淫獣聖戦 偽典 「繭地獄」 14

「我が目を見よ」
 葛太夫の瞳に緑色の炎が灯る。亜衣が気が付いた時、谷崎美和と太夫が腰を下ろして、見つめ合っていた。緑の炎が、美和の瞳に移った。
「ふむ、貴様の主の名は」
 催眠、洗脳か。
「葛太夫様です」
 美和はトランス状態で答えた。
「大王様の魔羅をお慰めしろ」
「はっ、お慰めします」
 見ると、鬼麿は意識を取り戻したようで、あぐらをかいている。復命した美和だったが、どうやらやり方がわからないのだろう。手を付けかねている。
「魔羅を舐めしゃぶり、口でくわえて吸い付け」
「はい」
 全裸で跪き、ふるふると揺れる乳房。美和の姿態を目にした、鬼麿は早くも半勃ち状態だ。
「亀頭だ。その先の膨らんだ部分を、舌で舐めろ。尿道口。そうそこは丁寧にな。裏側とカリ・・・横に張り出した部分を重点的に攻めろ」
 美和は命ぜられるまま素直に従い、舌で実行していく。稚拙ながら、懸命に舐め付ける様は、昼間の無邪気さを覆い隠し、妖艶さを漂わせている。
「むーーーっ」
 鬼麿は、辿々しいながら快感攻撃を受け、完全に臨戦態勢に入ってしまう。
「いいぞ、くわえ込んで、吸い付くのだ」
 舌を放し頷くと、美和は大きく唇を開き、一気に亀頭冠を頬張る。
「決して歯を立てるでないぞ」
 そう言った太夫は、美和の後頭部を押さえて前後に揺さぶる。
「喉も開けて、奥の奥まで飲み込み申せ。唇を締めて、色々の部分に舌を這わせるのだ。手は根本を扱き、もう片方は睾丸を撫でるのだ」
 美和は手を放されても決して休もうとせず、時々噎せながらも、ちゅばちゅばと音を立てながら、頭を往復させる。心のたがが強制的に外されているのか、美和は唯々諾々と淫らな要求をこなしてゆく。それでも、無意識に上気し、頬を桜色に染め上げる。手つきはまだ危なっかしいが、動きは徐々に軌道に乗りだした。それに連れて、鬼麿は追い上げられてゆく。
「おい、女。大王様が、精を吐き出されても、決して飲み込んではならぬぞ。その精を鬼夜叉童子様にお掛け申さば、復活なされるのだからな」
「なんだと」
「気が付いておったか。亜衣」
 亜衣は、ようやく淫魔大王たる鬼麿が必要な理由、そのための姉妹おびき出し、女生徒三名の陵辱が繋がった。ここで、鬼夜叉童子に復活されては甚だ不味い。童子を斃す自信が無いわけではないが、それは五分での条件だ。羽衣を無くし徒手空拳、人質を取られ柱に縛られた、今の状況では逆転は不可能だ。麻衣はどう思ったのか、横目に見てみると、二人の淫戯に当てられたのか、しきりに太股を捩り合わせ、もじもじと腰を揺らめかせている。
「まっ、また。あそこがうずくのうぅ」
 麻衣の零した言葉で、亜衣は自分の体の変調に気が付いた。先程の軟膏の効き目が薄らいでいることに、あの狂おしい、躯の奥底から発するうねりが、再びぶり返し始めたことに。気が付いてしまった以上、そこに意識が集中することは避けられない。どくどくとそこに心臓ができたように拍動が感じられる。どんどん官能が高まり、秘蜜をじくじくと吐いてしまう。亜衣は自分の体が恨めしかった。あの時まで、いや昨日までは自分の体は、自分だけの物だったはず。しかし今はそう思えない、所詮自分も凡俗の女に過ぎないのか、そう考えを変えさせるに十分な衝撃をもった絶頂だった。男に弄られて登り詰める。そんなことは昨日まで概念さえなかった。しかし、今は心のどこかで微かにまた弄られたい。何でもよい、この疼きを癒して欲しい、そう思っていないか、思っているに違いないという疑念が捨てきれない。自分だけは男とちゃらちゃらとする女達とは違う、それこそが、天神子守衆宗家嫡流の誇りだ。それが、単なる虚栄でしかなく、どこかで見下げてきた周りの者たちと同等、いやそれ以下の弱い躯と心しか持ち合わせていない事実が、否応なく迫っていた。
「むーー」
 鬼麿の呻き声だ。イキそうになっているのか。
「鬼麿様。できるだけ我慢するのよ。そ、その、出しちゃだめ。わかる?射精しちゃだめよ」
 そんな、殺生な。鬼麿は自分の男根が漲る程度の快感を与えられてはいるが、美和の動作にツボを突くほどの工夫がなく、絶頂までにはまだなんとか余裕がある。しかし、このフェラチオがずっと続けば、いずれ弾けてしまうだろう。肛門にぐっと力を入れ、快感に流されるのを何とか防ぐ。数分が経ち、焦れていたのは、他でもなく葛太夫だった。
「へたくそめ。さすがに初めてでは仕方ないか。もう良い。口を離して、まぐわえ」
 よろよろと美和が立ち上がる。
「そうだ、大王様の胡座を跨ぎ、腰を下ろせ。茶臼で繋がるのだ」
 美和は茶臼の意味を解せなかったが、何かの雑誌で知った対面座位であることに察しが付いた。脚を大きく開き、鬼麿の屹立をくわえ込もうと狙いを定め、しゃがみ込もうとした、そのとき。
「いやぁー。そんなの絶対だめーーーっ」
 麻衣の絶叫が、響き渡った。
「麻衣」
「待て。立つのだ」
 太夫の命令変更に従い、美和はその場から二歩、三歩と離れた。太夫が麻衣に近づく。「おまえは、自分自身が大王様とまぐわいたいのだな。どうだ」
 麻衣はやや俯き、ぽろぽろと涙を流した。肯定もしなかったが、否定もしなかった。亜衣は妹の真意がわかってしまった。
「いいだろう。望みを叶えてやらぬでもない。お前ら姉妹のどちらかが、大王様とまぐわってもよい。ただし、残った一人が、我に奉仕するならばだ」
 麻衣は太夫の顔を見据えた。が、咄嗟に答えを出せなかった。自分の希望を通せば、亜衣にとんでもない迷惑を掛ける。そのことに思い至ったからだ。
「ふむ。決心が付かぬようだな。姉と相談してみたらよかろう。案外・・・。ふっ、まあいい。なんなら、桂の姿に戻ってやっても良い。これが最後の譲歩だ。すぐ答えを出せ。さもなくば、あの女に続行させる」
 太夫は言い放つと、二間ほど離れた。
「おねえちゃん」
「あんたの気持ちはわかった。美和さんと鬼麿様がそうなることが許せないのね」
 麻衣は済まなさそうに頷いた。鬼麿は美和の拙い尺八責めには耐えきったが、蜜壺でまぐわえば精を放ってしまうだろう。それは麻衣がしても同じこと。しかし麻衣なら。
「いい、膣(なか)に出させてはだめ、外に出させるのよ。わかったわね」
 小声の指示に麻衣は頷いた。床に放たれた鬼麿の精液をまだ使わぬのは、何らかの不都合があるのだろう。今は何とかできるだけ時間を稼ぐしかない。葛太夫はその会話には気付かぬ風で、背を向け鬼麿を見ている。やがて。
「話は付いたか」
「ええ。鬼麿様は麻衣が。あなたには私が奉仕致します」
 事態を悪化させないために、言葉遣いを謙ったのが功を奏したのだろう、葛太夫は下卑た表情を浮かべ満足そうに頷いた。
「良いだろう」



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