時は少し戻り、カーマたちとの戦いの、翌日。早朝。

 

 場所は、天津神社。

 

(チュン、チュン、チキチキ・・・)

 

(チュンチュン、チキ、チキ・・・)

 

 どのような時も元気に、美しく雀は鳴く。

そんな雀の囀りが合唱を奏でる神社の鳥居の柱によりかかる形で、木偶ノ坊は目を閉じ眠っていた。

 目の前を雀が横切っても、落ち葉が側に落ちようと、木偶ノ坊は目を閉じたまま、少々豪快な寝息を立てている。

 

怠慢でも、気が抜けているというわけでもない。実際に数百メートル先にでも、欠片でも殺気を感じれば、すぐさま木偶ノ坊は目を覚ますだろう。

 

山野を住処とした戦士ならではの、野性の成せる技と言えるかもしれない。木偶ノ坊は特に何も言わず、神社の結界は正常に機能しているにも拘らず、淫魔がいつやって来るかわからないと警戒し、一人見張り役になった訳である。

 

「ム・・・」

 そんな木偶ノ坊も、ようやく自分から目を覚ました。

 立ち上がり、大きく伸びをして、体をゴキゴキと鳴らす。

 

「・・・・・・」

 輝く朝日が眩しい。

 いつもなら清々しい気持ちで見ることが出来た美しい朝日も、今ばかりはそういう気持ちになる事が出来ない。

 

「(亜衣様・・・)」

 双子の姉妹に、純粋な想いを秘める木偶ノ坊にとっても、昨日の出来事は衝撃であり、辛苦だった。

 木偶ノ坊は、あの場でカーマを討てなかった事、タオシーから亜衣を元に戻す方法を聞き出せなかったことを悔いていた。

 己にもう少し力があれば、あそこでもう少し上手くやれていればと、自責の念は収まることが無い。

 

 木偶ノ坊は、何気無しに神社の中へと入る。

 

 中に入ると、外ではあれほどよく聞こえていた雀の声もかすかになる。

 早朝の神社の屋内は、なんとも静寂で、まるで自分が世界に一人きりのような錯覚さえ覚える。

 

 そんな中

 

「・・・ぬ?」

 木偶ノ坊の耳に、微かに物音が聞こえた気がした。

 

「空耳か?」

 木偶ノ坊は耳が良い。山中で実際に狩りなどもしていた経験から、小さな音も聞き逃さない。

 木偶ノ坊は、一応身を引き締め、その音がした方向へと足を向けた。

 

 

◇    ◇    

 

 

 天津神社、書物庫。

 

 ここには、古来より続く淫魔と人との戦いについての記録や、天津の歴史。羽衣の伝説についての詳しい記述など、様々な事が記された書物の数々が置かれた重厚な本棚が、決して狭くは無い部屋の中に所狭しと配置されており、その規模はちょっとした学校の図書室に匹敵する。

 

 碌に字も読めない木偶ノ坊にとっては、その場所こそ知っていても近づく事すらなかった場所である。

 しかし、そこから聞こえる微かな物音。そして、人の気配・・・

 

 殺気こそ感じないものの、昨日の今日では警戒しない方が嘘だろう。

 木偶ノ坊は、どこから何が跳びかかってきても良いように棒を構え、書物庫に初めて足を踏み入れた。

 

 左右を見渡しながら、少しずつ奥へと進む。

 本棚の列を一つ二つと通り過ぎる頃には、物音が本を捲る音だと分かった。

 

「ええと・・・ はん・・・ はん・・・ ・・・ダメ。これにも載ってない」

 それと共に、聞き覚えのある女性の声。

木偶ノ坊は、その声が聞こえた最後の列の本棚を・・・

 

 バッ! と、身を乗り出す木偶ノ坊。

 そこにいたのは・・・

 

「ま、麻衣様・・・」

 そこには、脚立の上に乗り、真剣に書物を捲る麻衣の姿があった。

 すぐ近くにいる木偶ノ坊にさえ気付かないぐらい、その作業に没頭している。

 どこにでもあるような、水色の長袖服に、紺色のダボダボズボン。見た目はパジャマに近い普段着。表情は、怖いぐらいの真剣さを覗かせ、その逆に、その目の下にはクマが出来始めており、瞬きの頻繁さは、目の疲れを訴えている。

 

 それで、木偶ノ坊にも状況が飲み込めた。

 麻衣は、昨日の夜に、ここ、天津神社に帰ってきた時。木偶ノ坊に対し

『私はもう寝るから、木偶ノ坊さんも休んで』

 と言い、それきり木偶ノ坊は、今に至るまで麻衣の姿を見ていなかった。

 つまり、それからたった一睡もする事無く、着替えだけすませた麻衣は、ずっとここで書物を調べていたのだろう。

 よく見ると、脚立の付近には、数多くの書物が平積みにされていた。

 

「・・・・・・(麻衣様・・・)」

 その姿の痛々しさに、どう声をかけてよいものか木偶ノ坊は迷った。

 だが、ふとした拍子に、持っていた木棒が、アンバランスに平積みされていた。本に当たる。

 

ぬあっ・・・!(しまった・・・)」

 バサバサバサと、地味な、しかし、極度に音の無い空間であった書物庫にとっては充分大きな音が響く。

 それと共に、麻衣がその方向に振り返った。

 

「あっ・・・ 木偶ノ坊、さん・・・」

 麻衣は、何故ここに、という表情で木偶ノ坊を見る。

 

「あ、その・・・ ここより物音が聞こえましたもので、気になってしまい・・・」

 何も疚しい事はしていない筈なのに、しどろもどろとなる木偶ノ坊。

 

「あ・・・ ごめんなさい」

そんな木偶ノ坊に、麻衣はぺこりと頭を下げて謝る。

「いや、滅相もござらぬ! その・・・ 麻衣様、今はお休みになられた方が・・・」

 麻衣を気遣い、精一杯の言葉を述べる木偶ノ坊。

 それに対し、麻衣は少し困った顔をし・・・

 

「うん・・・ でも、私・・・ ちょっと眠れなくて・・・ 私の事は気にしないで、木偶ノ坊さんはゆっくりしてて」

 そう言って、再び書物を捲る作業を始める麻衣。

 

「・・・この本にも載ってない・・・ じゃあ次は・・・」

 次々と書物を手に取り、捲り、そして積んではまた新しい書物を手に取る。

 

「(麻衣様・・・っ!)」

 木偶ノ坊は、涙が出そうになった。

 木偶ノ坊にも、彼女が何をやっているのかわかった。麻衣様は、寝る間も惜しんで、姉の為に、反転の術や陰陽に対する書物を片っ端から探していたのだ。

考えてみれば分かること。亜衣様と麻衣様は双子の姉妹。二人が互いにとって、半身の様な存在であろうことは誰にも想像できる。

その姉が、あんな事になったのだ。心優しい麻衣様が、どうして一人だけおそらく、何もせずに一人寝ることが出来るだろう。

それこそ、あくまで他人でしかない自分より、ずっと深い自責の念が、今こうして、昨日の様々な事柄で疲れた心身を酷使しているのだろう。

 

 木偶ノ坊には、どうすればいいのかわからなかった。

 どのような言葉を以ってすれば、麻衣様の今の心の苦しみを救うことが出来るのか。休ませることが出来るのか。それすらも・・・

 

 

 その時

 

「邪魔をする」

 

 不意に響く、背後からの男の声。

 

「えっ・・・!?」

 そんな、気配なんて無かったのに・・・

 

「何奴っ!!!?」

 鍛えられた戦士の俊敏な動きで、木偶ノ坊は振り向き様に、唸りを上げて声の方向に棒を突く。

 

(ギィィィィンッ!!!!)

 

 木偶ノ坊のその一撃を、侵入者は腰に帯びていた刀の柄で受け止めた。

 

「・・・手荒い歓迎だな」

 木偶ノ坊の一撃を受け止めた男に、攻撃の意志は無い様だった。

 

 よく見ると、男は20前後と思われる青年だった。

 若いながらに精悍な顔つき、髪型はオールバックで、ハリネズミの様に、後ろに突起した山型。服装は市販の薄手のジャンパーに、ほつれの付いたGパンと、今時の若者らしい現代的な恰好。しかし、だからこそ余計に違和感を醸し出すのが、その上からでもはっきりと分かる、絞り込まれ鍛え上げられた筋肉と、左腰にベルトで巻きつけられた、年代物の・・・日本刀。

 

「勝手に入ったことは詫びる。誰もいない上に返事も無かったので・・・ とりあえず、俺はあんたたちの敵じゃない。・・・まずは、話を聞いて欲しいんだが」

 そう言うと、青年は敵意を持たないという証明の為か、日本刀を床に置いた。

 

「む・・・」

 全くの無防備になられると、木偶ノ坊には逆に何も出来ない。

 何より、目の前の青年の澄んだ瞳と気が、疑心暗鬼が杞憂であることを告げる。

 

「・・・木偶ノ坊さん。話を聞きましょう?」

 麻衣は真っ直ぐな瞳で木偶ノ坊に是非を問うた。

「・・・・・・麻衣様がそうおっしゃるのなら、是非も無しぞなもし」

 

「ありがとう。ええと、君は・・・」

「麻衣、天津麻衣です。・・・気軽に麻衣って呼んで下さい」

「そうか、君が天津姉妹の・・・ じゃあ、アンタは・・・」

「木偶ノ坊ぞなもし」

「やはりな・・・ あの踏み込み、只者ではないと思っていた」

「うぬこそ、あの判断能力と反射神経には驚かされたぞなもし」

 互いに笑い、握手をする男両者。

 

「・・・・・・」

 武に生きる男同士ならではであろう意思の疎通の早さに、麻衣はほんの少しだけ疎外感を覚えた。

 

 

◇    ◇  

 

 

  一方。亜衣陵辱の翌日。

 

 淫魔の社の小部屋の一つでは・・・

 

「・・・ふう」

 タオシーが、椅子にもたれかかり、ぼうっと、天井を見つめていた。

 

 特に何に使われていたというわけでもなかった、小さな部屋。

 そこは今、タオシーの部屋として使われている。

 その部屋は、少年らしさは欠片も無かった。

 壁に貼られている八極図や呪符の数々、所狭しと並べられた怪しげな物品、薬品。瓶の中に入れられた正体の分からぬ何か。それらが完璧に生理整頓され、あとは寝る為の寝具と、机、椅子。

 生活感どころか、部屋にすら見えないそれは、研究室という表現の方が的確だろう。

 

「・・・・・・何を今更、僕は・・・」

 机の上には、紫色の液体が入った薬瓶がある。

 タオシーが霊力と知識、そして鬼獣淫界の道具、生物を駆使して作った。淫魔用の強制排卵剤・・・つまり、【絶対に妊娠する薬】である。

 淫魔というのは、やはり人間とは構造が違う。人間が食事をしてエネルギーを確保するのと同様に、淫魔の女は、性交により放たれる男の精を妖力に変換し蓄える事が出来る。

 それも当然、淫魔が人間と同じ様に子供が出来るのなら、淫魔の女は常に妊娠していなければおかしいのだから。

 よって、淫魔同士では、通常の状態で子供が出来る確立は、実は低いのだ。

 

 なら、通常ではない状態にすればいい。

タオシーが作った薬は、強制排卵の効果だけではなく、一時的にその変換をストップさせ、100%確実に精子を着床させる事ができる。

試験薬として作ったその薬は、何の失敗も無く、完璧なものを作り上げたとタオシーは自負している。

しかし、タオシーは何故か悩んでいた。

 

「まだこんな所で、甘さを捨て切れてないのか・・・ なんて、醜い・・・」

 両手で顔を覆うタオシー。

 

 

「・・・・・・気分を変えますか」

 ゆらりと立ち上がり、部屋を後にするタオシー。

 

 

 そして、ぶらぶらと廊下を歩いている時だった。

 

「あっ・・・」

「えっ・・・?」

 曲がり角で、悪衣と顔を合わせてしまったのだ。

 

「あなた、タオシー・・・だっけ?」

「・・・驚いた。てっきりカーマ様と一緒かと・・・」

 悪衣とタオシーが面と向かった事はこれまでなかった。

 タオシーは常に一歩引いた場所におり、裏方に徹していたから当然ではあるだろう。

 

「私だって、ぶらぶら散歩したり外の景色を見たりぐらいはするわよ。

 ・・・そういうあなたは?」

「僕だって散歩です」

「ふうん・・・ そういえば、あなたとはこうして話したこと無かったわね」

 悪衣は、タオシーの全身をチラチラ見る。

 

「な・・・なんですか?」

「あなたって何者なの? 式神が使えたり、人を淫魔に出来たり・・・ 陰陽師関係だろうってぐらいはわかるけど・・・」

「・・・あなたには、関係ないです」

 タオシーは、冷たく突っぱねた。

 

「あら、いいじゃない。仲間でしょ? お互い知らないままじゃ、不都合もあると思うし」

 悪衣はタオシーに興味津々らしい。

 

「・・・必要ありません。では、僕はこれで・・・」

 性急に立ち去ろうとするタオシー。だが

 

「・・・じゃあ、体に聞いてみようかしら」

「え・・・? うわっ!!?」

 悪衣は、タオシーを強引に押し倒した。

 

 板張りの廊下、タオシーは軽く全身を打ってしまう。

 

「あ、つつ・・・」

 頭をおさえるタオシー。悪衣は、そのタオシーの上に乗っかっている。

 

「な、何を・・・」

「んー・・・ これって淫魔の本能なのかしらね。逃げる子は襲いたくなっちゃうの」

「お、襲う・・・?」

「カーマに不満はないんだけど、面白い感覚よね。まるでライオンが目の前で小鹿を見つけたみたいな感じ・・・ ほら、さっさと言わないと食べちゃうわよ」

 タオシーの足の間に、右太腿を挟みこむ。

 その目は、どこまで本気なのか冗談なのかすら分からない。

 

「や・・・ 止めて、下さいっ!」

 狼狽しながら、手を突き出すタオシー。

 だが、その方向がいけなかった。

 

(ムニュゥッ)

 

「え? あっ・・・」

 感触に驚く。

 タオシーの両手は、偶然にも悪衣の大きな胸をしっかり掴む形になっている。

 

「・・・・・・」

 掴まれた胸を見、そしてタオシーの顔を見る悪衣。

 

「あっ・・・ いや、これは・・・」

 狼狽するタオシー。

 

「・・・・・・おしおきね」

 ニコッと笑い、タオシーの服の襟に手をかける。

 

「それっ!!」

「あっ────!!」

 タオシーは、首の位置まで、一気に服を捲し上げられた。

 

「・・・え?」

 その時、悪衣は、そこにあるものに驚いた。

 

「・・・・・・・・・」

「あなた・・・」

 

 

◇    ◇  

 

 

 

天津神社、境内。

 

 そこで、侵入者の青年との、話し合いの場が持たれた。

 

「俺の名は、逢魔 仁(おうま じん)。先祖代々から阿部家と、日ノ本の国を守る宿命を背負った戦士の一族、逢魔の隊長をしている」

 陣と名乗る青年は、安倍家の家紋が描かれている紋を見せ、次に刀の柄に書かれた【逢魔】の文字を見せた。

 

「淫魔の近年稀に見る暴走には、安倍と逢魔も苦労している。そこで安倍の占い師から、俺が天津へ行けば何らかの決着が付くと言われ、単身ここへ来た」

 二人を真っ直ぐに見つめる青年の目に、嘘は無かった。

 

「安倍・・・ 京都にある退魔の名門。あの安倍か」

 確認するように質問する木偶ノ坊。

「ああ。当時の平安京があった場所に、安倍の本部がある」

 

「安倍を守る戦士というなら、タオシーという少年を知っておるか?」

 そう、タオシー。

 突然に二人の前に姿を現した、陰陽の術を使う少年。

 

「タオシー(導師)・・・? そいつは・・・」

「カーマの配下に、陰陽の術を使う奴がいたの・・・ あいつのせいで・・・ お姉ちゃんが・・・っ・・・!」

 悔しげに唇を噛む麻衣。

 

「・・・・・・・・・」

 仁は、麻衣の痛々しい悲しみの表情に、何か声をかけなくてはならないかもしれないと思った。

 

「こんな紙を使うのだが、何かわからぬだろうか?」

 しかし、それは木偶ノ坊の言葉が遮った。

 木偶ノ坊は、例の人型の紙を差し出す。

 その紙を手に取り、見つめる仁。

 

「・・・っ!! こ、これは・・・!!!」

 すると、急に仁は目を見開いて驚愕する。

 

「あいつの・・・ これは、あいつの切り方だ・・・」

「アイツ・・・? それって・・・」

「・・・・・・・・・・・・ 安倍・・・ 安倍 薫(あべ かおる)・・・。この神経質な紙の切り方は・・・ あいつに、間違いない。 ・・・生きて、いたのか・・・」

 仁は、嬉しさと悲しみの織り交ざった表情で、紙を見つめた。

 

「安倍・・・カオル?」

「それじゃあ、やっぱりタオシーは安倍の・・・!!」

「いやしかし、あれほどの使い手が安倍にいるとなれば、少なからずここ天津にも噂が通る筈。・・・それがないとなれば」

 強い意志で仁を見据える木偶ノ坊。

 

「・・・ああ、薫は・・・八年以上も前に、安倍から追放されている」

「追放・・・? あの若さなのに、それより八年も前に追い出されたっていう事は・・・」

「よほどの悪業でも犯したのか?」

 

「いや!! あいつは・・・ あいつは何も悪くない!! ・・・悪く、ないんだ・・・」

 仁は、悲しい目をしながら、大きな声で否定する。

 

「あいつは・・・ 薫は、生まれた頃から陰陽の強い才能を持っていた。五歳の頃には式神も使い、八歳の頃には大人の陰陽師でも敗北を喫するぐらいの使い手に成長し、周りからは安倍清明の再来と呼ばれもした。

 だが・・・そのすぐ後、薫は、母親ごと無理矢理安倍から追放されたんだ」

「そんな才能を持っていたのに・・・何故・・・?」

「それは・・・」

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

「あなた・・・」

 悪衣は驚いた。

 

「・・・女の子、だったの・・・?」

 無理やり曝け出した胸元、それを覆う形に巻かれたサラシ。

それがほどけた中には、決して大きくは無い、控えめな乳房の膨らみがあった。

 

「・・・・・・どちらでも、ないですよ・・・」

 苦虫を噛み潰したような表情で、真横を向いたまま答えるタオシー。

 確かに、偶然タオシーの股間の上に密着している悪衣の腿は、男性器らしき円筒形の質感を感じている。

 

「まるで漫画でしょう? フタナリ・・・って言ったらわかりやすいですか?

半陰陽(はんいんよう)の最も珍奇な症例・・・。男性、女性の特徴両方が僕にはある。女性のように生理もすれば、男性のように精もある。しかも、手術をしようとも見事に両方の染色体が半々に存在していて、どちらの性別に安定させようとしても体に無理が出る・・・」

タオシーは、諦めたように語り出した。

 

「8歳を超えた時ぐらいですかね。急に体がこうなって・・・。そうしたら、今までちやほやされてきたのが急に【淫魔の子】、【鬼子】、【不吉を呼ぶ子】、ですよ? 安倍お抱えの占い師には【この子供は近い将来、安倍に災厄を齎す】とまで言われました。

 ・・・安倍の一族は思想が古く、保守的で頭が固かった。そんな所で、そんな不吉な子供が、母親共々安倍から追い出されるまで・・・ そう時間は掛かりませんでしたよ」

 

 

◇    ◇    

 

 

「そんな・・・ 酷い」

 麻衣は、憎い存在である筈の薫の話を、まるで自分の事の様に聞いていた。

「そこから先は、俺にも判らない。いくら聞こうと大人たちは答えてくれなかった。・・・俺は薫を探したかった。だが・・・薫が安倍にいることを許されなかった事と逆に、守護者として優秀な身体能力を持っていた俺は、安倍を護る道具として、安倍を離れることを許されなかった・・・」

 仁は俯き、言葉を続けた。

 

「・・・今でも後悔している。幼い頃から常に共にいた。親友だった薫を・・・薫を探さずに、俺自身の家族を護ることを選んでしまった事を・・・ 幼い頃、俺はあいつをまもってやると約束したのに・・・

 すまない。君のお姉さんをそうしてしまったのも、俺に責任がある」

 自責の念を一杯に、悔しそうに唇を噛む仁。

 話を聞いていた麻衣は、そんな仁に心打たれた。

 

「(この人・・・ すごくいい人なんだ・・・)」

 その時麻衣は、胸が一瞬、引き締まった錯覚を覚えた・・・

 

 

 

  ◇    ◇    

 

 

「そこから先は・・・ 地獄でした。

 元から病弱な母は、それっきり糸の切れた凧みたいでしたよ・・・ 安倍の門を何度も何度も叩いた後、渡されたはした金でボロアパートに移り住んで・・・ それから母は精神も肉体もすっかり脆くなって、布団から離れるのも難しくなった。

 母は働ける体じゃない。僕は働ける年じゃない。

 周りの人間は僕達を見て見ぬフリをした。

 僕には母しかいませんでしたから、一生懸命看護しましたよ、まるで子犬みたいにね。

 一日に何度も、取り付かれたかのようにヒステリックになった母に、何度

 

【あんたさえこんなことにならなければ、生まれなければ・・・】

 

そう言われても、物を投げられて血を流しても、それでも・・・ 僕には母しかいなかったから・・・

 

 ・・・でも、母の命は結局数年ともちませんでした。

 自分の世界の、最後の救いがなくなってしまった子供は、何をすると思います?」

 

「・・・・・・・・・」

 悪衣は、沈黙するしかなかった。

 

「大概の子は自殺するか、衰弱して死んでしまうでしょうね。・・・僕は違った。新しい生きる糧に選んだのは、復讐・・・ 皆が僕を【呪い子】と言うのなら、人の世に仇なす存在だというのなら、その通りになってやる。そう思いました。

 そして・・・ 自分に出来る全ての事を駆使し、色々なものを人から奪い、なんとか生きてきました。

僕にとって奇跡だったのは、その数年後、死ぬ気で様々な方法で淫魔との接触を図っていた僕の前に現れた最初の淫魔が、カーマ様だったこと、そして、拾って下さったこと」

 

 

『淫魔の配下になりたいという変わり者は、お前か?』

 

『はい!』

 

『何故だ?』

 

『人間に・・・復讐がしたいんです!! この世で一番醜い生き物に・・・っ!!』

 

『・・・・・・』

 

『フッ、いいだろう。俺の下僕として忠誠を誓うなら、連れて行ってやってもいい』

 

『誓います!!』

 

『フフ・・・ 変わった手駒が出来たものだ。ならば来い、呪い子よ。歓迎するぞ』

 

 

 

「・・・それで、僕の昔話は終わりです」

 かつての子供は、今、悲しいほどの褪せた瞳を見せる。

 

「・・・苦労したのね」

「昔話ですよ、今は楽しく悪人をさせてもらってますから」

「それで、私を生まれさせた」

「・・・後悔はしてません」

「私は感謝してるわよ。【亜衣】は恨んでるでしょうけど・・・」

「・・・?」

 悪衣の言い方に、タオシーは引っ掛かりを覚えた。

 

「・・・まさか、悪衣様の中では・・・」

「亜衣がいるわ。あの時から」

「・・・!!」

 タオシーは驚いた。

 いやしかし、それなら納得もいく。

 悪衣が亜衣に戻った時、精神の中で反転が裏返ったのではなく、人格が二つに分かれているのなら、悪衣と亜衣が、ああいう風に戻ったりするのはより自然だ。

 

「まさか・・・」

「ああ、安心して。亜衣は今も閉じ込めてるから」

「閉じ込めて・・・?」

「心の中に作った牢屋みたいな所かな、今まで生まれる前の状態だった私がいた所。寒くて、暗くて、何も無いの」

 

「・・・識域下の封印・・・ なるほど、そんな風に精神が構築されているのか・・・」

「難しい言い方をするのね」

「つまり、あなたは自分の意志で・・・」

「亜衣に替わる事? 出来るわよ、・・・絶対やらないけど」

 ・・・タオシーにとっては、予想外の事だらけだった。

 こんなことは初めてだった。カーマの忠実な配下となってから、一度もこんなイレギュラーの事態は起こったことが無い。

 それは、今目の前にいる、天津の巫女だった淫魔の姫のせいだろうか。

 タオシーは、これまで何度も何度も、反転の術の駆動式を計算し尽くした。それこそ、イレギュラーの可能性など小数点すら許さないほどに。

 だからこそ、今回のイレギュラーの数々には驚かざるを得なかった。

 

 ・・・もし、人格が別れたことが、その計算の外、まったく考えていなかった部分にあったとしたら?

天津亜衣の精神が、意識的、或いは無意識に、反転から逃れる為に自分の人格を分けたのだとしたら? ・・・しかしそれでは、昨日のように表に出て来れるほどの自我領分は確立できる筈が無い。

 

・・・もしやそれが、妹の麻衣の放出した陽の霊力で、力を得たのだとしたら?

 

そうだとしたら・・・反転の術は成功していながら、天津亜衣が顕在しているという事になる。人格の分裂というのならば、最初の見立てのように、自然消滅することは・・・無い。

 

「(なんてこと・・・)」

 タオシーにとっての唯一の計算違いは、天津亜衣を過小評価していたということだろう。どんな絶望的な状況下にあっても、絶望を享受せず、他のどんな人間にもやってのけない事を、時として奇跡すら起こしてみせるのが天津姉妹であるということを、タオシーの【計算】では導くことが出来なかったのだ。

 

 

 

「今度は私から質問」

 悪衣が尋ねる。

 

「・・・なんですか?」

「あなたにとってカーマは・・・」

「全て、です」

 迷い無く答えるタオシー。

 

「・・・ふうん?」

 悪衣は、それがあまり面白くない。

 

「もしかして、・・・恋愛感情とか」

 意地の悪い顔で、からかってみる。

 

「そ、そんな感情じゃ、ありません!」

 顔を赤くして拒絶する。

 おそらく、崇拝の勘定が強すぎてそういう考えに至らないのだろう。

 

「・・・ところで、カーマは知ってるの? 体の事」

「・・・ええ」

「じゃあ、サラシ、外さないの? 苦しいでしょ」

 二人共に分かってしまったのだから、隠す意味は無いだろうという意味が含まれている。

 

「・・・僕の勝手ですから。・・・早くどいてください」

「・・・そんなに自分の体が嫌い?」

「・・・・・・・・・」

 タオシーはそのまま黙ってしまった。

 

「じゃあ、私が外してあげる」

 悪衣は、唐突に行動に出た。

 

「なっ・・・!?」

 驚くタオシー。

 両指を唇に当て、麻衣を拘束した時と同じ光の輪を、タオシーの両手にかけた。

 

「何をしてるんですかっ!? さっさと外して・・・」

「ふふ・・・オーケー♪」

 タオシーの胸からサラシをほどくと、麻衣よりもずっと小ぶりな乳房が姿を現した。

 

「やっ・・・! そ、そっちじゃ・・・」

 タオシーというのは、最初に声を聞いた時から女性的な声だとは思っていたが、敏感な部分を弄られたタオシーは、まるで女性そのものの声を出す。

 

「へぇ、かわいい・・・」

 悪衣は、右手の乳首を口に含み、左手の胸をこね回した。

 

「うぁっ・・・ はっ・・・!」

 快感に耐性が無いのか、反応が大きく、抵抗は弱い。

 少年の様でもあり、少女の様でもあるその涙目の表情に、普段の涼やかな顔との強烈なギャップを感じ、それが、悪衣の中にある被虐心、淫魔としての【狩り】の本能を刺激する。

 

 悪衣は、もう片方の手で、器用に腰のベルトを外し

 

「やっ!? そこは・・・っ!」

タオシーの制止の声も聞かず

トランクスごと引いて、タオシーの局部を露にした。

 

これで、タオシーの肌はほとんどが露出した状態となった。

むしろ、捲られ、捲られた服と肌のコントラストが、より官能的な視覚効果を与える。

タオシーの体のライン、腰骨、それらに改めて目をやる悪衣。

服の上からでは分からなかったが、それらの体の作りは、より女性に近いものだった。

だが、その局部には、女性には存在し得ない生殖器官がある。

 

股間から伸びるそれは、間違いなくペニスだろう。ただそれが通常と違うのは、それが女性器のクリトリスが本来あるはずの位置から伸びている事。

玉袋と呼ばれる器官は見当たらず、女性器とペニスのみが、タオシーの局部に同居していた。

そのペニスも、カーマの大きく太く赤黒い立派なものと比べて、浅いピンク色で、あまりにも可愛らしい。そして女性器も、初々しいピンク色をしており、まるで穢れを知らない事が見て取れた。

 

「なるほど・・・ クリトリスが伸びてペニス化してるわけね」

「・・・・・・・・・っ」

「元は女の子だったんだ。てっきり逆だと思ってた」

「女性の姿より、男性の恰好の方が・・・その・・・隠す部分が簡単で・・・

・・・気持ち悪いでしょう? こんな・・・ 変な体・・・」

タオシーは、自分の体を自嘲する。

 

「・・・・・・」

 悪衣は、無言のままタオシーのペニスに舌を這わせた。

 

「ひゃっ・・・っ!?」

 タオシーは、ビクンと体を震わせた。

 

「自分で触ったこと、無いの?」

 その反応の初々しさに、尋ねてみる。

 

「そ、そんなこと、しな・・・」

 タオシーが言い終わる間もなく、悪衣は横笛の様にタオシーのモノを咥え、熱い吐息を吹きかけた。

 

「熱っっ・・・!!?」

 急な熱に、一瞬焼けるような熱さの錯覚を覚え、驚くタオシー。

「ふふふ・・・」

 のかわいい反応に、悪衣も熱を持ち始める。

 

「んく・・・」

 改めて、タオシーのペニスを柔らかな口の中に包む。

「うあっ!?」

「はむ・・・ ちゅぶ・・・」

 カーマに教授された通りに、緩急をつけて舐る。

 

「くぁっ! ふ、あ・・・っ!!」

 体を仰け反らせ、知らなかった快楽に耐えようとするタオシー。

 

「んっ・・・ こっちは、どうかな」

 

(クプッ・・・)

 

しかし悪衣は、体を反転させ、右手の人差し指を、タオシーの桃色の秘所に、ゆっくりと没入させる。

 

「ひっ・・・ く、あ・・・っ!」

 ペニスの時と比べ、快楽に戸惑う表情だけでなく、明らかに恐怖の色を見せるタオシー。

 女性として生まれたのなら、それも当然の反応だった。扱いさえ良く分からない異物でしかないペニスと違い、この場所は元々存在していた貞操なのだ。悪衣が女性でも、本能的に恐怖を覚えるのは通常の反応である。

 

 そのせいか、タオシーの膣はより強く弛緩し、悪衣の指を締め付けた。

 

「や、やめ・・・ やめてくだ・・・」

 普段の冷静沈着さや余裕はどこへやら、今のタオシーの震えぶりは同年代の少女と変わらない。

 

「・・・ふふ。安心して、処女や童貞を奪おうとか思ってるわけじゃないし、やるつもりもないから。・・・浮気になっちゃうし。 ・・・でも、すごい。私の指、キュウキュウ締め付けてる。

・・・カーマが初めて私を貫いた時も、こんな感じだったのかしら」

・・・そういえば、そんな自分も、たったの2日前は処女だったのか。他人のヴァギナやそういった部分は見た事が無かったから、つい自分に投影してしまう。

 

(クチュ、クチュ、チュクッ・・・)

 

「うあ、ああっ! やぁっ・・・!!」

 浅い所で、縦横無尽に指を動かす。それと同時に、フェラもより激しく上下させ、舌で鈴口を刺激する。

 

「ひぅっ!? あ、あっ・・・!」

 

「(・・・これより、ずっと太いカーマのが・・・ 私のここを・・・)」

 妄想に胸は熱くなり、愛撫にも自然と没頭していく。

 

「あふっ・・・あ、あっ・・・!」

 タオシーの悲鳴にも熱が篭り、だんだんと喘ぎの吐息が混ざっていく。

 悪衣は、中指を追加し、指の攻めを二本に増やす。

 

「うあっ・・・!? そ、んな・・・ムリ、で・・・っ あぐっ!!?」

 指が一本増えた程度だというのに、まるで大げさな反応をしてくる。

 だが、指に対するその肉の締め付けは、その言葉が本人にとって真実であろうことがわかる。

 

「あ、あっ・・・・・ あぁ────────────っっ!!!」

 

(ビュクッ、ビュルルッ、ドクッ!!)

 

 悪衣が更に行為をエスカレートさせようとした所で、タオシーは大きく声を上げ、ビクビクと二、三度体を痙攣させ、絶頂する。

 

「むっ・・・!? く・・・」

 悪衣の口内で、タオシーのモノから勢い良く精液が噴射される。

 だが悪衣は、口を離す事無く、その放出が完全に止まるまで待って口を離す。

 

 そして

 

「んっ・・・」

 ゴク、と、小気味良い音を立てて、タオシーの精液を溜飲した。

 

「んふっ・・・ 美味し・・・ ちゃんと射精するのね。すごい・・・」

 精を糧として飲むのは女性淫魔の特徴であり、本能である。

 かなり上級の陰陽士であるタオシーの精ともなれば、霊力においても上質だ。

 

「ご馳走様。・・・でも、相手の絶頂もわからないんじゃ私も淫魔としてまだまだね」

 そんな事を喋りながら、タオシーの秘所から引き抜いた指に絡みつく粘液を舐め取る。その姿は、淫魔の姫という呼び名を誰もが適名と思うであろうほど、淫艶且つ官能美に溢れる妖しい魅力を持っていた。

 

 

「・・・ハァ、ハァ、ハァ、ハ───・・・・・・」

 一方のタオシーは、オーガズムの後遺症と言うべきか、着衣が乱れきったあられもない姿のまま、放心状態だった。

 

「・・・やりすぎたかな。ちょっとだけのつもりだったけど」

 タオシーの服を、少しだけ乱れを直し、立ち上がる。

 

「その気があったら、また遊びましょ」

 踵を返し、歩き出す。

 しかし

 

「あ、そうそう」

 何かを思い出したとでも言いたげな、わざとらしい動きで振り返り

「・・・・・・?」

「そんなに嫌わなくても、もっと自身を持っていいと思う。・・・とってもステキよ? あなたの体」

 さらりと、亜衣と同じ純粋な笑顔で、そんな事を告げた。

 

「なっ・・・・・!!」

 それに対し、タオシーは驚き、顔を紅くした。

 

「・・・ひょっとして・・・ それが、言いたくて・・・こんなことを・・・?」

「さあ? どうかしら。・・・今度こそ行くわね。お互い頑張りましょ、・・・バイバイ」

 可愛く手を振って、悪衣は角の向こうに消えた。

 

 

 後に残るは、タオシー一人。

 

「・・・・・・・・・んっ・・・」

 ややふらつきながらも、着衣の乱れを直しながら、立ち上がる。

 

 ・・・まだ、胸の動悸が治まらない。

 タオシーは、自分の体を嫌悪していたが故に、今まで自慰行為の一つすらしたことが無かった。そこに、悪衣の今回の行動・・・。

 

「・・・僕としたことが、あんなに乱れてしまうなんて・・・」

 気恥ずかしそうに俯くと、足元に落ちている布が目に付いた。

 自分の胸を隠していた、サラシだ。

 

「・・・・・・・・・」

 それを拾い、眺める。

 そして、ほんの少し考え込んだ後

 

「・・・・・・そう、ですね・・・ 2人の前では、つける必要も無いですか・・・」

 タオシーもまた、自分の部屋へと帰っていった。

 

 

 

  ◇    ◇   

 

 

「三種の神器!!?」

「・・・なんと!? 三種の神器とな!!?」

 驚く麻衣と木偶ノ坊。

「ああ、鬼獣淫界に乗り込み、麻衣・・・の、お姉さんを救うには、再び三種の神器の力を借りるしかない」

 至って真面目な目で、仁は言った。

 

「えっと・・・三種の神器って・・・ 何とかの鏡と、勾玉と・・・確か・・・ ムラクモ・・・」

 姉の亜衣と違い、麻衣はそれほど日本神話などについて詳しいわけではない。

「・・・麻衣様。幻舟様が草葉の陰で泣いておるぞなもし・・・」

 木偶ノ坊は、がっくりと肩を落とす。

 

「あ、アハハ、アハハ・・・」

 麻衣は元気なく笑った。

 

「八咒鏡(やたのかがみ)。八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)。そして・・・ 天敢雲剣(あめのむらくものつるぎ)・・・

 逢魔の間では、伝説がある。

 世に魔が満ちる時。道真。平将門。天草四郎時貞・・・ かつて日本を幾度も襲った危機において、逢魔の戦士は三種の神器を集め、魔を撃ち滅ぼす英霊を呼び、共に戦ったと」

「じゃあ、三種の神器を見つければ・・・」

「可能性は、ある」

 敢えて仁は、安易な言葉は選ばなかった。

 

「むう・・・ 確かに、それ以外には方法は見つかっておらぬし・・・」

「行きましょう!! 三種の神器を探しに!!」

「では、三種の神器が祭られているそれぞれの神社に・・・」

「いや、違う」

「え?」

「あんな所に飾ってあるのは只のレプリカだ。本物は・・・愛媛にある」

「愛媛・・・」

「エヒメ・・・」

 

 行き先は、決まった。

 

 

 

  ◇    ◇   

 

  一方。鬼獣淫界

 

 タオシーは、自分の部屋に戻っていた。

 サラシを畳み、籠に入れ、そして、机に目をやった。

 

「・・・・・・・・・」

 机の上には、例の強制排卵剤が置いてある。

 手に取り、しばらく沈黙するタオシー。

 

「・・・・・・・・・」

 カーマに手渡す筈であったそれを、タオシーは薬棚の奥へとしまった。

 

 そう、これでいい・・・

 自分はあくまでカーマ様の配下。カーマ様の命令には全て従う。そして、命令の無い限り、勝手なことをしてはいけない。

 

「・・・ん?」

 胸のポケットが揺れる。

 取り出したそれは、部下との通信に使う【言紙】だ。

 

「はい・・・ ええ・・・ ・・・!? なんですって!!?

 言紙を通して伝えられる事実に、タオシーは驚愕する。

 

「・・・わかりました。すぐに向かいます」

 指で強く押すと、言紙はその動きを止め、再びタオシーのポケットに入れられる。

 

「仁・・・ あなたが・・・」

 思いつめたような、悲しい表情で俯くタオシー。

 

「・・・いいでしょう。あなたが立ち塞がるのなら、容赦なく・・・」

 サラシを手に取り、部屋を出る。

 

 

「・・・僕の手で、殺す・・・」

 

 

 そうして策士は、一人、戦いの場へ赴いた・・・

 

 

  ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇  

 

 や、やっちまった・・・  OT

 

 まさか亜衣で逆レイプ書いてしまうとは。エロが無い方がまだよかったかしら?

 ま、まあ、こっちは【悪衣】だってコトで・・・ ダメですか? ハハハ・・・

 



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