場所は陰魔正殿。時は、亜衣と麻衣がそれぞれ木馬と魔の魚によって、無残に処女を奪われ、巫女の力を失ってから数分の後。

 

「うぅ・・・」

 その部屋で声を上げるのは、亜衣。

 後ろ手と両足を縛られ、存分に動くこともままならない。

 腕を覆う部分以外の着衣はやはり何一つ着けられておらず、秘所からはトロリと白濁液が漏れている。

 言うまでもなく、カーマの放った精である。

 

「むぅ・・・ ふっ・・・!」

 そんな無残な状況でも、彼女は未だ諦めていない。

 強固に締められた紐をなんとか外そうと、必死にもがいている。

 

 紐を解けたところで、巫女の力が戻るわけではない。

 しかし亜衣が諦めないのは、目の前で今も陵辱を受け続けている麻衣の為だ。

 麻衣は、意識の無い今でも、処女を奪った木馬の上で激しく両穴を攻められているのだ。

 

 

 そこへ、足音が近づいてくる。

 それも、二つ。

 亜衣は体を反転させてその方向を見た。

 

「諦めが悪いな、亜衣」

 一人は、ほんの数分前に亜衣を汚しきった男、カーマ。

 反射的に、亜衣はその男を睨む。

 

 そしてもう一人。

「(・・・誰・・・? 人間・・・?)」

 カーマの後ろに立つ男は、亜衣がこれまで見たこともない者だった。

 年齢は高校生ぐらい、陰陽師の正装と現代服が混ざった様な変わった服の中には、中性的な美貌の容姿が見え隠れする。カーマとはまた違った美形だ。

 

「タオシー」

「はっ」

 タオシー(導士)と呼ばれた少年は、カーマの一声に従い、亜衣に近づく。

「むぅっ!!」

 精一杯暴れ、少年の接近を拒もうとする亜衣。

 

 しかし少年は

「やめて下さいよ。猿轡と足の紐を解くだけですから」

 その言葉どおり、少年は手慣れた手つきで、暴れる亜衣の猿轡と足の拘束を外したかと思うと

「あっ!?」

後ろ手を掴み引き上げた。

見た目と反してその力は驚異的だ。

 

「・・・どういうつもり?」

 不可解な行為に対し、亜衣はまずカーマに質問する。眼には殺意が篭ったままだ。

 

「そう怖い顔をするな亜衣。美しい顔が台無しだぞ」

 亜衣の向ける殺意もどこ吹く風、カーマは悪辣な笑みを浮かべる。

「あんたなんかに名前で呼ばれる覚えはっ!!!」

 亜衣は身を乗り出すが、それを少年が制止する。

 

「じっとして下さい。妹さんの安全が保障できませんから」

 その一言で亜衣は動きを止めた。

「くっ・・・!!」

 ハッタリではなく、実際に後ろでは複数の淫魔や人間の気配がしている。

 妹を盾に取られては、亜衣には何も出来る筈がない。

 

「賢明です」

 少年は実に冷静だ。

 

「・・・狙いは、何?」

 そう、狙いが分からない。

 再び自分を犯すなら、足の拘束はともかく猿轡まで外す理由はないからだ。

「取引・・・とでも申しましょうか。あなたにとっては縋らなければならない最後の藁です」

「取引・・・? 縋る・・・?」

「ずばり、あなたの行動次第で妹の麻衣さんが無事に帰れるかどうかが決まります」

 その言葉と同時に、いつの間にか黒子の男達が木馬の周りに集まっていた。

「麻衣っ!!?」

 駆け寄ろうとする亜衣、だがタオシーが無言で止める。

 その目は、亜衣の今の行為自体を軽率であると語っていた。

 

 黒子の男達は、数人がかりで麻衣を木馬から引き抜く。

 ようやく麻衣の体から引き抜かれる偽者の男根。愛液と血液が混ざったものが糸を引いた。

 その様子は、姉の亜衣にとって身を切られるほど痛々しいものだった。

 

 麻衣はゆっくりと床に降ろされ、上から布をかぶされる。

 麻衣はまだ、意識の無いままだった。

 

 男達は訓練された動きで、音も無く下がっていく。

 視界から完全に消える男達。

 しかし、気配は消えない。

 今ここで麻衣の所へ走り、抱き抱えて出口に・・・ などという真似は不可能だろう。

 

 

「・・・それでは、本題に入らせて頂きます」

 タオシーは語り始めた。

 

「こことは別の社に、儀式の間を用意しています。あなたにはそこで【淫魔転生の儀】を行って貰います」

「・・・淫魔・・・転生の・・・儀?」

「人を淫魔に変える、淫魔の契約儀式です。これを行うことによって、人であるあなたは淫魔に変わり、人ではなくなります」

「な・・・」

 唐突に放たれた言葉に、亜衣は驚く。

「そんな事が・・・?」

「可能です。元々はあの藤原時平も人間だったのをお忘れですか?

 古来より、人が鬼や妖しに転生する話はいくらでもあるでしょう。魔女と悪魔の契りなどが最も近い例ですね」

「・・・・・・それは、つまり・・・」

「そう、儀式の方法は性交です。・・・当たり前ですよね? 淫魔になる為の、淫魔との契約ですから。

 そうそう、この儀式は自分の意思が伴っていなければ意味がありません。

 よって・・・ 妹さんの解放は、当然儀式が終わってからになります」

 ・・・つまり。

 麻衣を助ける為には、再びカーマに犯されなければいけない。

 それも、今度は自分の意志で、自分から。

 

 

 

「あなたの人格が消去される訳ではありません。反転するんです。

 人の心には陰と陽が両義として存在し、人によって個人差はあっても、大概はそれぞれの容量は半々ずつを占めています。そして、カーマ様、スートラなどの淫魔は、陰と淫が心の大半を占めているのですよ。

 あなたの心は他の人よりも陽の心に満ちている。それが、これから行って貰う儀式によって、あなたの体は淫魔として生まれ変わり、心もまた・・・あなたの中にある陰、そして淫の心は増大し、陽の心はそれに塗り潰されます。

 ・・・しかしそれは、淫魔として反転しただけで、【あなた】である事に変わりはないのですよ。

・・・まあ、価値観も、善悪のとらえ方すらも変わる淫魔の心では、以前の自分とは文字通り反転した存在になるでしょうが」

 

・・・言葉通りなら、とんでもないことだ。

これを受け入れるということは、つまり、体だけではなく心までカーマのものになるということ。

何もかもが奪われるということなのだ。

 

「俺はお前の体を手に入れただけで満足はせん。お前の体も、心も、全てを手に入れる。その為には淫魔大王を裏切るなど瑣末な事だ」

 そう言って、カーマはニヤリと笑うと共に、亜衣の顎を掴み引き寄せる。

 

「・・・っ!?」

 眼と鼻の先にカーマの顔が近づく。カーマの邪悪な眼光が、まるで自分を射抜いてしまうのではないか、そんな錯覚を覚えてしまうほどに。

「フフフ・・・ 亜衣、美しいぞ・・・。俺の生涯の伴侶としてこれほど相応しい女もいまい」

「くっ・・・」

 嫌だ。

 心までこの男のものになるぐらいなら、死んだ方が・・・

 

「しかし、あなたはそれに乗るしかありません。妹さんを、これ以上の淫魔の魔の手から守る、これは最後の手段ですから」

 亜衣の心の声を読んだかのようなタイミングで言い放つタオシー。

「そ・・・ それは・・・」

「フフ・・・ それに、だ」

 

(クチュッ!)

 

 カーマは、いきなり亜衣の秘所に二本、指を突き入れる。

「ひあっ!!?」

 突然の事に驚きながらも反射的に股を閉じるが、それでカーマの腕を止める事が出来る筈もない。

 

(クチュ、クチュ、クチュ、クチュッ!)

 

「はっ、あっ、あっ・・・!」

 カーマの指使いは蟲惑的で、的確に女性の陰部の弱い場所を突いて来る。

 唇を噛み、押し寄せて来る快楽に必死に抗おうとする亜衣。

 

 しかし、指はカーマ自身からあっさりと引き抜かれた。

 指が引き抜かれる瞬間、秘所と指の間に粘液の楕円の橋が出来上がり、滴り落ちる。

 

「あ・・・っく」

 ぺたん、と。

 亜衣は力なく膝を落とした。

 

「今更、戻れる体でもあるまい?」

 カーマの指には、カーマの精液と亜衣の愛液が混ざった粘液が纏わり付き、光の反射がそれをいやらしく照らしている。

 指を開くたびに、ヌチャヌチャと小さな音をたて、粘液が糸を引く。

 

 そう、もう戻れる体ではない。

 ただ処女幕を貫かれることと、男に穢され、精を放たれることは大きく違うのだ。

 

 私はもう、女としての全てをこの男に奪われている。

 だが・・・

 

「麻衣・・・」

そう、麻衣にはまだ残されたものがある。

そもそもこいつらが約束を守る保証なんてものはない。

 ここを逃れられたとしても・・・。今のこの世界で、力を失った麻衣が逃げ切れるかどうかなどわからない。

でも・・・可能性が欠片でも残っているなら・・・。

 

 

「・・・・・・わかったわ」

 悪魔に魂を売ったって、かまわない。

「フフフ・・・」

 低く笑い、カーマは再び顎を掴み引き寄せる。

 今度は顔の前で止まりはしない。カーマの口が開き、亜衣の・・・

 

「んっ・・・!!?」

 唇を奪う。

 生まれてより巫女として、男を避けてきた亜衣にとって、これがファーストキスになる。

 激しい嫌悪が全身を襲う。

女性にとって、秘所だけでなく唇も貞操観念の強い大事な場所である。

時には性交を許しても、キスは決して許さない女性も決して少なくない。

亜衣にとってもそれは例外ではない。

 

「んう・・・っむ・・・!!!」

 唇を割り、強引に挿入って来るカーマの舌。

 腐った蛞蝓のような感触、生暖かさ、それ自身が別の生き物と思う様な動き。

 全てがおぞましく、生理的嫌悪で一杯になる。

 その場で噛み切ってやりたいが、それは決してやってはいけない。やれる筈がない。

 

 ただ、己の口内を、舌の隅々まで蹂躙する侵入者に対して無反応であること。

 それだけが、今の亜衣に出来る、最後の抵抗だった。

 

 ようやく口内から抜かれたカーマの舌は、そのまま垂直に亜衣の左頬を登っていく。

 思わず眼をきつく閉じる亜衣。カーマの舌の進行は、その真上、瞼にまで到達し、それでようやく離れた。

 

「クククク・・・フフフ・・・」

 欲していたものを手に入れた、嬉々の心を隠しきれない、くぐもった笑い。

 そして

 

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!!」

 

 宮の中、耳を劈くばかりの大きな、カーマの狂気の笑い声が響き渡った。

 

 

 

 いや、ほんますいませんこういう話で。石は投げないで下さい。

 なんだか本来の作品から外れたエロだったりと、もう全てにおいて恐縮です。

 この話は作品内のIFの展開、というコンセプトでやっています。選択肢如何でこういうルートにも・・・という。ここから亜衣はひたすら色々な目に遭うんですが、見ていただけると幸いです。

 



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