淫魔の社  遊戯室

 

 

 

 

(ガラ・・・)

 

 

 父カーマにボコボコにされ、タオシーに一応の手当てを受けたカイは、その足で母の部屋へと向かい、その途中で通りかかった遊戯室の前で気配を感じ足を止め、扉を開けた。

 

「母上・・・」

 遊戯室の中央には、母がいた。

 

 今日もまた、父カーマに陵辱の限りを尽くされたのだろう。

 一子纏わぬ姿のまま、柱に術で身体を括られた状態の母は意識を失っていた。

 

 人間と比べて遥かに目が良いことを、今は呪いたい。

 こんな離れた距離からでも、母の玉の様に美しい肌の各所に残る甘噛みの痕や

 縛めで強引に開かれた脚の間、膣内から溢れ、腹の周辺に降りかかっている白濁液まで、はっきり見えてしまう。

 

「・・・・・・・・・」

 ・・・一歩一歩、母に近づく。

 

 音を立てず、慎重に。

 この姿の時の母上に気付かれると、母上はとても辛い顔をするから。

 

 

 そうして、カイと亜衣の距離は、ほぼ目と鼻の先にまで近づいた。

 

「(母上・・・)」

 吐く息が当たりそうなほどの近くまで寄ると、改めて母上の美しい顔に魅入ってしまう。

 

 陵辱の苦悶の内に意識を失ったのであろう母の寝顔は安らかとは言い難かったが、それでも・・・

 

「(キレイだ・・・)」

 自分がその狭い知識の中で知るどんな花よりも、女よりも

 ・・・見たことは無いが、絵画や宝石と呼ばれる美の象徴さえ、母上の前ではクズ以下だと思っている。

 

 憎むべきクソ親父にどれだけの陵辱を受けようと、欠片もその美を損ねない母は、カイにとっては美の女神。

 決して褪せる事の無い、絶対的な存在なのだ。

 

 そして・・・

 

 ドクン、ドクンと、母を見つめるカイの鼓動はどんどん早まっていく。

 そう、カイは・・・ 母に恋をしていた。

 

 

「母上・・・」

 自分でも気付かぬ内に、自分の顔が、母の顔に近い所にあった。

 

 しかし熱き感情の波のまま、思考をする間もなく

 カイがそのまま、自分の唇を、母の美しい薄紅色の唇に近づけようとした・・・ その時

 

 

「ん・・・・・・」

 覚醒の前の、微かな亜衣の呻き。

 

「っ(ビクッ)!!?」

 カイはそれに驚き、慌てて遠のいた。

 

 

 

「・・・・・・・ カ・・・イ?」

 ゆっくりと目を開けた亜衣は、その目に映るものの名前を、ぼやけた視界と意識で口にした。

 

「母上・・・」

 どくん、どくん、どくん。

 カイの鼓動は、この特殊な状況下で、どんどん早くなっていく。

 

「(ク・・・ オレのバカ野郎っ!!)」

 

(ゴッ!)

 

 とたん、カイは眠っている母にキスをしようとしていた自分を恥じ、自分の頭を殴った。

 

 

「・・・・・・ ぁ・・・っ!」

 やがてはっきりと意識が戻ると同時に、亜衣は自分の現状を思い出したのだろう。

 曲がりなりにも息子の前でこのような姿を晒している自分に、死にそうなほどの羞恥で顔が真っ赤になる。

 

「カ、カイ・・・ お願い・・・ 見ないで・・・ 出て、行って・・・」

亜衣は肩を小さく震わせながら、顔を背け、それだけを懇願した。

 

 

「・・・・・・・・・」

 カイは少しだけ沈黙したあと

 

イヤだ!

 母を正面に見つめて、きっぱりとそれを拒否する。

 

「カイ・・・」

「・・・・・・こんな姿にされている母上を見て、黙って出て行けるか」

 ぼそぼそと呟くように、下を向きながら、そう付け加えて。

 

「・・・・・・ 変わったわね、カイ・・・」

「・・・・・・」

 

 

 そう、確かにカイは、1ヶ月前から、急に随分と変わってしまった。

 

 元気ではあったけど、前はもっと、どこにでもいる腕白な子といえる性格だったと思う。

 アーミィと本当に性格面でも似ている所が多かったし、淫魔であるということが信じられないほどだった。

 だが今のカイは、鷹のような鋭い目つきに変わり、口調も変化し、より淫魔に近い攻撃的な・・・

 

 いや、それでも私を母として慕ってくれている所は変わらないし

実際にカイは、父親がどうあれ、かわいい、可愛い息子だと、今ははっきりと思える。

 それは、変わらない。変わりようがない。

 

 むしろ、自分のこんな情けない姿を見て、それで尚、母として見てくれるカイは、アーミィと同じく、今の自分の救いだった。

 

 だからこそ・・・ 悔やまれる。

 自由を奪われた母であるが故に、無力な母であるが故に出来てやれない多くの事。

 この子達を陽の当たる場所へ置く事が出来ず、鬼獣淫界という世界しか知らないということ。

 そして・・・ カイの性格を変え、傷を与え、歪めてしまう事になった、あの日を

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

     一ヶ月前

 

    淫魔の社  廊下

 

 

 

 

 それは、まだカイが何も知らぬ、現在(いま)と比べ、子供らしく純真であった時。

 

 一ヵ月後の現在と同じく、亜衣とよく似た顔と髪型をした、可愛らしい中性的な男子。

 しかしこの当時のカイは、父カーマと同じ、輝く金髪だった。

 

 何故髪色が違うのか、その理由は後々明らかになる。

 

 

 

 

 

 

「〜〜〜・・・♪」

 母から教えられ知った、地上の歌手の歌を歌鼻に、母の部屋の方へと上機嫌で歩くカイ。

 その手には、広大な荒地が続く鬼獣淫界では珍しい、綺麗な花を片手に握っている。

 

 その花は、地上界には無い独特の形、色をしていた。

 茎も葉も、全ての光を吸い取ってしまいそうなほどの漆黒の色であるにもかかわらず、その花弁はまるで、全ての闇を浄化してしまいそうな、美しい純白に輝いている。

 

 カイが毎日のようにやっている鬼獣淫界の探検で偶然見つけたその花。

 それを始めて見たカイは、それに見蕩れながらも、一つの思考を過ぎらせた。

 

 まるで、母上のようだ。と・・・

 

 それからカイは、探検先でその花を見つけることがあれば、必ず母上へのプレゼントとして、一輪だけ持って帰る様にしている。

 最初は茎から千切ってたくさん持って帰ったが、それは母上自身に怒られた。

 

 

 花も懸命に生きているのだから、花が痛いと思うような事は止めなさい。

 

 そう言われてからは、カイは必ず手が土だらけになろうと、手で根を木傷つけぬように掘り出していた。

 

 

 

 

 そうして、母の部屋へと向かう途中のこと

 

 

 

「あっ・・・ あっ、あっ・・・!」

 

 

 

「・・・・・・・・・?」

 たまたま通りかかった遊戯室の前。

僅かに開いた扉からは明かりが漏れ、小さく声も聞こえる。

 

 聞こえる声は・・・ 母上の声だ。

 でも・・・ 何か様子がおかしい。

 

 元々遊戯室は、父上やタオシーの了解がなければ入ってはいけないと言われた場所だった。

 

 

「(気になる・・・)」

 

 母上の身に何かがあったのだろうか?

 何故か、心臓が激しく脈打つ。

 理由も分からないのに、見てはいけないものを見ようとしているのではないかという気がしてならない。

 

 しかし、カイの足は、一歩一歩確実に、遊戯室の扉の前へと差し掛かる。

 

 そして・・・

 

 

 

(スス、ススス・・・)

 

 

 

 ゆっくりと、なるべく音を立てずに、引き戸を引き

 

「・・・・・・・・っ!!?」

 その時カイの両目に飛び込んできた映像は、カイにとって、世界が崩壊しかねんほどの衝撃あるものだった。

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

「あっ、あっ、あっ、はぁっ!! ああっ!!」

 

(ズチュッ!! グチュッ!! ズチュ、ズチュッ!!)

 

 遊戯室の中央で、一糸纏わぬ裸の姿で上下に揺れる、母の姿。

 こっちまで響いてくる、激しい水音と、それと同じリズムで、母上の身体や大きな胸が揺れていた。

 その下には、寝具に寝そべった姿勢で母上を見上げている父上がおり、見てみると、二人は股間の一点で・・・繫がっている。

 

 それが、まるでカイには人が剣玉か何かにでもなったかのように見える。

 しかしその剣玉の糸となる、繫がれた両者の腕は短く、外れそうになっては奥深く嵌まる、剣と、球。

 

 

「フフ、今日もいい締め付けじゃないか」

両手で亜衣の両手首を掴み、ガンガン獣欲の塊を亜衣の膣に打ちつけながら、カーマは言葉でも亜衣を責める。

 

「あっ、あぁっ! いやっ・・・ もう、やめっ・・・ ひゃうっ!!?

 

 カーマの腰の動きに、亀頭が膣口から抜け外れそうになるほど激しく突き上げられては、亜衣自身の体重と、カーマにより両手をグイと引っ張られる力とで、また亜衣の奥深くまで抉られる。

 

「子供を産んで膣壁がより柔らかくなったんじゃないのか? 俺のモノを包み込んで・・・ いやらしいな」

 

「いやっ・・・ そんな、あっ、ああっ!!」

 

 ズチュズチュと、二人の接合の証として響く水音。

 それと共に、カーマの肉棒が出入りを繰り返すたびに、既に幾度か注ぎ込まれた精液が、肉の栓の隙間殻少しずつ逆流し、滴っていた。

 

 

 

「(・・・!? なん、だ・・・!?)」

 カイは、二人のやっている行為が何なのか、まだきちんと知らない。

 

 それでも

眼前で繰り広げられている行為が、自分が知ってはいけない、見てはいけなかったものじゃないかと

カイの本能は感じ取っていた。

 

 

「ああっ!! ああぅっ!! あ、ああっ!!!」

 

 何よりカイの耳に大きく響いたのは、母上の大きな、喉の奥から吐き出される悲鳴。

 それは、何か望まぬものが自分に押し寄せるのを必死に拒んでいるように見える。

 

「(母上・・・)」

 その声から、白母上が望んで行っていることでは無いというのは分かる。

 

 しかし、カイには行為の内容はわからなくても

自分の持つ白母上像。それに対して、眼前の映像がまるで噛み合わない。

 

 

 清楚、神聖、可憐。

 【淫魔】にはあるまじき言葉であるのは分かっているが、それは白母上のためにある言葉だと思っていた。

 別に黒母上が嫌いなわけではない。しかし、カイが狂おしいまでに想いを寄せていたのは、圧倒的に白母上の方である。

 

 カイが出会う他の淫魔の女には一切無い、白い母上だけが持つ美しさ、優しさ、上品さ。

 それは、何の確信もなく、自分と、アーミィのものだと思っていた。

 

 アーミィと共有する、唯一無二の宝物だと、そう思っていた。

 

 だが、今この瞬間。それは・・・穢されたのだ。

 他ならぬ、父上によって・・・

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

「フフ、まったく強情だな。子を孕み、産み、育てるようになっても、未だにそうして拒絶を口にする」

 

「そん・・・なっ・・・ あた、り、まえ・・・ くあっ! あ!」

 

「そうだな。決して欲望や強制に屈しない所が、俺が惚れる亜衣の【魅力】だ。

だが、身体の方は・・・」

 

(ギュウッ!)

 

「ふぁあっ───!!?」

 カーマはいきなり、それまで悪衣の両手を掴んでいた手を伸ばし、亜衣の二つの胸を根元から鷲掴みにした。

 

(プシャアッ────・・・・!!)

 

 大きな胸が手によって潰されるように握られると、亜衣は悲鳴と共に、その胸からは白い液体が噴水の様に噴き出す。

 

 カイとアーミィ。二人の子供を産んで、膨れたお腹は時間と共に元へと戻った。

 しかし、戻らなかったものもある。

 

 一つは、たった今噴き出した・・・ 母乳。

 子供達はあっという間にかわいい少年、少女の姿へと成長し、母乳を与える必要もなくなったが、その一方で亜衣の胸は、妊娠前のサイズに戻ることはなく、今も妊娠当時の大きさのまま、絞られれば必ず母乳が出てしまう。

 

 そして、もう一つは・・・

 

「フフ・・・」

 亜衣の脇腹の辺りや胸の下などを、わざとらしく指で撫でなぞるカーマ。

 

「・・・・・・・・・・っ」

 最初は、カーマの口で言われるまで気付かなかったもの。

 そして、何度も何度も同じ様になぞる内に、無言に変わったその行為。

 

 それは、妊娠線の痕。

 皺と言うほど大袈裟なものではなく、線というにも微妙なほど、角度によっては全く分からないその痕。

 亜衣本人でさえ全く気付くことがなかったその痕に、カーマは出産後の初めてのレイプの時に気付いたのだ。

 

 そしてそれからは、カーマは亜衣との行為のたびに、こうして朧な影に近い妊娠線の痕をなぞるようになった。

 実に誇らしげに、ニマリと口の端を釣り上げながら。

 

 それは烙印なのだ。

 カーマと・・・ 敵である邪淫王と交わり、子を設けた事を照明する、亜衣の身体に刻まれた烙印なのである。

 亜衣はそれを、こうして陵辱を受けるたびに繰り返され続けた。

 

 

「ああっ・・・ ふあ・・・ ああああっ」

 そんな屈辱的な行為を受けながら、突き上げられ続け

それでも、淫魔の肉体は心とは裏腹に、カーマの責めに、肉棒の動き一つ一つに、女の悦びが、快楽の痺れが脳を侵し、心を冒す。

 

「もうとっくに気付いているだろう?

この身体に残る痕と同じ様に、淫魔であるお前の肉体は、今や俺による快楽の味を覚えきって、すっかり淫乱に開発されている事を。

今も、初めての時と比べて、とても・・・ ああ、そう、これだ。

俺のイチモツの侵入に会わせる様に、俺を喜ばせるように、亜衣の肉ヒダは動き、締め付けるようになった」

 

「うっ、うう・・・」

 必死に首を横に振るが、カーマの言葉が事実なのだということは、自分自身が分かっていることでもあった。

 カーマによる開発と調教を受け続けた肉体は、意思という枷がなければ、自分からカーマを求めてしまいそうになる。

 

 それだけ亜衣は長い間カーマに蹂躙され続け、もはやこの体自体が、カーマの一部になってしまったのではないかという錯覚さえ受けてしまうほどに、もうこの身が自分のものであるという自覚が、持てない・・・

 

 

「こうして俺の責めで感じる姿を、あの二人に見せてやったらどうなるかな?」

「・・・・・・・っ!!」

 それまで目を閉じ、頬を真っ赤に染めながらも快楽に呑まれそうになるのを抑えていた亜衣の顔が、恐怖と驚きに見開かれる。

 

「ダッ、ダメッ!! カイとアーミィにだけは・・・ こんな、こんな・・・!!!」

 

 今の亜衣にとっての支えは、地下の座敷牢にいる麻衣。どこかしらにいるはずの木偶ノ坊。

 そして、憎むべき仇の血を持っているが、自分が苦しんで産んだ愛しい我が子、カイとアーミィなのだ。

 

 半淫魔であるにも関わらず、それを全く感じさせない眩しいほどの純真さで、自分を母と慕ってくれる二人。

 それが、どれだけ今の私の心を、絶望や狂気、悲しみから救ってくれているか・・・

 

 なのに、今の自分のあられも無い、情け無い姿を、どうして二人に見せられるだろう。

 こんな母の・・・ 私の姿を見られたら・・・ そう思うと、恐怖に身が震える。

 ショックを与えるだけではない。間違いなく軽蔑されるはずだ。

 

 

「フフ・・・ だろうな。しかし・・・」

「・・・・・・?」

 

「もう見つかってしまったらしいが、どうする?」

 

「・・・・・・・・ え・・・・?」

 言葉の意味が、亜衣にはすぐに理解できない。

 

 その時、カーマの視線が・・・

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

「・・・・・・っ!!」

 その場で凍り付いていたカイと、カーマの目が合った。

 

 いつからなのか、カーマはカイの事に気が付いていたのだ。

 

「・・・・・・・」

 カーマの、父の自分を見る目に、カイは恐怖を感じた。

 そして、手に滲む汗のせいか、それとも震えのせいか。その手から、例の白い花が零れ落ちる。

 

「あっ・・・!?」

 ゆっくりと、スローモーションで落ちていく花。

 それが床に落ちることで、パサ・・・ という音が立つ。

 

 そんな、普段は聞こえもしなさそうな音が、まるで騒音の如く大きな音に思えた。

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

「っ────!!?」

 その音のせいか、それともカーマの視線を見たせいか

 その決定的な理由は分からないが、亜衣は、向いてはいけない方向を、振り向いてしまった。

 

 

「か、カ・・・・・・ イ・・・・・・?」

 瞳に映る、息子の姿。

 

「はは、うえ・・・」

 カイは最早、どうしていいかわからない。

 金縛りにあったかのように、体は動かなかった。

 

 

 

「そん、な・・・ イヤ・・・っ あ、ああああっ・・・!!」

 あって欲しくなかった、悪夢の中の悪夢。

 子供にだけは、見られたくなかった。なのに、なのに・・・・・

 

 

「いやあああああああっ────────!!!!!」

 

 それは、亜衣がこれまで一度も出した事が無いような悲鳴だった。

 

 パニック状態なのだろう。自分が抵抗を禁じられているということも忘れ、必死に半狂乱に暴れ、カーマから逃れようとする。

 しかし寝具の上では、何も身につけぬただの裸の、若く美しいただの女でしか、そして今は、妻という名の性欲を一方的にぶつけられる存在でしかない亜衣が、邪淫王カーマの力から逃れることが出来る筈が無い。

 

「ふんっ」

 カーマが手馴れた感じでほんの少し力を入れて捻ると

 

「あっ────!!?」

 亜衣の体はぐるりと動かされ、寝具の上にぼすっとうつ伏せに倒された。

 

 

(シャン・・・)

 

 

 カーマは間髪を入れず、続けて懐から取り出した三鈷杵を鳴らし、床に投げ、突き刺す。

 

 

(シュルルルッ────!!)

 

 

 その途端に三鈷杵が刺さった周辺の床はぐにゃりと歪み、植物とも動物ともとれない、緑色の触手が無数に発声し、部屋を覆い始める。

 かつて亜衣、そして麻衣が捕まったカーマの術。

 しかし、今回の触手はあの時亜衣が見たものとは決定的な違いがある。

 

 おぞましい事に、触手の一本一本は、その先端が魔羅の形になっており、全体が醜悪なイボを持っていた。

 それを見てしまえば、その用途が何なのかは、もう亜衣にはイヤでもわかってしまう。

 

 

「!!?」

 触手はあっという間に木造の部屋を樹海の様に覆い尽くし、カイの後ろにある出口を塞いでしまった。

 

 

(ズチュルルッ〜〜〜!!)

 

 

「っ!? あ・・・ うぶっ!!?」

 そして、亜衣の付近に延びた触手の一つが、凄まじい速さで亜衣の開いた口の中へと侵入し

 

(シュル、シュルシュルッ〜〜〜)

 

 更には他の触手達は、それ自体がカーマの体の一部なのではないかというほどの意志を持った動きで、亜衣の両手、両足に巻きつき四肢の自由を奪い

 

(ズププッ〜〜〜!!!)

 

 

「うう゛!!? ううっ────!!!!」

 急激に訪れる、衝撃。

 

 触手の一つが勢いをつけて、一気に亜衣の後ろの穴を貫いたのだ。

 口を触手に塞がれたまま、目を見開き絶叫する亜衣。

 

 通常の男性器より一回りもでかい触手の強引な侵入で、蕾の様な亜衣の菊門は無理矢理こじ開けられ、空気が漏れる隙間すらない。

 

「フフ、痛かったか? もう充分そこは挿入には慣れさせたと思っていたが」

「・・・・・・・っ」

 カーマの言葉どおり、亜衣はもう、何度も何度も、数え切れないほどこの場所をカーマに弄ばれていた。

 

 痛みに泣き叫ぶ事も厭わずに強引に貫かれた最初の日から

 幾度も挿入され、射精され、悪戯に色々なモノを挿れられ・・・

 そういった様々なカーマによるアナルへの調教で、亜衣の身体は望まぬ体制が、徐々に付けられていったのだ。

 

 その証拠に

 カーマに調教を受ける前の亜衣なら、こんな無茶な挿入をされたら、壊れてしまうに違いなかったろう。

 挿入の瞬間にこそ強烈な苦しみを感じたが、今はもう痛みなく、侵入を続ける触手を身体は受け入れていた。

 

 だがそれでも、無理矢理にいきなりの挿入、亜衣は苦しさに顔を歪め、涙を流し震えている。

 

(ジュプッ、ジュプッ・・・ ジュブ、ジュブ・・・)

 

 

「むうっ!? うっ、ふうぅっ!! うぅっ・・・!!」

 しかし触手は、そんな亜衣の苦悶など知らないとばかりに動き出し、亜衣の口と腸の中を犯していく。

 

口に侵入した触手が口内を蹂躙し、喉の奥までストロークを繰り返すたびに嘔吐感が押し寄せ

アナルを貫通した触手が止まる事無くゆっくりと、腸内を蹂躙しさかのぼっていく事による圧迫感が広がっていった。

 

 

「・・・・・・・ 母上っ!!」

 何が何だか分からなかったが

母上のはっきりとした苦悶の顔で、ようやく足の呪縛は解けた。

 

一直線に、母の元へとカイは走る。

 

しかし

 

 

(シュルルッ────!!!)

 

 

「っ───!!?」

 母の近くまで詰め寄ろうとしたカイを察知してか、途端に触手はカイの足に巻きつき

 

(ドベシャッ!!)

 

 

「ぐぁっ・・・!!」

 足を取られたカイは、豪快に触手まみれの床に倒れこんだ。

 

 そして他の触手がカイをがんじがらめに縛り、カーマと亜衣の側まで運ぶ。

 

「ぐっ・・・ くそっ!! 離せ!!

 父上、これはどういう・・・」

 

  何も分からないカイには、状況など飲み込めない。

 だから、父にそれを尋ねるしかなかった。

 

 

「やれやれ、困った奴だ。

 あれほど注意しろと言っておいたというのに・・・ 悪い子だな」

 

  カイの目と鼻の先にまで顔を近づけたカーマは、冷たく微笑んでいる。

 

「・・・・・・っ」

 その笑顔に、カイは恐怖を感じざるを得なかった。

 まるで、知らずに巨大な肉食獣の口の中に入ってしまったような、そんな感覚・・・

 

「うっ、うっ、うううっ・・・!」

 そしてそのすぐ隣では、口と後穴を犯され続けている母の姿。

 

 遠目からでははっきりと見えなかった、母と触手との結合。

 それが、カイの目の前で、じゅぷじゅぷと淫靡な音を立てながら、前後し、収縮する結合面という形で見せ付けられる。

 

 

 その光景をみてしまううちに、カイは、自分の中で何か分からない感情が沸きあがっていくのを感じた。

 

「(・・・な、なんあんだ・・・!? この、感覚は・・・)」

 

「おや?」

 そこでカーマは、カイの体のある一部分の変化に気が付く。

 

「ほう・・・ まだまだだと思っていたが・・・ 血は争えんな」

 そう言って、カーマはカイの股の間に無造作に足を挟みこむ。

 

「え・・・?」

 その時、カイは初めて気付いた。

 自分のズボン・・・ 股間に起きていた、変化を。

 

「な・・・」

 勃起という言葉さえ知らないカイにとっては、それは見た事の無い異常なる状態だった。

 

「・・・・・・・っ」

 未だ触手に犯され続ける亜衣も、その光景には驚かざるをえない。

 だって、息子は産まれてから一年と経っていないのだ。いくら淫魔だからといって、そんな・・・

 

 

「フッ、クククク、フッフフフフ・・・・・・」

 さっきまで考えるような仕草をしていたカーマは、急に笑い出した。

 時折見せる、狂気を孕んだその笑いと、笑顔。

 

 そして

 

「せっかくの息子の成長だ。精通までしているかどうか見てみたいな」

 そう言いつつ、カーマはパチンと指を鳴らす。

 

(シュルルッ────)

 

「うぁっ・・・!?」

 それと同時に、亜衣の喉を犯していた触手と肉体を拘束していた触手が大きく動き、

亜衣の眼前にはカイの・・・

 

「はは、うえ・・・!?」

 勃ちきり、天幕を張った股間があった。

 

「カ・・・ イ・・・」

 目の前に在る、幕を張ったズボン。

 

 その光景に亜衣は、否応も無く、これまで見させ続けられてきたカーマの勃起を思い出し

 そのどこまでも、亜衣の記憶に似た勃起の主が、カーマと自分の間に、自分が産んだ息子のものだということ、

 そして、その勃起の原因が、カーマと・・・ 私のセックスだという事実に、もうどう考えていいのかすら・・・わからない。

 

 だから亜衣には、カーマがこうして、顔を近づけさせた意味すら理解できていなかった。

 わからないまま終わってくれれば、どれだけよかったろうか。

 

 しかし・・・

 

(ズッ・・・!)

 

 

 カーマは乱暴に、カイのズボンを半ば乱暴に、一気に下まで下げた。

 

「「っ!!?」」

 驚くカイと亜衣の二人。

 

 窮屈なズボンから抜け出し、その姿を現わしたカイの分身。

 亜衣は、呆然と目の前のそれから目を離せない。

                                                                

 カーマと比べれば、一回りも二回りも小さいその化身は、それでもカイの見た目の年齢に比べれば格段に大きい。

 しかし母譲りの、白桃色の肌皮に隠れきらずにのぞく亀頭は、カーマの凶悪な浅黒ではなく、かわいいピンク色。

 

「あっ・・・ 母上・・・ み、見ないで、 下さい・・・っ」

 風呂や着替えの時なども含め、赤子の頃から母上に裸などいくらでも見られている。

 それでもこの知らぬ体の変化を母に見られているという今の状況は、何故か恥ずかしくて仕方がなかった。

 

「(これが・・・ カイの・・・)」

 亜衣はこれまで、カーマしか男を知らず

まともに人の・・・ 人の姿をした淫魔の勃ち男性器を見たのもカーマのモノが初めてである。

 

 これが、二度目・・・ 

 カーマのモノを見せられた時は、まるで別の生き物のようなその醜悪な形とおぞましさに吐き気さえした。

 なのに、目の前の・・・ カイのは・・・

 

「(気持ち悪く・・・ ない・・・?)」

 

 カーマには感じていた生理的嫌悪感が、欠片も感じられない。

 それどころか・・・ カイ自身に抱く感情と同じぐらい、愛おしかった。

 カーマの・・・ 自分の処女を奪い犯し尽くしたものと同じものであり、同じ血を持つモノの筈なのに・・・

 

 

(ぐぐっ・・・!)

 

 

「あっ・・・!?」

 ふいに、触手に後から押され

 それにより、亜衣の頬はカイの亀頭の先に触れてしまう。

 

「あ、あっ・・・!」

 カイは亜衣の頬の刺激に、思わずビクンと体を震わせた。

 

「う、うっ・・・」

 頬に当たる硬い感触。

 それから反射的に逃れようとして咄嗟に顔を左右に振ろうとするも、絡みついた触手がそれを許さない。

 

「あっ、く、うっ・・・」

 必死の亜衣の抵抗は、カイに望まぬ快感を与えるだけだった。

 

 

「(ほう・・・)」

 カーマは、新たな発見に内心少し驚いていた。

 

 双子のカイとアーミィは、共に瓜二つと言えるほどに顔が似ており、そして共に亜衣に似た顔をしている。

そして、今こうして押し寄せる快楽に知らぬまま耐えようとする苦悶の表情はその微細まで亜衣に似ており、まるで二人の亜衣がいるかのような錯覚さえ生まれるほど。

 

「ふっ、フフフフ・・・」

 

「カーマ、一体、何を・・・」

 その笑いに大きな不安を抱きながらも、やっと亜衣はこの行動の意味をカーマに尋ねた。

 

「せっかくカイが性徴を見せているんだ。

 親として見届けなくてはな」

 

「え・・・?」

 

「精通までしているかどうか確かめてみようじゃないか。・・・ここでな」

 そういってカーマが指を当てたのは、亜衣の・・・ 口だった。

 

「・・・・・・・っっ!!??」

 その一言に、亜衣はこれまでになく戦慄した。

 

 カーマは、しゃぶって精液を出させろと命令しているのだ。

よりにもよって・・・ 息子のモノを。

 

「な・・・ 何を、言って・・・」

 とても、正気の沙汰とは思えない。

 

「まだ人の道徳に縛られているのか? 亜衣。

 俺達は淫魔だ。そもそも淫魔の世界には【近親相姦】などという言葉は存在しないし、人の理など何の意味も無い。守る必要も無い。

 淫らの血に従い、快楽を追い求め繫がり合うのが淫魔の愛情の表現であり、ステイタスだ」

 

  そう、かつてカーマとスートラが、兄妹でありながらも互いに交わっていたように

 淫魔と人間の間には、大きくその理がかけ離れているのだ。

 

 亜衣自身が忘れていたこと。

 ここは鬼獣淫界で、自分は今は・・・ 淫魔で

 自分の持っている常識や道徳、羞恥心の一切は、一切が通用しないのだということ。

 

「私は・・・ わたし、は・・・・・・」

 それでも、許されるだなんて思えない。

 

「淫魔だ。 淫魔の姫で、邪淫王の子を産んだ妻だ」

 しかし、カーマの射抜くような目と、氷の様な一言に、亜衣の心は凍りつく。

 

「だが・・・ どうしても嫌だと言うのなら、無理強いはしないがな」

「え・・・?」

 

 カーマの意外な言葉に、思わずカーマの顔の方へと向く亜衣。

 

「・・・・・・!」

 そうしてカーマの顔を見て、亜衣は激しい絶望に襲われた。

 

 ニヤリと口の端を歪める、カーマのその独特の笑顔で、全てが分かってしまう。

 私がここでカーマに従わなかったら・・・ 確実に、今よりもずっと酷いことになる。

それも・・・ 麻衣や木偶ノ坊さん、カイ自身やアーミィ。自分よりも大切なみんなに・・・

 

「あ、あぁ・・・」

 何をされるかなんて、考えることも出来ない。想像したくも無い。

 それでも、私の行動一つでそれは現実になってしまうのだ。

 

 麻衣が私と同じ様な目に逢うかもしれない。

 つい今しがたのカーマの言葉からは、もっと恐ろしい想像さえできてしまう。

 どこまで言葉どおりで本気なのかはわからないが、みんなを守る為に、選択肢は・・・ 一つしかない。

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 泣き叫びたい。舌を噛み切って死んでしまいたい。

 

 でも・・・ でも・・・

 

 

 

 

 

 

「はは・・・ うえ・・・?」

 小さくぶるぶると震えている母に、カイは不安と心配で呼びかけた。

 

 亜衣は、カイと目を合わせず、顔を見ないまま

 

「カイ・・・ ゆるして・・・」

 そう、消えそうなほどか細い声で、許しを請う言葉を呟く。

 

 そして、真っ赤になった顔で、目に涙を溜めながら、恐る恐る、舌を伸ばし・・・

 

 

(ちゅく・・・)

 

 

 ついに亜衣の舌先が、カイの亀頭に触れた。

 

「はあっ・・・う!!?」

 その僅かな刺激。

しかし、初めて味わう体温の熱さ、そして全体が唾液という粘液濡れたそのぬめぬめとした感触に、カイは電撃を受けたかのようにビクンと震え、身体を大きく仰け反らせる。

 

 

「う゛っ・・・!」

 それは偶然ながら、亜衣に自分から腰を突き出す形になり

 舌先が触れていただけのモノは、いきなり口の中へと突き入れられた。

 

「うっ、ううっ・・・!」

 やはり、息子のものを咥えるという行為に強い抵抗があるのだろう。

 突然の事に驚いたということもあってか、亜衣は首を引いて抜き放とうとするが

 

(グッ・・・!)

 

「もっといつものようにやってやれ」

 カーマの手が亜衣の頭を掴み、前へと押しだした。

 

 元々が触手の拘束でほとんど体が動かせない上にそうやって押されては、抵抗など出来るはずが無い。

 

(く、ぷ、ぷっ・・・!)

 

 

「むううっ!!?」

 カイのものは根元まで亜衣の口の中に挿入ってしまった。

 口いっぱいに広がるカイの匂い。そして、口の中で、舌の上でビクビクと脈打つ感触・・・。

 

 それを知覚しきるよりも前に、頭を掴むカーマの指が、トントンと頭を叩く。

 【早くやれ】ということなのだろう。

 

それは、服従せざるを得ない命令だった。

 

 

「んっ・・・」

 

(ちゅぷ・・・ ちゅぷ・・・)

 

 

全ての感情を必死に押し殺しながら、目を閉じ、フェラチオを開始した

 

「うぁっ・・・ 母上、どう、して・・・っ!? うっ・・・くぁ・・・!」

 

 触手によって全く身動きの取れないカイは、それから逃れることは出来ない。

 

 母の口の中はまるで火傷しそうなほどに熱く感じられ

たどたどしい舌の動きによる刺激は、電気が走るようだった。

 

その行為の意味さえわからず、ただ初めて味わう快感に悶えながら、母になぜと尋ねる。

 

「・・・んっ・・・ んっ・・・」

 しかし亜衣はその質問に答えられるはずも無く、苦悶に心を苛まれつつも、息子への奉仕を続けた。

 

 数々の強制的な奉仕を受け続けたせいだろう。

 禁断の行為に、羞恥や自己嫌悪で今にも死んでしまいそうな心とは裏腹に、気付けば亜衣の舌は、カーマを相手に覚えきってしまった・・・ 男を歓ばす為の吸い口や、舌の這わせ方を忠実に行い始めていた。

 

(ちゅっ、ず、ずっ。じゅっ、ちゅばっ)

 

 緩急をつけての吸い上げ、裏筋を丁寧になぞるように舐め、鈴口を舌先で突付く。

 

「うあ、あ、あっ!」

 段々と強く耐え難くなっていく奉仕に、カイは女の子のような悲鳴を上げ

 

 そして

 

「は、母上。離れ・・・ はな、れ、て・・・ う、あああああっ!!!!

 落雷に打たれたかのように身体を仰け反らし

 

(どぷっ!! どぷ、どぷっ!! びゅく、びゅるっ!!!!)

 

 

「うぶっ───!!?」

 亜衣の口の中に、最初の射精を。精液を放った。

 

 口の中で爆ぜ、広がるカイの白濁液。

 初めて味わう、カーマ以外の精液の味・・・

 

「ぶはっ───!!」

 触手による頭部の拘束が緩んだことで、ようやく亜衣はカイのモノから口を離すことが出来た。

 

「おっと」

「ぐっ───!?」

 しかし、咄嗟にカイの精液を吐き出そうと、開こうとした亜衣の口は、カーマに下から持ち上げられる形で封じられた。

 

「飲め」

 とても短い、カーマの命令。

 それと同時に、親指で喉をぐっと押される。

 

「う、ぐ・・・っ」

 

(ごくっ ・・・・・・ ごきゅ・・・)

 

 

 突然の喉への刺激で、本能的な反応を起こした亜衣の喉は、かつての妊娠役のときと同じ様に、カイの精液を飲み下してしまう。

 

「あ、ああ、あ・・・」

 喉から鼻にかけて広がる、幼い性臭。

大きく違いはあるものの、さんざん飲まされ続けたカーマの精液の臭いと味を思い出させた。

 

 それは・・・ カーマとカイが、親と子である事の完全な証明である。

 

「うえっ・・・ えうっ・・・ う・・・」

 もう口の中には、カイの僅かな残滓しか残っていない。

 それでも飲み込んでしまったという事実ごと、亜衣は吐き出してしまいたかった。

 しかし、喉を下ってしまった精液は、そう簡単には吐き出されない。

 

 

「それにしても、上手くなったものだな」

「っ───!!」

 横槍のような、カーマのわざとらしいその感想に、亜衣は初めて自分の舌がスムーズに動いていた事に気が付く。

 

「(わ、たし・・・)」

 数も忘れてしまったほど繰り返されたその行為を、いつの間にか身体はしっかりと覚え、半ば無意識で・・・

 その事実に、そして根底から変わり果てた自分に、生まれてくる感情は・・ 失望。

 

 

「(そう・・・ わたし・・・ もう、とっくに・・・)」

 息子相手に無意識に、舌を動かしてしまうような、そんな女になっていたのか。

 

 心のどこかで、私はまだ天津の巫女なのだと、ただ身体を穢され続けているだけだと、そう思っていた。

 でも、違ったんだ・・・

 

 この何ヶ月もの間。淫魔に変えられ、繰り返し繰り返しカーマに犯され、陵辱され、調教され・・・

 そうしていく内に、自分でも気付かない内に・・・ いつの間にか、中身も変わり果てていたのだ。

 

「ひっ・・・ ぐ、う・・・」

 ぽたぽたと、床に落ちる涙。

 亜衣はもう、溢れる涙を抑えることが出来ず、息子の前という事も忘れ、嗚咽を漏らし続ける。

 

 

「はは・・・ うえ・・・?」

 カイは、身体を突き抜けた、衝撃とも言うべきオーガズムにより意識が白く霞み放心状態になりかけていた。

 しかし、生まれて初めて見る母の涙と泣く声に、目が覚める。

 

「カイ・・・ ごめんなさい・・・ ごめんなさいっ・・・」

 亜衣は止まる事の無い涙を流しながら、カイに謝り続けた。

 

 それは、カーマの逆らえない命令に、カイにしたことに対してなのか

 それとも、何も出来ない自分の無力に対してか

 あるいはその両方か、亜衣の謝り続けながら涙を流す姿は、とてつもなくか細く、危うげなほどか弱い【女性】の姿をカイに見せた。

 

 

 そして、父は・・・

 

「これからは立派な淫魔の仲間入りだな。カイ」

 涼しい顔で、そうカイに語りかける。

 その顔には、罪悪感など欠片も無い。

 

 ・・・言葉の意味自体は、わからなかった。

 この行為の意味さえ。

 

 しかし、一つだけ、カイにわかったことがある。

 母上が泣いているのは・・・

 

「・・・・・・」

 カイは、実の父であるカーマに、敵意のまなざしを向けた。

 

「どうした?」

 それに驚く風もなく、カーマはカイに尋ねる。

 

「・・・・・・ 母上を泣かせたな」

「それで?」

 

「許さないぞ」

 カイはギロリと、明確な敵対心を込め、カーマを睨んだ。

 

「ほう・・・」

 その宣戦布告を聞いたカーマは、少しだけ目を大きく開き、感嘆を表情に示すと

 

「それは楽しみだ」

 カイの頭にポンと手を当て、ニヤと笑いながら、カーマは遊戯室から颯爽と出て行った。

 

 それと共に、部屋中に蠢いていた触手が消え、遊戯室はいつもの木床に戻る。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

 後に残されたのは、互いに傷を作った、母と息子。

 

 カイは、母上に声をかけようとしたが、それは出来なかった。

 背中越しに嗚咽を洩らす母の姿に、かける声など見つからなかったから。

 

「・・・・・・・・・・」

 やがてカイは、子供ながらに今の自分に何も出来ないことを知ると、黙って部屋から出て行った。

 背中に母の嗚咽を聞きながら・・・

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

「あ・・・・・・」

 部屋を出たところで、カイは、あるものを見つけた。

 

「これは・・・」

 それは、母上にプレゼントしようと思った白色の花・・・。

 カイは無意識に、それを拾い上げた。

 

 

「・・・・・・っっ」

 ぎゅうと、花を握る手に力が篭もる。

 何も出来ない自分に対する、やり場の無い苛立ちがそうさせたのだろう。

 

 だが

 

 

 

花が痛いと思うような事は止めなさい

 

 

 

 他ならぬ、母にかつて言われた言葉にハッと我に返る。

 

「・・・・・・・・・ 母上・・・」

 そうだ。この花は悪くない。

 悪いのは・・・ 

 

倒すべきは、父上だ。

 

「見ていろ・・・」

 

 カイの戦いは、そこから始まった・・・

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

 それからカイは、色々なことを調べ、そして聞いた。

 側近のタオシーから、地下の座敷牢にいる叔母の麻衣から

 

 その結果、カイは多くの事実を知った。

 母上が、元は人間であり、淫魔と敵対する存在であったこと

 絵本の物語のように、父上と愛し合って結ばれたのではなく、無理矢理という形であったこと

 その先に、自分とアーミィが産まれたこと

 

 そして・・・ それが、母上の自由を奪う楔(くさび)になっていたこと・・・

 

 

 知ってしまった以上、もう前の様にはしていられない。

 無邪気なカイのままでいることは、自分自身が許さなかった。

 

 だからカイは、自分に誓いを課した。

 まず、強く、攻撃的で、決して折れること無い強い、鷹のような性格になること。

 そして・・・行動を起こすこと。

 

 

 

 

  ◇    ◇

 

 

 

 

       数週間後

 

     淫魔の社  廊下

 

 

 

 

 その【行動】の一つとして、カイは仲間を増やすことにした。

 そして今目の前にいるのは、実の妹、アーミィ。

 

「・・・お兄ちゃん、どうしたの?」

 何も知らない純真な疑問の顔。

 

「・・・・・・・・」

 その顔を前に、カイには言葉がなかった。

 自分もこの顔でいられたら、どんなによかったかという考えと

 アーミィには、絶対にあの光景を、あの事実を見せては、知らせてはいけないという想いが、カイの中で交錯する。

 

 

 カイは、アーミィには何も伝えなかった。

 アーミィは自分よりもずっと純粋で、幼い。

 多少抜けていて天然ではあるが、天使のような妹だ。

 

 アーミィの方は、突然俺様な性格に変わったカイに首をかしげていたが・・・

 

 

「ねー、今日はどうするの?」

 母上の作ってくれた、ウサギの大きなぬいぐるみを抱えながら、無邪気に聞いてくるアーミィ。

 

「アーミィ」

 それに対して

 

(ぎゅっ・・・)

 

カイは、何の前触れもなく、アーミィの体を抱きしめた。

 

「お兄・・・ちゃん?」

 突然の抱擁に、アーミィは当然の如く目を白黒させる。

 

「俺様がこれから言う事をよく聞け」

「え・・・? うん」

 

「お前はこれから、タオシーに術を教わるんだ」

 ゆっくりとアーミィから身体を離し、目を見て命令をする。

 

「なんで?」

 

「何ででもいい。お前は俺様の最初の子分だろ? 命令だ。言う事を聞け。 子分一号!

 最後の一言は、号令だった。

 

 カイとアーミィは双子の兄妹だが、同時にボスと子分でもあった。

 

 当然カイがボスで、アーミィが最初の子分、子分一号である。

 少々本格的ではあるものの、基本的には子供の遊び上の呼び名のようなものだが・・・

 

「あ、ええと・・・ わかりましたっ。ボス!」

 反射的にアーミィは、ピッと音がしそうなぐらいの速さで敬礼をする

 その様子は、何ともかわいらしい。

 

「よし、さっそく行って来い」

「は、はいっ!!」

 

 

(タッタッタッタッ・・・・・・・)

 

 

 カイの命令のままに、アーミィは、タオシーの部屋の方へと駆けて行った。

 

 

 

 

「覚悟していろ・・・ 親父」

 その瞳に、怒りの炎を宿らせ

 

「俺様をガキとして嘗めたこと、母上を泣かせたこと・・・ 絶対に後悔させてやる」

 

 カイは、決意と目的を胸に、新たな一歩を踏み出した・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい、一話に収まりきらなかったので2つに分けましたー。なにやってるんでしょうねハハハハハ・・・ はぁ OTL

 

 子供の前で・・・ という禁断プレイ。

 しかし本当に禁断なのはこれからというカオスぶり。もう自分でも何がなにやら。

 

 こんなどうしようもないBADEND小説ですが、最後までお付き合い頂けると幸いです(ペコリ

 



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