旅館、“山神”。 麻衣の部屋

 

チュンチュン、チキチキ

 

                                               チュン、チキチキ

 

 

「ん・・・・・・」

 雀の和やかな鳴き声で、麻衣は目を覚ます。

 背中に掛かった布団と毛布の感覚が心地よかった。 そして、自分がもたれかかっている胸が温かくて・・・

 

「(ん・・・ 胸・・・?)」

 ぱっちりと目を開けて、寝ぼけた頭で上を見上げる。

 

「ああ、起きたか。 ・・・おはよう」

「あ、おはようござい・・・ ・・・え?」

 麻衣の顔のすぐ上に、真顔の仁さんが・・・

 

 

「〜〜〜〜○×△□凸凹Ω!!!??(ボッ!!)」

 一瞬で顔が真っ赤になる。

 

「えっ、あっ、そっ、なっ、あれ!?」

 仁の胸の中で、くっつくでもなく離れるでもなく、わたわたと慌てている。

 

「・・・あっ、ああ、すまない。

 いつまでもくっついていたら・・・ だめだな」

  麻衣が何も言わないうちに、仁は自分から、ぎこちなく正座のまますっと身を引く。

 

 甘い言葉の一つでももう一押しあれば大分違っていただろうに、仁という男はどこまでも朴念仁であった。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 二人は互いに無言だった。

 

 

「「あの・・・」」

 何か言わないと、と思い、喋りかけた声が、仁と重なった。

 

「あ、どうぞ・・・」

「あ、ああ・・・」

 妙に仰々しい形で、最初の発言権は仁に移った。

 

 

「その・・・ すまない。勢いとはいえ、あんなことを・・・」

 すまなそうな顔で、頭を下げる仁。

 

「え・・・・・・?」

 ひょっとしてこの人は、私を抱きしめて安心させてくれたことを言ってるんだろうか。

 言い方からするとまるで・・・

 

「(・・・・・・・・・///////////)」

 

 ・・・うわ。私って何てはしたないこと。

 これじゃ、まともに仁さんの顔が見れない。

 

 落ち着いて落ち着いて。

 

「ス──── ハ────  ス────  ハ────・・・」

 深呼吸をして、気を落ち着ける。

 

「(ゴホンッ)そんな・・・ 

 そんなことないです。私・・・ すごく落ち着けました。何の夢も見ずに眠れましたし・・・

 その・・・ お父さんの胸って、あんな感じなのかな・・・って」

 

 ポッと顔を赤くし語る麻衣に、ボクネンジンな仁もさすがに胸の鼓動を早くした。

 

「そうか・・・ よかった」

 はにかんだ笑顔の仁は、逞しい系の美形ながら、かわいい。

 

 ・・・この人は、本当に下心が一切無いんだろう。

ただ人が心配になると、いてもたってもいられなくて、行動してしまう。

本気でそういう人なんだって、よくわかる。

 

・・・それは、やっぱり・・・

昔助けられなかった、タオ・・・ 薫さんの・・・

 

 

「じゃあ、俺はこれで・・・

 食堂で会おう」

 

 そうこう考えている内に、仁さんは立ち上がり、扉へ向かった。

 

「あ・・・ 仁さん」

 つい呼び止める麻衣。

 

「・・・? どうしたんだ?」

 振り返る仁。

 

「あの・・・ ありがとうございました。

 嬉しかったです」

 

「・・・ああ。君も元気になってくれたみたいで、よかった」

 笑顔を交し合う二人。

 

 そして仁は、片手でさよならの挨拶をしつつ、ドアを開けて出て行った。

 

 

 

  ◇    ◇    

 

 

 

 麻衣もまた、食堂へ行くためにパジャマから着替え始める。

 

 上着を、ズボンを順々に脱ぎ、ショーツも脱いで裸になった。

 そして、着替えとして用意した新しいブラを掛け、そこで肌寒くなったのか、新しいショーツから先に履き始めた。

 

 そこで

 

(パチン)

 

 ブラのホックが調度良いぐらいに締められた。

 

「あ、どうも」

「いーえぇ、これぐらいどうってことあらしまへんよ」

 

「・・・・・・・・・!?」

 普通に挨拶してしまった所で、聞いたことがある京都弁に、バッと振り返る。

 

「し、し、静瑠さんっ!!?」

「はい、静瑠どす♪」

 いつの間にか、真後ろには着物姿の静瑠が立っていた。

 

「な、な、な・・・ んでここに!?」

 慌てつつ質問する麻衣に

 

「ウチ、そういうキャラどすから」

 という返しをする静瑠。

 

「麻衣はんも隅に置けませんねえ。

 風呂で一緒に遊んだ思うたら、仁くんが部屋から朝帰り」

  着物の袖で口を隠し、薄目でからかうように見つめる。

 

「あ、いや、その、それは・・・」

 顔から火が出そうになりながら、手をあちこちに振りつつ言い訳をしようとする麻衣。

 

「わかってますよ。

 仁君がそういう事せえへんの、ウチはよう知ってますさかい」

  例の菩薩のような笑顔でそう言った。

 

「・・・・・・・・・」

 どうやら、またこの人におちょくられてしまったらしい。

 

 

「せっかくやから、脱いだ服くれます?」

 唐突にとんでもないことを言い出した。

 

「え、ええっ!!?」

「・・・【ええ!?】て・・・ ただ、ウチの旅館で預かっといて、一緒に洗濯させてもらいましょ思たんどすけど」

 麻衣の驚きに、きょとんとした顔を向ける静瑠。

 

「え・・・ この旅館、そういうサービスもあるんですか?」

「ありませんよ」

 即答。

 

「・・・・・・?」

「ウチは帝国ホテルやありませんからねぇ。

よほどの常連さんか、麻衣はんみたいな特別なお客さんやない限り、こういうことはしませんよ」

 そう言って、静瑠は麻衣の脱ぎ散らしたとも整頓したとも言えない衣服を次々と小さな籠に入れ始めた。

 

「朝食はもう出来てますさかい、どうぞ暖かいうちに食べはって。

 今日のおみおつけ、我ながら絶品なんどすわ〜」

  背中を向けたまま、陽気に語る静瑠。

 そのまま、静瑠は部屋をあとに・・・

 

「あ、はい・・・ ・・・・・・?」

「〜〜〜〜〜〜♪」

 鼻歌を歌いながら出て行こうとしている静瑠の先程の動作に、麻衣は気付いた。

 

「あの、静瑠さん・・・」

「なんどすか〜?」

「・・・さりげなく、私のショーツ。ガメませんでした?」

 

 ピタリと止まる静瑠。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

少々の沈黙。

 

 そして

 

「ささ、他の部屋も早よ掃除せんと・・・」

 そそくさと、部屋から逃げようとする静瑠。

 

 

「ちょっと〜〜〜〜!!!!!!」

 後ろから静瑠を捕まえ、ポカポカと加減した力で背中を叩く麻衣。

 

「あっ、ちょっ、 かんにんかんにん! ほんの冗談やから、冗談」

 そんな攻撃を笑いながら防御する静瑠。

 

 

 静瑠との下着争奪戦を繰り広げながら、麻衣は自然と笑顔だった。

 それが、静瑠のやんちゃから鬼麿を思い出したからかどうかは、定かではない。

 

 

 

  ◇    ◇  

 

 

    一方 

 

   淫魔の社  大広間

 

 

「ふう・・・」

 体を洗う為の風呂と、着替えを終えて、露出の多い例の服を着た悪衣が現れる。

 

 最後に、髪の水分を拭ききると、一つの紐に手を伸ばす。

 タオシーが作った、黒蝶を象ったリボンである。

 それを慣れた手つきで、髪を括る。 

 

目の前の鏡に映る姿は、露出の多い服と、目つき以外はより亜衣と似たものになった。

 

元々悪衣が髪をロングにしていたのは、元々の人格である【亜衣】に対してのコンプレックスにある。

 しかし、悪衣はそのわだかまりを捨てる事にした。

 

 それは・・・

 

 

 

  ◇    ◇    

 

 

    <回想>

 

   場所はカーマの寝室。

 

時は、亜衣に焦らし陵辱をしたすぐ後。

亜衣の意識は再び眠らされ、今は悪衣が表に出ている。

 

「今回は随分イジメたわね」

 カーマの隣で、悪衣は話しかける。

 

「楽しいからな」

 と、カーマ。

 

「・・・で、今回は亜衣に何したの?」

 唐突な疑問。

 

「・・・それは、どういう意味だ?」

 カーマも眉の中央に皺を作り、疑問の表情を浮かべる。

 

「あの時、亜衣は本当にあの台詞を言おうとしてなかった。・・・何だか、外から命令が来てた様な気がしたのよね。

 ・・・カーマ、何かしたでしょ」

  カーマを真っ直ぐに見つめ、問う悪衣。

 

「・・・ほう、わかるのか。大したものだ」

「どういうこと?」

「タネの正体は・・・ 催眠だ」

 カーマは驚くほどあっさりと、それをバラした。

 

「催、眠・・・? 催眠って、催眠術? そんなの出来たの?」

 悪衣は、きょとんとした顔になる。

 

「上級の淫魔なら基本だ。幻術の前段階だな、便利だぞ」

 なるほど、淫ら陣なんて術を使うカーマだ。

 催眠の一つや二つできてもおかしくない。

 

「つまり、俺は亜衣を犯しながら、陵辱の辛苦と快楽に負けまいと無防備になっていた意識に、目を見つめる形で催眠をかけていた訳だ。

 あとは、俺がもう一度言葉を発すれば、意志とは関係なく、思い出した時点でその言葉は口からついて出る」

  フフフ、と。 カーマは少年のように得意げに笑った。

 

「なるほど・・・ 妙に亜衣の目を見てたり、焦らす割には言葉で攻めて来ないと思ったら、そういうこと。

 ・・・あ、もしかして、私にも変な影響出たりするんじゃ・・・」

  じっとカーマを見る。

 

「安心しろ、催眠をかけたのはあくまで亜衣で、それももう解いた。人格を飛び越えての作用は無い

 元々素直なお前に、そんな小細工は必要ない。

それにお前が嫌がる事といったら、無理矢理俺以外のブタのような淫魔に犯られることぐらいだろう?

それは俺も気分が悪いからな」

 どこにそこまで自信があるのか、カーマは堂々とそんな事を言い放ちながら、悪衣の髪を撫ぜた。

 

「・・・ならいいけど」

 悪衣は悪衣で、その行為に一切の抵抗をせず、むしろ受け入れる。

 

「・・・しかし、残念だな」

「何が?」

 

「お前に教えてしまっては、もうこのネタが使えん。

 せっかく他にいいパターンを考え付いた所なんだが・・・」

  本当に残念そうな顔をしてため息をつくカーマ。

 そこに悪衣は、妙なかわいさを覚えてしまう。

 

「大丈夫よ、私が【教えない】と思った記憶は、亜衣には行かないから」

「そうなのか?」

「うん、せっかく亜衣が落ち込んでるのに、使わないなんて勿体無いじゃない」

 悪衣は、まるで他人事のように亜衣の名前を出す。

 

「そうか・・・フフ」

 カーマは嬉しそうにしている。

 

「でも、それには一つ条件」

「条件・・・?」

 

「聞きたいことが一つだけあったの」

「何だ?」

 

「私(悪衣)と、亜衣と・・・ どっちが好き?」

 悪衣の目は真剣だ。

 対するカーマは

 

「・・・下らん質問だな」

 そう一蹴した。

 

「ちゃんと答えてよ」

 悪衣は強く睨む。

 

「(・・・こういう所はやはり【天津亜衣】だな)」

 カーマは、その譲らない意気の強さに折れる事にした。

 

「・・・どちらも何も、お前も亜衣も、【天津亜衣】であることに代わりは無いだろう。

 人格が分かれたから、どちらか片方を愛するなど馬鹿らしい話だ。上半身か下半身どちらが好きか聞いてるのと変わらん。

 俺は【天津亜衣】の全てを愛しているんだ。髪の毛の一本一本から、足の爪先までな」

  その言葉に、偽りは一切無い。

 

「・・・・・・・・・でも・・・」

 カーマの返答に、悪衣は不満を隠しきれない。

 

「・・・ふむ」

 カーマは悪衣の顎を掴み、顔を向けさせた。

 

「な、何?」

 少しだけ驚く悪衣。

 

「お前は自分の事を、【天津亜衣】の要らない部分だと自ら思い込んでいるようだな。・・・まあ、無理もない。

 お前は亜衣にずっと要らない存在として封印されてきたのだから、そう思ってもしまうだろう。

 ・・・しかし、俺だけはお前の魅力を理解している。お前はお前なりの考え方、誇りを持っていることだって俺はわかっている。

 そしてそんなお前を全力で愛している。・・・それで充分だろう?」

 

「・・・・・・・・・」

 嬉しかった。

 ずっと存在を否定され続けてきた自分を、目の前の人は受け入れてくれている。愛してくれる。

 それは、何にも勝る喜びだった。

 

「それでも充分じゃないというのなら・・・」

 

(ガバッ!!)

 

 カーマはいきなり、悪衣を寝具の上に押し倒す。

 

「え・・・?」

 驚く悪衣。

 

「下らんことを考える暇をなくしてやろう」

 そう言うと、カーマは、悪衣の唇を奪った。

 

「ん、んっ・・・!」

 侵入してくる舌に、悪衣は眼を閉じ、自ら舌同士を絡める。

 

(ズッ・・・プ・・・!!)

 

「ん、ああっっ!!?」

 何の予告もなく、カーマの剛直がいきなりに悪衣を貫く。

 通常なら痛みしか伴わない行為だが、先程まで亜衣として貫かれていた時の愛液と精液が、充分な潤滑液として機能していた。

 

「あっ、あっ、あっ、あっ・・・!! うぁっ・・・! やっ、激し・・・っ!!!」

 カーマの攻めはいつもより荒々しく、激しかった。

 それでいて、悪衣の体の弱点を巧みに突いており、それは確かに悪衣から余計なこと、いや、何も考えることも出来なくしていた。

 

 何も考えられなくなる直前・・・

初めて悪衣は、亜衣を哀れに思った。

 

悪衣(わたし)にとっては、こんなに幸福で愛おしい快楽でも、亜衣は屈辱、恥辱、辛苦として考えている。

それが、少しだけ滑稽に思え、悪衣はほんの一瞬、初めて亜衣に対して、勝ち誇った笑みを浮かべた・・・

 

 

 

  ◇    ◇    

 

 

 

 その時のカーマの言葉によって、悪衣はこだわる事をやめた。

 自分は亜衣には無いものを手に入れたのだから、もはや気にすることも無い。

 亜衣との違いを求めるために違う髪形にするのではなく、本来悪衣も好きであったポニーに戻る事にした。

 

 ただし、髪留めのリボンは、天津の巫女のものではなく、黒蝶の飾りが付いた黒色のリボン。

 鏡の前で、黒に統一した自分の衣服のコントラストに、自分の中で満点をつける。

 

「ほう・・・ 似合うな」

 先に大広間にいたカーマは、正直な感想を述べた。

 

「私も気に入ってるの。・・・タオシーって、こういう才能もあるのね」

「そういえば、炊事も得意だったな」

「へぇ・・・ 作ってもらったり、したの?」

 

「俺は食う物などどうでもよかったんだが・・・」

 カーマの言い方からすると、カーマに食欲がない時もタオシーは食事を作ってはカーマに勧めていたのだろう。

 

「まるでお父さんと娘ね」

「じゃあ、母親は悪衣か?」

 

「そうね・・・ 私たちの邪魔者が居なくなったら、そういうのもいいかもしれないわね」

 クス と笑う悪衣。

 

 

「じゃあ、行きましょう」

 身支度を終え、悪衣は歩き出した。

 

「そこまで心配せずとも、タオシーに任せてやればいいと思うがな。

【自分一人で肩を付けたい】と書置きを残すぐらいだ。ヘソを曲げるそ」

  そう言いつつも、後ろからカーマも付いてくる。                                      

 

「・・・麻衣を嘗めちゃダメよ。あの子、泣いてからが強いんだから。

 私も、守るものが出来たし、それに・・・」

「それに?」

 

「母親なら、これは授業参観じゃない?」

「フッ・・・ ハハハハ。それは面白いな! ハハハハハハ!!」

 

 そうして、淫魔の新王と姫は、戦いの場へと赴いた。

 

 

 

  ◇    ◇    

 

 

  そして

 

   封神山  最短登山コース

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、は────────────」

 人なら絶対に登らないんじゃないかという険しい山道に、30分以上。

麻衣は、さすがに根を上げ始めていた。

 

「はっはっは。若といた山を思い出しますなあ」

 文字通りの山育ちの木偶ノ坊は慣れたもの、まるで平地のように足場の悪い山道を登っていく。

 

 先導役である静瑠も、どこにそんな体力があるのか、活動的なジーンズとボタン式Yシャツという軽い服装に、それとは似合わぬ大きなリュックを背負い、まるで背に羽がついているかのようにスイスイと登っている。

 仁さんに至っては、姿すら見えない。

 

 麻衣も体力がないわけじゃあない。舞いや薙刀の稽古などで、同じ学園の同級生相手ならスタミナ勝負で完勝する自信だってある。

 ただ何ぶん、この山道は【山道】なんてもんじゃない。

 大きな岩はゴロゴロしているし、木の枝は足を取りそうだったり頭に当たりそうだったり、ちょっと足を外せば落ちそうなぐらい足場が狭い道があったり。

 

 結論からするとこんな所、獣だって好きこのんで通ろうとはしないだろう。

 

 

Q:他にいい道はないんですか?

 

と、随分前に静瑠さんに聞いたものの

 

A:しゃあないどすわ。ここ以外の山道は、短いんでもここの3倍の時間かかりますよって

 

 というのが、静瑠の返事だった。

 

 

 

「ぜぇ・・・ ぜぇ・・・ はぁ・・・」

 なんとか二人についていっているものの、もうそろそろダメかもしれない。

 そんな風に思いながら歩いていると、ふいに、足元の岩に蹴躓いた。

 

「あっ────!」

 えっ、ウソ・・・

 転ん──── 落ちる!!?

 

「うわわっ・・・!!!」

 

(パシッ!)

 

 その時、後から誰かが麻衣の手を掴み、腰に手を当てて、引き上げた。

 

「大丈夫か?」

「あっ・・・」

 後ろにいたのは、仁だった。

 てっきり見えないほど前に行ったと思っていたのに、山登りに躍起になっていて周りが見えていなかったらしい。

 

 そこで麻衣は気付いた。

 偶然ながら、この体制は・・・

 

「(お姫様抱っこ・・・)」

 麻衣の顔が、また ボッ と紅くなる。

 

 え、いや、確かにステキな人にお姫様抱っこをしてもらうっていうのは、小さい頃からの夢で、

 でもあの、それは、たくましくて強くて美形で優しい人で・・・

 

 仁さんは・・・

 

仁の顔をもう一度見る。

たくましいし、強いし、顔もアイドルとかっていうほどじゃないけど、カッコよくて・・・ 何より、すごく・・・ 優しい。

 

「(全部当て嵌まってる・・・!?)」

 顔はもっと紅さを増して、頭から蒸気が噴出しそうになった。

 そして、どこかからドク、ドクと激しい音が・・・

 

 あれ? これって、私の心臓から聞こえてる・・・?

 ということは、私、仁さんに・・・ 

 

・・・・・・ ・・・・・・・・・

 

「(え、ええ!? えええええ!!?  え────────ッッ!!!!??)」

 

 ウソ!? ウソウソウソ!!?

 だって、だって・・・ ええ!?

 

 

「どうしたんだ?」

 そんな麻衣の心情がわからない仁は、ただ麻衣の心配をしている。

 

「あ、いえ・・・」

「顔が赤い。風邪熱じゃあないみたいだが・・・ この急な山道だ。

 脳に血液が溜まってしまったかもしれないな」

  陣は天然且つ鈍感である。

 

「いや、あの・・・」

 むしろこの熱は、仁さんが離してくれたら、すぐに・・・

 

「もう大丈夫ですから、降ろしてくださ・・・」

「遠慮しなくていい。君は軽いからこのまま行ける」

 そう言うと、仁はお姫様抱っこで、麻衣を抱き抱えたまま立ち上がり、歩き出した。

 

「えっ? わっ!?」

 実際、仁は早かった。

 人を一人抱き抱えたまま、まるで何も無いかのように足場の悪い道をスイスイと登って行っている。

 

 それも、抱き抱えられている麻衣には何の負担もない。仁の抱き方は優しく、まるで魔法の絨毯で運んでもらっているかのようで・・・

 

「す、すごいですね・・・」

 まともに仁を見れず、横を向いたまま話しかける麻衣。

 

「ああ、もっと酷い山を、100キロの荷物を背負って走る修行を毎日やらされていたからな」

「ひゃ、ひゃく・・・!?」

 思わずびっくりする。

 そんなマンガみたいな修行。本当にあるんだ・・・

 

「ああ。しかも、最後尾は竹刀で殴られるから、皆必死だった。他にも・・・」

 

 仁は、自分の修行の思い出を語り始めた。

 大岩を持ち上げる。投石を避わす。師匠が寝込みを襲ってくるなど、信じられないような話が次々と出てくる。

 

 そんな中、麻衣は、胸のドキドキで話を聞くどころではなかった。

 突如やってきた初恋に、動機は止まらず、ただただ時間は過ぎていった・・・

 

 

 

 

  ◇    ◇    

 

 

 

 

 それから1時間ほど経ち、

静瑠は、大きな一つの岩の前で立ち止まった。

 

 その岩は、直径2メートルはあろうかという巨大さを持ち、所々に苔(こけ)が生している。

 だが本当にそれだけで、他にはただ木々が広がっているだけ、宝物殿はおろか、洞窟の入り口、小型の社一つ見えない。

 

「ここどすわ」

 だが静瑠は、その何の変哲も、注連縄(しめなわ)の一つも無い岩をペチペチと叩く。

 

「・・・? ただの岩にしか見えませんぞな」

 木偶ノ坊の尤もな疑問。

 

「まあ、見といて」

 静瑠は岩の正面に立ち、右手を岩にかざしつつ目を閉じた。

 

 

「・・・古の地、封印を司る神藤の血の継承者、神藤静瑠の名において、試練を受ける三人の兵(つわもの)への開門を求めん・・・」

 言霊を乗せた静瑠の言葉と共に、大岩と、大地が共鳴し、白銀色の光を放つ。

 地面から表面の土が散ってゆき、均等に配置された白色の縁石が姿を現した。

 大岩が光り輝き、振動し、苔が次々と剥がれ落ち、本来の美しい岩肌が露になる。

 

 

「えっ・・・!!!?」 「ぬおっ・・・!!!!」

 舞衣と木偶ノ坊はその光景に驚き、

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 唯一、逢魔の人間である仁だけが、静かにそれを見守っていた。

 

 

「戦士。天津麻衣、逢魔仁、木偶ノ坊の三名 三神の試練を受ける資格を有せし者であると宣言する」

 白銀色の光に包まれながら、薄目を開け、唱え続ける静瑠の姿は、まるで日本神話の天女の如く神秘的で、

近寄ることに恐ろさを感じるほどであった。

 

「天岩戸(あまのいわと)、開門」

 

(────────────キイィィィィィィィン────────────)

 

白銀色の光の中から、静瑠が手をかざした場所を中心として陽光色の一際まばゆい光が放たれ、辺り一帯を包んだ。

 静瑠以外のその場の全員がその光に目を眩ませ、或いは腕で顔を隠し目を瞑る。

 

 白銀と陽光、両方の光が消失し、景色が元に戻る。

 

 目を開けた三人の前には、信じられない光景があった。

 窪み一つ無かった筈の大岩、その中心に、大きな穴・・・ いや、入り口が出現していた。

 

 しかも、それだけではない。

 入り口から見えるその中は、長く、置くが闇で隠れて見えないほどの深い洞窟。

 だが、下の面以外は地面から露出している大岩で、それは・・・ありえない。

 

 

「ふー・・・ うん、侵入の形跡は・・・ ないね」

 すっかりいつもの様子に戻った静瑠は息を吐き、タオルで額の汗を拭いている。

 

「あの・・・これは・・・?」

 麻衣が尋ねた。

 

「これが、ウチら一族が代々守ってきた“天岩戸(あまのいわと)”どす。

 見ての通り、中がホンマに洞窟やっちゅうわけやのうて、別の空間と繋がっとるんどすわ。

言い伝えでは、三種の神器に宿ってはる神様方が作った空間らしいですよ」

 

「はあ〜〜〜・・・」

 天津の巫女である麻衣にとっても、充分すぎるほどの不思議現象である。

 

 

「三種の神器の試練受けるんは、必ず3人やないとあきませんねんよ」

 

「3人・・・?」

 でも、今ここにいるのは4人で・・・

 

「ウチはここで、皆さんの帰り待たしてもらいます。

ウチはあくまで、ここまでの案内役どすから。

 神藤家の役目は、この入り口を守ること。 ・・・すみませんけど、中にはご一緒できません」

  麻衣の思考を呼んだかのように、静瑠は静かに、きっぱりと言った。

 

「え・・・そんな、来てくれないんですか?」

 素直に残念がる麻衣。

 

「う〜〜ん・・・ 麻衣はんの頼みは聞きたいトコなんどすけど・・・ ウチはウチでやることありますし・・・

 それにホラ、ウチ麻衣はんや仁くんほど強ぅありませんよって」

「(・・・私がハァハァ言ってた山道を荷物付きでひょいひょい登ってたような・・・)」

 

 ・・・それでも、確かに静瑠さんは洞窟の中は危ないかもしれない。

 

「麻衣」

 仁は、麻衣の肩に手を置く。

 

「殿(しんがり)を勤めるのも、大事な役目なんだ。・・・わかって欲しい」

 

「・・・・・・仁、さん・・・」

 麻衣は、顔を再び赤らめる。

 

 ・・・そう、だよね。 静瑠さんの実力を見たわけじゃないけど・・・

 それでも、この中は試練というからには危ないのはわかる。

 

 

「・・・わかりました」

 麻衣は、コクンと頷いた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・」

 静瑠と木偶ノ坊の頭上に、見事に じと〜〜 という文字が出ている。

 

 静瑠は複雑な感情で、木偶ノ坊は少し淋しい表情で二人を見ていた。

 

「・・・なんだ?」

 視線にこそ気付くものの、鈍感な仁はその意図がわからない。

 

「何もあらしまへんよ」

「・・・うむ」

 

「・・・・・・?」

 仁は、疑問に眉を寄せるばかりだった。

 

 

 

「麻衣はん、ちょっと」

 麻衣、仁、木偶ノ坊三人が洞窟の前に立った所で、

 静瑠は、おいでおいでの手招きで、麻衣を引き寄せる。

 

「・・・・・・?」

 麻衣は小走りで駆け寄った。

 

「・・・はい?」

「耳、借りますえ」

 そう言って、麻衣の左耳に耳打ちをする。

 

「・・・仁君が好きになってもうたんなら、自分から仕掛けんと・・・ 取られてまうよ」

「えっ・・・ な・・・!」

 真っ赤になる麻衣。

 

「ふー・・・・・」

「あ、あああぁぁ・・・・」

 そのまま耳元に息を吹きかけられ、へろへろと脱力してしまう麻衣。

 

「・・・何やってるんだ?」

 呆れた感じで仁が言う。

 

「ああ、ごめんねぇ。もう終わりましたさかい。

 ほらほら麻衣はん、立って立って」

「・・・・・・・・・・・・」

 麻衣は、むう、とした目で静瑠に無言の抗議をする。

 

「かんにん、つい・・・ね」

 いつもの調子で、静瑠は手を合わせて謝る。

「もう・・・」

 麻衣は立ち上がり

 

「・・・がんばってきます」

 真剣な目で、誓った。

 

「うん」

 静瑠も笑顔で頷く。

 

「じゃあ・・・行くか」

「うむ」

「はい」

 3人は互いに頷き合う。

 

「ほな、皆さん、行ってらっしゃい」

 ぺこりと一礼をする静瑠。

 

 そうして、麻衣。仁。木偶ノ坊の3名は、洞窟の中へと進んでいった。

 

 

「がんばってぇな〜。山菜採って待ってますさかい〜〜」

 ふりふりと手を振って、皆を見送る。

 3人が見えなくなると、静瑠はゆっくりと手を下ろし

 

 

「・・・ふぅ。ウチって、どうして本命は逃してまうんかしらねぇ。不思議・・・」

 ため息を吐くと

 

 

「・・・・・・・・・さて、と」

 リュックを地面に降ろし、来た道を振り返る。

 

 

「・・・そろそろ、出てきはったらどうどすか?」

 静瑠の一言と共に、ありとあらゆる影から、ザワザワと、風と関係の無い草木の揺れが一斉に増えていく。

そして、周り中に、例のタオシーの配下、黒子達が姿を現した。

今までどこに隠れていたのか・・・ その数、軽く確認できるだけでも50人近い。

 

「人の後付けてくるなんて、趣味が悪いんとちゃいます?」

 腕を組み、さも迷惑そうに言う静瑠。

 

「・・・よくわかったな、女」

 その中の中央、黒子のリーダー格らしき男が、口を利いた。

 

「(黒子の大群・・・ 聞いてた通りやと、薫はんの私兵か・・・

でも、情報と違って喋れるんやね・・・ 人間・・・? でも、妖力は感じるし・・・)

  表情を変えないまま、静瑠は思考する。

 

「これから試練や言う時に、あの子達に後ろ心配されるわけにもいきませんよって。

ひのふの・・・ ふぅ。ぶぶ漬けご馳走する時間も惜しゅうおすなぁ・・・ それでもええんなら、微塵切り、やね」

 何の武器も手に持たない状況で、静瑠は不敵だった。

 

「・・・威勢はいいな、だがそれで、我々とどう戦う?」

「京の人間は奥ゆかしいのが基本どす。・・・まずは、そっちから隠し玉、見せたらどうどすか?

 どうせ、雑魚以外にも用意してますんでしょ?」

 

「・・・・・・・・いいだろう」

 リーダーの黒子が右手をサッと上げると、赤色の鉢巻をした黒子が2体、登場する。

 

「「グゥゥゥウウウウ・・・・・・っ!!!」」

 それが、苦しげに屈んだかと思うと、突如 体が肥大していった。

 

「・・・・・・っ!?」

 

 静瑠が驚く間もなく、あっという間に身の丈は2,3メートル大に膨れ上がり、黒子の服がブチブチと音を立て、はちきれ、引き裂かれる。

 特撮めいた光景を前に、さすがの静瑠も目を見開いた。

 

 姿を現したのは、牛の怪物と、だった。

 闘牛、馬の顔、両方ともに黒色の体毛、牛馬独特の足首の形と爪。しかし、体そのものの構造は人間と同じ二足歩行の両手両足。

 日本では有名な妖怪、牛頭(ごず)、馬頭(めず)である。

 

「ブルルルルルルルっ・・・・!!!」

「ヒィィィィィィンっっ・・・・・!!!!」

 いきり立つ牛頭馬頭は、大きく鼻息を鳴らしながら、静瑠を睨み、他の黒子達が数名がかりで持っていた巨大な金棒を手に取り、空中で振り回した後、地面に勢い良く突き立てた。

 

 ドォン!! ドォン!! と、大きく大地を揺らす金棒の衝撃。

 

「地獄の案内人、牛頭と馬頭・・・ どちらも人間では太刀打ちできぬ怪力の持ち主。・・・どうだ? 怖くなったか?」

 ククク・・・ と、厭らしく笑う黒子のリーダー。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 しかし静瑠は

 

「・・・・・・お下品」

 そう、たった一言で一蹴する。

 

「何・・・っ!?」

 黒子の頭は静かに怒りを向ける。

 

「でも、あんたらがどうこうされた人間やのうて、人型に固定された狐狸妖怪の類やわかっただけでも収穫ですわ。

 ・・・催眠や洗脳やとか、余計な気を回さんで済みますさかい」

  ニコリと笑顔を向ける静瑠。だがそれは菩薩の笑みではなく、獲物を見つけた蛇の目だ。

 

「変身って言うんは、もっと華麗やないとね」

 静瑠は、ポーチから短い棒状のものを取り出した。

 

 それは、明王像などが持つ【金剛杵】(こんごうしょ)。

 だがそれは、仏像が持つものとは大きく違う。

基本的な部分は金剛杵でありながら、現代的なデザイン、カラーリング。

そして見るからには、組成自身も特殊な金属であろう事が見て取れる。

先端の爪は、静瑠が持つものは5本・・・ それは、五鈷杵(ごこしょ)と呼ばれるタイプである

 

 

「・・・そんなもので、俺たちと戦おうっていうのか?」

「何の個性も無いツッコミ、おおきに」

 

 静瑠は、眼を閉じながら、五剛杵を握った右手を大きく突き出し、それに左手を添えながら

 

「オン マカラ アギャ バサラ ウシュニシュ バサラサタバ ジャウンバンコ・・・」

 梵字、【ウウーン】を空中に描きながら、奇妙な呪文を唱え出した。

 これは、愛染明王の真言である。

 

 

「────霊装・愛染(れいそう・あいぜん)!!」

 

 

 

(キィィィィィイイイイン────────────ッ!!!!!!)

 

 静瑠の叫びと共に、金剛杵が白銀色に輝きだし、それは瞬く間に静瑠の体を包んだ。

 静瑠を包んだ光は、そのまま静瑠の体に定着し、その体を包む鎧へと姿を変えていく。

それまでの服は瞬間的に消え去り、亜衣、麻衣の初期の羽衣に似た、活動的な軽装の和服に変わる。

 

静瑠はその場で回転し華麗に舞いを舞った。 その動きに合わせるように、和服の上から、赤色に塗られた白銀の手甲。具足。胸当て。肩当。

そして最後に、愛染明王の象徴である、獅子の冠が装着される。

 

それと同時に、静瑠が手に持っていた金剛杵は、瞬く間に大きな薙刀へと姿を変えた。

それを振り回し回転させると、挑戦的にも、切っ先を黒子達に向ける形で構えを取る。

 

その姿は、正に戦場の戦乙女。

亜衣、麻衣の変身時に似てはいるが、その装甲部の多さの違いは、それがより戦闘に特化されたものであるとわかる。

 

 

「・・・・・・・・・っ!!」

 ザワザワと淀めく、黒子の群れたち。

 

「どうどすか? 変身ヒーローみたいで、カッコええでしょ?」

 おちゃらけた言い方で、黒子達に話しかける静瑠。

 

「何だそれは・・・? 貴様は、天津の巫女ではないはず・・・」

 黒子の頭は表情こそ分からないが、声には隠し切れぬ動揺がある。

 

 

「あらあら、勉強不足どすなぁ、三下の証拠やね」

 

退魔機関“逢魔”は、世界中のあらゆる科学、オカルト両面のメカニズムの最先端を研究し、それを組み合わせ独特の技術として昇華している。

その一つが、この携帯型戦闘装甲、武神剛杵(ぶしんごうしょ)である。

天津の歴代の巫女達の戦闘データをベースに、陰陽師の道具精製の技術と、高僧による各武神との触媒契約、それに現代の科学をミックスしたことで、身体能力、防御力の激的な上昇、そして強大な神通力を得ることが可能になり、単体で淫魔と戦うことも可能になる。

現時点で5つしか生産されていないが、逢魔の白兵戦において、選ばれた女性戦士の最大の武器であり防具。逢魔の切り札なのだ。

 

 静瑠が有するのは五型、【愛染】。

 名の通り、明王を統べる者と言われる、愛染明王の加護を得ており、強大な力を持っている。

 

 

 

「・・・・・・・・・(シッ!)」

 黒子の頭の号令と共に、数人の黒子達が様々な武器を手に、一斉に跳びかかった。

 

 静瑠はその場から動かない。

 そのまま、黒子達が静瑠の薙刀の間合いに入ったその、一瞬。

 

ザンッ────!!!)

 

 

 ほんの少しの手の動き、輝く白銀色の曲線。

 それを通り抜けた黒子達が細切れの肉片へと変わったのは、地面に付いてからであった。

 

 

「・・・・・・・・・っ」

 黒子達も、それで目の前の女の力を思い知ったらしい。

 本気になった黒子達と、それが率いる牛頭馬頭は、じりじりと距離を詰めてくる。

 

「あらあら、せやから言いましたのに」

 笑顔で威圧する、静瑠。

 

「ぐっ・・・ 早く女を倒し、中のタオシー様と合流せねばならぬのに・・・っ!!」

 黒子の頭は、忌々しそうにそう言った。

 

「・・・ッ!? ちょっと、今、何て言わはりました?」

 静瑠は表情を変えた。

 

「・・・・・・タオシー様は、我ら本隊より一足先に中へと入られている。

 我々は、背後からの強襲部隊。天津の巫女どもを挟み討つためのな」

  信じられぬ言葉。

 

「(まさか・・・ いや、あの薫はんなら・・・ あるいは・・・

 せやったら、仁はん、麻衣はん達は・・・。 あかん、このままやったら・・・)」

  しかし、まずは目の前に居る奴らを食い止め、全て倒さなければ

・・・・・・最悪の事態になる。

 

「(・・・黒子はともかく、牛頭馬頭相手に入り口開けたままは厳しいかもしれへん・・・)」

 チラと横目で入り口を見る。

 

「閉門!!」

 ピッ、ピッ、ピッ、 と、指の動きで梵字を描くと、一瞬で大岩の入り口が消え、元の岩肌に戻った。

 

 

「ウチがおる限り、ここからは・・・誰も通しません!!

 長髪をなびかせ、静瑠は、敵の群れへと突っ込んでいった。

 

 

 

 

◇    ◇    

 

 

 

   一方、麻衣達一行。

 

 静瑠の戦いを知らず、麻衣達は洞窟の中を進んでいた。

 

「分かれ道・・・」

 暗き洞窟を懐中電灯で進むこと数分。

 麻衣達の目の前には、3つに分かれた道が、ぽっかりと口を開けている。

 

「幼い頃に聞いてはいたが・・・ これが・・・」

 と、仁。

 

「何ぞな?」

 と、木偶ノ坊。

 

「言い伝えによれば、この3本の道は、それぞれ八尺瓊勾玉。八咒鏡。天敢雲剣に繋がっている筈だ。

 3人がそれぞれ一人ずつに別れ、試練を受けなければならない。二人以上が一つの道に入れば、試練は発生せず、三種の神器は絶対に手に入らな・・・

 ん!?」

  話の途中で、仁は真ん中の道の前に落ちている何かを見つけた。

 

「これは・・・ 薫の紙!?

 薫・・・ この先に居るのか!!?」

  仁は何度も見たことがある、人型に切られている紙。

 霊力は込められていない。つまり・・・

 

「目印か、薫・・・ 俺を呼んでるんだな」

 

「でも、静瑠さんは何も・・・」

 そう、麻衣の言うとおり、静瑠は侵入者を感知しなかった。

 

「だが・・・ この紙は間違いない。あいつの切り方なんだ。

 タオシーは・・・ この先にいる。方法は分からないが、あいつはこの先だ・・・」

  仁の目は強い覚悟を燃やし、真っ直ぐ前を向いている。

 

「・・・俺は、この真ん中の道を行く。だが・・・ 注意してくれ、あいつは小さい頃から罠の術が上手かった」

「では、麻衣様を一人にさせるわけにはいかんぞなもし・・・!」

 麻衣を心配する木偶ノ坊。

 

「だが、一人ずつ進まなければ俺達は神器に認められない。ここは・・・」

「奴はもう居るのであろう!? ならばもう意味はないかもしれんではないか!」

 苛立つ木偶ノ坊は、つい声を荒げてしまう。

 

「・・・あくまで【かもしれない】だ。可能性がある限り、軽率な行為をしてはならないのは、同じ戦士なら分かるだろう!

目的を忘れるな!! 俺達は世界のために、そして大事な人の為に、何としても三種の神器に認められなきゃいけないんだ。

・・・それに、麻衣を心配しているのがあんただけだとでも思ってるのか!!?」

  仁も、激昂こそしていないが、初めて大きな声で木偶ノ坊を一括した。

 

「ぐ、ぬぬっ・・・!!!」

 仁の言葉は全くの正論で、木偶ノ坊には返す言葉も無かった。

 

「木偶ノ坊さん」

 麻衣が、木偶ノ坊の袖を引っ張る。

 

「麻衣様・・・」

「私は大丈夫ですから」

 ニコ・・・ と、柔らかな笑顔を見せる麻衣。

 

「・・・・・・・・・」

 一番焦ってしかるべきなのは、麻衣だった。

 しかし、彼女はその気持ちを抑え、冷静に勤めようとしている。

 姉の亜衣を救う為に。

 

「・・・申し訳ござらん、麻衣様。仁殿。某は・・・」

 木偶ノ坊は、深く自分を恥じた。

 

「いや・・・ 俺も少し焦っていた。すまない」

 そう言うと、仁は右手を水平に差し出した。

 

 木偶ノ坊が、そして麻衣が、その上に手を重ねる。

 

「三種の神器を手に入れて、再びここで挨拶を交わそう!!」

「ええ!!」

「うむ!!」

 

 そして、三人は、それぞれの道に立ち、それゆっくりと進んでいった・・・

 

 

 

 

  ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 レッツ、シルバークロス!!

 

 って、随分変な方向行っちゃったなもう。エロも少ないし・・・(はい、僕のせいです、すんません)

 

 愛染明王は、【煩悩と愛欲は人間の本能であり、これを断ずることは出来ない、むしろこの本能そのものを向上心に変換して仏道を歩ませるべし】という特殊な考え方を持った明王で、司るのは「恋愛・縁結び」。織物、染物職人の守護神であり、煩悩を否定しないことから、古くは遊女、現在は風俗の信仰対象だそうです。

 静瑠というキャラにピッタリなのは半分偶然で半分狙い。他人の恋愛に首突っ込んだりテクニシャンだったりするのもそういうことだったり。

 他の武神剛杵4本を持つ4人と共に、5人で妖かしと戦う【逢魔乙女戦隊・五美神戦記】なんていうオリジナルの物語が元々あった(書いてた)んですが、それはまた別の話。

 尤も、それに出てたキャラは既に二名登場済みですが(ニヤリ

 



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