脱いだシャツのせいで動かしにくいその手で、静瑠は武神剛杵を握ると

 

「いち、にの・・・」

投げるモーションを取る。

 

(カチ・・・)

 

 そしてその時、武神剛杵の飾りの中に隠れたスイッチを押した。

 

「さん」

 その掛け声と共に、武神剛杵はゆっくりと宙を舞い、放物線を描く。

 それと共に目を閉じる静瑠。

 

 そして

 

(カッ────────!!!!!)

 

「ぐああっ────!!?」

 その場を包む、目が眩むどころではないほどの、陽の属性を持つ閃光。

 黒子の頭はその直撃を浴び、離れていた場所にいた他の黒子達も、その眩しさに何も見えなくなった。

 

「今や!! 行って!! 小弓天(こきゅうてん)!!!」

 静瑠が叫ぶと、閃光を放つ武神剛杵の中から、白銀と赤の模様で出来た金属の、翼の生えた赤子のような存在が姿を現す。

 目はクリンと大きく、頭はスペードのマークのような上にとがった形をしており毛髪は無い。

 

 愛染明王像にあってはその頭上に小さく存在し、弓を持つ存在。そして武神剛杵に宿った静瑠の隠れし相棒。名は小弓天。

 力は無いが、その飛行速度は音速に近い。

 

『よしきたっっ!!』

 まるで何かのマスコットキャラクターのような可愛い容姿をしたその小さな天使は、金属の反響するような声でその声に答え、驚くべき疾さで一直線に小百合の元へと飛んでいく。

 

(シュオッ────────────!!!)

 

「えっ!? きゃっ────」

そのまま白銀の光の幕で小百合を包み。そのままとんでもない疾さで、小弓天はその場から消えていった。

 

 それと同時に、静瑠はその場で拘束となっていた衣服を自分から脱ぎ捨て、ブラジャー以外は全裸の状態で走り出した。

 閃光が消えてしまうと共に、その場で跳んで、地面に転がる武神剛杵を再び手に取らんと手を伸ばす。

 

 武神剛杵は、静瑠の手の僅か数センチ先に────

 

 しかし

 

「ぐぅおああああああっ!!!!!」

 閃光に体を焼かれながらも、焼けた足の激痛を感じながらも

いち早く動き出した黒子の頭が、雄たけびを上げながら、その上から静瑠の右手首を勢いをつけ──── 踏み潰した。

 

(グシャッ────!!)

 

「えっ────!?」

 

「うあ、うああああああああっっ────────!!!!???」

 何の容赦も無い体重を乗せた踏み潰しは、無慈悲に静瑠の右手首の骨を砕いた。

 

「あっ・・・!! ぐ・・・っっ!!!」

 あまりの激痛に、静瑠は涙を浮かべ、右手を踏み潰されたままのた打ち回る。

 

「・・・・・・・ぐっ・・・ く・・・ ククク・・・」

 黒子の頭はそのまま、武神剛杵を拾い上げ、遠くへ投げ捨てた。

 

「ハァ・・・ ハァ・・・っ どこまでも舐めた真似をっ・・・・・・!!!」

 

(ドカァッ────!!)

 

「っっ───────!!!?」

 黒子の頭は、続けて同じ足で静瑠の顔を蹴り上げた。

 それにより、静瑠の体はゴロゴロと真横に転がる。

 

(ドスッ!! ドガッ!! ドグッ!!)

 

 更に黒子の頭は、横たわる静瑠のむき出しの腹を、連続で蹴り続けた。

 静瑠は既に悲鳴すら出せず、砂袋のように衝撃に体を揺らすしか出来ない。

 

「ふぅ・・・っ、これで・・・ もう・・・ 余計な真似は・・・っ 出来まいっ・・・」

 そこまでして、ようやく黒子の頭は平静を取り戻した。

 

 

「うっ・・・ ゴホッ・・・」

 ブラ以外はほぼ全裸で、仰向けに転がっている静瑠。

その状況は酷いものだった。

 青く膨れた右手首、顔からは鼻血を流し、腹部も青痣が所々に出来ている。

 口が切れたのか、それとも内臓のダメージか、咳のたびに鉄の味が口に広がり、赤い涎が口の端から垂れていた。

 

 それでも

 

「ふ・・・ ふふ・・・ ざまあ・・・ ありま、せん、ねぇ・・・ ハァ・・・ ゲホッ・・・」

 そのような状況になって、まだ静瑠の目は死んでいない。

 それどころか、より強い眼光で黒子の頭を睨む。

 亜衣とも麻衣とも違う一人の戦士としての勇ましさ、そして、今もなお、そんな静瑠は美しいままだ。

 

「・・・敵ながら見事なものだ。判断力も、行動力も・・・ そうなると、なお惜しいな」

 腰から刀を抜くと、静瑠の喉元に突きつける

 

「・・・・・・・・・っ」

 静瑠はそれでも、瞳の色を変えない。

 

「洞窟の封印を解け・・・といっても、貴様は応じるまい。そして断った場合の展開も・・・わかるな?」

「・・・・・・・・・」

「タオシー様は、【可能であるなら神藤静瑠も仲間に引き入れろ】と仰られている。それだけは伝えておこう」

 その言葉にだけ、静瑠は少し驚いた。

 

「・・・・・・そう、薫はん・・・ ウチも同じ・・・ 被害者や・・・ 思うてはるんやね・・・」

 意味深い静瑠の呟き。

 

「でも・・・ 返事は変わりませんよ。殺したら殺したで、あそこは永遠に閉じたままどすわ。外からは絶対開きません」

「・・・そうか。では・・・」

 黒子の頭は手を挙げ合図を出す。

 小百合を捕まえていた黒子達は、その半数が新しい牛頭、馬頭へと変身を終えており、いつの間にやら静瑠を囲んでいた。

その股間からは、柱のような大きさの凶悪な肉棒がそそり立っている。

そして他の黒子達も、大小様々な触手を、黒子の服のあらゆる隙間から出現させていた。

 

「・・・・・・・・・うあっ・・・!」

 一番近くに居た牛頭に、両手を掴まれ、持ち上げられた。

 

(ブチィッ────!!)

 

 唯一残っていた着衣であるブラをも剥ぎ取られ、反動でぶるん、と静瑠の美しい巨乳が揺れる。

 

「くっ・・・ う・・・」

 

「淫魔の誇りを以って、絶え間ない陵辱によってよがり狂わせ従わせるまで」

 陵辱劇が、始まった・・・

 

 

 

 

  ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 亜衣×カーマよりも悪衣×木偶ノ坊の方がダメージを感じるあたり僕は人間として歪んでいるようです。

 いやしかし、木偶ノ坊を逆レイプなんて需要があったのかな・・・ ぬう。苦手な人は読み飛ばしてください(遅いって

 

 うわー。本格的なエロは全部次やん。何やってるんだ僕は。

 

 ・・・・・・・・・お楽しみに

 



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