(ギィンッ───!!)

 

(カァンッ───!!)                        (ギャンッ───!!)

 

 

 

 薙刀と双刀による剣戟の火花と、日々の鍛錬が成せる軽やかな身のこなしによる、紙一重の回避の応酬。

 同じ血肉、同じ鍛錬、同じ魂を持つ二人の戦いは、神を祭る舞踏の様に美しく、そして激しいものだった。

 

 

「はっ!!」

「っ───!!」

 

(ガッ───・・・!!)

 

 

 悪衣が上段と下段から振るった双刀による一斉の二撃を、麻衣は薙刀の角度を一瞬で手繰り変化させ、防ぐ。

 

「くっ・・・!」

 二刀を防いでいる薙刀が、ガチガチと悲鳴を上げている。

 少しでも油断すれば、すぐさま押し切られてしまいそうだ。

 

 やっぱり、お姉ちゃんは強い。

 薙刀では一日の長があっても、弓と刀では・・・ 葛葉様に鍛えてもらっていなかったら、10手と結ぶ前に薙刀を飛ばされていた。

 

 ・・・それでも、負けるわけにはいかない。

 ここで負けたら、誰も・・・ 誰も笑顔に戻れない。

 

 

 

「・・・何故来たの。麻衣」

「え・・・」

 

 鍔迫り合いを繰り広げる最中、悪衣が麻衣に語りかける。

 

「お姉ちゃんを・・・ お姉ちゃんの為だよ! 決まってるじゃない!!」

 

 

「悪衣(わたし)は、カーマといる事が幸せなのに?」

「・・・・・・・っ!」

 

「・・・そうよね。育ての祖母の仇を愛する、人に仇成す淫魔の姫である私と、亜衣・・・

 どっちを優先するかなんて、決まっているわよね」

 

 

「違う・・・ 違うよ!!」

 叫ぶ麻衣。

 

「何も違わないわ。あなたは三貴神の、三種の神器の力を得て、私達の所に来た。

 私の居場所を奪い、もう一人の私を助ける為に」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「残念だわ。麻衣・・・ 私が、あなたを倒さなきゃいけないなんて」

 そう語る亜衣の顔は、確かに悲しみに満ちていて

 同時に、それを越える決意を宿していた。

 

「お姉ちゃん・・・ わたし・・・」

 言ってしまいたい。

でも・・・ 今、これを言うわけにはいかない。

 

 何か一つでも狂えば、XYZは失敗する。

 この戦いに、後は無い。だから、私のヘマで全てを台無しにしてしまうことだけは、許されない。

 

 だから・・・

 

 

「はっ!!!」

 薙刀の軸手を一瞬で持ち替えた麻衣は、双刀を力ずくで鍔迫りから外した。

 

「くっ・・・!?」

予想もしていなかった外し技に一瞬怯む悪衣だが、すぐさま体制を持ち直す。

 

 

「・・・やるじゃない」

 それは、【天津亜衣】の知らない技だった。

 亜衣が麻衣に対し常に優位だったのは、同じ時を過ごし、同じ修業をし、常に共に戦ってきたからこそでもある。

 

 攻撃パターン。呼吸。そして動作の間にある隙。

 熟知していた筈のそれら全ては格段に上がっていて、更には見たことも無い技。

 

 

「・・・スパルタで鍛えてもらったから」

 そう、葛葉神社で、長い間。

 悪夢の様に長い三日間を、この日の為に頑張ってきた。

 

 ・・・尤も、その大半を費やしたのは神器の扱いで、葛葉式の武術は少ししか習えなかったんだけど・・・

 そのお陰で、なんとか双刀を持った姉とこれだけ戦うことが出来るようになった。

 

 そしてそれに大きく感謝すると共に、心のどこかで悲しんでいる自分がいる。

 あまりに大きく、近く、そして遠かった姉に、こうした形で互角に相対しているという現実に。

 

 

「・・・・・・・・・ ふっ───・・・!!」

 

(ガキィンッ!!)

 

 合図も無く、再び始まる刀戟。

 

 

「やぁあっ────!!」

「はっ───────!!!」

 

 

(ギィンッ────!!!)

 

 

 互いが、全てをぶつけ合う。

 鍛錬の記憶と経験だけではない。それまでの人生、そして想いの、全てを。

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

        一方

 

 

 

 

「ハッ・・・、ハッ・・・、ハ──ッ・・・・・・」

 悪衣、麻衣からカーマを引き離し、一対一で戦いを挑んでいた葛葉。

 

 最初の内は、互角の攻防と思われていたその戦いは、時間の経過と共にその状況を変えていた。

 

「フン・・・」

 首をコキコキと鳴らすカーマの腕や胴には、決して浅くはない傷の数々。

 勿論全て、葛葉が与えたものだ。

 

だが、それも数秒とかからずにシュウシュウと音をたてながら、痕も残らず治癒していく。

 インディアの神としての力を取り戻したカーマの強大な妖力量が故の、驚異的な回復力だ。

 

 

 片や葛葉の方は、カーマの半分ほどの攻撃も受けていないというのに、ダメージが隠しきれていない。

 体のあちこちが擦り傷と切り傷、打ち身だらけで、右手からは血が流れ、強く握られた錫杖の先からポタポタと雫が落ちている。

 

 いくら九尾に近い妖狐として、その中でもトップクラスの力を持ち、戦闘力自体ではカーマと互角以上であっても

神であるカーマのような回復能力は持ち合わせていない以上、戦いが長引けば長引くほど、消耗とダメージが蓄積していくのは当然。

 

 

「神に近い妖狐族とはいえ、妖怪にしてはなかなかの健闘ぶりだ。

・・・さすがは日本における退魔の要、安倍の始祖といったところか」

 

「くっ・・・そ・・・ このデタラメラスボスめ・・・

 ダメージ与えたはしから回復なんぞ反則じゃろ・・・」

 

  息を僅かに切らしている葛葉は、それでもいつものふざけた言い回しで返す。

 しかしそれが自分の窮状を隠す為のものであることは、誰の目にも明白だった。

 

 

 

「よくもそこまで体を張って頑張るものだ。

 少しでも時間を稼ぐ為に、最初から命を捨てて挑んでいると見たが」

 

「(うわっちゃー・・・ バレバレかい)」

 そう、淫魔の群れを静瑠達に任せたのも

そして、今こうして葛葉が全身全霊をもってしてカーマを引き止めているのも

 

全ては、麻衣と仁の為。

彼女らが、XYZ作戦最大の目的を達成するまでの、時間稼ぎ。

だからこそ、発案者である葛葉自身が、最も戦闘力が必要で、そして生存率の低い役目を引き受けていたのだ。

 

 

「だが、俺がそれに付き合ってやる理由は無いな」

 ニヤと笑い、悪衣の方へ踵を向けようとしていたカーマだったが

 

「いーや、お主には無理にでも付き合ってもらう」

 それを葛葉は、覚悟を決めた者特有の据わった目でそう宣言し

 

「オンキリキリバサラ・・・ ウンダッタ!!」

 血に濡れた錫杖を裏に向け、鬼獣淫界の大地に、呪文と共に突き刺す。

 

すると、瞬く間に空間が侵食され、葛葉とカーマは荒涼とした淫界から、あの神社の中に立っていた。

 

「チッ・・・ 固定空間か」

 面倒なものだ、とばかりに舌打ちをするカーマ。

 

「葛葉神社へよ~うこそ♪

 表から参ればここの60秒が外の1秒。しかし裏から参ればここの1秒が外の60秒。

 ・・・出るには、わしを殺すしかないぞー?」

 

  わざとおちゃらけた言い方をしたが、これだけ早く葛葉神社の【裏道】を使う事になるとは思っていなかった。

 ・・・しかし、何とか時間を稼がなくてはならない。

 1分。いや・・・ 一秒でも長く。

 

 

「・・・そう死に急ぐなら、望みどおりにしてやる」

 先程までの余裕からすると、少々の苛立ちさえ感じられる、カーマの言葉。

 

「へへ~ん。でっきるかな~~?」

 ヒュンヒュンと音をさせ、錫杖を両手で回しながら、片手から両手持ちに切り替える葛葉。

 それは、実に勇ましいパフォーマンスだったが

 

「っ・・・!」

 実はそれは、利き腕を痛めたことを隠す為の、葛葉の精一杯のブラフだった。

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

         一方 

 

 

      鬼獣淫界  荒野

 

 

 

 

「でええりゃあああぁぁああっっ!!!!」

 

幾万もの淫魔の大軍が跋扈し、入り乱れるその荒野で、不動の力を得た明奈の咆哮が響き渡る。

 

 淫魔達が理性を失くした獣なら、明奈もまた獰猛なる狂戦士。

両手に大型の淫魔を捕まえ、砂袋か何かのように力任せに振り回しては、滝の様に自分に襲い掛かる淫魔達を叩き潰しているその姿は、まるで魑魅魍魎を超える鬼人であった。

 

 

 そして、静瑠も

 

(チキ・・・)

 

 明奈と背を向け合った形で敵と対峙していた静瑠は、薙刀の構えを変え

 

「・・・神藤流薙刀術、奥技・・・・・   殺舞斬弧(さつまきりこ)」

 

(ビュンッ───・・・)

 

 

 己の体を軸に、目にも止まらぬ疾さで、それも舞踏の如く華美な回転。

 それに合わせて繰り出される、薙刀の刃の幾十筋もの弧撃は全ての方位を捉え、襲い掛かる淫魔を片端から真二つに切り裂いた。

 

 

(ズキッ・・・!)

 

 

「くっ・・・・・・」

 右手首の激痛に、一瞬顔をしかめる静瑠。

 

「・・・・・ はあああぁっ!!!」

 しかしすぐさま奥歯を噛みしめ、激痛に耐えながら戦いを続けた。

 

 

 

 

「人神に害成す者、天地(あめつち)に散り、永久(とこしえ)の闇に還るべし!!!」

 

(ガッ────!!!!!

 

 

 風螺華もまた、霊子加工を施したガトリングを両手に、神言を紡ぐことで更に霊力を付加しながら、地、空、360度全ての方向から襲い来る淫魔達の頭蓋を吹き飛ばしていく。

 

 しかし、正気を失くした淫魔達は死を恐れず、尚も夥しい数で、吹き飛ばしていく側から次々と襲い掛かってくるのだ。

 まるで潮が満ちるかのように、波状に自分達と距離を縮めていく淫魔達に、風螺華は焦りを隠せない。

 

 

(ダルルルル・・・!!!      カチッ  カチッ・・・)

 

 

「!! (弾丸(たま)切れ・・・!!)」

 特殊霊子加工を施したガトリング弾。

 

 こうした最大級の有事があった時の為、切り札の一つとして多大な時間と努力を費やし発明された最新の武器の一つ。

 それが実際のこの激戦となれば、こんなにも早く・・・

 

「(いや・・・ この武器は、頑張った方ね)」

 そう、今までの試行錯誤。仲間の屍の上に築かれてきた武器の中では、格段に役に立った。

 このガトリング砲は、倒れていった先人達、仲間達の魂そのものだ。

 

(ピッ・・・)

 

 だからこそ、ここで倒れることは許されない。

 その為に、この武器とはここでお別れだ。

 

 

「はっ!!!」

 両手のガトリングを、力の限り左右に放り投げる。

それが放物線を描き淫魔達の中心に落ちる、その瞬間───

 

 

((ボ・・・・・ゥン!!!!))

 

 

 砲身の中で圧縮されていた霊気の爆発。

 通常武器の効かない魑魅魍魎に対し、それは初めて味わうナパーム爆弾のようなものだったろう。

 中心にいたものは霊力の爆炎に呑まれ滅し、その周りにひしめいていた悪鬼達も、その身を焼かれ、のたうちまわっていた。

 

 

「・・・広目、3番武器解放」

 それを尻目にも見ず、風螺華は次なる武器、広目武具の三番目を解放する。

 

 それは白銀色の、弾奏を持たない特殊な形をした、2丁の片手型サブマシンガン。

 鉄の塊ではなく、凝縮された霊力を弾丸として放つそれは、全ての武神装女の武器の中でも、最も対軍に優れた武器だった。

 

 

「祓い、清め給え!!!」

 

(ガッ────!!!!!

 

 

 浄化の光の弾丸が、風螺華の眼前にまで迫っていた悪鬼達を、まるで風船のように消し飛ばす。

 

 弾丸の一発一発が邪鬼数体を貫通し消し飛ばすその威力は、先程までのガトリングの比ではない。

 近代武器の概念を備えた七十七種の神聖武器。それが、武神剛杵“広目”の資格者である風螺華の力であった。

 

 

 しかし、いつまでももつものではない。

 何せ、先程までとは違い、弾丸として掃射しているのは、100%自分の霊力と広目の神通力。

 このまま撃ち続けていれば、霊力切れを起こすのは時間の問題である。

 

 そしてそれは、全力で戦い続けている明奈と静瑠にも同じ事が言えた。

 

 

 

「どうする? このままやったら、ウチら・・・」

 このまま戦っていても、待っているのはこちらの消耗による全滅・・・

 それをわかっている静瑠は、邪鬼を斬り払いながら、背中越しに話し掛けた。

 

「大分数は減ったんだ!! 神具解放で一気にカタをつけようぜ!!」

 吼える明奈。

 

「無謀です!! 向こうの残存数からして・・・ 私と明奈が神具開放を使っても、全部は始末できない!!!

 逆に、発動後に出来る隙を突かれて・・・」

 

  しかし風螺華はそれを冷静に否定する。

 この状態での神具の発動は、いたずらにこちらの敗北を早くするだけだと。

 

「万事休す、やね・・・」

「くそっ・・・! 阿美がいてくれりゃあなぁっ・・・!!!」

 

 戦士達が初めて口にする、弱音。

 淫界の大地を支配する絶望に、3人はだんだんとその心を蝕まれそうになっていた

 

 

 

その時

 

 

 

 

「先ぱ────いっ!!!」

 

 

 

 

 聞いた事のある、力強い声。

 

「・・・・・・那緒!?」

 反射的に、あってはならないその名を口にした静瑠。

 そして3人は、その方向に振り向く。

 

 

 

「真打ち、参ぁん上っ!!!」

 荒野の中にある、大きめの岩の上に立っている、一人の少女。

 

 それは静瑠の口にした予想通り、麻倉那緒その人だった。

 

 

「そんな・・・」

 明らかに驚き、落胆する静瑠。

 

「なっ・・・ 馬鹿ヤロウっ!! 何で来やがった!!!」

 那緒の実力を知る明奈は、当然怒号を飛ばす。

 

 

「・・・・・・・ へへ~ん」

 しかし、那緒は余裕のニヤニヤ顔を崩さず、腰に巻いているポーチに両手を入れ・・・

 

(バッ!!)

 

 

 二つのものを取り出した。

 左手には、飴玉のような大きさの、黒い玉。

 そして、右手には・・・

 

 

「なっ・・・!? まさか・・・ 武神剛杵!? しかも、あの形・・・」

それは、未完成の筈のナンバー六だった。

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

        回想

 

     夜間  葛葉神社

 

 

 

 

 それは、麻衣や仁達が昼間の疲れを癒す為寝静まっている、夜間。

 だというのに、葛葉神社はその夜も存在しており、その中央には、2人の少女がいた。

 

 

「ぜーっ・・・ は───っ・・・ ぜ───っ・・・・・・」

 階段を上った先の石床の上で、全身から汗を噴出しながら体全体で息をしているのは、那緒。

 

「階段往復100回・・・ ふむ。よう頑張ったの。感心感心」

 そして、それを真上から覗き込んでいるのは、葛葉だ。

 

 

「はぁっ・・・ はぁっ・・・ こんな、基礎体力、だけで・・・ 本当に・・・」

 肩で息をしながら、那緒は修業中に積もるに積もった不満をぶつける。

 

「うむ。麻衣達と違って、おぬしは基礎からして貧弱じゃからな。とりあえず基礎中の基礎、土台からやらんと」

 対して葛葉は、機嫌良さそうなニコニコ笑顔でそう答えた。

 基本的に、人の面倒を見たり指導したりするのが好きなんだろう。

 

 

「・・・・・・間に合わねー、だろ」

「ん?」

 葛葉を真っ直ぐ見つめ、問いかける那緒に、葛葉は首を傾げる。

 

「これじゃ間に合わねーだろ・・・ 決戦に」

「ほほー、出陣する気満々じゃな」

 

「当ったり前だ・・・! あたしだって・・・ 戦うんだ・・・っ!!」

 強い意志を宿す、瞳。

 それはとても純粋で、力強い。

 

「・・・・・・・」

 葛葉は、それを微笑ましく思っていた。

 那緒は安倍の血族ではないが、それでも安倍の血族と同じ環境で育ち、幼少から面倒を見てきた子の一人でもある。

 

 幼い頃から負けず嫌いで、仲間意識が強く、特に自分だけが出来なくて、人任せにすることが何より嫌いなのが那緒だ。

 そんな那緒にとって、仲間達の命を賭けた戦いに参加が出来ないというのは、悔しさの最たるものだろう。

 

 だからこそこうして、屈強な戦士でも裸足で逃げ出す地獄の特訓メニューに必死に着いて行っているのだから、可愛いものだ。

 

 

「まあそういきり立つでない。この特訓がお主に一番必要なのは本当じゃぞ?

 それにな・・・ お主が決戦に参加できる為のスペシャルアイテムもある!」

 

「え・・・?」

「これじゃ! せーの・・・ パパパパッパラ~~♪」

 どこかで聞いたような効果音を口ずさみながら、葛葉は懐から何かを取り出した。

 

「まずこれ、妖狐一族の秘伝である秘薬。

そこから更にわしの長年の独学による研究を重ねた、葛葉特製の潜在能力覚醒薬・・・ “葛葉玉”!!」

 

「くずは・・・ だま?」

 眉をくねらせ、顔全体で?マークを浮かべる那緒。

 

「よいか? これはな・・・

服用した人間の潜在能力を一気に引き出し、筋肉を発達させ、肉体を強靭に、龍脈を開き霊力を増大させ・・・

肉体、霊性共にその者の本来持つ最高の状態まで高め、強化する作用があるというわけじゃ」

 

「・・・・・・?」

 急に難しいことを言い出した葛葉に、那緒は更に疑問の表情になる。

 

「わからんか? まー、そうじゃなあ・・・ 噛み砕いて簡単に言うと・・・

 これは“飲んだら一日中火事場のクソ力を出せるぞクスリ”!!」

 

「いや、そりゃ簡単にしすぎだろ・・・」

 疲れていながらも、的確なツッコミ。

 

「こいつをお主にやる。

 これを使って死地に赴くも、使わずに残るもお主の自由で、お主の人生じゃ。好きに選べばよい。

 可愛い子には足袋を履かせよ、っちゅうからな」

 

  満面の笑みで、那緒の頭を撫でる葛葉。

 母の愛を知らず、葛葉が母同然だった那緒にとって、それは母の撫でる手と・・・

 

「・・・“旅をさせよ”だよ」

 頬を赤くし、そっぽを向きながら、ボソリと一言。

 

「ナハハハ」

 神社の夜は、ゆっくりと更けていった・・・

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

 そして、那緒は選択した。

 命を賭けてでも、仲間と共に戦うことを。

 

「あたしだって、やれるんだ・・・ あたしだって・・・!!」

 那緒は自分に言い聞かすように、小声で何度も呟く。

 

 本来、那緒は静瑠や明奈たちと比べて、とても弱い。

十数体の邪鬼程度は倒せる力はあっても、それが限界であり、実際に山では、獣人の一体にも勝てなかった。

ましてや、大分数が減ったとはいえ、無数の邪鬼が眼前に広がるその光景に恐怖を感じないといえば嘘になる。

 

 でも、何もしないよりは、戦いたい。

 先輩達と同じ場所に立って戦いたい。そして死ぬなら、一緒に死にたい。

それが出来ないなら、弄り殺された方がマシだ。

 

「よし・・・!!」

 左手の中の葛葉玉をポンと口の中に放り込み、ガリ・・・ と、豪快に口の中で噛み砕き・・・

 

「(うっわ・・・ 苦っ!!!)」

 それの尋常ではない苦さに思わず悶絶するが、勢いで飲み込む。

 

 

 そして

 

 

「れ、霊装・・・」

 

 

(バッ・・・!!)

 

 

 六番の武神剛杵を胸の前に掲げ、左手の先を様々な形に変えながら

 

 

「千手(せんじゅ)!!!」

 

 

 

(カッ────!!!)

 

 

 

 武神剛杵に宿る、千手観音の名を叫ぶと共に

 目も眩むほどの白銀の光が、那緒の体を包んだ。

 

 変身の光は強い浄化の力を持ち、邪鬼達を怯ませる。

 それが静瑠達に、目の前で起こっている光景が現実だと認識できた。

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 光が治まっていくと共に、ゆっくりと目を開ける那緒。

 

 その身を包む、美しき白銀の防具と、背には千手観音の名に相応しき、百を越えるであろう、放射状に在る白銀の篭手。

 千手の武神装だけの特徴である白銀の篭手は、羽の様であり、白銀の太陽の様にも見え、どこまでも神々しい。 

 

 

「なっ・・・!?」

「変身・・・!? 那緒が・・・!!?」

「・・・・・・そんな、馬鹿な・・・」

 

 三人は、驚きが隠せなかった。

 静瑠も、明奈も、風螺華も、皆武神剛杵に選ばれる変身に至るまで、長い長い、専用の修業、血の滲むような努力をしてきた。

 

 風螺華に至っては、3年もかかったのだ。

 それだけかけてやっと、戦士は剛杵に宿る神に認められる。

 

 なのに目の前で、その常識が打ち破られた。

 これまで邪鬼以上の相手は倒せなかった、戦士としてまだまだ若輩だった那緒が、だ。

 

 

「・・・うわ。すっごい・・・」

 それを何より一番驚いていたのは、那緒本人である。

 

 葛葉玉を食べるのも、そして変身するのも、このぶっつけ本番が初めて。

 それが見事に成功して、こうして憧れの武神装女に変身できているという現状に、脳がついていかない。

 

「ええと・・・」

 頬をつねってみた方がいいかな?

 そう、那緒が思うと

 

 

(ムギュ~~っ・・・!!)

 

 

「痛っってぇ!?」

 那緒の頬を襲う、つねり攻撃独特の痛み。

 驚くべき事に、つねってきたのは無数の篭手のうちの一つだった。

 

「え・・・?」

 もしかして・・・

 この篭手、全部あたしの思い通りに動く?

 

「・・・・・・」

 試しに、脳の中でグーを命令してみる。

 すると、無数の篭手の全てが、グッと握り拳になった。

 

「・・・・・・・」

 更に、自分の両手と同じように命令してみると、全部がチョキになったり、パーになったり

 一部だけキツネさんにして動かしてみたりと、そうした命令に、全ての篭手が応えてくれた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 自分の顔がニヤけてしまっているのがわかる。

 感動と興奮のあまり、震えが止まらない。

 

 

「・・・・・・・ よーしっ!! 来た来た来たぁっ!!! 来ぃ~~~~たぁ~~~~~~~っっ!!!!

 思わずガッツポーズ。そして両拳を天に振り上げ、全身で喜ぶ那緒。

 背中の千手も、同じく天に向かって握り拳を振り上げている。

 

 

 

「・・・・・・人間生きてると、思いもせえへん事があるもんやね」

 と、静瑠。

 

「・・・・・・俺、まだ信じられねぇ・・・」

 可愛い後輩の変身に、明奈は口をあんぐり開け

 

「・・・・・・夢で、あって欲しいです・・・」

 風螺華に至っては、メガネの焦点が定まらないらしく、何度もカチャカチャ音をさせている。

 

 

 

 

 そして

 

 

「・・・とうっ!!」

 那緒は勢い良く岩の上から華麗に回転しながら飛び降り、魑魅魍魎の群れの中に突っ込んでいく。

                                               

(オオオオオオオオォォォ・・・・・!!!!!)

 

 対する邪鬼達の方も、いよいよ浄化の光による影響も消え始めたことで、再び唸りを上げ、一斉に戦士達へと襲い掛かった。

 

 

「那緒! もっと後ろに退がって・・・」

 唯一冷静な静瑠が、那緒を止めようとするが

 

「へーき、へーき。任せなって。 ・・・・・・せーの」

 那緒は、跳びかかり襲い掛かる邪鬼達を前に、ファイティングポーズを構え・・・

 

 

「千手・・・ パンチ!!!

 

 

((((((((((((((((((バキ────ッ!!!!!))))))))))))))))))

 

 

 驚くべき事に、那緒の掛け声によって、背中の千手の篭手全てが、前後左右全方向から襲い掛かってきた邪鬼達に拳を繰り出した。

余り無く命中した白銀の篭手は、その瞬間に、一撃で邪鬼を消滅させてしまう。

 

 通常の邪鬼ならば、それで恐れをなし、後退なり逃げ出すなりしただろう。

しかし狂気に支配された邪鬼の群れは、それに怯む事無く次々と、那緒という乱入者に襲い掛かった。

 

 

「千手アッパーッ!!」

 

(((((((バキ────ッ!!!!!))))))

 

 

「千手コークスクリュー!!!」

 

(((((((ドカ────ッ!!!!!))))))

 

 

 

 しかしその命知らずな挑戦者達は、全て例外なく、千手の篭手と那緒本人の拳によって、跳びかかる側から吹き飛ばされていく。

 

 

「(すごい、なんてもんやないねぇ・・・)」

 那緒の活躍を通り越した大暴れぶりで、すっかり襲い掛かってくる数が少なくなった邪鬼達を相手にしながら、静瑠は那緒の無敵ぶりに改めて驚かされていた。

 

 那緒がどういうカラクリで変身が出来て、あそこまでの力を発揮しているのかは、大体想像がつくとして・・・

 那緒から感じる霊力の強さもそうだが、真に目を見張るべきは、千手の武神装だろう。

 

 千手観音を象徴する、背中の白銀色の篭手。

 さすがに千本は無いようだが、それでも一見して百本前後はあるだろうか。

 

 戦闘ぶりを見ていれば、全てが自分の腕同然に動かせている事が分かる。

全ての篭手が、それぞれ那緒の霊体と直結しているが故と考えて間違いないとして・・・

 側面から背後に至るまで、那緒の視点に入らない筈の敵にさえ狂い無く攻撃を命中させているのは、おそらく篭手自身、剛杵に宿る千手観音による自動(オート)迎撃。

 

 那緒本人のマニュアル命令と、オートの二つを、那緒本人の意思でコントロールが出来る。

 だからこそ、ああやって360度全てに対応した攻防一体の戦闘が可能になる・・・

 

 だとすれば、それは間違いなく・・・

 現在のような圧倒的多数との戦いにおいて、風螺華の銃弾武具を超える理想的な対軍能力。

 肉体、霊体共にほぼ疲弊することなく、最低限の霊力で、一度に百の敵を葬れる武神装ともなれば、この場所では・・・ 最強だ。

 

 

「(あんな隠し球があったんなら、葛葉様も言うてくれはったらええのに・・・)」

 返す薙刀の刃で、もう数体の邪鬼を一撃で切り払いながら、付近を見渡す静瑠。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 風螺華も同じ事を分析したのだろう。

 黙々と零弾を襲い来る邪鬼に撃ち込みながら、その顔はどこかふてくされている。

 

 それまで対軍においては実質上、彼女の七十七の銃弾武具こそが切り札であった。

それをいきなり、予想もしていなかった後輩から下克上されたのだから無理も無い。

 

 

「ハ────ッハハハハ───!!!!

ざまーみろこのザコども────!! いくらでも来────い!!!!」 

 

  そして那緒本人はというと、今の自分のあまりの無敵ぶりに心酔しているのか、余裕で暴れまわっていた。

 この前獣人を相手に不覚を取った時や、修業の鬱憤を一度に晴らしているのだろう。

 ここまでいくと、逆に邪鬼達がかわいそうになってくるが・・・

 

 

「あーあ・・・ すっかりハイになってやがる」

「しかしあのペースでは、さすがにいずれ体力が尽きますね」

 

「それはあかんねぇ・・・」

 すー・・・ と、深呼吸を一度。

 そして

 

 

那緒────っ!!!

 静瑠が大声で、一人だけ先で邪鬼達に囲まれ暴れている那緒を呼ぶと

 

「え────!? 何だよ────?」

 と、山彦のような返事が帰って来た。

 

「ノリノリのとこ悪いけど、普通の攻撃で倒すんは時間かかるから、皆で一気に寝具解放して片つけます!

 那緒も一緒に!! 神具発動のやり方、わかっとる────っ?」

 

  静瑠は遭えて、【そのまま飛ばしていたら体力が尽きるから】と言及するのはやめておいた。

 せっかくいい気分のところに、ヘソを曲げられても困るから。

 

 

「神・・・ 具・・・!?」

 邪鬼達の壁の向こうから聞こえるそのワードに、那緒は目を輝かせた。

 

 遂に、自分が神具を発動させる・・・

 まるで憧れの映画俳優と同じ映画に出ているかの如く、緊張と興奮で、心臓がバクバクいっているのがわかる。

 

 武神装に宿る千手観音の加護だろうか。

変身したその時から、既に那緒の頭の中には、そのやり方も、どんな武装が展開されるかも全部知識として入っている。

 

 

「静瑠はもう使っちまってるから、実際は俺と風螺華とお前だ!!!

 残りの奴らを纏めてふっ飛ばすから、タイミング合わせろよ!! できるな!!?」

 

  静瑠よりもずっとでかい音量で聞こえる、明奈センパイの声。

 

 

「あ、は・・・ はい!!!」

 慌てて頷く那緒。

 

 憧れの先輩に、曲がりなりにも頼りにされている。

 嬉しさになんとかなりそうだが、センパイにとっての自分の株を下げない為にも、死ぬ気でやらないと・・・

 

 

「わかりました────っ!!」

 向こうから聞こえる、那緒の元気且つ素直な返事。

 

「(うちへの態度とはえらい違い・・・)」

 静瑠は表情にすら出さなかったが、内心そう思っていた。

 

「よーし!! 【いちにのさん】で行くぞ!!! ・・・・・・・・・一!!!」

 明奈の一の号令から、四人全員の空気が緊張感を増す。

 

「二っ───!!!」

 を叫んだのは、風螺華。

 

 そして・・・

 

 

「さあぁぁんんっ!!!!」

 那緒による、最後の三。

 

 それと同時に、那緒、明奈、風螺華の三人は、それぞれ不動、広目、千手の文字が刻まれた、腰の宝玉に手を伸ばし

 

 

 

 

「「「神具・・・発動!!!」」」

 

 

 

 三人がそれぞれに叫ぶことで、その場の霊的磁場が変動し、周囲に風が巻き起こり、大地を雷電が走る。

 邪鬼達が触れてしまえば忽ち欠片残らず消滅するであろう程の霊力と神通力を帯びながら、三人はそれぞれに・・・跳んだ。

 

 

 

 

不動炎龍昇(ふどうえんりゅうしょう)っっ!!!!」

 

 

 

七十七の天罰(だいちをこがすかみがみのなみだ)!!!」

 

 

 

 明奈センパイと風螺華先輩が、それぞれに己の最高の切り札の名を叫ぶ。

 そして、自分も・・・

 

 頭の中には、既にその神具を使う為の真名が刻まれている。

 だけど、最初から決まった名前なんてつまらない。

 

 これが、新たな武神装女、麻倉那緒初陣の、最大の華だ。

 頭の中で識っているこのスゴすぎる必殺技は、誰がなんと言おうと、あたしの技なんだから。

 

「す────・・・・・・」

だから・・・ 自分自身が考えた、恥ずかしいぐらいの新しい真名を叫んでやる。

 

 

 

 

 

 

神聖なる千師団(サウザンド・ウォーリアーズ)!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 

 

 

まさかの(?)那緒、参戦!!

そしていきなり神具の真名を横文字で叫ぶという暴挙に。

 しかももはや主人公レベルの地位を手に入れちゃった感じですが、これには理由がありまして・・・。

 

元々、静瑠達・・・ 武神装女達がメインのストーリー(未発表)を書いてたんですよ。

 で、その主人公に当たる存在が那緒なんですね。

 

 仁も葛葉も、安倍の面々はほぼ全員そっちのストーリーの登場人物でもあるんですが・・・

今回のXYZは世界観もそっくりで、共演も問題なさそうだなーということで、一緒に出すことに決定。

個人的にはクロスオーバーなわけです(まあ、未発表なんで誰もわかりませんがw

 

 さすがにというか当然というか、もちろんXYZの主人公は亜衣と麻衣・・・ のつもりです。

 その割りに麻衣の影が薄くない? とかよくツッコまれるんですが、そこはごめんなさい(謝るんかい!

 

 

次は、葛葉がメイン。

ちょっと長くなりますがいよいよ彼女の過去をハイライトで描きます。

 

 ・・・・・・なんか、ラストがどんどん近づいているようでいて、蓋を開けてみるとイベントが予定より膨らんでいってるなあ。

 予定ではですね、この時点で弐拾あたりの筈だったんですよ。それが参十弐なんですよネェ・・・

 まさか、四拾とか超えちゃうんじゃ・・・(あわわ、マジで現実になりそう

 



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