淫獣聖戦後伝・羽衣淫舞(6)

 天神子守衆の美しい双子姉妹・亜衣と麻衣を拘束し、動きを封じることに成功して、蒼草法師はニヤリと卑猥な笑みを浮かべた。
 もともと醜い屍骸のような風貌が、さらに醜悪に歪む。
 「聞かせてやろう。」
 蒼草法師は、得意げにこの勝利の瞬間に至るまでの経緯を語り始めた・・・。

 一年前、鬼夜叉童子が姉妹によって倒された後、鬼獣淫界では後継者を巡ってさまざまな淫魔が徒党を組み、連合し、また殺し合った。
 鬼夜叉童子の復活を念じる者、淫魔大王「鬼麿」の奪還・覚醒を最優先にしようと主張する者、何を置いても天津の美姉妹に復讐を果たそうと叫ぶ者、などイデオロギーの争いはいつしか単純な権力闘争へと発展し、さながら戦国時代の様相を呈していた。
 そんな中、黒玉法師の実弟・蒼草法師はそうした権力争いの蚊帳の外にいた。
 権力欲が薄いということもあったが、むしろ強く美しい美姉妹への興味がすべてに勝っていた、ともいえる。
 淫魔には愛など存在しない。兄弟愛もしかり、彼らの統率者であった鬼夜叉童子に対してもそうだった。
 だから「復讐」や「憎悪」という言葉は、彼らの本能的な欲望、権力欲であり、嗜虐的な性欲を叶えるための一種の方便に過ぎない。
 淫魔大王の復活や鬼獣淫界の隆盛も、淫魔にとってはそうした欲望の開放のための手段でしかないのである。
 蒼草法師は、鬼獣淫界にあっては地味な存在だった。
 地球上のありとあらゆる植物を自在に操ることができるといっても、鬼獣淫界の闘争においては何の役にも立たない。
 だから誰からも連合に誘われることもなく、また狙われることもなく、平穏無事な日々を送っていた。
 淫魔にとって「平穏無事」というほど忌むべき不幸はない。
 地上界でこそ、蒼草法師の超能力は光り輝く。
 そして鬼獣淫界の宿敵・天津姉妹を蹂躙し陵辱し、おのが欲望を果たすことだけが蒼草法師の悲願となっていった。

 地上界と鬼獣淫界を隔てる結界のわずかな裂け目から地上界への侵入を果たした蒼草法師は、姉妹の姿を求めて鬼無里にやってきた。が、天神子守衆厳重な結界に守られた分祠には近寄ることさえできずにいた。
 西岳と谷を隔てた連山の崖上にたたずんで、前途を思案していた矢先、蒼草法師は願ってもない好運を得る。
 山菜摘みの途中で道に迷った一人の青年との出会い、がそれであった。
 蒼草法師は、数十種に及ぶ樹液や草木の葉の成分を調合し、秘術を加えた毒液『よろめき草の秘液』で青年の意識を奪い、彼を意のままに操ることになる。
 その青年、斎藤孝明が天津天神子守衆に縁を持つ者であったことが、蒼草法師にとって二番目の好運であった。
 「ワシの好運は、うぬらの不幸よ。がははは」
 そして、三番目の好運がすぐに訪れた。孝明が二人の麗しい女子大生を含んだパーティーでやってきていたことだった。
 平田優奈と横山美樹の二人が、山中で発見し助け起こした孝明は、姿を変えた蒼草法師だったのである。
 『淫ら草の秘液』を塗った毒針で刺された優奈と美樹が、我を忘れて淫らに悶えはじめたのは、わずか数十秒後だった。
 身持ちが堅く、同じ大学に通う恋人に処女を捧げたばかりの上級生・美樹も、高校時代にバイト先の先輩と関係してから複数の男性経験を持つ新入生の優奈も、孝明に姿を変えた蒼草法師の猛々しい愛撫に身をゆだねて喘ぎ狂った。
 二人が持っていた孝明への憧れの気持ちも、彼女たちの痴態をより激しくする原因のひとつだったかもしれない。
 「ああ、斎藤君、斎藤く・・・ん・・・」
 名前を呼びながら孝明の唇に吸い付き、舌を絡めながらもどかしげに服を脱ぎ捨てた美樹。
 「先輩・・・おねがい・・・ほしいの・・・」
 そう呼びかけながら孝明の下半身を剥き出しにし、男根にむしゃぶりついていった優奈。
 美樹と優奈は奪い合うように、孝明の挿入を受け入れ、突き上げられ悶え、失神寸前まで昇りつめて果てた。
 焚き火を囲んでの乱交は、その後の必然であった。
 蒼草法師は、五人の若い男女に『よろめき草の秘液』を注射し、催眠状態にして翌朝を迎えたのである。
 「地上界の人間であれば結界を打ち壊すことなど造作もないことよのう」
 そう、五人は蒼草法師に命じられるまま、天津姉妹の庵を取り囲む天神子守衆の結界をすべて破壊して回った。
 山上の結界を破り、庵によって姉妹に会い、秋生神社の跡取りであることを話して信じさせ、それから下山して登山口の結界を壊して、蒼草法師と邪鬼たちを迎え入れる、それが彼らに与えられた使命であった。
 蒼草法師は小塚に姿を変え、意識を奪って統制下に置いた孝明を伴って庵に戻ってきたのである。
 「ほかの四人はどうしたの?!」
 絶望の寸前で、亜衣は背後の蒼草法師に向かって叫んだ。
 「ふんっ、今頃は森の中で仲良く愛し合っておるわ。命が果てるまで幾度となく交わるだろう。人間の性欲は果てしないからのう。」
 「な、なんてことを・・・!」
 亜衣と麻衣は同時に悲鳴にも似た叫びをあげる。
 (こいつらを倒して助けに行かなくては!)
 咄嗟にそう考えた美姉妹を蒼草法師は笑い飛ばす。
 「あはははは、この期に及んで奴らの心配か。取るに足らぬ人間などのことを心配する暇があったら、うぬらの心配をするがよいわ。」
 「くっ・・・」
 たしかに、まだ姉妹は自分たちの置かれている絶望的な状況を実感として認識できていなかった。
 勝利に奢った淫鬼のわずかな隙をとらえて反撃し打ち倒す、その宿命を信じて疑わないのだ。
 亜衣と麻衣が苦難に陥ったとき、いつも不思議な力が彼女たちを守ってくれた。
 木偶の坊に助けられたこともあれば、祖母・幻舟の残してくれた情念に救われたこともある。
 そうした力を期待するわけではないけれど、天神子守衆を守る当主として、また戦士として、諦めてはいけない戦いなのである。
 「はっ」
 そのとき、クヌギの巨木に縛りつけられていた孝明がむくりと体を起こして立ちあがった。
 頑丈に縛っていたはずのザイルはパラパラと孝明の足元に落ちる。
 気づけば、クヌギの太い幹がぐにゃりと柔らかく変化して、細くなっていたのである。
 蒼草法師の超能力には驚嘆を禁じえないが、それどころではない。
 「孝明さん、正気に戻って!」
 「あなたは操られているのよ!しっかりしてっ!」
 亜衣と麻衣が孝明に呼びかけるが、孝明は冷たい微笑を浮かべているだけで、まるで意に介する様子もない。
 「無駄だ、我が秘術のせいばかりではない、あやつの心にある欲望に素直に従っているだけだからな」
 「ふざけるな!」
 亜衣が叫ぶ。そんなわけがない、聡明で紳士的な孝明が姉妹に対して、少しでもそんな邪な感情を持つなどあり得ないことだ。
 「そうよ、孝明さん、早く気がついてっ!」
 麻衣も姉に同調する。由緒正しい神社の宮司の跡取りである孝明には、きっと姉妹を救う不思議な力の片鱗が宿っているはずだ。
 「ふっふっふっ、どうかな?」
 蒼草法師には姉妹の感情が手に取るようにわかるようだった。
 麻衣の体に巻きついていた蔓草が、急に力を失って森の中に姿を消した。
 しかし、手首、足首に巻きついた蔓草だけはさらに力を増し、麻衣の両腕両脚を左右に引っ張り伸ばす。羽衣は邪鬼に引き破られていて、麻衣の上体はほとんど全裸だった。
 「ううっ、い、いやっ!」
 遠く東の山の端が白み始めていた。分祠のあるこの場所も、徐々に明るくなってきていた。普段であれば小鳥たちの声が聞こえ始める早暁だが、今朝は鳥達もこの異様な空気に恐れをなしたのか、森は静寂に包まれたままだった。麻衣の悲鳴が、静まり返った山にこだまして響いた。
 孝明が麻衣の正面に立つ。
 麻衣は、蒼草法師に捕らえられた姉・亜衣と同じように両腕両脚をいっぱいまで大きく開かされた自分の姿に強い羞恥を覚えるためか、顔を背けた。
 (な、なんとかしなきゃっ!)
 亜衣は蒼草法師の胸元に取り籠められた格好のまま焦燥にかられていた。しかし、どんなに力を込めてもその束縛から逃れることができない。ただ左右に体を揺すり続け、少しずつでも全身に巻きついた蔓に緩みを作らせようともがき続けるしかなかった。
 「孝明、妹の麻衣はそちにやろう。好きに愉しむがよいぞ。」
 蒼草法師はさも愉快そうに孝明に声をかけた。
 「きゃっ」
 麻衣が小さな叫び声をあげた。蒼草法師の言葉にゆっくりと肯いた孝明の右手がすっと伸びて、正面から麻衣の左胸を鷲掴みにしたのである。
 「孝明さん、な、何を・・・!」
 洗脳され操られている孝明に何を言っても無駄なことは知りつつも、麻衣は孝明に非難の眼を向けた。
 「ふふふ、きれいだよ、麻衣」
 孝明は狂気なのか、操られているだけなのか、はたまたそれが潜在的な本性なのか、彼自身の普通の声音でそう言い、目を爛々と輝かせて麻衣を見据えながら右手に力を加えていく。
 形良く膨らんだ乳房の量感を楽しむように、孝明の右手が蠢いた。
 「いやっ、やめて・・・」
 庵での対面の時とはまるで別人のように豹変した孝明に、麻衣は戸惑っている。
 蒼草法師に操られた淫魔の手下とわかっていても、爽やかな孝明の笑顔がまだ残像のように印象に残っているのだ。
 「くっくっくっ」
 あらゆる理性と良心から解放された、本能だけの「男」が麻衣の目の前にいた。
 正気を失っていても、彼は淫鬼ではない、人間なのだ。
 (はっ・・・)
 亜衣はそのことの重大さに気づいた。
 麻衣のホトはまだ梅の花弁の護符に護られている。しかし、護符は言うまでもなく淫魔に対してのみ、その効力を発揮するのだ。
 亜衣の護符がホト魚と呼ばれる鬼獣淫界の珍魚に効力を持たなかったのと同じように、麻衣のホトもまた人間の男性にはまったく無防備なのである。
 「麻衣っ、気持ちを強く持って、負けちゃだめっ!」
 亜衣はそう叫んでいた。
 「うん、わかってる!」
 麻衣も気丈に答えて肯く。
 「がっはっはっ、いつまでその元気がもつか見ものよのう」
 蒼草法師が笑いながら、亜衣の目の前に取り出して見せたもの、それは毒針だった。
 (はっ、ま、まさか・・・)
 亜衣の心に動揺が走る。いや、脅えといっていいかもしれない。
 人間・孝明に襲われる麻衣の姿を、亜衣に見せつけるだけならば、なんとか妹を励まして彼らの思惑を挫くことができるかもしれない、と思った矢先のことだ。
 この針で刺されたら亜衣とても正気を維持し続ける自信はなかった。
 つい先刻、追い込まれた淫らな疼きの世界に、再び導かれることになったら・・・。
 また孝明の愛撫を受けている麻衣も、この針で刺されたら為すすべもなく孝明の陵辱の餌食にされてしまうだろう。
 「くっ、くそ、離せーっ!」
 亜衣は全身の力を込めて、再度抵抗するが、体を束縛している蔓草はビクともしない。
 「ぐっふっふっ」
 蒼草法師はためらうことなく、その毒針を亜衣の太腿に突き立てた。
 「うっ」
 かすかな痛みに、亜衣は顔をしかめる。
 (ま、負けてたまるかっ)
 淫ら草の秘術、という媚薬効果はすぐに亜衣の太腿から脚の付け根へ、独特の温もりを広げていった。広がるにつれて薄まるどころか、それは強い刺激となって体内から亜衣の体を侵していく。
 (は・・・ぐっ!)
 その熱が亜衣の下腹部に達した瞬間、思わず声が漏れそうになるのに、亜衣は歯を食いしばって耐えなければならなかった。それほどまでに、全身を電気が走るような刺激が突き抜けていったのである。
 (じ、邪悪、隠滅・・・邪悪、隠・・・滅・・・ああ・・・くそおっ・・・)
 淫ら草の毒針は首筋に打たれた時とはまるで比較にならなかった。太腿からせり昇ってきた強い刺激が亜衣のホトを襲っている。
 「ケケケケッ」
 亜衣の姿を下から見上げている邪鬼たちが、淫猥な笑い声を上げた。どの顔も醜い眼球を輝かせ、だらしなく開いた口から流れ落ちる涎を拭おうともしない。
 (み、見るなっ・・・)
 蒼草法師の鞭によって羽衣をズタズタに引き裂かれた姿で、邪鬼達の頭上に晒されているのだ。
 普段は強靱な精神力で封印している亜衣の「女」の心が、羞恥と屈辱にまみれて動揺していた。
 少しでも気を緩めれば淫らの闇に突き落とされ、我を忘れて快楽に溺れてしまいそうになる自分を辛うじて踏みとどまらせている。
 (早く、なんとかしないと・・・)
 蒼草法師の兄・黒玉法師との戦いの中で経験した「百泣き黒玉責め」の淫靡な悦楽が脳裏に甦る。全裸で大木に縛りつけられ、口に黒玉を押し込まれた亜衣は全身を駆けめぐる官能の波に抗えず、無意識に動いてしまう腰の震えをどうすることもできなかった。木偶の坊に助けられなければ、あのまま絶頂に達し、黒玉の虜にされていたかもしれない。
 今、亜衣はその時にも匹敵する危機にあった。淫ら草の毒が全身に回ってしまったら、理性も誇りも、天神子守衆当主としての責任感も、押し流されてしまうにちがいない。
 (はうっ・・・!)
 淫ら草の毒が回ってきたのだろうか、亜衣の豊かな乳房が疼きの熱に包まれて揺れる。胸の頂きを襲ったジンジンと痺れのような感覚に、びくんっ、と体が揺れて、乳首が固くしこった。
 里から上がってくる朝の微風が肌を撫でていくだけで、研ぎ澄まされた性感が刺激される。
 「キーヒッヒッ、パンティにシミができてきたぜー」
 股の下から邪鬼が歓声をあげる。
 (そんな、うそっ・・・)
 心の中で叫びながら、それが嘘でないことを亜衣は知っている。熱っぽく、力が入らなくなった膣奥から、トクトクと愛液が流れ落ち、下着を濡らしていくのがわかっていた。
 邪鬼たちは我慢しきれないように、真っ赤な舌を出してしきりに自分たちの口の周りを舐め回している。性器のない邪鬼たちにとってそれが一種の自慰行為にあたることなど、亜衣には知る由もなかったが、視姦されている恥辱に頬が桜色に染まるのを感じていた。



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